02 拒絶 (3)
いばらの壁に突入したクサナギを、無数のいばらが押しつつみ、行く手をさえぎりました。
「主砲、拡散モードに切り替え! 艦前方に照準固定して!」
「くっそー、次から次へと伸びて来るよー!」
砲撃で焼き払っても、いばらはすぐ伸びてきます。
これ以上は進ませない──まるでそう言っているかのように、クサナギを包み込み、からめ取ろうとするのです。
「まずいね、このいばら、エンジン狙ってるよ!」
「ルリくん、艦後方、エンジンの守りを固めてくれたまえ!」
「わかりました!」
砲撃をかいくぐり伸びてくる、いばら。
なんとか食い止めていますが、すさまじい圧力でクサナギの防御壁を壊そうとしてきます。
「主砲を除き、実弾に切り替え! 火炎弾で焼き払え!」
「了解! 各砲手、火炎弾に切り替え、発射!」
貫通してしまうエネルギー砲に代わり、火炎弾が発射されました。
クサナギを包み込もうとしていた、いばらが燃え上がります。その炎を突っ切って、クサナギは前へと進んでいきます。
「もう次がきたー!」
ですが、すぐに新しいいばらが伸びてきて、再び行く手をさえぎりました。
来るな。
いばらはそう言っているようでした。でも勇者は、止まりません。
「アカネっち、押し通るよー!」
「了解! 主砲斉射! 道を開いて!」
いばらを切り裂いて、クサナギは進みます。
シオリのところへ連れて行って。
マレとの約束を果たすため、たとえシオリに拒まれようと、勇者は前へと進みます。
「機関室、エンジン最大出力! 押し負けるんじゃないよ!」
『ピーッ!』
リンドウの指示に妖精たちが応え、クサナギのエンジンが限界まで出力を上げました。
来るな。
行くよ。
シオリと勇者たち、二つの意思がぶつかり合い。
それが、炎となってクサナギを包みました。
◇ ◇ ◇
「みんな……」
カナリアは、その様子をモニター越しに見ていました。
カナリアの目の前には、医療用カプセルの中で、眠りについたままのマレがいます。
「手が離せなくなりそうだ。すまないが、代わりに医務室へ行ってくれたまえ」
いざというとき、マレを守ってほしい。
ハクトにそう言われて、カナリアは医務室へ来ていました。
でも、カナリアはパティシエ。
戦い方なんて知りません。
マレを治療する方法も知りません。
このクサナギを動かす方法も、よくわかりません。
艦橋にいてもやれることはなく、医務室へ来ても処置は妖精たち任せ、こうしてマレのそばにいることしかできません。ハクトが言う「いざというとき」に、マレを守ることなんてできるのでしょうか。
自分だって勇者だ、そう思っていたけれど。
よく考えると、どうして自分がここにいるのかわからないのです。
「私は、どうして呼ばれたのかな?」
「世界を滅ぼす魔女」を捕らえて、神様のところへ連れて行く。
そのために集められた勇者の船団、その一員として呼ばれたはず。
でも、本当にそうでしょうか。
アカネも、ルリも、ヒスイも、ハクトも、「天使が現れて、ついて来るように言われた」と言っていますが、カナリアは違います。
カナリアは、天使ではなくアンドロイド──その時は金色の体だった、アンドロイド・シルバーに連れられて、村を出たのです。
「……あれ?」
そういえば、カナリアはいつシルバーと出会ったのでしょうか。
出会ったときのことが、ぼんやりとしています。光に包まれて、山奥の村から勇者の船団が集まっている港へと移動した、その後のことははっきり思い出せるのですが、その前のことがあやふやです。
──お願い、私を連れて行って。
ふと、そんな言葉が思い浮かびました。
金色のアンドロイドに向かって、そう言った女の子。その女の子の内側で、その言葉を聞いていたような、そんな気がします。
「あれ……あれれ?」
ひょっとして、カナリアは自分でお願いして、勇者の船団に参加したのでしょうか。
だとしたら、どうしてでしょうか。
「うー……シルバーなら、知ってるのかなぁ?」
考えても全然わからず、カナリアはため息をつきました。