07 主砲、発射 (1)
はてしなく続くいばらの壁。
それを、少し離れたところから、天使と悪魔──こよりとスピンは見ていました。
「デュランダルは、間に合ったでしょうか?」
「きっとな」
クサナギを助けようと、全速力で飛び始めたデュランダル。
それに気づいた二人は、力を合わせて、デュランダルをクサナギの近くまでワープさせたのです。
「俺たちは、ここで待つしかねえな」
二人は、いばらの壁に近づくことすらできません。うかつに近づけば、いばらに力を吸い取られて、そのまま消えてしまうかもしれないのです。
「ええ。魔女に……マレに、託すしかありませんね」
勇者と宇宙戦艦に守られた、マレ。
いばらの壁を突破し、シオリを起こすことができるのは、マレしかいないのです。
「ま、どっちにせよ」
スピンがくるりと回転し、行儀悪くあぐらをかきました。
「この物語が終わるとき、俺もお前も、消えるんだろうな」
「そうでしょうね」
スピンの言葉に、こよりはうなずきます。
「記憶を奪われてしまいましたからね。もう、副人格として独立できないでしょう」
「……いやか?」
「別に。本来、喜ばしいことですから」
「ふん、強がりやがって」
スピンの言葉に、こよりは何も言いません。スピンは軽く肩をすくめ、ほお杖をつきました。
「俺は少しさびしいけどな。ま、仕方ないさ」
そういえばと、スピンは「世界の書」に書かれていた、この物語の冒頭を思い出します。
世界を滅ぼす魔女。
マレはそう呼ばれていました。なるほど、そういう意味だったのかと、スピンはうなずきました。
「頼んだぜ、マレ」
世界を。シオリが作り出し、そして閉じこもってしまった、この夢の世界を。
「お前の力で、滅ぼしてくれよな」
◇ ◇ ◇
「船首にて、魔力の展開を確認!」
ハクトの目の前の計器が、魔力の発生をとらえました。それは、どんどんと大きくなっていき、クサナギの主砲にも匹敵するものとなっていきます。
「いやはや、これが個人が出す力かね。今のマレくんなら、クサナギ相手にだって戦えそうだ」
「ハクちゃん、いばらが集まりだしたー!」
マレが魔法を使おうとしていることに気づいたのでしょう。クサナギの正面で、いばらが集まり束となっていきます。マレの魔法を邪魔するつもりです。
「あれは……でかい!」
主砲を撃つか。
ハクトがボタンに手をかけたとき、デュランダルが動きました。
『ハクトッ! マレはこっちで守る、お前は主砲の発射準備してろ!』
大きな束になろうとしてるいばらに、デュランダルが砲撃を始めました。
手加減なしの、猛砲撃です。いばらは次々と伸びてきますが、デュランダルも負けていません。
「さすがコハクくん、頼もしいね!」
「わ、わわわっ!」
ぐらり、とクサナギが大きく揺れました。
下から別のいばらの束が伸びてきて、クサナギを攻撃してきたのです。
「いかん、正面に気を取られていた!」
「こなくそー!」
「砲撃、艦底方向に集中!」
ハクトが急いで迎撃の指示を出します。いばらの束が押し返され、ヒスイがなんとか姿勢を戻しました。
「ハクちゃん、今度は右! うわ、左からも!」
「ええい、急に忙しくなったじゃないか!」
ハクトは大急ぎでキーを叩きます。
主砲をはじめとする火器の制御、船を守る防御壁の制御、周囲の索敵、その三つを同時にこなしているのです。さすがのハクトも目が回りそうでした。しかも、クサナギの最終ロックを解除し操艦支援機能が切られているので、細かい制御まですべて自分でやらなければならないのです。
「操艦支援機能のありがたみが、身に染みるね」
ですが、弱音を吐いている場合ではありません。
作戦完了まであと五分、なんとしてもやり遂げなければならないのです。
「神様に……挑もうというのだ」
再びいばらが攻撃してきます。今度は上からです。
「無理でも無茶でも、覚悟の上さ!」
◇ ◇ ◇
マレを守るアカネとルリも、必死の戦いを続けていました。
大きないばらは、デュランダルの大砲が撃ち払ってくれます。ですが小さないばらは、デュランダルの砲撃をかいくぐって攻撃してきます。
「このおっ!」
「させません!」
アカネは「焔」を連発し、いばらを焼き払います。ルリも守りの壁を張り続け、いばらを跳ね返し続けます。
「シオリッ、いい加減にしろよーっ!」
「マレの後で……私からも、お説教しますからね!」
アカネとルリは声を張り上げました。
ですが、いばらの攻撃は、弱まるどころかさらに激しくなっていきます。負けてたまるかと踏ん張り続ける二人ですが、じりじりと押され始めます。
「やばっ!」
アカネの攻撃をすり抜けたいばらが、マレに襲いかかりました。だんっ、と甲板を蹴り、間一髪で間に合いましたが、ここぞとばかりにいばらが攻撃してきます。
「アカネ!」
ルリが守りの壁でいばらを跳ね返しました。アカネはすぐさま剣を一閃し、いばらを焼き払います。
ですが、マレを守る防御陣が崩れ始めました。どうにか態勢を立て直そうとしましたが、いばらの攻撃が激しすぎて、押し返せません。
「デュランダル……」
援護射撃を、と思いましたが、デュランダルにもいばらが殺到しています。これ以上の援護は無理そうです。
「このおっ!」
アカネは、再び「焔」を放ちました。
後のことなんて、考えている余裕はありません。今は、全力を出し続けるしかないのです。
「あと……あと少し!」
肩で息をしながら、魔法に集中しているマレをちらりと見ました。魔法のことはよくわかりませんが、マレの周囲にものすごい力が集まっているのはわかります。
なんとしても、守りきる。
そう思い、アカネが剣を握り直したときです。
「アカネッ!」
ルリが悲鳴のような声で叫びました。
はっとして、考えるより先に剣を構えていました。
ガキンッ、と構えた剣に、いばらが激突しました。こらえきれず、押し飛ばされて尻餅をついてしまいました。
「しまった……!」
「アカネッ……きゃっ!」
アカネと助けようとしたルリにも、いばらが襲いかかりました。転がるようにしてなんとか逃れたルリですが、動きを止めたところへいばらが襲いかかります。
「ルリッ!」
まずい、と思ったところへ、アカネにもいばらが襲いかかってきます。
(やられた……)
これは防ぎきれないと、アカネが観念しかけた、そのとき。
「ピィーッ!!!!!」
妖精たちが声をそろえて、勇ましい声を上げました。