01 突入 (1)
クサナギは、全速力で「星の宮殿」がある赤い星を目指しました。
ですが。
「やっぱりそうだよー!」
赤い星の光が、どんどん小さくなっている。
最初にそれに気づいたのはヒスイでした。
すぐに、勇者たちが艦橋に集められました。
大急ぎで集まった勇者たちに、ヒスイが状況を説明します。
「なんか暗くなった? と思ったら、どんどん光が弱くなっていってさー」
「もう肉眼ではほとんど見えないね」
リンドウが険しい顔になります。あんなにはっきりと見えていたのに、今は望遠カメラで拡大しないと見えなくなっているのです。
「ううむ……光が弱まったというより……何かにさえぎられている感じのような……」
パネルの映像を見て、ハクトが首をひねります。
「何がさえぎっているんでしょうか?」
「このままじゃ、進路がわかんなくなっちゃうよー」
赤い星の光が消えてしまえば、進む方向が分からなくなります。
いいえ、それ以上に。
赤い星は、シオリがいる星です。もしかしたら、シオリがいよいよ危ないというサインなのかもしれません。
「迷っている暇はないな」
艦長は決断しました。
「リンドウ、ワープ用意! 星が見えなくなる前に、一気に距離を詰める!」
「……あいよ」
エンジンへの負荷を思い、一瞬ためらったリンドウですが、ここはやるしかなさそうです。
手早く準備を取殿へ、クサナギは二回目のワープ態勢に入ります。
「準備オッケー。ヒスイ!」
「らじゃー! いっくよー!」
ヒスイがレバーを倒すと、エンジンがうなりをあげ、クサナギのスピードが上がりました。
ぐんぐんと加速し、やがて光すら置いてけぼりにする、そんなスピードに達した時。
「クサナギ、ワープ開始!」
「ほいさぁっ!」
リンドウの号令と共にヒスイが思い切りレバーを倒し、クサナギは別次元へと突入しました。
◇ ◇ ◇
何もかもがねじ曲がった、そんな空間をクサナギは突き進み、はるかな距離を飛び越えました。
「ワープ、アウト!」
やがてクサナギは、轟音と共に元の次元に戻りました。
「な……なんだね、あれは?」
元の次元に戻ったクサナギ、その前に立ちふさがるものを見て、誰もが驚きました。
いばらの壁です。
上下左右どちらを見ても果てのない、いばらでできた巨大な壁がありました。この壁が、赤い星の光をさえぎっていたのです。
そして、クサナギの行く手をはばむように、立ちふさがっているのです。
「速度落とせ」
「あいさー」
クサナギは速度を落とし、ゆっくりと右へ舵を切りました。
「これ、迂回路はなさそうだよー」
「ううむ、ルリくん、レーダーで厚さを測ってみてくれたまえ」
「わかりました」
ルリがすぐにレーダーを操作し、いばらの壁の厚さを測りました。
ですが、その答えは。
「計測不能……です」
「なるほど」
上下左右だけでなく、奥行きまで。どこまでも果てのない、いばらの壁でした。
しかも、いばらは少しずつ伸び続けていて、さらに大きくなろうとしているのです。赤い星が完全に見えなくなるのは、時間の問題でしょう。
「これ作ったの、天使?」
「さて、どうだろう」
アカネの疑問に、ハクトはしばし考えます。
「違う……だろうね。こんなものが作れるのなら、ここで我々を待ち構えて、迎え撃った方が効率的だ」
いばらの壁を利用すれば、クサナギを包囲するのは半分のアンドロイドでできます。その分、攻撃に力を回せるのです。ここで戦いになっていたら、さすがのクサナギも危なかったでしょう。
「それに、天使がアンドロイドを率いてやってきたとき、赤い星はよく見えていた。我々と天使が戦っているときに作られた、と考えるべきだね」
「誰が……作ったのでしょうか?」
ルリの問いに、誰もが答えるのをためらいました。
宇宙空間にそびえ立つ、いばらの壁。
果てしなく続くその壁を、わずかな時間で作り出すなんて、簡単にできるはずがありません。
それこそ、神様でもない限り。
「……シオリ、だね」
「うむ、そうだろうね」
リンドウのうめくような声に、ハクトも硬い表情でうなずきました。
上下左右、どこまでも続く壁。
どれだけの厚みがあるか、わからない壁。
「シオリ……来るな、て言ってるのかな」
「そんな、どうして……」
アカネの言葉に、ルリは顔を青ざめさせました。
飲まず食わずで何日も眠り続け、死にかけているというシオリ。
そんなシオリを助けようとやってきた勇者たちを、シオリは拒んでいるのでしょうか。
「生きていても、つらいだけ」
困惑するみんなを見て、ハクトが静かに口を開きました。
「だからもう、目を覚ましたくない……ひょっとしたら、そんなふうに考えているのかもしれないね」
「ちょっと待ちなよ! あのシオリが、そんなこと考えているっていうのかい!?」
リンドウが、気色ばんだ声をあげました。
「あの子、いつも楽しそうだったじゃないか! 突拍子もないことばかり言って、私たちを振り回して、毎日が楽しくて仕方ない、そんな感じだったじゃないか!」
「……それは、当たり前なのだよ」
「当たり前?」
「『世界の書』は、シオリくんの夢。それが現実となったものがこの世界。だとしたら……ここはきっと、とても居心地がいいだろう。笑顔にもなる。だが……」
「ちょっとハクちゃん、何が言いたいのさー!」
ハクトの重い口調に、思わずヒスイが声をあげました。
それ以上聞きたくないよ。
そんな顔をしているヒスイに、ハクトは言葉を続けます。