艦長到着 (2)
まるで、お城のようでした。
それも、おとぎ話の王様が住んでいるきらびやかなお城ではなく、戦いの最前線に建つ、要塞としてのお城です。
でも、それはお城ではありません。
「これ……船?」
小さな町なら一撃で吹き飛ばしてしまいそうな、巨大な大砲が船の上下に二基ずつ、合計四基もついています。その他にも、たくさんの機銃が取り付けられていて、船の先端には魚雷の発射口のようなものも見えました。
まさに、戦うための船、戦艦です。
「ピーッ!」
なんでこんなものが、と驚いていると、ここまで案内してくれた妖精が大声を上げました。
すると、船の周囲にいたすべての妖精が、作業を中断し大急ぎで集まって整列しました。
いったい何人いるのでしょう。とても数え切れません。
整列した妖精は、一糸乱れぬ動きで、一斉に敬礼しました。その迫力に押されて、思わず敬礼を返してしまいます。
(何が起こるの?)
訳が分からず突っ立っていると、貫禄のある、軍服姿の妖精がやってきて目の前で立ち止まり、ビシリ、と敬礼をしました。
『ご到着をお待ちしておりました、艦長!』
突然、どこからか声が聞こえました。耳ではなく、頭の中に直接響いてきます。
『現在、本艦の完成率は約七十パーセント。艦長の到着に間に合わせることができず、申し訳ありません!』
「待って、ちょっと待って」
何が何だか分からず、慌てて妖精に問いかけました。
「私が、艦長? この……船の?」
『さようでございます!』
「何かの間違いではないの?」
『いいえ。我々は、あなたのご到着を一日千秋の思いでお待ちしておりました!』
ピィーッ、と妖精たちが一斉に声を上げました。どの顔も喜びに満ち、期待に目を輝かせています。
「ごめんなさい、何が起こっているのか、さっぱりわからないんだけど……」
『詳しいことは後ほどご説明いたします。ですがその前に、どうか……どうかこちらに、ご署名をお願いします!』
ふわりと、一枚の紙が飛んできました。
その紙を手に取り、書かれている文字に目を通して、さらに驚きました。
艦名:星渡る船(仮)
艦種:宇宙戦艦
艦長:
「う……宇宙戦艦?」
どうやら空欄となっている「艦長」のところに、名前を書いてほしいということのようです。
ですがまさか、宇宙戦艦だなんて。
本当に、何が起こっているのでしょうか。
『どうか、ご署名を。そして、我らが希望の導き手に!』
「いや、それはちょっと……」
そんなの無理、と顔を上げました。
ですが妖精たちの、すがるような、必死な思いに満ちた眼差しを見て、息を吞みました。
歯を食いしばり、力強い眼差しで見つめる妖精たち。
「助けて欲しい」という思いがひしひしと伝わって来るその眼差しを見て、なぜかわかってしまったのです。
妖精たちは、艦長たる者の到着を、ずっと待っていたのだと。
それは、命懸けの願いなのだと。
そして。
ここに来たのは、まだ完成していない宇宙戦艦の艦長となり、「希望」を守るためなのだと。
それは、自分の願いでもあるのだと。
なぜか、わかってしまったのです。
「……私で、間違いないのね?」
『間違いございません!』
妖精はきっぱりと言いました。
決意に満ちた、力強い言葉です。その言葉にうながされ、自然とペンを取っていました。
「わかりました。艦長の任、謹んで拝命しましょう」
さらさらとペンを走らせ、空欄だった「艦長」の欄に名前を書きました。
すると、紙が光り、ふわりと浮いてどんどん空へ昇って行きました。
昇っていく途中で、紙は光の玉となりました。
そして、みんなが見守る中、パーンと花火のように弾けて降り注いで来ました。
真っ暗だった世界に明かりが灯されました。
その明かりに、建造中の宇宙戦艦の姿が浮かび上がり、妖精たちが大歓声を上げました。
『ありがとうございます。心より……心より感謝し、そして歓迎いたします、艦長!』
「詳しく聞かせてもらえますね?」
『はっ! では、こちらへどうぞ!』