表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/180

04 仲間を探して-Ⅱ

 暗い空を飛び交う金色の光を見て、パティシエはゆっくりと窓から離れました。

 金色の光からは、なにか嫌なものを感じました。あれに見つかってはいけない、そんな気がしたのです。


 「どうしよう」


 金色の光がどこかへ行ってしまうまで隠れていよう。そう思いましたが、問題が一つありました。

 食べる物がないのです。

 パティシエが持っているのは、非常用のチョコレートが十粒だけ。できればそれは大切に取っておいて、何か別のものを食べたいと思いました。


 「……よし」


 パティシエは、家の中を探してみることにしました。

 他人の家に勝手に入って、勝手に探し回るなんて、悪いことです。住んでいる人が帰ってきたら、泥棒と言われてしまうかもしれません。

 ですがパティシエは本当にお腹が空いていて、このままでは倒れて動けなくなってしまいそうでした。もしも住んでいる人が帰ってきたら、その時はちゃんと謝るしかありません。


 暖炉のある部屋には、奥へと続く扉が一つありました。


 パティシエはそっと扉を開けました。真っ暗で、やはり誰もいないようです。

 パティシエは、暖炉で燃えていた(まき)をフライパンに乗せ、たいまつの代わりにしました。


 「おじゃましまーす……」


 小さな声でそう言ってから、パティシエは奥の部屋に入りました。

 そこは、キッチンでした。

 きれいに掃除され、整理整頓されていました。ここなら何か食べ物があるかもしれないと、パティシエはあちこちの棚を開けて探しました。


 でも、見つかったのは食器や調理器具ばかりで、食べ物はありませんでした。


 「お腹空いたなあ」


 がっかりした分、よけいにお腹が空いてきました。

 ぐうぐうとお腹が鳴り、目が回って倒れそうです。

 パティシエは少し休憩しようと、キッチンの隅に置いてあった椅子に座りました。


 「あれ?」


 椅子に座って目を上げると、キッチン隅の床に何かの影が見えました。

 なんだろう、と目をこらすと、それは取っ手のようでした。

 ひょっとしたら、その下は倉庫になっているのかもしれません。そういえばパティシエのお店にも、床下に作られた倉庫がありました。

 パティシエはキッチンの隅へ行き、その取っ手を引っ張ってみました。


 「んっ……んんーっ!」


 とても重い扉でした。

 パティシエは必死になって取っ手を引っ張りました。なかなか動きませんでしたが、「このやろーっ!」と大声を出して気合いを入れると、ずずっ、と音がして動きました。

 ずずっ、ずずっ、と動いて、かこん、と何かが外れた感じがしたら、あとは一気でした。


 「よ……いしょぉっ!」


 ガコーン、と大きな音を立てて、床の扉が開きました。びっくりするぐらい大きな音で、思わずパティシエは悲鳴を上げてしまいました。


 「あー、びっくりした」


 ヒュウッ、と少し冷たい風が、開いた扉から流れてきます。

 パティシエは恐る恐るフライパンのたいまつで、床の奥を照らしました。


 「……階段?」


 開いた扉の中には、地下へ続く階段がありました。

 少し怖かったのですが、パティシエは階段を下りてみることにしました。ひょっとしたらこの下は大きな倉庫で、そこに食べ物があるかもしれません。


 真っ暗で、ひんやりとした空気の中、パティシエは階段を下りていきました。


 階段はそれほど長くなく、二十段ぐらいでした。

 降りた先は通路になっているようです。フライパンのたいまつを掲げてみると、通路の端に水が流れているのが見えました。どうやら川の水が、ここへ引き込まれているようです。


 「これ、どこに続いているのかな?」


 パティシエがそうつぶやいたときです。


 カチリ。


 暗闇の向こうから、何かスイッチが入ったような音が聞こえました。すると通路の壁に埋め込まれていた、丸いランプが次々と光り始めました。


 「え、なに、なに!?」


 びっくりして思わず逃げ出しそうになりましたが、何とか踏みとどまりました。

 深呼吸して気持ちを落ち着け、通路の先をながめました。壁のようなものは見えません。どこへ通じているのかはわかりませんが、かなり遠くまで続いているようです。


 「行ける……かな?」


 この通路は、住んでいる人が使っている、秘密の道なのかもしれない。

 パティシエはそう考え、よし、と気合を入れて歩き出しました。


   ◇   ◇   ◇


 地下迷宮(ダンジョン)、という言葉を教えてくれたのは誰だったでしょうか。

 パティシエが歩いているのは、まさにその地下迷宮のようなところでした。床も壁もきれいに平らにされていて、明らかに人の手で作られたものとわかります。

 幸い分かれ道はなく、ずっと一本道なので迷うことはありませんが、歩いても歩いても道は続いていました。

 

 「あきらめないぞ!」


 くじけそうになるたびに、パティシエは魔法の言葉を叫びました。その言葉を叫ぶと、不思議と力がわいてくるのです。

 時々休憩しながら、パティシエは歩き続けました。

 そして、多分もう一日が終わるんじゃないか、というぐらい歩いた時。


 「あれ?」


 ようやくパティシエは行き止まりにたどり着きました。

 行き止まりの壁には祭壇のようなものがありました。祭壇には四つ葉のクローバーのような模様が描かれています。通路の横を流れていた水は、その祭壇の下へと流れて落ちていってました。


 「えー、行き止まりなのぉ?」


 そんなぁ、とパティシエはその場にへたり込みました。左右の壁にも扉のようなものはなく、これ以上進めそうにありません。


 「今から戻るの、無理だよお」


 じわり、と涙が出そうになりましたが、パティシエは慌てて涙をぬぐいました。


 「私は勇者だもん。こんなことで泣かないもん!」


 とはいえ、ずっと歩き続けていたのでクタクタです。もう今日は歩けそうにありません。ここで少し寝て、元気になってから来た道を戻ることにしました。


 パティシエは内ポケットからチョコレートを一つ取り出しました。

 甘くて美味しいチョコレート。それをじっくりと味わって飲み込むと、パティシエは少しだけ元気を取り戻せました。


 パティシエは祭壇の真下で膝を抱え、壁に寄りかかって目を閉じました。

 床は少しひんやりしていましたが、祭壇を照らしている光が空気を温めているのでしょう。そんなに寒いとは感じませんでした。


 「お化けとか、出ない……よね?」


 ふとそんなことを考え、ちょっとだけ怖くなりました。

 こんなとき、巫女が一緒にいてくれたらな、と思います。

 神様に祈りを捧げ、悪霊や悪いお化けを退ける力を持つ巫女。巫女が作り出す結界は強力で、どんなに怖いお化けが出ても、きっとパティシエを守ってくれるでしょう。


 ああ、でも。


 夢うつつに、パティシエは思い出しました。

 巫女は、こういう狭くて暗いところがとても苦手でした。もしも今ここにいたら、震えてパティシエに抱きついているかもしれません。


 「大丈夫かなあ……暗いところに閉じ込められてたり……してないといいなあ……」


 優しい巫女の姿を思い浮かべ、パティシエは神様にお願いしました。


 「神様……どうか……ルリを守ってあげてね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 祭壇の下に隠し扉、とかないのかな(゜Д゜;) 少なくとも水の通り道くらいはあるハズ!! そして……名前がだんだんと明かされていく(゜Д゜;)
[一言] じわじわと明らかになる勇者たちの名前…きっと何かの伏線…。 みんなバラバラですね。 パティシエちゃん、がんばれ〜(`・ω・´)
[一言] 大分記憶が戻ってきている……!?( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ