06 勇者、集結 (4)
「これは、ワープかね!? 何か出てくるぞ!」
ハクトが急いでパネルを切り替えました。
クサナギの後方、いばらの壁の中に大きな歪みが見えました。その歪みの中から、大きな影が飛び出してきます。
「あれは……デュランダル!」
海賊船デュランダル。
海賊コハクが舵をとる、シオリ率いる海賊団の乗船。
黒く輝くその船が、時空の彼方から猛然と飛び出してきて、クサナギに向かって突っ込んで来ます。
そして。
猛烈な砲撃で、クサナギを攻撃するいばらを焼き払ったのです。
『てめえら、何ちんたらやってんだー!』
通信機から、コハクの怒鳴り声が聞こえてきました。
『援護してやるから、さっさと態勢立て直せ!』
「コハクくん、我々と敵対していたのではないのかね?」
『う、うるせぇ! 気が変わったんだよ!』
ややうろたえたコハクの声に、ハクトは笑顔を浮かべます。
「そうか。うむ、それは助かる! コハクくんが来てくれたなら、千人力だ!」
『ハクト。作戦内容ヲ、連携ネガイマス』
「シルバーくんか!」
コハクに続いて聞こえて来た声に、ハクトは嬉しそうな声をあげました。
『ハイ。オ約束ドオリ、追イツキマシタ』
「うむ、約束を守ることは、すばらしいことだ!」
ハクトはキーを叩き、作戦内容をシルバーに転送しました。転送された作戦内容を確認し、シルバーはうなずきます。
『作戦了解。デュランダルハ、甲板上ノ作戦行動ヲ、支援シマス』
デュランダルに従っていた艦載機が、クサナギを守るべく散っていきました。そして、デュランダル自身は、船首へ向かっているマレたちのところへ向かいます。
「コハク……」
頭上、マレたちを守るように浮かぶデュランダルを見て、マレがコハクの名をつぶやくと。
『……悪かったな、マレ』
通信機から、コハクの声が聞こえました。
『シオリ……もうボロボロだったから。俺、もうシオリに……戦えなんて言えなかった……だから……』
「うん」
コハクの震える声に、マレはうなずきます。
マレだって知っています。コハクは、シオリのことが大好きなんだと。マレが現れるまで、海賊団でシオリと一番仲良しだったのは、コハクなのです。
『だから、俺……お前らと戦ってでも、守りたくて……』
「うん、もういいよ。コハクは、何も悪くないから」
そう、コハクは何も悪くありません。大好きな友達を、守ろうとしただけです。
「今回、一番悪いのは、シオリだから」
大切な仲間を傷つけて。
大切な仲間の気持ちを利用して。
みんなを道連れに、死のうとしている。
そんなシオリが、一番悪いとマレは言いました。
『……ああ、そうだな』
マレの言葉に、コハクはつぶやくように答え。
それから、小さく笑いました。
『マレも……今回ばかりは頭にきたか』
「うん、あったまきた。だから、ぶっ飛ばしてやるの」
『そうかよ……じゃ……』
ぐすっ、と鼻をすする音に続いて、コハクの勇ましい声が聞こえました。
『俺にも手伝わせろ!』
言うやいなや。
デュランダルの大砲が、猛然と射撃を始めました。マレたちを襲おうとしていたいばらを、焼き払ったのです。
『左右のいばらは、デュランダルで引き受ける! お前らは前だけ気にしてろ!』
「うん!」
「よし、行くよみんな!」
「はい!」
アカネの号令で、マレたちは再び走り出しました。
いばらが伸びてきて、マレたちを止めようとします。ですが、妖精たちが魔法銃を撃って押し返し、アカネが切り込んで道を切り開きます。左右からくるいばらは、デュランダルの強力な砲撃ですべて焼き払います。
「走れーっ!」
開かれた道を、マレたちは全速力で走りました。
あと、五十メートル。
四十メートル。
三十、二十、十……そして、ついに船首にたどり着きました。
「作戦時間、あと七分です!」
「マレ、位置について! 他のみんなは、マレを守って!」
「ピィーッ!」
マレが立つ場所を中心に、アカネたちが円を描くように構えました。
前に、アカネ。
後ろに、ルリ。
頭上に、コハク。
そして、たくさんの妖精たちが、魔法銃を構えていばらに立ち向かいます。
(行くよ……シオリ!)
杖を構え、マレは正面を──いばらの壁の向こうにあるはずの、赤い星を見つめます。
絶対に、そこへ行く。
そして、シオリを助ける。
「わたしは……わたしを助けに行く!」
マレは誓いの言葉を叫ぶと。
構えた杖をゆっくりと掲げ、魔力を集中し始めました。