01 世界会議 (2)
ガコン、と大きな音を立てて扉が閉まり、牢獄の中は真っ暗になりました。
「……おい、いいのか」
しばらくすると、暗闇の中に悪魔の声が響きました。
「お前のお友達、このままじゃ消えちまうぜ?」
それは、ここにはいない、誰かに向けた声でした。
悪魔はしばらく待ちました。ですが、呼びかけに応える声は聞こえませんでした。
バカが、と悪魔は舌打ちします。
「いいんだな、消えたら二度と会えなくなるぜ?」
やはり返事はありません。
仕方ないかと、それきり悪魔は口を閉ざしました。
──ですが、しばらくして。
暗闇に小さな光が現れました。
「……へえ」
悪魔はニヤリと笑うと、大きく息を吸い込み、ふうっ、と光に吹きかけました。
すると光は、ボウッ、と音を立てて青白い炎となりました。
悪魔が息を吹きかけるたびに、炎は大きくなっていきます。やがて炎が悪魔の体よりも大きくなった時、その中に四角いものが現れました。
本でした。
表紙には、「世界の書(写)」という文字が浮かび上がっています。炎に包まれているのに燃えもせず、宙に浮いてゆっくりと回転しています。
「返してくれるのかよ。遠慮はしないぜ?」
悪魔は静かな声で命じました。
「開け」
本が開きました。パラパラとページがめくられていき、やがて白紙のページで止まりました。
「さて、どうなるのかな?」
悪魔が静かにつぶやくと、その白紙のページに、ゆっくりと文字が浮かび上がってきました。
※ ※ ※
『魔女』が、世界を滅ぼそうとしていました。
それを知った『神様』は、『天使』を呼び、こう命じました。
「世界中から勇者を集め、魔女を捕えさせなさい。そして、私のところへ連れてきなさい。私が魔女と話をします」
「私が魔女を捕えればよいのではないでしょうか?」
「それはいけない。天使、お前の力は大きすぎる。お前が魔女と戦えば、それで世界が滅んでしまうかもしれない」
「わかりました、神様」
神様の命を受けた天使は、無数にある世界をめぐり、魔女の脅威を知らせ、魔女を捕らえるために力を貸すよう人々に告げて回りました。
最初は信じなかった人々ですが、いくつもの世界が滅んだと知り、天使の言葉を信じるようになりました。
世界中から代表者が集まり、魔女を捕らえるため「勇者の船団」を作ることが決まりました。
「勇者の船団」には、それぞれの世界を代表する勇者が集められました。とても強くて、とても賢くて、どんな困難にも負けない強い意思を持った勇者たちばかりでした。
そんな勇者たちの中に、六人の女の子がいました。
海賊船「デュランダル」に乗り大海を行く『海賊』。
素早い動きで悪者を一刀両断にする『剣士』。
神の加護を受け仲間を守る『巫女』。
小さな飛行機で世界中の空を駆ける『飛行士』。
膨大な知識でどんな病気も治す『医者』。
おいしいパンケーキでみんなのお腹を満たす『パティシエ』。
最年長の医者ですら十六歳、剣士と飛行士が十五歳、巫女が十四歳、パティシエは十歳、そして一番年下の海賊はまだ九歳です。
そんな彼女たちが、世界を滅ぼすような魔女と戦えるのでしょうか。
心配はいりません。彼女たちだって「勇者」なのです。
海賊船「デュランダル」を操り、『海賊』が魔女を追いかけます。
剣を手に、『剣士』は勇敢に戦います。
魔女の強力な魔法は、『巫女』の祈りが阻みます。
魔女がほうきで空を飛べば、『飛行士』が飛行機で戦います。
戦いで傷ついたら、『医者』が治してくれます。
お腹が空いたら、『パティシエ』が作ったおいしいパンケーキで元気を取り戻します。
魔女はとても手強い相手です。
でもこの六人なら、そんな魔女が相手でも、一歩も退かずに戦うことでしょう。
※ ※ ※
「クククッ……」
浮かび上がった文字を読み終え、悪魔は肩を揺らして笑いました。
「なかなか楽しそうなお話じゃないか。続きはどうなるんだ?」
悪魔が問いかけましたが、本は静かに閉じられ、そのまま床に落ちました。
悪魔はため息をつき、残念そうに首を振りました。
「そうかい。ならこの先は、夢で見るとしようか」
今の悪魔にできることはありません。せめて行く末を見届けようと、悪魔は夢を見るため眠ることにしました。
「……きばれよ、弱虫」
眠りに落ちる寸前、悪魔は笑顔を浮かべてつぶやきました。
「これが、終わりの始まりだぜ」