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05 エンジニア・リンドウ (1)

 海賊船デュランダルの船首。

 そこがあの子──エプロンドレスに大きなリボンの女の子、シオリのお気に入りの場所でした。


 その日、シオリはぼんやりと海を眺めていました。

 いつも一緒にいる、魔女のマレはいません。

 一人でいるなんて珍しいなと思って声をかけたら、「ちょっと話し相手になって」と手招きされました。


 「まあ、別にいいけど」


 ちょうど休憩中だったので、リンドウはシオリの隣に腰を下ろしました。


 ──ねえ、私がいなくなったら、どうする?


 いきなりそんなことを聞かれて、リンドウは首を傾げました。

 冗談にしては、いやに沈んだ声でした。どうしてそんなことを聞くのかよくわかりませんが、リンドウは思ったことを素直に答えました。


 「そりゃ、みんなで探しに行くさ」


 ──そっか。


 一言だけ答えて、シオリは海に目を向けました。

 なんのつもりだろう、とリンドウは思いました。いつも突拍子もないことを言ってみんなを驚かせるシオリですが、ちょっと違う気がしました。


 ──無理して、探さなくていいからね。


 長い沈黙の後、シオリはぽつりと言いました。


 ──マレが無茶をするだろうから、止めてあげてね。

 ──コハクが怒ったら、なだめてあげてね。

 ──海賊団のみんなを、守ってあげてね。

 ──私がいなくても……みんなで航海を続けてね。


 「……あんた、何言ってるんだい?」


 リンドウの声が少し尖ったことに気づいて、シオリがちらりとリンドウを見ます。


 ──リンドウが、一番のお姉ちゃんだから。


 「年なら、ハクトも同じだよ?」


 そうなんだけどねと、シオリは笑いました。


 ──でも、ハクトは自分の趣味を優先しちゃいそうだから。

 ──リンドウにお願いしたいな。

 ──そうだ、リンドウを、副団長に任命するね。


 まるでもうじきいなくなるような、そんなシオリの口ぶりに、リンドウは心がざわめきました。

 いったいどうして、シオリはこんなことを言うのでしょうか。


 ──私のことは、時々思い出してくれれば、それでいいから。


 「シオリ!」


 リンドウは思わずきつい声を出しました。

 リンドウが怒ってると気づいたのでしょう、シオリはぺろりと舌を出し、ごめんなさい、と謝りました。


 ──ゲンコツは勘弁してね。


 リンドウのゲンコツは、親方でもあったおじいさんゆずりの破壊力です。以前、イタズラが過ぎて事故を起こしかけた時に、思い切りげんこつを食らわせたので、その痛さはシオリも身にしみているのでしょう。


 「……次にバカなことを言ったら、容赦しないからね」


 ──うん。


 シオリはリンドウの言葉にうなずくと、真っ青な空を見上げました。


 そっか、と。

 みんなで、探しに来てくれるんだ、と。


 シオリはそうつぶやいて、幸せそうに笑いました。


   ◇   ◇   ◇


 「リンドー!」


 元気な声に呼ばれて、リンドウは振り向きました。

 夜の闇の向こうから、二人の女の子がやってくるのが見えました。

 お団子頭にエプロン姿の女の子、カナリアが元気いっぱいに手を振っています。カナリアが押す車椅子には、不機嫌そうな顔のコハクが座っていました。


 リンドウは、カナリアに応えて手を振りました。


 疲労と空腹で倒れていたカナリアは、五日も眠り続けた後で目を覚ましました。起きてからもしばらくはぼんやりしていましたが、もう大丈夫なようです。

 死力を尽くして戦い、気を失ったコハクは、翌日には目を覚ましました。海賊として鍛えられていただけあってすぐに元気を取り戻しましたが、足のケガがひどくて、しばらくは車椅子生活です。


 「お仕事お疲れさまー、お弁当持って来たよ!」

 「おや、もうそんな時間かい?」

 「……ほらよ」


 ぶすっとした顔のコハクが、箱からお弁当箱を取り出してリンドウに差し出しました。

 それを受け取り、リンドウはにやっと笑います。


 「コハク、そんなふてくされた顔してんじゃないよ。カワイイ服がだいなしじゃないか」

 「う・る・せ・え」


 コハクは一気に不機嫌な顔になりました。

 でも、そんな顔をしても、今のコハクはまるで怖くありません。

 それもそのはず、海賊らしい三角帽子もマントも身につけておらず、その代わり、フリルがいっぱいついた、かわいらしいドレスを着ているのです。

 いつもはおさげにしている髪も、白いリボンでふわっとまとめただけです。

 そう、今のコハクはお姫様のようにカワイイ、そんな女の子なのです。


 「もー、せっかくカワイクしたんだから、ちょっとは笑おうよ」

 「だぁーっ、うるせーっ!」


 カナリアの言葉に、コハクはとうとう爆発しました。

 「うがーっ!」と声をあげると、カナリアがまとめてくれた髪をぐしゃぐしゃにしてしまいます。


 「なんで俺が、こんな格好しなきゃいけないんだよっ!」

 「仕方ないでしょ。あんたの服、ボロボロだったんだから」


 アンドロイドとの激しい戦いで、コハクの服はもちろん、帽子もマントもボロボロになってしまいました。「これはもう新しく作った方が早いよ」と、リンドウが妖精たちに頼んで、新しいものを作ってもらっている最中です。


 「一週間もあればできるから。それまで我慢して」

 「なんでこんなヒラヒラした服しかねぇんだよ! もっとマシな服ないのかよ!」

 「ないんだよね、これが」


 ──ぜーったい、コハクはこういうのが似合うはずよ!


 そう言って、せっせと衣装を集めていたシオリの姿を思い出し、リンドウは笑います。

 集めた衣装が、ようやく役に立つ時がきたのです。今ここにシオリがいたら、大喜びしてコハクを着せ替え人形にしていたでしょう。


 「てめ、こら、やめろ!」

 「ああもう、待ってよ、髪の毛、きれいにするから!」


 ぐしゃぐしゃになったコハクの髪を直そうと、カナリアが(くし)を手に追いかけます。コハクは嫌がって逃げようとしましたが、慣れない車椅子では思うように逃げられませんでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] リンドウはあの紙を持っていて、何なのか理解している? (*´ー`*)シオリが託した?…ちょっと違う気がするな。うーん。
[一言] 普段はガサツな女の子がカワイイ格好してるのすこすこのすこ( ˘ω˘ )
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