06 勇者、集結 (3)
「操艦支援機能停止、安全装置全解除。クサナギ全機能、マニュアルモードへ切り替え!」
『動力系は機関室で制御する! あとはよろしく!』
「うむ、まかせたまえ!」
ハクトは猛烈な勢いで操作パネルを操作しました。
「防御壁は出力固定、エネルギー供給は火器を最優先に設定! さぁて……艦長!」
ハクトの呼びかけに、艦長は力強くうなずきます。
「撃ち方、始めぇっ!」
艦長の号令とともに、クサナギの全砲門が火を吹きました。
攻撃してくるいばらを次々と撃ち落としていきます。
「よっしゃー、クサナギ、姿勢固定!」
クサナギの揺れが止まりました。これで甲板での作戦行動が可能です。
「航空隊、行動開始!」
『ピィッ!』
まずは航空隊、緑のツナギ姿の妖精が甲板に飛び出していきました。
砲撃をかいくぐって主砲へたどり着き、いばらの攻撃にそなえます。
そして。
「第三ブロック、ハッチ開放!」
マレたちの目の前のハッチが、静かに開かれていきました。
それを見て、アカネが剣を抜きました。妖精たちが魔法銃を構え、ルリもペンダントを握りしめます。
「よし……行くよ!」
アカネを先頭に、マレたちは甲板へ飛び出しました。
猛烈な砲撃が、マレたちのすぐ上を飛び交っています。飛び出してきたマレたちを攻撃しようとするいばらを、次々と撃ち落としているのです。
「うはっ、ど迫力!」
三メートル以上の高さには飛ばないように。
ハクトが何度も念を押すはずです。砲撃が直撃したら、ひとたまりもないでしょう。
特に、主砲。
「きゃぁっ!」
すさまじい衝撃とともに、巨大なエネルギーが放たれました。
いばらが一気に焼き払われます。機銃とは比較にならない威力です。その迫力に、ルリは思わず悲鳴をあげて立ちすくんでしまいます。
「ルリ、しっかりして!」
「は、はい……ごめんなさい!」
アカネに叱咤されて、ルリは「根性!」と叫び、駆け出しました。
「来るよ!」
砲撃をかいくぐったいばらが、マレたちに襲いかかってきました。
アカネが炎の剣を振るい、焼き払いました。
妖精たちが魔法銃で撃ち落とします。
ルリが作り出した守りの壁が、みんなを守ります。
「走れーっ、スピードを落とすなー!」
次から次へと、いばらが襲いかかってきます。
ですが、アカネたちは負けません。行く手をはばむいばらを斬り払い、前へ、前へと進みます。
(シオリ……)
みんなに守られて進むマレには、シオリの声が聞こえていました。
来ないで。
起こさないで。
このまま眠らせて。
憎しみに満ちていたシオリの声が、ひび割れ、涙声に変わっていました。
いやだ。
もういやだ。
もう起きたくない。
あんな現実に、帰りたくない。
──お願いだから、このまま死なせてよぉっ!
泣きじゃくるシオリの声に、マレは心が痛みました。
だけど、マレは止まりません。
「光、集いて敵を穿て! 魔法の矢!」
一斉に襲いかかってきたいばらに、マレは魔法の矢を放ちました。
「焔ぁっ!」
「光よ壁となれ、我らに守りを!」
間髪入れずアカネが剣を振るい、ルリが守りの壁でみんなを守ります。
(シオリ……会いたいの。もう一度、私はあなたに会いたいの!)
大切なことを伝えなければならないのです。
マレが何者なのか、それを教えてくれる、マレの本当の名前を。
そうすればきっと、シオリは思い出してくれるはずです。
あの星空の下で語り合った、「星渡る船」がなんのための船だったのかを。
「行くからね……」
こぼれた涙をぬぐいながら、マレは走り続けます。
「絶対に、行くからね、シオリ!」
◇ ◇ ◇
「作戦開始より、十分経過!」
ハクトの報告に、艦長は静かにうなずきます。
船首へ向かうマレたちに、いばらが猛攻撃をしています。クサナギが砲撃で援護していますが、次から次へといばらが伸びてきて、きりがありません。
「船首まで、あと百メートルといったところか……」
その百メートルが、はてしなく長い距離に見えます。アカネが剣を振るい、なんとか道を切り開こうとしていますが、すぐにいばらが伸びてくるのです。
「ぬうっ!」
ドォン、という衝撃とともに、クサナギが大きく揺れました。いばらが、クサナギの後ろからエンジンを狙って伸びてきたのです。
「こなくそー!」
「副砲、艦後方に砲火集中! エンジンを守れ!」
ヒスイが操縦桿を倒し、急いで姿勢を立て直します。艦長の指示に従い、クサナギの後方へ一斉射撃が行われ、いばらを退けます。
「くっ……」
再びクサナギが大きく揺れました。
今度は真上からです。からみ合って大きな枝のようになったいばらが、叩きつけるように襲いかかってきたのです。
「主砲、艦上空に砲撃!」
間一髪で主砲が間に合いました。ですが、すぐにまたいばらが伸びてきて、クサナギを四方八方から攻撃します。
「うががーっ! 舵が、取られちゃうよー!」
「ヒスイくん、ふんばりたまえ! ええい、操作が追いつかない!」
「ハクちゃんも、ファイトだよー!」
ピーッ、ピーッ、ピーッと警告音がなりました。
エンジンです。出力を低下させるよう警告しているのです。
『なんでもいい、エンジン冷やして!』
機関室にいるリンドウの声が聞こえてきます。最大出力で動き続けているエンジンが、オーバーヒート寸前のようです。
(ここが限界か)
艦長のひたいに、汗が浮かびました。
じりじりと、いばらに押され始めたのを感じます。最終ロックを解除したクサナギに、もう余力はありません。ここで押し負ければ、それまでです。
「作戦開始より、十五分経過!」
アカネと妖精たちが奮戦し、マレたちは少しずつ前へ進んでいます。ですが、いばらの攻撃も激しさを増していて、なかなか前へ進めません。
(シオリちゃん……)
来ないで。
何しにきたの。
口先だけのくせに。
何もしてくれないくせに。
──帰れぇぇっっ!
「くっ……」
シオリの絶叫が聞こえた、そんな気がした直後に、いばらが束になって正面から激突してきました。
「うわわわーっ!」
「火力、前方に集中! マレたちを守れ!」
ヒスイが必死に操縦桿を動かします。主砲も含めた全砲撃が、激突してきたいばらを焼き払います。
「アカネくん、無事かね!?」
『なんとかね!』
「ハクちゃん、右ぃー! また束がきたよー!」
「ええい、忙しい!」
迎え撃ったものの、焼き払いきれず、いばらが激突しました。
クサナギが大きく揺れます。マレたちが体勢を崩し、そこへいばらが殺到します。ルリが必死の守りでなんとか押しのけましたが、完全に包囲されてしまいました。
(何か……何か手はないか?)
もう限界です。
何も手を打たなければ、いばらに押し切られてしまいます。勇者を、魔女を、妖精を──必死で戦う子供たちを、助ける方法はないのでしょうか。
「私は……なんのために、ここまできたのだ……」
この物語に登場する、たった一人の大人だというのに。
肝心なときに何もできないのかと、悔しさのあまり机を叩いたとき。
──ダイ、ジョウブ。
不意に、声が聞こえました。
途切れ途切れの小さな声です。でもその声には、聞き覚えがあります。
「シオリ……ちゃん?」
──モウスグ、クルカラ。
「来る? 何が?」
──エングン。
──イチバン、トシシタ、ダケド。
──イチバン、ユウカン、ナ。
──タノモシイ、キャプテン、ガ。
「援軍? 船長?」
いったい誰のことだと、艦長が首を傾げたときでした。
「艦後方に、巨大な時空震発生!」
緊急を告げるアラーム音が響き、クサナギが大きく揺れました。