04 泣き虫魔女と宮殿の少女-Ⅱ (2)
まずはマレが一人で様子を見に行って、大丈夫ならシオリと一緒に行く。
どうしても街の外へ行きたいというシオリとそんな約束をして、マレは街の外を探検するようになりました。
街の外に広がる森には、北の島にはいない動物や植物がたくさんで、とてもいい修行になりました。
魔法を正しく使うためには、色々なことを知っていなければなりません。今まで知らなかったことを見聞きし、体験することは、魔女にとって大切なことなのです。
それに、薬を作るのも魔女の大切な仕事です。南の街を囲む森の中には、初めて見る植物もたくさんあって、今まで作れなかった薬もたくさん作れるようになりました。
一通り探検し、もう大丈夫と思ったら、シオリと一緒に出かけました。
「すごいすごい!」
どこへ行ってもシオリは好奇心で目を輝かせ、楽しそうに笑いました。
「あ、あれね! 光るクスノキ!」
「うん、そうだよ」
その日は、探検中に見つけた、光るクスノキのところへシオリを連れて行きました。
南の街から少し離れた丘の上に、ぽつんと立っているクスノキ。空から見てもわかるぐらい大きな木です。
「うわあ、こんなに大きいんだ!」
クスノキの根元に降りると、シオリははしゃいだ声をあげました。
「すごいでしょ?」
「うん、想像以上! これが光るのね!」
「うん。どうして光るのか、光るとどうなるのかは、まだわからないんだけど……」
「ふふ、そうだよね」
シオリはクスノキを見上げながら、ほおに手を当てて何やら考え込みます。
「これが、世界のあちこちにあって……光ると別の場所に行ける……」
「え、そうなの?」
シオリのつぶやきを聞いて、マレはびっくりしました。
「シオリ、この木のこと知ってたの?」
「えっ? あ、いや……」
マレの問いに、シオリは「しまった」という感じで口を押えました。
「あ、あはは、声に出ちゃってた? その、そうだったら楽しいかな、て思っただけ」
「なんだ、そういうことか」
シオリは想像力がとても豊かな子でした。あまりにも豊か過ぎて、突拍子もないことをよく言うのですが、それがとても楽しいのです。
「シオリの言う通りだったら、離れた場所でも、あっというまに行けちゃうね」
「うん。マレみたいにほうきで飛べなくても、色々な場所に行けるね!」
クスノキの根元に座り、お弁当を食べながら、二人は光るクスノキの秘密について話し合いました。
クスノキの根元に扉があって、光った時だけ使える。
扉をくぐると不思議なトンネルがあって、そこを通って世界中へ行ける。
扉を開くには秘密の操作が必要で、悪い人は使えないようになっている。
「あ、光るとクスノキの声が世界中に聞こえる、ていうのもいいかも」
次から次へとアイデアを出すシオリに、マレは感心してしまいます。
「シオリって、お話を考えるのが本当に得意だよね」
「そうかな?」
「うん、すごいよ。私、シオリが考えたお話、楽しいから大好き」
「す、好き勝手に、考えてるだけだってば」
シオリは真っ赤な顔になって、でも嬉しそうに笑いました。
「ふふふ。シオリ、照れてる」
「ああもう! いちいち言わないの! イジワル!」
「いっつもイジワルされてるもん。たまにはお返し」
「もー、イジワルじゃないってば。からかってるだけでしょ」
「じゃ、私もからかってるだけ」
むう、とほおを膨らませたシオリを見て。
マレは、くすくすと笑いました。
◇ ◇ ◇
好奇心いっぱいで、いつも元気なシオリ。そんなシオリに振り回されてばかりですが、マレはそれがいやではありませんでした。
むしろ、楽しくて笑ってばかりです。
でも、たまにケンカをすることもありました。
たいていは、シオリがわがままを言って、マレがたしなめるのがきっかけです。
ほとんどの場合、シオリは「ごめーん」とペロリと舌を出して謝ってくれます。でもたまに、がんとして譲らない時もありました。
「やだやだやだ、ぜーったいやだ! なんでそういうこと言うの!」
初めてそういうシオリを見たときはびっくりして、何か怒らせるようなことをしてしまったのかと、マレはオロオロしてしまいました。
「ご、ごめん、あの、シオリ……私が悪かったからぁ……」
シオリのあまりの剣幕に、マレが泣きながら謝ると、シオリはハッと我に返ったようになり、悲しそうな顔をしました。
「あ、違う……あの、その……ごめん」
ポロポロと涙をこぼすマレに駆け寄ると、シオリはぎゅっとマレを抱き締めました。
「ごめん、ごめんね、マレ。悪いのは私だから……怒ってごめんね」
「う、うん……」
「もう、マレは泣き虫すぎ。こういうときは、私を叱ってもいいんだからね」
そんなことが何度かあって、マレはなんとなく気づきました。
シオリがわがままを言うのは、マレに甘えているのだと。
わがままを言っても、マレなら許してくれる。そんな気持ちがあるから、シオリはマレに無茶を言うのです。
そう気づいてからは、シオリがわがままを言ったときは、とりあえず笑って受け流すようにしました。シオリも言いたいだけ言えばすっきりするみたいで、そこまでしつこく言い続けることはありませんでした。
◇ ◇ ◇
やがて本格的な冬となり、雪が降る日が続きました。
修行を兼ねたマレの探検も、シオリと一緒のお出かけも、当分は中止です。
「もー、せっかくマレとお出かけできるようになったのに!」
「こんな雪の中で飛んだら、本当にカゼひいちゃうよ?」
マレが壊した窓から、雪が降り続ける街の様子が見えました。ついでに冷たい空気も流れ込んできます。さすがにもう我慢できないので、クッションを穴に詰めてふさぎました。
外に出ることができないので、二人は暖炉の火にあたりながら、お茶を飲んで、お菓子を食べて、おしゃべりをしました。
でも二日もすると、話すことがなくなってしまいました。
シオリはクッションを抱えてゴロゴロとし、そんなシオリを横目に、マレは師匠への手紙を書きました。
手紙を書き終えてふと見ると、シオリはクッションを抱えたまま、ソファーでぐっすりと眠っていました。
「もう、カゼひいちゃうよ」
マレが毛布をかけてやると、シオリは何だかうれしそうな顔になりました。
「よく寝てるなあ」
シオリの幸せそうな寝顔を見ていたら、マレも何だか眠くなってきました。まだお昼前ですが、どうせやることもないしと、マレも毛布にくるまって、お昼寝することにしました。