02 拒絶 (4)
「シルバー、大丈夫かな……」
海賊船デュランダルを足止めするために残ったシルバー。
今ごろ、デュランダルと戦っているのでしょうか。どうかシルバーもコハクも、無事でいてほしいと思います。
「うわわっ!」
ドォン、という音とともにクサナギが揺れました。
いよいよ戦いが激しくなって来ました。モニターの向こうでは、勇者と艦長が必死で戦い続けています。
「みんな……」
今、カナリアにできることは、信じて応援することだけ。
ルリの真似をして両手を合わせ、カナリアは祈ります。
「きっと行けるよ」
いばらの壁を突破して、シオリがいる「星の宮殿」へ。
勇者のみんながあきらめない限り、きっと行ける。
「だからみんな、が──」
ガチッ、と。
カナリアが口にしようとしたその言葉は、やはり、断ち切られてしまいました。
◇ ◇ ◇
いばらの壁は、進めば進むほど厚くなっていきました。
エンジンを全開にして飛び続けるクサナギですが、いばらに妨害され、次第に進むスピードが落ちていきます。
「まずいね」
全力を出し続けているせいでしょう、エンジンの監視装置がいくつもの警告を出しています。ワープを二回行った、その影響もあるかもしれません。
「ここからじゃ制御しきれない。私は機関室へ行くよ!」
「うむ、頼んだ」
ハクトはいくつもの装置を同時に操りながら、クサナギ全体の制御を続けます。
「ああ忙しい」
次々と入って来る情報をさばきながらの操作は、さすがのハクトもきついと思いました。コンピューターの頭脳を持つシルバーがいてくれればずっと楽なのにと、思ってしまいます。
「くっ……このいばら、とことんエンジンを狙ってきます」
クサナギの防御壁だけでは守り切れず、ルリは守りの壁を作り出しました。
想像をはるかに超える圧力に、ルリはたちまち力を奪われていきます。長期戦になれば、ルリの力はもちません。
「ヒスイ、行くよ!」
「あいよー、せーの!」
アカネとヒスイは、タイミングを合わせて砲撃と突進を繰り返します。もはや主砲ですら一撃でいばらを焼き払うことはできないほどの厚さになっているのです。
(まずいか……)
限界が近い、艦長はそう感じました。
いばらの壁はさらに厚くなっていきます。いったいどこまで続いているのかもわかりません。このままでは、クサナギはいばらに押し負けて、立ち往生してしまうかもしれません。
(最終ロック、解除するか?)
クサナギにはあと一つだけ、制限がかかっています。その制限を外せば、攻撃、防御とも通常の二倍近い力を発揮できるようになっています。
緊急時に備えた、最後の切り札ともいうべき機能です。
ですが、その機能は時間制限があります。いばらの壁がどこまで続くかがわかっていない状況では、うかつに使えません。
「うわ!」
ドォンッ、とクサナギが大きく揺れました。
とうとう、いばらがクサナギを押し返すまでに厚くなったのです。
「だめだー、突破できないー!」
「主砲、連射! 焼き払って!」
「左舷、いばらが絡みつきはじめた! ルリくん、壁を作れるかね!?」
「む、無理です、エンジン周囲で精一杯です!」
いかん、と艦長はすぐに指示を飛ばします。
「主砲、砲撃中止! エネルギーを防御壁に回せ!」
「了解」
『こちら機関室! 魔導エンジン・アルファーに異常あり! 緊急停止が必要!』
機関室へ行ったリンドウから、緊急連絡が入りました。
「再起動まで、どれほどかかるか?」
『二十分でやってみせる!』
「わかった。魔導エンジン・アルファー、緊急停止!」
二基の魔導エンジンのうち、一基が止まりました。
ただでさえ押し負けそうだったクサナギが、いよいよ押し返されはじめます。
「こなくそー!」
なんとか押し返そうとヒスイがクサナギを操りますが、じりじりと押されていきます。
伸びてきたいばらが、クサナギの防御壁にぶつかってバチバチと火花が散ります。全方位から伸びてくるいばらが、次々とクサナギの防御壁を破ろうとし、クサナギのエネルギーが急速に失われていきます。
「だ……だめ、です……防ぎきれません……」
ルリも、もう限界でした。
どうする、どうすればいい。
勇者も、艦長も、さすがにあせり出した時。
「ねえ、あなたたち。何しに来たの?」
艦橋に、冷たく乾いた、女の子の声が響きました。