06 クサナギ vs アンドロイド軍団 (3)
『艦載機、全機出撃用意。繰リ返シマス、艦載機、全機出撃用意』
艦内にシルバーの声が響き渡りました。
その声を聞きながら、カナリアは通路を大急ぎで走ります。
「ああもう! なんで私、展望室になんていたのー?」
ハクトの頼みで医務室に飲み物を届けた後、調理室へ戻ろうとしたところまでは覚えているのですが、そこでプツンと記憶が途切れていました。
そして、気がついたら展望室にいて、アンドロイド軍団との戦いが始まっていたのです。
「やっぱり私、夢遊病なのかなぁ?」
以前デュランダルで旅していた時も、似たようなことがありました。眠っている間に夢を見て、気がついたらお盆を持って甲板に出ていたのです。
──お前、夢遊病か?
眠ったまま甲板に出たカナリアを起こし、そう言ったのはコハクでした。
(そういえば……)
カナリアは、あのとき見た夢を思い出しました。
双子のようによく似た、二人の女の子。
その二人が、星空を見ながら楽しそうに話している、そんな夢。
「あっ!」
夢で見た光景を思い出し、カナリアは驚いて立ち止まりました。
「あれ、マレだ……」
二人のうち、黒いワンピースを着て、先がとがった大きな帽子をかぶっていた女の子。
間違いありません、今、医務室で眠っている、魔女のマレです。
そしてもう一人の、水色のエプロンドレスに大きなリボンの女の子は。
「……あの子だ」
パジャマ姿で頭に包帯を巻き、右目に眼帯をしていた、鏡に映っていた女の子。
そうです、あの女の子が、夢の中で見たもう一人の女の子なのです。
「やっぱり、あの子がシオリなんだ」
降るような星空の下、デュランダルの甲板で「星渡る船」のことを語り合っていた二人。
その光景を、カナリアは──夢ではなく、本当に見たことがあるような気がしました。
「私、デュランダルに……乗っていた?」
あれは、ただの夢じゃなかった?
あの星空を、カナリアは、シオリとマレの三人で見ていた?
こぽり、と。
カナリアの心の奥底に眠っていた、何かが揺れました。
──ごめんね、助けに来てくれたのに。
──シオリを、助けてあげてね。
少したれた目から、涙をポロポロこぼしている女の子──マレに手を握られて、そう言ったのは、確か……。
ドォンッ!!!
「うわっ!」
爆発音とともに、クサナギが大きく傾きました。
カナリアは慌てて壁の手すりにつかまりましたが、クサナギは右へ左へと大きく揺れ、生きた心地がしません。
「わっ、わわっ! わーん、どうしよー!」
「ピーッ!」
手すりにしがみついていたら、妖精の声が聞こえました。
黒いツナギ姿の、五人の妖精です。魔女のマレと一緒にいた妖精です。
「ピピピピッ、ピピーッ!」
妖精が怒った顔で何かを言いました。
多分──こんなところで何やってるんだ、危ないだろう、と言っているのでしょう。
「ごめんなさーい、私も何が何だかわからなくてー!」
やっとクサナギの揺れが止まりました。
今のうちにと、カナリアは五人の妖精とともに、調理室へと急ぎます。
「あ……」
その途中、窓から外を見ると、艦載機が飛び立っていくのが見えました。そのコックピットには、緑色のツナギ姿の妖精が座っています。
飛び立った艦載機が、クサナギを守るように配置につきました。
まもなく、ルリの守りの壁が消え、アンドロイドがクサナギに襲いかかって来ました。
「ピィーッ!」
妖精たちが乗る艦載機も、一斉に攻撃を開始しました。
十万対二百。
クサナギの強力な火力があるとはいえ、数には圧倒的な差があります。ですがその差にひるむことなく、艦載機はアンドロイドに挑んでいきます。
「みんな……」
アンドロイドからクサナギを守るため、勇敢に戦う妖精たち。一緒に戦うことはできませんが、せめて応援をとカナリアは思いました。
ですが。
「が──」
ガチッ、と。
その言葉を口にしようとした途端、ものすごい力に押さえつけられ、カナリアは唇をかんでしまいました。
「いたた……わーん、噛んだー」
かんだ時に、ちょっぴり唇を切ったようです。なめると少し血の味がしました。
ああもうと、唇をなめているカナリアを、五人の妖精がじっと見上げています。
「え、と……どうしたの?」
「ピィ」
先頭に立つ妖精が何かを言いかけて、他の四人が「だめだよ」という感じでそでを引っ張っています。
どうしたんだろうと、カナリアが首をかしげた時。
ドオォンッ、と大きな音がして、クサナギがまた大きく揺れました。
「うわわっ、なに、今度は何!?」
『右舷、被弾! 火災ガ発生シテイマス、消火、急イデクダサイ!』
シルバーの緊迫した声が響いてきました。
クサナギの防御壁を突き破り、アンドロイドの攻撃がクサナギに当たったようです。
「うわ、火事!? 大変だ!」
カナリアはパティシエです。普段、火を使う仕事をしていますから、火事の怖さはよく知っています。師匠であったおじいちゃんにも、火の扱いはとても厳しく指導されました。
「火事は、小さなうちに消すのが大切だよね!」
戦うことでは役に立てないけれど、火を消すぐらいならできるはず。
カナリアはそう考え、五人の妖精とともに、大急ぎで火災現場へと向かいました。