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02 泣き虫魔女と宮殿の少女-Ⅰ (2)

 あっというまに取り囲まれて魔女が目を白黒させていると、おばけの一人が尋ねてきました。


 「魔女さんも、パーティーに参加するの?」

 「え、ええと、私、街に着いたばかりだから……」

 「えー、参加しようよ! 魔女さんがいれば、百人力だよ!」

 「そうだよ、参加しようよ!」

 「魔女さんがいれば、いたずら組が勝てるよ!」

 「いたずら組の、リーダーになってよ!」


 いらずら組? リーダー?

 何のことだろうと首をかしげていると、おばけの一人が「ちらしを見て!」と教えてくれました。


 「ええと……」


 魔女が黒ヒョウにもらったちらしを見ると、こんなことが書いてありました。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 大ハロウィンパーティー!


 いたずら組とおかし組にわかれて、どっちが勝つか勝負だ!

 いたずら組は、おうちに隠れている子供を見つけて、おばけにしちゃおう!

 おかし組は、おかしをぶつけて、いたずら組をやっつけよう!


 パーティー開始は日没の鐘が鳴ったとき。


 さあ、みんなで思い切りもりあがろう!


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 「……はい?」


 ちらしを読んで、魔女は目を丸くしました。

 故郷の北の島でしていたハロウィンとは、ずいぶん違います。一年の終わりを祝い、冬の始まりを迎える、そういうお祭りだったはずですが、南の街では違うのでしょうか。


 「宮殿のお姫様からの提案なんだよ!」


 目を丸くしている魔女に、おばけたちが教えてくれました。


 「お姫様は、楽しいことが大好きなんだ!」

 「もっともっと大騒ぎしよう、そう言ってこんなハロウィンにしたんだ!」

 「勝った方は、お姫様からごほうびがもらえるんだよ!」

 「宮殿の……お姫様?」


 魔女は顔を上げました。

 街の中央に建つ宮殿が見えました。とても立派な宮殿で、街のどこからでも見える大きな宮殿です。

 ですが、少し不思議な宮殿でした。最上階以外に窓がないのです。みんなが言うには、高い壁に囲まれて、門も出入口もないそうです。


 「あの宮殿に、お姫様が住んでいるの?」

 「うん、たぶん」

 「たぶん?」

 「だって、誰も行ったことないし」

 「お姫様も、見たことないし」


 おばけたちが言うには、あの宮殿には絶対に近づいてはいけないそうです。師匠の老魔法使いが言っていた「近づいてはいけない宮殿」は、あの宮殿のことでしょう。


 「ときどき、天使様が来てるよ」

 「それで天使様が、お姫様の命令だから、ていろいろしてくれるの」

 「このハロウィンパーティーも、そうだよ!」


 天使に命令?

 魔女はびっくりしました。天使に命令できるのは、神様だけです。だとしたら、宮殿に住んでいるお姫様というのは、神様なのでしょうか。


 ──絶対に近づいてはいけないよ。


 老魔法使いがそう言うはずです。神様が住んでいる宮殿に許しもなく近づけば、バチが当たって当然でしょう。


 「魔女さんも、宮殿には近づかないようにね」

 「うん、わかった。気をつけるね」


   ◇   ◇   ◇


 「無理です、ダメです、許してください」


 魔女は必死で、それこそ最後は泣きながら、リーダーになってというおばけたちの頼みを断り続けました。

 ですが、魔女が来たといううわさを聞いて、「いたずら組」のおばけたちが続々と集まってきます。十重二十重(とえはたえ)に取り囲まれて「私たちのリーダーになってよ!」と言われ続けては断り切れません。

 魔女はとうとう「いたずら組」のリーダーになってしまいました。


 「ふ、ふぇーん、無理だってばぁ……」


 開戦……いえいえ、パーティーの開始に先立って、お互いのリーダーが広場で握手をすることになっていました。

 おばけたちに押し出されるように広場の舞台にあがると、そこには街の門番の黒ヒョウがいました。


 「おや、魔女さんがリーダーなのか」


 おかし組のリーダーは、門番をしていた黒ヒョウでした。黒ヒョウの足元には彼の子供がいて、興味津々で魔女を見つめています。


 「これは強敵だね。私たちも本気を出さなくては」

 「て、手加減してくださぁい……」


 差し出された黒ヒョウの手を握り、お互いの健闘を祈ると、いよいよパーティーの始まりです。


 カァーン、カァーン、カァーン。


 日没を告げる鐘が鳴り、街中に歓声が上がりました。


 「トリック、オア、トリート!」

 「トリック、トリック、トリック!」

 「トリート! トリート! トリート!」

 

 あちこちでそんな叫び声が上がります。隠れている子供たちを見つけようと、おばけたちが街中に散りますが、家に入ろうとするとおかしが飛んできて、撃退されてしまいます。


 ちなみにルールですが。


 おばけに見つかった子供が、カボチャのお面をつけられたら、いたずら組の勝ち。

 カボチャのお面をつけられる前に、おばけにおかしを食べさせたら、おかし組の勝ち。


 となっています。


 子供たちの中には「いたずら組」として騒ぎたい子もいて、さっさと負けて仲良しのおばけと一緒に出かけていく子もいます。

 おばけの中にも、おかしが大好きで、さっさと負けて子供たちと一緒におかしを食べているおばけもいます。


 魔女も、さっさとおかしを食べてのんびりお祭り見物をしたかったのですが、「リーダーが負けたら、そこでお祭り終了だからね。最後まで粘ってよ!」とみんなに言われてしまいました。


 そんなわけで。


 「わー、痛い、痛い、やめてよー!」


 飛んでくるキャンディコーンを必死でかわしながら、魔女はほうきで飛んで逃げました。

 屋根より高いところを飛んではダメ、と言われているので、建物の間をぬうように飛んでいるのですが、あちこちで待ち伏せされて、全身おかしまみれです。


 「風よ! 壁となり我を守れ!」


 思わず魔法を使っておかしを防ぐと、それを見た街の人が歓声をあげました。


 「魔女さん、すげー!」

 「風が、おかしをはね返してる!」

 「稲妻みたいに飛んでるー!」

 「よっしゃー、魔女さんをやっつけろー!」


 キャンディコーン、クッキー、ケーキと、飛んでくるおかしがだんだん大きくなってきました。

 でも、魔女が魔法で防いでしまうので、街の人もどんどん本気になっていきます。楽しそうな雰囲気に、おかしを食べていたおばけたちも集まってきて、いっしょにおかしを投げ始めています。


 気がつけば、街の人 vs 魔女、という感じになっていました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 町中から追い立てられて魔女さん可哀想(;'∀') 最終的にはウェディングケーキミサイルとかも飛んできそう(;'∀')
[一言] 食べさせるのが必須とは…。 戦いが長引けば、空腹になる。 おかし組の勝ち!(クソでかい声)
[一言] 私たちと契約してリーダーになってよ(◕‿‿◕)
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