表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/180

06 岩山の牢獄 (1)

 改修を終えたデュランダルが、再び海へと漕ぎだした頃。

 悪魔のところへ向かっていたハクトとシルバーは、とある島へたどり着いていました。


 「うむ、なんとかなった!」

 「……」


 小さなボートから降り、胸を張ったハクトに、シルバーは何も言いません。


 「おやシルバーくん、元気がないね?」

 「……ハクト。アナタハ、ナゼ元気ナノデス?」


 草原を超え、山を登り、森をさまよって、洞窟で迷い、川を下り。

 そこまではよしとします。冒険ですから、色々なことがあって当たり前です。


 ですが海を越えようとする青白い炎を、川下りに使った手漕ぎボートでそのまま追いかけるなんて。


 ありえません。

 水も食料もギリギリでした。途中で天気が崩れ、何度も大波をかぶって転覆しかけたときは、生きた心地がしませんでした。


 「モウダメカト、思イマシタ」

 「はっはっは、シルバーくんは臆病だなぁ」

 「ハクトガ、無謀ナンデス」

 「無事だったのだから、いいじゃないか」

 「ソウイウ問題デハ……イエ、モウイイデス。先ヲ急ギマショウ」


 早く来いと言わんばかりに、悪魔の分身である青白い炎が揺れています。

 ハクトはシルバーをくくりつけているカゴを背負い直し、急いで青白い炎を追いました。


 「しばらく前から、ずっと夜だね」


 森の中で洞窟に入る前は、白夜の世界でした。ですが、長い洞窟を抜けてからはずっと夜で、それ以来一度も夜は明けません。


 「それに、極夜にしては少々変だ」


 空に浮かぶ半月を見て、ハクトは首を傾げました。

 本当の極夜であれば、半月は見えないはずです。ましてや地上を見下ろすような、高い位置に月が登ることはありません。


 「月……ううむ、大事なことを忘れている気がするな。はて、なんだっけ?」

 「余計ナコトハ、タクサン覚エテイルノニ、デスカ?」

 「ほほう、言うようになったではないか、シルバーくん」

 「エエモウ、遠慮ハ、ナシデス」


 初めは遠慮がちだったシルバーも、ハクトが無茶ばかりするものだから、今ではまったく遠慮がありません。言いたいことは言わないと、この自称マッド・ドクター相手ではイライラするばかりなのです。


 「うむうむ。やはり旅は、気のおけない相手とするに限るね」

 「ソレニハ、同意シマスガ」

 「おや、何か言いたいことでもあるのかね?」

 「モウ少シ、常識的ナ行動ヲ、オ願イシマス」

 「いけないねえ、シルバーくん。常識というのは、新しいものを生み出す最大の敵だよ」

 「アノデスネ……」


 ピピピッ、とシルバーのセンサーが警告音を出しました。


 「ハクト」

 「うむ。ついてきているのかね?」

 「ハイ」


 気づいたのは、森をさまよっているときでした。

 二人から付かず離れずの距離を、十数名の白い小人が追ってきているのです。襲撃されるのかと警戒した二人ですが、どうも違うようです。

 むしろ、二人を助けてくれているようです。

 森の中で迷っていた二人を、それとなく洞窟まで導いてくれました。

 洞窟の中では、壁に明かりを灯し、小石を並べて正しい道を示してくれました。

 川下りや海を渡るのに使ったボートを用意してくれたのも、きっと小人たちでしょう。


 「海で転覆しかけた時、助けてくれたのも小人たちだろうね」

 「何ガ、目的デショウカ?」

 「さて。助けてくれるのなら、堂々と出てきてくれてもよいのだが……」


 ひょっとしてと、ハクトは先導する青白い炎を見ました。

 白い小人たちは、悪魔の分身を警戒しているのかもしれません。敵とみなせば容赦のない悪魔です。うかつに出てこれないのは確かです。


 「まあいい。害はないのだから、このまま進もう」

 「ハイ」


 二人がたどり着いたのは、ゴツゴツとした岩だらけの島でした。

 生き物の姿はなく、草木も生えていません。


 「どうやら、あの岩山に向かっているらしい」


 島の中央に、大きな岩山がありました。三角錐(さんかくすい)の形をした、まるで塔のような岩山です。青白い炎が連れて行こうとしているのは、その岩山のようです。


 (はて……?)


 その岩山を見て、ハクトの心がなぜかざわめきました。見覚えがあるような、そんな気がしたのです。


 「アソコニ、悪魔ガ、イルノデショウカ」

 「そうあってほしいね」


 水も食料も残りわずかです。どこかで補給しないと、これ以上旅を続けるのは難しいでしょう。


 「この島では補給ができなさそうだ。急ぐとしよう」


   ◇   ◇   ◇


 すぐそこに見えた岩山ですが、たどり着くまでに丸一日かかりました。


 「うむ……さすがに、疲れたな」


 空を飛び軽々と岩を超えていく青白い炎と違い、ハクトは一歩一歩、岩を乗り越え、よじ登り、歩いていくしかありません。しかも重たいシルバーを背負いながらです。


 「やはりバッテリーの軽量化は必須だな。うん、この課題はなんとしても克服しよう」

 「申シ訳アリマセン」


 ただ背負われていただけのシルバーが謝ると、ハクトは笑いました。


 「なに、気にするな。助け合うのが仲間じゃないか」

 「ソウ言ッテイタダケルト、助カリマス」

 「君の力が必要になったら、全力で助けてくれたまえ」


 残りわずかな水を三口ほど飲んで、ハクトは岩山を見上げました。


 「しかし大きな岩山だな。まるで城ではないか」

 「オ城ニシテハ、少々殺風景デスガ」

 「ふむ……」


 そういえばと、ハクトは考えを巡らせます。

 悪魔は「天使に気づかれるとまずい」と言っていました。

 分身である青白い炎が、自在に空を飛び、アンドロイドを一蹴するほどの力を持っているのに、本体が現れないというのも奇妙です。


 「牢獄(ろうごく)、かもしれないね。ひょっとして悪魔は、ここに閉じ込められているのか?」


 ハクトの推測は、すぐ確信に変わりました。

 青白い炎がゆらゆらと揺れながら待っていたところに、岩山の入口らしきものがありました。入口は外側(・・)から厳重に鍵がかけられていて、太い鎖で幾重にも封印されています。


 「これは、なかなかやっかいそうだね」

 「手持チノ工具デハ、破壊ハ無理カト」

 「そうだね。デュランダルの大砲でも打ち込めば壊れそうだが……」


 正面突破は無理そうです。

 ハクトは他に入口はないかと、岩山の周囲を探りました。


 「ううむ、人間の常識で考えれば、必ずどこかに通用口があるはずだが……」

 「常識ハ、新シイモノヲ生ミ出ス、最大ノ敵デハ?」

 「敵の裏をかくときには、常識が最大の武器なのだよ。人間は、常識にとらわれてポカをやらかすからね」

 「相手ハ、人間デハナク、天使様デスケドネ」

 「……君、ツッコミが鋭くなってきたね」

 「鍛エラレマシタカラ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そうだねぇ。 どっかに穴とかないと分身の炎が出てこれないだろうしねぇ。
[一言] いいコンビやw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ