08 仲間を探して-Ⅳ (2)
──ざわざわ、と。
一陣の風に吹かれて、クスノキが揺れました。
光が少しずつ強くなっていき、周囲を明るく照らし始めます。
まるで、その根元で眠るパティシエのことを、誰かに知らせているようでした。
助けて、という言葉が、風に乗って運ばれていきます。
ここにいるよ、という言葉が、光になって放たれます。
ざわざわ、ざわざわ、とクスノキが揺れ続け。
やがて暗闇の向こうから、ドルルルルッ、と低い音が響いてきました。
その音とともに闇の中から姿を現したのは、紫色のツナギを着て小さなオートバイにまたがった、三人の妖精でした。
「ピィ?」
やってきた妖精は、光を放つクスノキを不思議そうに見上げながら、少し離れたところで止まりました。
何が起こったんだ、と妖精たちが顔を見合わせます。一人はオートバイにまたがったまま、すぐに走り出せるよう待機し、残りの二人がオートバイを降り、慎重にクスノキへと近づきました。
そして、根元で倒れているパティシエに気づき、飛び上がってしまうほど驚きました。
「ピーッ!?」
二人は慌ててパティシエに駆け寄ります。
「ピィッ!」
「ピピィッ!」
大声で呼びかけましたが、パティシエが目を覚ます様子はありません。二人はうなずき合い、オートバイで待機していた一人に合図を送りました。
「ピッ!」
合図を受けて、待機していた妖精はすぐに走り出しました。助けを呼びに行ったのです。
残った二人は、力を合わせてパティシエの体を仰向けにさせ、ボタンを緩めて息を楽にしてやります。パティシエはときどき苦しそうな声を上げましたが、目を覚ますことはありませんでした。
まもなく、遠くから大きなエンジン音が聞こえてきました。
「ピーッ!」
妖精が立ち上がり、ぴょんぴょん飛び上がって合図します。
闇の向こうからやってきたのはバギーカーで、紫色のツナギを着たベリーショートの女の子が乗っていました。
天才エンジニア・リンドウです。
リンドウはクスノキの近くまでやってくると、急ブレーキでバギーカーを止めました。
「ちょっとちょっと……ほんとに?」
ゴーグルを上げたリンドウは、倒れているパティシエを見て、信じられない、という顔をしました。
「カナリアじゃない! なんで、こんなところにいるんだい!?」
リンドウは慌ててシートベルトを外し、バギーカーを飛び降りると、パティシエ──カナリアのそばに駆け寄りました。
「カナリア、カナリア! しっかりしな!」
リンドウはカナリアのそばにしゃがむと、大声で呼びかけながら、カナリアのほおを叩きました。
ですが、カナリアはかすかにうめくだけで、目を覚ましそうにありません。
「これは……まずいね」
リンドウは眉をひそめました。カナリアのほおは、とても熱かったのです。ケガはしていないようですが、疲れ切った顔をしています。きちんと手当てしないと、命にかかわるかもしれません。
「ピィッ!」
妖精がリンドウに呼びかけました。いつの間にかバギーカーの荷台を片付けてくれていて、「早くここに乗せろ」と手招きしています。
リンドウはうなずくと、カナリアを抱きかかえ、バギーカーの荷台にそっと乗せました。
「あんた……消えちまったんじゃなかったのかい?」
リンドウの問いかけに、眠っているカナリアは何も答えません。
でも、夢でも、幻でもありませんでした。
カナリアはちゃんとここにいて、手で触れることができるのです。
「まったく……」
ジワリと浮かんだ涙を袖でぬぐい、リンドウ優しく微笑みました。
「カナリアを助けられなかった、て……マレは大泣きしてたんだよ。消えてないのなら、さっさと戻ってきなよ」
疲れ切ったカナリアの顔に、涙のあとがあることに気づき、リンドウは濡れたタオルでふいてやりました。
「助けにきたよ、カナリア。さあ、一緒に行こう」
第2章 おわり