05 つらぬく光 (4)
飛行士を乗せたアゾット号が闇に沈んでいくと、今度は医者が落ちていきました。
それから、巨大な船──デュランダルが、海賊とともに落ちていきます。
さらにアンドロイドが、巫女が、最後に剣士が、次々と闇の中を落ちていきました。
「み、みんなーっ!」
全員気を失っているようで、パティシエがいくら呼んでも返事をしませんでした。
(行かなきゃ、助けに行かなきゃ!)
ですが、ねっとりとまとわりつく闇が怖くて、飛び込む勇気が出ません。
「ゆ……勇者なのに、私だって勇者なのに……」
みんなはきっと、最後まで魔女と勇敢に戦ったはずです。どうして自分はこんなに怖がりで弱虫なんだと、パティシエは自分が情けなくなりました。
でも、どうしても、体がすくんで動かないのです。
「みんな……みんな……どうしよう、助けなくちゃ……」
泣きながら震えて、オロオロするだけのパティシエの前に、最後に落ちてきたのは。
闇を打ち砕いて昇って行った白い竜と。
白い竜に捕らえられた、魔女でした。
◇ ◇ ◇
白い竜が魔女に巻き付いていました。
しかし魔女は、見えない壁で体を守っていて、白い竜を押し返そうと呪文を唱えています。
「効かぬっ!」
「きゃっ!」
魔女が放った魔法を、白い竜が弾き返しました。さすがの魔女も、白い竜が相手では苦戦しているようです。
「お主の愚行、ここで止めさせてもらう!」
「やれるものなら、やってみなさい!」
魔女が杖を構え、呪文を唱え始めました。
長い長い呪文です。きっと、パティシエたちには使わなかった、本気の魔法です。
「聞けい、我が仲間たちよ!」
白い竜が闇の底に向かって、大声で呼びかけました。
「千載一遇のチャンスぞ! 私ごと撃ち抜け!」
闇の底でざわめきが起こりました。
白い竜は誰に話しかけているのでしょうか。パティシエは恐る恐る闇の底を見下ろしました。
暗く、深く、飲み込まれそうな闇の底。はるか遠くに、かすかに光が見えます。白い竜はその光に向かって呼びかけているようです。
──そんなこと、できるか!
その光の中から、誰かが言い返してきました。白い竜の呼びかけに動揺しているのか、声が震えています。
「たわけえっ! このチャンスを逃してなんとする!」
──しかし、しかし!
──そのようなむごいことを!
「撃て、撃つのだ! どのみち私は、ここまでだ!」
魔女の力が膨らんでいくのを感じました。
魔女の力に反応して闇がざわめき、白い竜を押しつぶそうと動き出します。
このまま魔女の呪文が完成したら、白い竜は闇に押しつぶされてしまうでしょう。そうなったら魔女の勝利です。
「希望の灯を、ここで消してはならん! 我らの戦いは、まだ始まってすらいないのだぞ!」
白い竜が、闇の底に向かって叫びます。
どうするのだろうとパティシエが息を呑んだ、そのときです。
──主砲、発射用意っ!
どんな深い闇も打ち払うような、凛とした声が響きました。
あの光が放たれる直前に聞こえてきた、力強い女の人の声です。
──か、艦長、しかし……!
──復唱、どうしたぁっ! 白竜の覚悟、無駄にするかぁっ!
震える声に、女の人の声が一喝しました。
ざわめきが一瞬で消えました。代わってピンとした緊張が張り詰めるのを感じました。
──主砲、発射用意。
震えていた声が、静かに告げました。
闇の底から、ウィィーンという音が響いてきます。さきほどまで動揺し震えていた声が消え、代わってキビキビとした声が聞こえてきます。
──第一砲塔、全残存エネルギー接続。
──壊れてもかまわん! 全リミッター解除、出力最大!
──目標……白竜閣下!
──照準よし!
「そうだぁ、それでいい!」
「く……くそ……離せ、離せえ、白竜!」
魔女が呪文を完成させました。魔女の周囲にカッと光が生まれ、白い竜を弾き飛ばさんとさく裂します。
「逃さぬ! 魔女!」
白い竜は残った力すべてを使って、魔女の魔法に耐えました。ボロボロになりながらも、しっかりと魔女を捕らえて離しません。
「我らが希望への想い……その身でしかと、受け止めよ!」
──主砲、発射準備完了!
ぐらりと、白い竜の首が動きました。
その大きな目が。
慈愛の光に満ちて、捕らえている魔女をのぞき込みます。
「目を覚ませ。お前は……」
──撃てぇっ!
力強い声が響きました。
白い竜と、白い竜に捕らえられた魔女めがけて、巨大な白い光が闇を貫いてきます。あまりのまぶしさに、パティシエは思わず目を閉じました。
「ぐ……うぉぉぉぉっ!」
「きゃぁぁぁぁっ!」
白い竜の雄叫びと魔女の悲鳴が、闇の中に響きました。
光が闇を粉砕し。
白い竜を、そして魔女を、吹き飛ばし。
「うわ、うわわわわっ!」
その余波で吹き飛ばされ、パティシエは穴の中に落ちてしまいました。




