表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/180

06 再会、そしてお別れ

 光が消え、再び闇が満ちた世界に、静かな声が響きました。


 ──ごめんなさい。

 ──私たちの翼は、まだ完成していません。

 ──ごめんね。もう少しだけ、待っててね。


 苦しそうな、すがるような、そんな声です。誰が、誰に語りかけているのでしょうか。


 ──でも、希望はまだ、消えていないから。

 ──必ず助けに行くから。

 ──どうか信じて。

 ──だからどうか。

 ──あと少し……あと少しだけ……


 がんばって。


 その言葉が、とてもいやな響きとなり。

 まどろんでいた意識がすうっと浮かび上がりました。


   ◇   ◇   ◇


 闇の中を、落ちていました。


 (あれ……)


 ここは、どこでしょうか。

 自分は、何をしようとしていたのでしょうか。


 頭がぼんやりとしていて、何も思い出せませんでした。


 息が苦しくて。

 足が痛くて。

 気持ち悪くて。

 のどがカラカラで。

 体が熱くて。


 もう指一本だって動かせないぐらい疲れている、それだけはわかりました。


 (あ……)


 どこまで落ちていくのだろう、そう考えた時、目の前に七つの光が現れました。


 赤色(レッド)

 青色(ブルー)

 緑色(グリーン)

 白色(ホワイト)

 橙色(オレンジ)

 黄色(イエロー)

 紫色(バイオレット)


 七色の光が、目の前で輪となり、ゆっくりと回り始めました。

 少しずつ、少しずつ、回る速度が上がっていき、一つ、また一つと、光が飛び去っていきます。

 そして最後に、黄色い光だけが残りました。


 黄色い光が動きを止めました。

 自分を手に取れ、そう言われているような気がしたので、力を振り絞り、黄色い光に手を伸ばしました。


 光に触れると、温かな力が流れ込んできます。

 すると、ぼんやりした意識が少しだけ晴れて。


 (そうだ……私は……パティシエ……)


 やっとそれを思い出しました。




 (ここは、どこ?)


 痛みをこらえ、ゆっくりと首を動かし、思わず「あっ!」と声をあげました。


 すぐ隣──手を伸ばせば届きそうなところに、『魔女』がいたのです。


 魔女は、ピクリとも動きません。

 ひょっとしてと思い、ゾッとしましたが、かすかに胸が動いているのが見え、ホッとしました。


 いったい、何があったのでしょうか。


 魔女の服や帽子は、焼け焦げてボロボロでした。

 空飛ぶほうきも魔法の杖も、まっぷたつに折れてしまっています。

 ほうきも杖も、あんなに大切にしていたのに、どうしたのでしょうか。


 それに、気味の悪い灰色の仮面をかぶっています。そんなもの、どうしてかぶっているのでしょうか。


 「起きて……起き、て……」


 深く眠っているのか、魔女は呼びかけても返事をしません。


 起こさなくちゃと、思いました。

 助けなくちゃと、焦りました。


 このままでは魔女が消えてしまうと思い、必死で手を伸ばしました。

 ですが、どれだけ手を伸ばしても魔女には届きません。

 あと少しだけ、もう少しだけ近づかなければと、肘をついて起き上がろうとしました。


 「あうっ!」


 ズキン、と体に痛みが走りました。

 ものすごく痛くて、涙がこぼれました。

 でも、痛みに負けている場合ではありません。


 「起……こさな……きゃ……」


 痛くてたまりません。苦しくて仕方ありません。

 でも歯を食いしばって、何度も何度も痛みに声をあげながら、魔女を助けようと必死で近づきました。


 「起き……て……」


 やっとのことで魔女の近くまでくると、手を伸ばし、魔女がかぶる灰色の仮面に触れました。


 触れた途端、ピシリ、と灰色の仮面にヒビが入りました。


 そうです、それでいいのです。

 これは魔女の仮面ではないのですから。誰が魔女に、こんなものをかぶらせたのでしょうか。


 「取ってあげるね……今、取ってあげるからね……」


 歯を食いしばって痛みをこらえ、魔女の顔から灰色の仮面を外しました。

 外した途端、灰色の仮面はボロボロになって崩れました。

 仮面の下から、少したれ目の、かわいい魔女の顔が現れます。

 魔女の顔についた破片を手で払い、これで大丈夫と、ほっと息をつきました。


 「起きて。目を覚まして……マレ」


 静かに、優しく、魔女の名を呼びました。

 大切な友達の名前。その名を口にするだけで、心がとても温かくなりました。


 「起きて……マレ、マレ……」


 何度も何度も呼びかけると、魔女のまぶたがピクリと動きました。

 「うっ」と小さくうめき、ゆっくりと目が開いていきます。

 よかった、間に合ったと、安心して涙がこぼれそうになりました。


 「マレ……」


 もう一度呼びかけると、魔女がゆっくりとこちらを見ました。


 目が合い、笑顔を浮かべると。


 魔女の目が大きく開き、みるみる涙がたまっていくのが見えました。


 「あ……ああ……見つけた……やっと見つけた……探してたんだよ。私、ずっと探してたんだよ……」

 「もう……あいかわらず……泣き虫なんだから」


 ボロボロと涙をこぼす魔女。仕方ないなあと、涙をぬぐってあげようと手を伸ばしました。

 ですが、もう限界でした。


 「あうっ……」


 手を伸ばした時に走った痛みに、意識がもうろうとし、ぐらりと倒れてしまいました。


 「だ、大丈夫!? ……あうっ!」


 魔女が慌てて起き上がろうとしましたが、声を上げてうずくまってしまいます。魔女もまた、体中が痛くて起き上がれないのです。


 「マレ……ムチャしちゃ、だめ……」


 ぶわっ、と闇の底から風が吹き上げてきました。

 風にあおられて、体がくるりと宙を舞い、魔女から離れてしまいました。


 「待って……待って!」


 魔女が声を上げ、必死で手を伸ばしました。ですが魔女が伸ばした手をつかむ力が、もう残っていませんでした。


 「だめ! 行っちゃだめ!」


 泣きながら手を伸ばす、魔女の姿が遠ざかっていきます。

 薄れていく意識の中、泣いている魔女を安心させようと、精一杯の笑顔を浮かべました。


 会えてよかった、助けられてよかった。


 胸の中は、温かい気持ちでいっぱいでした。このまま闇の中に溶けてしまっても、後悔はないと思いました。


 「行くからね!」


 遠ざかっていく魔女の叫びが、闇をつらぬいて、届きます。


 「助けに、行くからね! 絶対、助けに、行くからね! だから……だから、あきらめないで!」


 ──ムチャしちゃ、だめだよ。


 魔女の叫びに、声にならない声でつぶやくと。

 目を閉じて、静かに闇の中に沈んでいきました。

第1章 おわり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 敵が、まさかの知り合いだった……これは衝撃の展開ですね!! 2章も楽しみです!!
[気になる点] マレって、誰ですかー?! [一言] 白竜ぅー!!(泣) パティシエが闇の中に〜! 謎が多い…!続きを待ちます。
[一言] んんんんんんん!?!?!? 2章を全裸待機しています( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ