08 天使と悪魔 (1)
デュランダル、接近中。
その報告を受け、さすがの艦長も言葉を失いました。
外にはアンドロイドの大軍、艦内には天使。この状況でさらにデュランダルと戦うのは、クサナギといえど簡単なことではありません。
「ルリ、艦外のアンドロイドの残数は?」
「およそ四万です!」
「あと一息か……」
防御モードになったクサナギは、アンドロイドの攻撃を完全にはね返しています。このまま持ちこたえつつアンドロイド軍団を削り、三万を切ったところで攻撃に出て撃破する、それが艦長の作戦です。
ですが、さすがにデュランダルの攻撃ははね返しきれないでしょう。
デュランダルの攻撃で防御壁を突破され、再びアンドロイドが艦内に侵入すれば、クサナギは一気に危機におちいります。
なんとしても、デュランダルが近づくのを阻止しなければなりません。
「長距離射撃でデュランダルをけん制しつつ、攻撃に転じるか……」
しかし、成功率は高くなさそうです。
無理をして攻撃に転じて反撃を受け、クサナギが航行不能になったらおしまいです。クサナギの目的は、天使やアンドロイドを倒すことではなく、シオリがいる「星の宮殿」へたどり着くことなのです。
「艦長」
どうするかと、艦長がコツコツと指で机を叩き始めた時、シルバーが立ち上がりました。
「意見具申。コノ局面ヲ打開スル、ゴ提案ガアリマス」
「……聞こう」
艦長は机を叩く指を止め、姿勢を正しました。
◇ ◇ ◇
アンドロイドの大軍と戦うクサナギが見えた時、コハクはギリッと歯を食いしばりました。
「天使のやろう……本気で潰しにきたのかよ」
アンドロイドの数は、百や千ではありません。こんなにいたのかと、コハクも驚くほどの数です。
「だから、言ったじゃねえか……俺と一緒に来い、て……」
敵。
リンドウにそう言われたとき、コハクは本当に傷つきました。コハクをだましていたのはマレで、裏切ったのはリンドウとカナリア。コハクはそう思っていたからです。
でも、違うのでしょうか。
コハクをだましていたのは天使で、みんなを裏切ってしまったのはコハクなのでしょうか。
「ちくしょう……ちくしょう、ちくしょう、ちくしょーっ!」
コハクはデュランダルのエンジンを全開にしました。
誰が味方で誰が敵で、何が正しいのか、コハクにはもうわかりません。
わかっているのは、シオリがとても傷つき、弱っていること。
もう静かに眠らせてほしいと、泣いて頼んだこと。
「天使も、マレも、リンドウたちも! 俺がここでまとめて倒してやる!」
シオリは守る。誰であっても、シオリを傷つけるものから俺が守る。
コハクにとって、その約束がすべてでした。
「もうこれ以上、シオリは泣かせねえからな!」
◇ ◇ ◇
『……それ以上の作戦を、私も思いつかないね』
艦長からシルバーの作戦案を伝えられ、ハクトはうめくように答えました。
かなり危険な作戦です。ですが何もせずにいたら、確実にやられてしまいます。たとえ大バクチだろうが、勝負に出るしかありません。
「では、決行する」
『了解。リンドウくん、私は船全体の制御に回る。艦内の戦闘サポートは頼むよ!』
『あいよ!』
『アカネくん、天使は任せたよ!』
天使との戦いに集中しているアカネから、返事はありません。ですが、きっと伝わっているでしょう。
「ではいくぞ! 操艦支援機能、攻撃モードに変更!」
『防御壁解除! 全火器斉射!』
クサナギが防御から攻撃に転じ、全砲門が一斉に火を噴きました。
猛烈な砲撃に、アンドロイドが一気に数を減らします。いきなりの猛攻撃に面食らったのか、アンドロイドが慌てて距離を取りました。
「クサナギ、減速するよー!」
「守りの壁、展開します!」
「全艦載機、帰艦せよ!」
クサナギが減速すると同時に、ルリの守りの壁が大きな円となって広がりました。
そして、減速したクサナギに向かって、艦載機が一斉に戻ってきます。
ここからは、時間との勝負です。
「パイロットは降機! 整備班、艦載機の補給急げ!」
『砲手、撃ちまくって弾幕を張ってくれたまえ! アンドロイドを近づけてはダメだ!』
クサナギがスピードを落としたのを見て、距離を取っていたアンドロイドが反転し、攻撃を仕掛けてきました。クサナギは猛射撃で近づけまいとしますが、アンドロイドが数に任せて押し寄せてきます。
クサナギを包む守りの壁に、アンドロイドが次々と攻撃してきます。ルリは全力で壁を作り続けましたが、数が多すぎてあっというまに力を消耗してしまいます。
「守りの壁……もうじき限界です……」
「くっそー、シルバー急いでー!」
『艦載機、全機帰艦ヲ確認。リンク作業ヲ開始シマス』
格納庫へと向かったシルバーの声が聞こえました。
シルバーの作戦案。
それは、艦載機をシルバーの制御下に置き、シルバーが出撃してデュランダルを足止めするというものでした。
そのためには艦載機を一度戻らせる必要がありました。それも、アンドロイドと戦いながら、です。
艦載機が戻るためには、クサナギはどうしてもスピードを落とさなければなりません。その間、完全に守りに入ります。このときアンドロイドの攻撃をしのぎ切れなければ、クサナギはそこで沈んでしまう、そんな危険な作戦でした。
「守りの壁……消滅します……」
ルリが限界となり、クサナギを守っていた青い光が消えました。
弾幕をくぐり抜けたアンドロイドが、クサナギに接近し攻撃します。いくつもの爆発が起こり、クサナギが大きく揺れました。
『シルバーくん! まだか!』
『艦載機トノ、リンク確立! 全機、発進シマス!』
さすがのハクトも焦った時、シルバーが答え、格納庫から艦載機が飛び立ちました。
その先頭には、銀色のアンドロイド・シルバー。
無人で飛ぶ艦載機を引き連れて、近づいてくるデュランダルを迎え撃つべく飛んで行きます。
「ヒスイ!」
「あいさー、エンジン全開!」
そして、クサナギは。
再びスピードを上げ、守りから攻撃に転じるとともに、デュランダルを引き離しにかかります。
「シルバー、任せたぞ!」
『オ任セヲ。必ズ、デュランダルヲ、足止メシマス』