03 アンドロイド・シルバー (3)
その記録は、アンドロイドが求める答えのはずです。
しかし、どうしても見られません。いったい誰が、記録に鍵をかけたのでしょうか。
「アンドロイドくん!?」
ハクトが呼ぶ声にアンドロイドは意識を取り戻しました。
「私……ハ……」
「大丈夫かね? 急に思考が乱れて、モニターできなくなったんだが……」
何かミスがあったのかと、ハクトは急いで調べました。
「ううむ、問題はなさそうだが……」
「ハイ……大丈夫ダト、思イマス」
思い出したはずの「誰か」のことが、アンドロイドの記録から消えていきます。それはまるで、目が覚めたら忘れてしまう、夢のようでした。
「まあ、わりと強引な方法で増設したからね。できれば専門家に確認してもらいたいところだが……」
ぶつぶつと考え込んでいるハクトを横目に、アンドロイドは鏡に映った自分を見て考えました。
ヘルメットが盛り髪になった以外に、もう一つ、大きく変わっているところがありました。
色です。
海水につかった影響か、ハクトの作業の影響か、どちらかはわかりませんが、金色だった体が銀色に変わっていました。
「ハクト」
「ん? なにかね?」
「名前ヲ、決メマシタ」
名は体を表す、そういう言葉があります。
だったら、金色から銀色に変わったアンドロイドが名乗るのは、この名前しかありません。
「シルバー、ト。オ呼ビ、クダサイ」
「ふむ、シルバー……アンドロイド・シルバー。なるほどなるほど」
ハクトは感心したようにうなずきました。
「いいね。とてもシャープでスマートな印象だ。最高の名前だよ!」
◇ ◇ ◇
ハクトに背負われて、シルバーは冒険の旅を始めました。
誰に頼まれたのでもありません、これは、シルバーが自分の意思で始めた冒険です。
ハクトが求める、この世界の謎と。
シルバーが求める、パティシエを連れて行った理由。
その二つは、どこかでつながっているような気がしました。だとしたら、シルバーは持てる限りの力を使って、ハクトともにこの冒険を成し遂げたいと思いました。
「ワクワクするねえ、シルバーくん」
「ワクワク、デスカ?」
「おや、君はしないのかい?」
ハクトに問われて、シルバーは少し考えました。
冒険の旅が成功する保証はありません。
でも、冒険を終えた時、シルバーは望む答えを手に入れているでしょう。そう考えると、シルバーは心が踊るような気がしました。
「エエ、ソウデスネ。ワクワク、シマス」
シルバーはうなずきました。
「ワクワク、キラキラ、ドキドキ。ソレガ、冒険デスネ」
「おお、いいこと言うじゃないか!」
そうだとも、とハクトは威勢よく拳をつき上げました。
「どうせ進むしかないのだ、開き直って、存分に冒険を楽しもうじゃないか!」
「ハイ、ソウシマショウ!」
ハクトに合わせて、シルバーも威勢よく答えます。
いいねいいね、とハクトは笑い、さらに威勢よく叫びます。
「世界の謎の、答えを求めて!」
「パティシエヲ、連レテ行ッタ理由ヲ探シテ!」
「では張り切って、悪魔のところへ向かうとしよう!」
「エエ、悪魔ノトコロ……エ?」
威勢よく答えかけて、シルバーは耳を疑いました。
「ア、悪魔ノトコロ……デスカ?」
「うむ、この青白い炎は悪魔の分身だそうでね。本人がいるところへ案内してくれているのだよ」
「アノ……ソレハ、初耳デスガ」
「うむ、初めて言ったから、当然だな!」
「アノ、私ハ、天使様ガ作ッタ物、ナノデ……悪魔トハ……」
「はっはっは、気にしない気にしない。どうにかなるさ!」
豪快に笑うハクトと、その背中でうろたえるシルバー。
そんな二人に、青白い炎はあきれたように揺れながら、悪魔が捕らえられている牢獄へと案内を続けました。
──そのハクトを、遠巻きにして見ている者たちがいました。
白いツナギ姿の、妖精です。
天使の軍団であるアンドロイドから「勇者」を守るために駆け付けたのですが、当の勇者がそのアンドロイドをお供にし、しかも悪魔の力を宿す青白い炎について行っているのです。
「ピィ?」
「ピピピッ!」
少し、様子を見よう。
妖精たちはうなずきあうと、ハクトたちにばれないように、遠巻きにしながらついていくことにしました。