表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/180

02 仲間を探して-Ⅰ (1)

 どこまでも、どこまでも、闇の中を沈み続けました。

 このまま目を覚ますことなく、闇の中に溶けてしまうのかな──そんな風に思ったとき、ふわりとどこかに着地しました。


 (あ……れ……?)


 どこに着いたのでしょうか。

 目を開くと、見慣れた看板が見えました。色々なお菓子の絵が描かれた、見ているだけで楽しい看板です。


 (ああ……そうか……)


 その看板は、王都にも知られた有名なお菓子屋さん──自分のお店のものでした。

 どうやら、お店の前の広場で眠っていたようです。


 体が重くて、指一本動かせません。

 新しく出会った仲間と一緒に、冒険の旅に出た、そんな気がしたのですが。

 それは夢で──広場で倒れたきり、ずっと寝ていたようです。


 「まだ……生きて……る……」


 真っ暗な空から、白い粉がたくさん降り注いでいるのが見えました。

 お砂糖みたい、と思いました。

 でも砂糖ではありません。口を開けて食べてみましたが、何の味もしませんでした。


 その白い粉は「世界のかけら」。

 世界が壊れ、砂のように崩れて降ってきたものでした。


 世界が壊れた部分は、黒い闇でした。その闇は少しずつ、でも確実に広がっています。

 黒い闇が空を覆いつくした時が、この世界の終わりだと言われました。食い止める方法を探すため、村の人たちが出かけていきましたが、誰も帰ってきませんでした。


 (お腹、空いたなぁ……)


 目だけを動かすと、あちこちにうず高く積もった白い粉の山が見えました。

 そこには、一緒に村に残った人たちが埋まっているはずです。いえ、ひょっとしたら、村の人たちはもう白い粉になってしまったのかもしれません。


 (私も、消えちゃうんだなあ……)


 降り注ぐ世界のかけらが、体を覆っていきます。それを払いのける力は、もう残っていませんでした。


 おいしいお菓子をいっぱい作って、世界中の人に食べてもらいたい。


 その夢は、もうかないそうにありません。

 あきらめよう、そう思ったとたん体から力が抜け、意識が闇に包まれていきました。


 (おじいちゃん……私も、おじいちゃんのところに……行くね……)


 さらさらと体が崩れ始めました。

 いよいよもう、これで終わりなんだと思いました。


 「だめーっ!」


 その時、誰かの声が聞こえました。


 「お願い、消えないで!」


 体を覆っていた白い粉が吹き飛ばされました。

 温かい手がほおをなでてくれ、消えかけた意識が戻りました。


 「起きて、起きて!」


 必死の呼びかけに、最後の力を振り絞って目を開けました。

 少したれ目の、かわいい女の子の顔が見えました。

 とんがり帽子に黒い服を着て、そばにはエニシダの枝で作られた大きなほうきがあります。


 「ま……じょ……?」

 「助けに来たよ!」


 魔女が、涙をポロポロ流しながら声をかけてきました。


 「ごめんね、遅くなってごめんね! 助けに来たよ! だから、消えちゃだめだよ!」


 魔女の涙が落ちてきました。その涙の温かさに、絶望が和らいでいきます。


 「ほんと……に……泣き虫、なんだから……」


 最後の力を振り絞って手を伸ばし、魔女の涙をぬぐいました。

 その手を、魔女が握りました。だけどもう、魔女の手のぬくもりを感じることができませんでした。


 「ムチャ……した……んでしょ……」


 魔女の帽子も服も、焼け焦げて、あちこちが切り裂かれています。助けに来るために必死で戦ってくれたんだと、とてもうれしくなりました。


 「きて……くれ……て……ありが、とう……」

 「消えちゃだめ! あきらめないで!」

 「ごめん……ね……きて、くれた……のに……」

 「だめ、だめ! お願い、あきらめないで!」


 魔女が泣きながら呼びましたが、もう目を開けていられませんでした。


 お別れは悲しいけれど。

 最期に会えてよかった。


 「シ……を……助けて……あげ……てね……」


 笑顔を浮かべて、最期の望みを魔女に託すと──そのまま魔女の腕の中で、静かに崩れていきました。


   ※   ※   ※


 ほおをなでる風に起こされて、パティシエは静かに目を開きました。


 とても嬉しい夢。

 とても悲しい夢。


 その二つをいっぺんに見たような、そんな気がします。だけど、目を覚ました途端に夢は消えてしまい、どんな夢を見ていたのか忘れてしまいました。


 「あれ、私……」


 何があったんだっけ、と思いながら、パティシエはゆっくりと起き上がりました。

 ほとんど明かりのない、暗い世界でした。

 目を凝らして周りを見ましたが、どこまでも闇が続いているだけです。


 ひょっとしたら、ここは滅びた世界なのでしょうか。


 震えながら空を見上げ、そこに星を見つけてパティシエはホッとしました。

 滅びた世界なら、星なんて見えないはずです。それに、耳を澄ますと葉擦れの音がします。どうやら草原のような場所にいるみたいです。


 「あ……そうか」


 パティシエはようやく、何があったのかを思い出しました。

 世界を滅ぼす魔女と戦っている最中に海へ落ち、そのまま闇の穴に落ちたのです。

 そしてその後──誰かに会ったような気がしますが、ぼんやりとしていて思い出せません。


 「どうしよう……」


 ここがどこで、どこへ行けばいいのかまるでわかりません。幸い、大したケガはしていませんが、非常用の食料が入っていたリュックはなくしていました。


 「……みんなは、大丈夫かな」


 パティシエより先に闇の穴に落ちていった、海賊船デュランダルに乗る仲間たち。

 その姿はどこにも見えません。どうやら、はぐれてしまったようです。


 「ううん、大丈夫に決まってる!」


 パティシエは自分を励ますように、大きな声を出しました。

 パティシエが無事だったのです、パティシエよりも強くて勇敢なみんなも、無事に決まっています。


 「うー、しっかりしろ、私! 勇者なんだぞ!」


 パティシエは気合を入れようと、パンパンと自分のほおを叩きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんという意味深な夢(゜Д゜;) 下手をすると“未来でも”起きそうな予感がするぜ(゜Д゜;)
[一言] パティシエ、がんばれ〜:(;゛゜'ω゜'):
[一言] まずは浜辺で魚を採って、シドに食べさせよう!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ