表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/180

01 世界の書 (1)

 満月の光に照らされて、草原が白く光っていました。

 その草原の真ん中で、魔法使いの女の子──マレが、うずくまり震えて泣いていました。


 帽子も服もあちこちが焼け焦げ、ボロボロでした。

 助けてくれる人も、慰めてくれる人もいませんでした。

 泣いて泣いて、もう涙なんて出ない、ていうぐらい泣いて。

 でも起き上がろうとしたらまた涙が出て。

 そうやって、一人ぼっちでずっと泣き続けていました。


 「ごめ……んね……」


 長い時間が過ぎ、ようやく涙が止まったマレは、フラフラと立ち上がりました。

 体のあちこちにできた傷が、痛くてたまりません。

 だけどそれ以上に、心がズキズキと痛みます。


 「ごめんね……わた……し、が……おくびょう、だから……」


 もう出ないと思っていた涙が、またマレの目からこぼれました。


 「ごめん……ね……おくびょうで……ごめんね……」


 怖くて震えが止まりません。

 悲しくて涙が止まりません。


 だけどそれ以上に、悔しくて悔しくてたまりませんでした。


 できたはずなのに。

 助けられたはずなのに。

 その力があるはずなのに。


 怖くて、勇気が出なくて、助けることができませんでした。

 臆病だから、大切なものを守れませんでした。


 悔しくて情けなくて、マレは自分がどうしても許せませんでした。


 「……いく……から……ね」


 やがてマレは歯を食いしばり、声を絞り出しました。

 涙と、血と、泥で汚れた顔を上げ、空に輝く月を見上げます。


 そして、月に向かって声を上げました。


 「たすけに……いく、からね……」


 草原を渡る風が、マレの声をかき消そうとしました。

 それに気づいたマレは、ありったけの勇気をかき集めて、風に負けない大声で叫びました。


 「ぜったい、いく、からね……ぜったい、たすけに、いく、からね!」


   ※   ※   ※



 ──ピピピッ、と小さな電子音が響き、ハクトは目を覚ましました。


 目を開いたものの、涙で視界がぼやけていました。

 胸いっぱいに広がる悲しみで、涙があふれて止まりません。


 (あれは……マレくん、か……)


 とても鮮明な夢でした。まるで自分がマレになっていたような、そんな気すらしました。


 きっと、本当にあったことなのでしょう。


 たった一人、ボロボロになって草原で泣いていたマレ。

 いったい、いつのことでしょうか。


 (私のところへ来る、直前……か?)


 そういえばあの時、マレはボロボロでした。ハクトの顔を見るなり泣き出して、泣きながらずっと謝り続けていて、痛々しくて見ていられないほどでした。


 「ハクト、大丈夫デスカ?」


 考え込んでいたら、シルバーに声をかけられました。


 「ん? ああ、シルバーくんか。いやすまない、すっかり眠ってしまったようだ」

 「ソレハ、カマワナイノデスガ……」


 シルバーの声に困惑があるのを感じ、ハクトは首をかしげました。


 「何かあったのかね?」

 「ソノ、ハクトノ体ガ、青白ク光ッテイマシタノデ……」

 「青白く?」

 「ハイ。ウッスラト、デスガ。何カアッテハト、慌テテ起コシマシタ」

 「ふむ」


 青白い光と聞いて、ハクトは悪魔の分身である、青白い炎を思い出しました。

 「力を分けてやったぞ」と、悪魔は言っていました。ひょっとしたら今見ていた夢は、悪魔の力が見せたものかもしれません。


 「とりあえず、なんともないがね」

 「ナラ、ヨイノデスガ」

 「おや?」


 妙に静かなのに気づき、ハクトはシルバーに尋ねました。


 「シルバーくん、妖精たちはどうしたのかね?」


 せまい洞窟の中には、白いツナギ姿の妖精は一人もいませんでした。静かなのはそのせいでしょう。


 「ハクトガ眠ッテイル間ニ、天使ガ去リ、代ワリニ、アンドロイドガ、キマシタ」


 その数、数百体とのことです。

 それに対して妖精は十七人、頭だけのシルバーは戦えず、ハクトも腕っぷしには自信がありません。正面切って戦える数ではないでしょう。


 「ここへ移動しておいて正解だったね」

 「妖精ハ、偵察ト、脱出路ノ確保ノタメ、全員出テイキマシタ」

 「なるほど、そういうことか」

 「体サエアレバ、私モ戦エルノデスガ……」

 「戦いの場にタラ・レバは禁物だ。できることをしようじゃないか」


 とりあえず、ハクトが今できることはなさそうです。無駄なことはせず、力を温存しておくべきでしょう。


 「そうだ。いまのうちに」


 ハクトは、ぽん、と手を打ち、枕代わりにしていた本を手に取りました。


 「世界の書(写)」


 悪魔が貸してくれた、「この世界の全てが書かれている、神様の本の写し」だという本。悪魔は、ここに世界の謎を解くヒントが書かれていると言っていました。


 「こいつを読むとしよう」

 「大切ナ借リ物ヲ、枕代ワリニスルノハ、感心シマセンネ」

 「いやー、この厚みが、ちょうどよい高さだったものでね」


 シルバーのお小言にペロリと舌を出しながら、ハクトは本を開きました。


 「さて、どんなことが書かれているのかな?」


 ハクトは本を読むのが大好きです。新しい本を開くときのワクワク感に、ハクトは自然と笑顔になります。


 「ん? ……これは」


 ですが、書かれているお話を読んで。

 さすがのハクトも、戸惑ってしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] わたしゃー本を枕にしたら固くて眠れないぜ(聞いてない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ