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05 巫女・ルリ (3)

 深い森をしばらく進むと、洞窟がありました。


 「ピッ!」


 妖精が巫女を振り返り、「ここに入るよ」と指差します。


 「ここ、ですか……」


 巫女がギリギリ立って歩けるぐらいの、狭い洞窟でした。

 巫女は洞窟をそっとのぞき込み、ぶるり、と震えました。巫女は暗くて狭いところが、とても怖いのです。


 早く、と妖精が巫女を手招きします。


 暗い空を見上げると、金色の光が飛んでいるのが見えました。こちらへ近づいているようです。

 巫女は勇気を振り絞って、洞窟の中に入りました。


 「ピイィッ!」


 すぐに光が届かなくなりましたが、妖精が声を上げると、その体がぼんやりと光りました。おかげで、なんとか足元は見えるようになりました。

 でも顔を上げると、何も見えない真っ暗な世界が広がっています。


 (こわい……)


 後ろから誰かが追ってきそうな気がしました。

 暗闇を切り裂いて、矢が飛んできそうな気がしました。

 シルフィに助け出され、お城から逃げたあの日のことが浮かんできて──怖くて怖くてたまらなくなりました。

 巫女は必死で恐怖を押し殺し、妖精と一緒に洞窟の中を進みましたが、つまづいて転んだとき、痛みと恐怖が一気によみがえってきて、とうとうしゃがみこんでしまいました。


 「ピィッ!」

 「いや、怖い……許して……許して……」


 励ますような妖精の声に、巫女は震える声で答えました。

 どうして神様は、巫女を勇者として選んだのでしょうか。こんなに怖がりで、弱くて、情けない女の子が勇者だなんて、お笑い種ではないでしょうか。


 きっと自分はシルフィの代わりなんだと、巫女は思いました。


 勇気があって頭も良くて、何よりも正義感の強かったシルフィ。シルフィが勇者だったら、こんな暗闇を怖がることなく、あのアンドロイドだってやっつけてしまうでしょう。


 (みなさんは……大丈夫でしょうか……)


 海賊船デュランダルに乗り、魔女と戦った仲間たちを思い出しました。みんなとても勇敢で、世界を滅ぼす魔女に臆することなく立ち向かっていました。

 でも、巫女は怖かったのです。本当は逃げ出してしまいたいほど、怖かったのです。


 (ああそうだ……私……)


 巫女は涙をこぼしました。


 (また、守れなかったんだ……)


 ポロポロと涙がこぼれました。

 かつてシルフィを守れなかったように、今回も勇者の仲間を守れなかった。

 そう思うと、情けなくて仕方ありませんでした。


 ──違うよ、それは。


 不意に、誰かの言葉が思い浮かびました。

 あれは誰だったでしょうか。

 自分の弱さが情けなくて泣いていた時に、抱き締めてくれた人がいたような、そんな気がします。


 ──あなたは、立派にシルフィを守ってたよ。


 あなたがいなければ、まだ赤ん坊だったシルフィは生きていられなかった。

 あなたがいなければ、シルフィには帰る家がなかった。


 ──あなたは、とっても強いのよ。


 そんなふうに言ってくれた、あの子は誰だったでしょうか。


 「ピイィッ!」


 妖精が鋭い声を上げました。

 ハッとして顔を上げると、妖精たちがやって来た方を見て険しい顔をしています。


 ガチャリ、ガチャリ、と音がしました。


 アンドロイドの足音です。この洞窟に気づき、追って来たようです。

 妖精の一人が、巫女の肩に登って「ピィ!」と髪を引っ張りました。残りの妖精たちが、巫女を守ろうとするかのように、壁となって並んで立ちました。


 「ピィ!」


 逃げるよ、と肩に乗った妖精は言っているようです。壁となって並ぶ妖精が「ピピピッ!」と勇ましい声を上げて親指を立てます。


 ここは、俺たちが引き受ける。


 妖精はそう言っているに違いありません。


 ガチャリ、と足音が止まりました。

 妖精たちの光が届くギリギリのところに、金色に光るアンドロイドが見えました。


 「ユウシャ、ハ、ケセ」

 「ピィーッ!」


 アンドロイドが腕を剣にして構えると同時に、妖精たちがアンドロイドに飛びかかりました。


   ◇   ◇   ◇


 気がつけば、巫女は無我夢中で走っていました。

 すぐ目の前も見えない暗い道を、何度も転びそうになりながら、必死で走り続けました。


 また逃げてしまった。

 勇者なのに、恐怖に負けて、逃げ出してしまった。


 そんな思いが、涙となってほおを落ちていきます。


 ──あなたは、とっても強いのよ。


 そんなのは嘘だと、巫女は思いました。

 シルフィをおびき出すために捕まった時も、そして今も、巫女は自分だけが逃げているのです。


 守ると誓った、守りの力を持つ、巫女なのに。

 ただ守られて、そして一人で逃げているだけなのです。


 「きゃっ!」

 「ピイーッ!」


 何かにつまづいて転んでしまいました。

 肩に乗っていた妖精が飛んで行ってしまい、ふっ、と光が消えてしまいました。

 真っ暗になり、何も見えなくなりました。息をひそめて待ちましたが、妖精の光は戻りません。ひょっとしたら落ちた拍子に気を失ってしまったのかもしれません。


 「いや……」


 逃げてきた方から、妖精の声と激しく打ち合う音が聞こえてきました。

 あの時と同じです。

 シルフィと共に逃げ出した巫女を兵士が追って来た、あの時と同じ音でした。


 「お願い……誰か……誰か助けて……」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] というか正樹さんの感想の台詞……懐かしいですねぇ( ´∀` ) [一言] 誰かを助けようと思う、その気持ちが勇気じゃないなら、助けんとするその人が勇者じゃないなら何なんだッ! たとえ守…
[一言] 妖精さんたち、侠気あふれる背中…(`・ω・´)b
[一言] ピピピッ!(別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?)
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