04 魔法の言葉 (3)
カナリアの声が、クサナギ中に響きました。
クサナギに巻きつき、通路をうめつくしていたいばらが、カナリアの発した言葉にびくりと震え、ひるみました。
そして、同時に。
剣士・アカネが目をさまし、カナリアの声に勇気を奮い立たせました。
「こ……の!」
アカネは、炎の剣を握る手に力を込めました。負けてたまるかと、歯を食いしばり、巻きついたいばらを渾身の力で引きちぎると、剣を振るいました。
「焔ぁぁっ!」
剣から炎が生まれ、巻きついていたいばらを焼き払いました。いばらから脱出したアカネは、再び剣を振るい、艦橋を埋め尽くすいばらを焼き払っていきます。
「ルリぃっ!」
「はい!」
アカネの声に応えて、ルリが机の水晶球に手を伸ばしました。
いばらに力を吸い取られ、もう立ち上がれないと思いました。
でも、カナリアの声を聞いた時、体の奥から力がわいてきたのです。
まだ、やれる。
私はまだ、がんばれる。
そんな思いに突き動かされ、ルリはクサナギを守る光の壁を作り出します。
「光よ、壁となれ……我らに守りを!」
青い光が、クサナギを包みました。新たに伸びてきたいばらをはね返し、さらなる侵入をはばみます。
「リンドウさん! エンジンを!」
「あい……よぉっ!」
ルリの呼びかけが、機関室に響きました。その声に応え、リンドウは工具を手に立ち上がりました。
「こ、の……がん、ばれ、私!」
ひざが崩れそうになるたびに、必死で足を踏ん張りました。
作業途中だった魔導エンジンに飛びつくと、あっという間に修理を終わらせます。これでクサナギはまたフルパワーで戦えるはずです。
ですが、エンジンは全て止まってしまいました。補助電源もほとんど使い切っていて、このままではエンジンが起動できません。
「いや……」
リンドウは、ぱん、とほおを叩いて、機関室の一角に目をやりました。
そこにあるのは、ディーゼルエンジン。
魔導エンジンと交換したときに取り外した、デュランダルの古いエンジンです。
「あれなら、人力で起動できる!」
リンドウはディーゼルエンジンへと向かいました。リンドウがやろうとしていることに気づいたのでしょう、妖精たちもいばらから抜け出して、ディーゼルエンジンへと向かいます。
「ディーゼルエンジンを、パワーユニットに接続して!」
「ピィッ!」
「よし、いくよ!」
「ピィーッ!」
リンドウと妖精たちが、ディーゼルエンジンの始動ハンドルを回し始めました。
とはいえ、あの大きなデュランダルを動かしていたエンジンです、ハンドルはとても重く、そう簡単には動きません。
「みんな……がんばれぇっ!」
「ピィーッ!」
リンドウの励ましに、妖精たちが声をあげました。機関室のあちこちから妖精たちが集まってきて、ハンドルを回そうと力を合わせます。
「ふ……んがぁぁぁっ!」
そして、ついにハンドルが動き始めました。
ガコン、と大きな音がして、クランクシャフトが動き始めます。一度動き始めると勢いがついて、ハンドルがどんどん回り始めます。
「かか……れぇ!」
海賊船デュランダルを動かし続けたディーゼルエンジン。
そこに宿る魂に、リンドウは歯を食いしばって叫びます。
「動いて、くれぇ! 力を……貸してくれぇ、デュランダル!」
ゴゥンッ、と大きな音がしました。
お腹の底に響くような低い音を立て、真っ黒な煙を吐き出して、ディーゼルエンジンが力強く動き始めます。
「よっしゃぁぁぁっ!」
「ピーーーーッ!」
思わずあげたリンドウの雄叫びに、妖精たちも声をあげました。
ディーゼルエンジンから力が流れ込み、パワーユニットが光を放ちます。魔法のレンズによって力が増幅され、魔導エンジンに流れ込んで行きます。
「よし、魔導エンジン、起動!」
「ピィーッ!」
リンドウの指示に妖精が応え、起動スイッチを押しました。
フォォォーンと音を立てて、魔導エンジンが動き始めました。アルファに続きベータも起動し、二基のエンジンが全力で動き始めると、機関室の照明が戻りました。
「ハクトぉっ、制御、まかせたーっ!」
「うむ、まかされた!」
すでに席についていたハクトが、リンドウの声に応えて操作パネルを叩き始めます。
「魔導エンジン・アルファ、光子エンジンへのエネルギー充填を開始。ベータ、防御壁展開へ!」
ルリが祈りで作り出した守りの壁を、クサナギが展開した防御壁が補強します。
強力な守りの力によって、クサナギに巻きついていたいばらが断ち切られました。なおもクサナギに侵入しようとするいばらですが、守りの壁と防御壁に邪魔されて、クサナギに入ってくることはできません。
「あとは……光子エンジンだけだねー!」
ヒスイも立ち上がり、操縦席に座って操舵桿を握ります。
「くっそー、エネルギーないから、全然制御できないよー」
「こっちも……攻撃に回すエネルギーがない」
席に着いたアカネが、悔しそうにつぶやきました。
いばらの侵入を防ぐため、魔導エンジン・ベータのエネルギーはすべて防御壁に回しています。ルリの守りの壁と合わせてようやく防いでいる状態です、エネルギーを攻撃に回せません。
「ハクちゃん、エネルギー充填にどれぐらいかかるのー?」
「魔導エンジン一基では、三時間、てとこだね」
「そんなの、ルリがもたないよ!」
いばらに力を吸い取られ、ルリはふらふらの状態です。歯を食いしばって祈りクサナギを守っていますが、三時間も祈り続けるのは無理です。
「くっ……どうしたら……」
どうする、どうすればいい、とハクトがうめいたときでした。
──みんな……大丈夫だよ。
ハクトの頭の中に、声が響きました。
ハクトだけではありません。アカネ、ルリ、ヒスイ、リンドウ、そして妖精たちに艦長。この船に乗る全員に、その声は聞こえました。
「……マレくん?」
その声の主の名を、ハクトがつぶやいたとき。
クサナギが、虹色の光に包まれました。