07 勇者 vs 天使 (3)
天使は力任せに槍を振るいました。
光が空間を切り裂き、同時に、何人もの妖精が消えてしまいます。
「お前たち、妖精を追い込みなさい!」
天使はアンドロイドに命じ、妖精を一か所に追い込ませました。そうして集めたところを、槍の一撃でまとめて消し去ったのです。
「ピィッ!」
不利を悟った妖精が、声を上げて撤退します。天使は悠々と扉をぶち破り、次のブロックへと進みました。
「他愛のない」
十三ブロックから十四ブロックへ、そして十五ブロックへ。
妖精は力の限り攻撃し、天使を足止めしようとしますが、天使の槍に対抗できず、次々と消えていきます。
「近づいてきましたね」
十六ブロック、バリケードの前に立ち、天使は笑います。
はっきりと悪魔の力を感じ始めました。悪魔の力のすぐそばにいる、魔女の力も感じます。
「魔女……だいぶ弱っていますね。もはや私の敵ではない」
バリケードを築き足止めしようとしている妖精を、天使は槍の一撃でなぎ払います。
「ピィーッ!」
悔しそうな顔をして、光となって消えていく妖精たち。
そんな妖精たちに、天使は冷たい笑みを浮かべます。
「邪魔です、どきなさい!」
バリケードを壊そうと、アンドロイドが飛びかかりました。妖精が迎え撃ち、アンドロイドを破壊しますが、そのすきに天使の槍が妖精たちを消してしまいました。
十七ブロック。
またもバリケードがありましたが、天使の歩みを止めることはできません。
「お前たち、行きなさい」
残っていた五体のアンドロイドが、バリケードに飛びかかります。
「ピィッ!」
せめて、アンドロイドだけでも。
妖精は、天使の槍で次々と消されながらも、残っていたアンドロイドをすべて倒しました。
これで、残るは天使のみ。
「だから、何だというのです!」
パァッ、と天使の全身が光りました。
そして、これまでにない強烈な一撃で、バリケードごと妖精を吹き飛ばし、十八ブロックへ続く扉を破壊します。
十八ブロック。
そこは、これまでのブロックの倍以上の広さがある場所でした。
「ピィーッ!」
侵入した天使に、妖精たちが一斉に攻撃を始めます。天使は槍をふるって妖精の攻撃を打ち払います。
「なるほど。ここが、最終防衛線というわけですか」
集まった妖精の数を見て、天使がニヤリと笑います。
天使の言う通り、十八ブロックの先は、クサナギの重要な設備があるブロックです。どれか一つでも壊されたら、クサナギが動かなくなることだって考えられます。
なによりも、治療中のマレがいる医務室が、目と鼻の先なのです。
「お前たちでは、私を足止めすることすらできないのですよ!」
天使が槍を構えました。
全身が光り、すさまじい力が槍に集まっていきます。妖精が必死で攻撃を続けますが、天使が放つ光が攻撃を防いでいて、届きません。
「さあ、一撃で消し去ってやりましょう!」
天使が妖精を消し去ろうとした、そのときです。
「はっしゃーっ!」
かわいらしい声が、十八ブロックに響き。
バシュゥッ、という大きな音とともに、天使は白い煙に包まれました。
◇ ◇ ◇
いきなり浴びせられた白い粉に、天使の視界がさえぎられました。
「ていやーっ!」
何が起こったのか、とっさに判断できないでいると、槍を持つ手に重く硬いものがぶつかりました。
「ぐっ……」
視界のはしに見えたのは、赤い金属の筒──消火器です。そんなものをぶつけられては、さすがの天使も我慢できず、手に持っていた槍を落としてしまいました。
「この白い粉は……消火剤か!?」
「もういっちょーっ!」
バシュゥッ、という音がまた響きました。
「ぶわっ!」
消火剤をまともに浴びて、天使は慌てて後退しました。
「おのれ、何者か!」
「うわっ!」
天使が翼で風を起こし、消火器の粉を吹き飛ばしました。
そこにいたのは、お団子頭にエプロン姿の女の子──パティシエのカナリアです。
「お前は……!」
「ピィッ!」
追い詰められていた妖精たちが一斉に散り、反撃を始めました。
「くっ……」
天使は翼で妖精の攻撃をはね返すと、落とした槍を拾おうと駆け出します。
ですが、槍があるのはカナリアの足元です。
「えいっ!」
天使が槍を拾おうとしていると気づき、カナリアはすぐに槍を思いきり蹴飛ばしました。
カラカラッ、と乾いた音を立てて、槍が右舷へ向かう通路に転がっていきます。
「貴様ぁっ!」
「ひっ……」
大声で怒鳴りつけられて、カナリアは怖くなってすくみあがりました。
「ピピーッ!」
そんなカナリアに、黒いツナギ姿の妖精が飛び乗って叫びます。
すると、カナリアの体を光が包み、カナリアの意志とは関係なく動き始めたのです。
「う、うわわわっ! なにこれ!?」
殴りかかってきた天使を、カナリアの体はひらりと飛んでかわしました。そして、着地と同時に思い切り横へ転がり、その勢いで立ち上がって身構えます。
「え、なにこれ? 妖精さんが操ってるの?」
妖精さん、こんなこともできるのかと、カナリアが感心していると。
『カナリアくんっ! どうしてそこにいるのかね!?』
通信機から、ハクトの大きな声が聞こえてきました。
「うわっ、びっくりした!」
突然の大声に、カナリアは驚いて声をあげました。
ですが、驚いているのはハクトも同じです。
『びっくりしたのはこちらだよ! 逃げたまえ! 君が勝てる相手ではない!』
「そんなこと、わかってるよ!」
ですが、妖精ではまったく歯が立たないのです。
いくら妖精が覚悟の上だとしても、それを見捨てていくことなんてできません。
「私だって、勇者だもん! 魔女を……マレを守るよ!」