04 魔法の言葉 (1)
ズギュゥーン!
カナリアは、いばらに捕らえられた妖精たちから魔法銃を借り、行く手をさえぎるいばらに大きな穴を開けました。
「よい……しょぉっ!」
カナリアはその穴をくぐり抜け、医務室を飛び出しました。
目指すは、機関室。
クサナギを動かすエンジンがある、この船の心臓部です。
機関室へ続く通路も、たくさんのいばらでさえぎられていました。医務室から飛び出してきたカナリアを捕まえようと、四方八方からいばらが伸びてきます。
でも、黄色い光がカナリアを守ってくれます。光にはじかれて、いばらはカナリアを捕まえることができません。
「ていやーっ!」
カナリアはフライパンを振り回していばらを打ち払い、機関室へ向かって走ります。
カナリアを行かせまいと、いばらが行く手をさえぎります。
ですが、いばらに捕らえられた妖精たちが、魔法銃を撃っていばらに穴を開けてくれます。
「妖精さん、ありがとう!」
「ピ……ピィ!」
頼んだぞ、という声援を受けて、カナリアは前へと進みます。
不思議と怖くありませんでした。
心の奥底から力がわいてきて、カナリアに立ち向かう勇気を与えてくれます。
──ヤット、オモイ、ダシタ。
──イクンダ。
──ワタシハ、アノヒトノ、トコロヘ、イクンダ。
自分の中から、『誰か』のそんな声が聞こえてきます。その声が、さらにカナリアを奮い立たせます。
「うん、行こう!」
負けない。
絶対に、負けない。
この船は、決して止めさせない。
マレは、必ずシオリのところへ連れて行く。
シオリは絶対に、助けてみせる。
だから急げ。
機関室へ、リンドウのところへ。
「今、いくからね、リンドウ!」
◇ ◇ ◇
一緒に、死んで。
シオリの声が聞こえたとたん、リンドウは体の力が抜けてしまいました。
(まずい……)
リンドウの意識が遠のいていきます。今、気を失うわけにはいかないと、必死で目を覚まそうとしましたが、どろりとした闇がリンドウを捕らえて離しません。
(この……感覚……)
覚えがある、と思った瞬間──リンドウは、夢の中に引きずり込まれていました。
※ ※ ※
シオリが消え、マレが行ってしまい、それでも冒険を続けようと海へ出た海賊団。
ですが、天使に襲撃され、一人、また一人と仲間が消えていき、とうとうコハクとリンドウだけになってしまいました。
そして、リンドウもまた、空飛ぶ人形との戦いの最中に、海へ落ちてしまいました。
「リンドーっ!」
遠ざかって行くコハクの声を聞きながら、リンドウは海へ沈んでいきました。
(さすがに……助からないかな……)
次第に光がなくなり、暗闇に包まれました。これで海賊団はコハクだけ、どうか無事に海を渡り切ってくれますようにと、リンドウは神様にお願いしました。
──リン、ドウ。
目を閉じ、意識を失う直前、優しい声で名前を呼ばれました。
リンドウは、ハッとしました。
その声、間違いありません。
(シオ……リ?)
目を開けると、リンドウは光に包まれていました。光は空気の泡となって、リンドウを守っています。
──ダイ、ジョウブ。
──オマモリガ、アル、カラ。
(お守り?)
胸ポケットが光っていることに気づきました。
そこには、リンドウの大切な手帳があります。
(……あれのこと?)
思い浮かんだのは、いつの間にか手帳にはさまれていた、ノートの切れ端。書かれていたのはシオリの字。何のいたずらかとあきれつつも、捨てられずに手帳にはさんだままにしていました。
それが、お守りのようです。
光の泡に包まれたまま、リンドウは海底にふわりと着地しました。
「ピィッ!」
奇妙な声が聞こえました。振り向くと、ツナギ姿の小さな人がいました。
「え、なんだい、あんたたち」
──ヨウセイ、ダヨ。
小人と呼んだら怒るから、気をつけてね。
シオリの声が、途切れ途切れに聞こえてきます。
妖精と一緒に行って。
秘密基地へ連れて行ってくれるから。
そこに、工具も材料も全部そろっているから。
だから。
──ツクッテ。
──ホシワタル、フネ。
「いやいや……あんた、なに無茶言ってるの」
あきれたリンドウに、シオリの笑い声が聞こえてきました。
──セッケイズ、ワタシタ、ヨネ。
──ヨロシク、ネ。
──フクダンチョウ、サン。
「シオリ? ちょっと、あんたどこにいるのさ!」
シオリの声が遠ざかっていきました。慌てて呼びかけたリンドウですが、シオリの声はどんどん遠ざかっていきます。
──イク、カラ。
消える直前、シオリの声が伝えたのは。
──スガタハ、カワッテルカモ、シレナイケレド。
──ミンナノトコロニ、マタ、イクカラ。
だからお願い。
「星渡る船」を作って、リンドウ。
※ ※ ※
リンドウは、夢うつつの状態で苦笑を浮かべました。
(まったく……なにが設計図だよ)
リンドウの手帳に、いつの間にかはさまれたノートの切れ端。そこに書かれていたのはこんなことです。
星渡る船(仮)
・宇宙戦艦!
・大気圏内、水中、水上、どこだって行ける船!
・動力
光子エンジン:1基
魔法?エンジン:2基
・武装
主砲:4基12門
副砲:2基 4門
機銃:3連装71基(213門)
単装28基
魚雷:8? 12?
艦載機:200機ぐらいかな?
そういえば、「星渡る船」を探し始めた直後に、軍艦や宇宙船について、シオリに質問責めにされたことがありました。きっと「星渡る船」をどんな船にするか、一生懸命考えていたのでしょう。
(あれは……設計図と言わない……ただの性能表だよ)
それも、かなり雑な。
あれをもとに宇宙船を作れなんて、まさに「丸投げ」です。
ですが、シオリが「お願い」という言葉とともに、託してくれたものです。
やってやろうじゃないかと、リンドウは妖精に連れられて行った秘密基地で、「星渡る船」の建造に着手しました。
みんなのところに、また行くから。
シオリのその言葉を信じて、リンドウは全力で「星渡る船」を作り上げました。
そして、『艦長』が現れました。
姿は変わっているかもしれない、シオリはそう言っていました。だから、艦長がシオリなんだろうと思っていました。
ですが、違いました。
シオリは「星の宮殿」にいました。助けに行こうとしているリンドウたちに「帰れ」と言い、それでも行こうとしたら攻撃してきたのです。
(シオリ……どうして……)
いばらがリンドウを締め付けてきます。このままでは息ができなくなる──そう思いましたが、体に力が入らず、動けません。
(どうして……戻って来てくれなかったんだい?)
さびしいよ。
悲しいよ。
みんな、あんたが大好きだったんだよ。
もう一度、あんたと一緒に冒険がしたかったよ。
リンドウは、ポロリと涙をこぼし、目を閉じました。