06 クサナギ vs アンドロイド軍団 (2)
「天使様、確認デキマセン」
「ふむ」
天使は「星の宮殿」にいたまま、この大軍を送り込んで来たのでしょうか。
それともどこかに隠れていて、クサナギを攻撃するチャンスをうかがっているのでしょうか。
「天使がいなければ、まだ大軍がいる。天使がいれば、これが全軍、か?」
コツコツと指先で机を叩きながら、艦長は考えます。参謀役のハクトに意見を聞ければよいのですが、マレの治療にかかりきりになっているのです、邪魔はできません。
「どちらにせよ、目の前の敵は撃破するのみ」
コツリ、と指で机を大きく叩き、艦長は帽子をかぶりなおします。
「いくぞ、勇者のみんな!」
「おーっ!!!」
艦長の声に、勇者たちは勇ましい声で答えます。
そうです、たとえ十万の大軍が相手でも、勇者たちはひるみはしないのです。
「アンドロイドが射程に入ると同時に、攻撃を開始する!」
「了解!」
金色の光がぐんぐん近づいてきました。もう肉眼でも、それがアンドロイドの大群であることが見て取れます。
クサナギを包囲するように、上下左右から迫る金色の光。
その包囲を食い破らんと、青い光に守られたクサナギが、猛スピードで突進していきます。
そして、アンドロイドがクサナギの射程内に入ったとき。
「撃ち方、始めぇっ!」
艦長の号令とともに、戦いが始まりました。
◇ ◇ ◇
クサナギの全砲門が火を吹き、襲いかかってきた金色のアンドロイドをなぎ払いました。
しかし、アンドロイドは十万を数えます、一撃ですべてを倒すことなどできません。
「クサナギ、アンドロイドに包囲されました!」
激しい砲撃をかいくぐり、アンドロイドがクサナギを取り囲みます。上下、左右、前後、どちらを見てもアンドロイドで埋め尽くされています。
「アカネ、火力の五十パーセントを進行方向に振り向けろ! ヒスイ、速度を緩めるな、包囲網突破に専念しろ!」
「了解!」
「あいあいさー!」
艦長は慌てません。
この戦い、アンドロイドをすべて倒す必要はないのです。包囲を突破し、「星の宮殿」がある星へたどり着ければ、それでいいのです。
四基の主砲が止まることなく砲撃を続け、クサナギが進む道をこじ開けます。
こじ開けたその道を、クサナギは猛スピードで飛び続けます。
「くそっ、数が多すぎる!」
しかし、アンドロイドも黙ってやられていません。密集しないよう距離を取って隊列を組み、クサナギの砲火を巧みにかわしながら、波状攻撃をしてきます。
ならばと、アカネは砲手に指示を出します。
「主砲、エネルギーを拡散モードに切り替えて! 副砲、実弾に切り替え! 電磁波弾、装填!」
「アカネっち、右下、二時の方向!」
「了解! 主砲三番および四番、照準、俯角二十度、右六十度! 撃てっ!」
主砲から放たれたエネルギーが扇の形に広がり、広範囲のアンドロイドを撃破します。驚いたアンドロイドが距離を取り、包囲網に穴が空きました。
「よっしゃー、突っ込むよー!」
それを見て、ヒスイが操縦桿を倒しました。
クサナギが右斜め下へと急降下し、包囲網の穴へ突っ込んでいきます。
「副砲、撃て!」
追いかけてきたアンドロイドに向かって、副砲が火を噴きました。
撃たれた弾が爆発し、電磁波をまき散らします。電磁波に捕らえられたアンドロイドの隊列が乱れ、追撃が止まりました。
「アカネっち、ナイス!」
「まだまだ来るよ、油断しないで、ヒスイ!」
「あいあいさー!」
クサナギの猛攻撃で、アンドロイドは次々と撃ち落とされていきました。
しかし、撃ち落としても撃ち落としても、次のアンドロイドがやってきます。砲火をくぐり抜けたアンドロイドが、一体、また一体と出始め、クサナギに近づいて反撃をしてきました。
「させません!」
そのアンドロイドの反撃を、クサナギの防御壁に上乗せしたルリの守りの壁が、完璧に防いでいます。
ですがルリの守りの壁は、マレの魔法障壁と同じようなものです。アンドロイドをはね返すたびにひびが入り、ルリが祈りを込めて修復します。アンドロイドの反撃が激しくなってくると、ルリの力はどんどん失われていきました。
「ルリ、大丈夫?」
苦しそうなルリに気づき、アカネが声をかけました。
「大丈夫よ、アカネ。まだまだ、やれるから!」
ひたいに汗を浮かべながら、ルリは笑顔でアカネに答えました。
明らかに、無理をしている顔です。それを見て、艦長がルリに告げました。
「ルリ、五分後に守りの壁を解除。艦載機での防御に切り替える」
「ですが艦長!」
攻撃モードのクサナギは、攻撃の威力が増す分、防御力は落ちています。ルリの守りの壁がなければ、アンドロイドの攻撃をはね返しきれないのです。
「だめだ」
艦長はルリの反論を、ぴしゃりと封じました。
「まだ天使が姿を見せていない。緒戦で力を使い果たすな」
艦長の言葉に、ルリはハッとなりました。
艦長の言う通りです、戦いはまだ始まったばかりなのです。ここで守りの要であるルリが力尽きては、天使が出てきたときに苦戦してしまうのです。
「はい……わかりました、艦長」
不服そうな顔をしていたルリですが、艦長の言葉にうなずき、ふう、と大きく息をつきました。
「すいません。そうですね、私一人ではありませんでしたね」
何があっても仲間を守る。
ルリの心には、その強い決意があります。
でも、それゆえに、ルリは時に無茶をしてしまうのです。
「ルリ、私とヒスイで切り抜けてみせるから!」
「そーそー、妖精さんたちだっているんだから。まっかせてー!」
「はい、お願いします。アカネ、ヒスイさん」