02 仲間を探して-Ⅰ (2)
ほおを叩いて気合が入ったパティシエは、みんなを探しに行こうと立ち上がりました。
「あれ……川かな?」
立ち上がってぐるりと周りを見たら、少し離れたところに川がありました。とりあえず行ってみようと、パティシエは川に向かって歩き出しました。
「あ!」
川のほとりに、パティシエのフライパンが落ちていました。
海ヘ投げ出された時に手放してしまったのですが、どうやらパティシエと一緒にここへ落ちて来たようです。
「ようし!」
フライパンを拾うと、元気が出てきました。
パティシエはフライパンを手に、川の流れる方向、下流へと歩き出しました。どこまで続くかわかりませんが、川を下って行けば、いつか海に出ます。
海に行けば、きっとデュランダルが、みんなが乗るあの船が待っているはずです。
暗い世界を、パティシエはたった一人で歩き続けました。
あきらめないで。
時々、どこかで誰かが泣きながら言っていた言葉が、頭の中で響きました。
その度に、パティシエは「うん、あきらめないよ!」と大きな声で叫びました。
だって、パティシエは勇者だから。
世界を滅ぼす魔女と戦うために、神様が選んでくれた勇者だから。
こんなことぐらいで、へこたれるわけにはいかないのです。
「きっと、みんなも大丈夫!」
もう一度みんなに会って。
今度こそ、世界を滅ぼす魔女を倒すんだと、パティシエはひたすら歩き続けました。
◇ ◇ ◇
それにしても不思議な世界です。
滅びてはいないはずですが、ずっと暗いままで、朝になる気配がありません。
「ここ、いったいどこなんだろう?」
長い時間歩き続けていますが、まだ海には着きませんでした。
くじけそうになるたびに、パティシエは大きな声を出して元気を取り戻しましたが、さすがに少し疲れてきました。
どこかで休憩したいな。
そんなふうに思い始めたときです。
「あれ?」
何もなかった景色の中に、なにか大きなものが浮かび上がってきました。
何だろうと、目を凝らしてよく見ると。
「クスノキ……?」
間違いありません、クスノキです。
そのクスノキの下には、小さな家が建っています。誰かが住んでいるのでしょうか。
「すいませーん!」
小さな家にたどり着いたパティシエは、誰かいないかと扉を叩きました。
でも、誰の返事もありませんでした。
「あれ?」
パティシエがそっと扉を押してみると、扉は音もなく静かに開きました。鍵がかかっていなかったようです。
「……すいませーん。誰かいませんかー?」
パティシエは家の中をのぞき込み、呼びかけてみました。
明かりはついておらず、返事もありません。
どうしよう、と思いましたが、もうクタクタのパティシエは、休みたくて仕方ありませんでした。怒られるかもしれないなと思いつつ、家の中に入り、少し寒かったので暖炉にまきをくべて火を起こしました。
ボウッ、と起こった火を見て、パティシエはほっと息をつきました。
「お腹空いたなあ……」
フライパンはありますが、材料がありません。幸い、川の水がとても綺麗だったので飲み水には困りませんが、ずっと何も食べていないので、お腹がペコペコでした。
「あ、そうだ!」
パティシエは上着を脱ぐと、縫い付けていた内ポケットの糸をほどきました。
そこには、医者に言われて入れておいた、いざというときのためのチョコレートがありました。
海に落ちたから大丈夫かな、と心配でしたが、油紙でしっかりと包んでいたので大丈夫でした。
「チョコレートというのはとても栄養価が高くてね。一口食べるだけでも、ずいぶんもつのだよ」
医者が言っていた通り、ひとかけら食べただけでパティシエはずいぶん元気になりました。お腹が空いていたから、本当は全部食べてしまいたかったのですが、旅はいつまで続くかわかりません。
ひとかけらだけで我慢し、チョコレートをポケットにしまうと、パティシエは部屋の隅に置かれていた毛布にくるまりました。
「みんな、大丈夫かな……」
毛布にくるまってウトウトとしながら、パティシエははぐれたみんなのことを思いました。
出会ってまだ数日しかたっていないけれど、もうずっと昔から一緒に旅をしているような、そんな気がする仲間たちです。
「大丈夫だよね。みんな、きっとまた会えるよね」
目を閉じると、みんなの姿が思い浮かんで来ました。
自分が無事なのだから、みんなもきっと大丈夫。
だって自分よりずっと強いんだもの。
強くて頼もしい仲間たち。どうか無事でいてほしいと、心から思いました。
「あ……そうだ……」
ウトウトと眠りに落ちていきながら、パティシエは、唐突に思い出しました。
かっこよくて真面目な剣士は──確かカナヅチだったと。
「大丈夫かなあ……溺れてないかなあ……」
真面目な剣士の姿を思い浮かべ、パティシエは心から祈りました。
「無事でいてね……アカネ……」
あれ、どうして私は剣士の名前を知っているのかな、と思いながら。
パティシエは、深い眠りにつきました。




