06 クサナギ vs アンドロイド軍団 (1)
天使は、光となって宇宙を突き進みました。
その顔には、驚きと怒りが満ちています。
「なんなのだ、なんなのだ、あの船は!」
消えたはずの勇者とともに、突如現れた白銀の宇宙船。
神様の力で改造したデュランダルを蹴散らし、慌てて送り込んだ三千のアンドロイドをなぎ払い、「星の宮殿」を目指すあの船は、いったいどこからやってきたのでしょうか。
──すべてを、終わらせて。
神様の命令が、天使の中に響きます。
──私は、もう眠りたいの。
「あの船は、いけない」
天使にはわかりました。あの船が、神様の命令をはばむ船であることを。もう眠りたいと望む神様の、眠りを覚ますために行く船なのだと。
心安らかな、永久の眠りこそが、神様の望むこと。
それを邪魔するものは、天使の名にかけて打ち滅ぼすのみです。
「神様の平穏は、乱させません!」
猛スピードで飛ぶ天使の周りに、金色のアンドロイドが集まり始めました。
その数、百、五百、千、三千──どんどん、どんどん増えていき、ついには十万という大軍となりました。
「この私の全力をもって、叩き潰してくれる!」
◇ ◇ ◇
三千のアンドロイドを撃破したクサナギは、最大戦速のまま宇宙を飛び続けました。
「機関室、異常なし!」
「主砲ほか、火器類異常なし!」
「デュランダルとの衝突面、損傷軽微!」
「レーダーその他、正常稼働!」
各部からの報告に、艦長はうなずきます。
クサナギに損害らしい損害はありません。デュランダル・アンドロイド軍団との戦いは、完勝と言っていいでしょう。
ですが油断は禁物です。最大の敵である天使は、まだ姿を見せていないのです。
「各部署、交代で休憩、次の戦いに備えよ」
艦長はそう指示を出すと、レーダー席のルリに目を向けました。
「ルリ、デュランダルは追撃してくるか?」
「今のところ、その様子はありません」
「わかった、引き続き警戒を。リンドウ、ワープはあと何回使えるか?」
『あと二回。だけど、三回目のワープをしたら、かなりの確率でエンジンやられると思うよ』
「つまり、あと一回か。了解した」
クサナギの巨大なエンジンをもってしても、ワープは大変なことなのです。できればワープを使うことなく、「星の宮殿」にたどり着きたいものです。
「ハクト」
艦長は、医務室にいるハクトを呼びました。
『はいはい、なにかね?』
「マレの様子は?」
『たった今、眠ったところだよ』
瀕死の状態だった、というハクトの報告に、艦長はもちろん、勇者たちも声を失いました。
『間に合ってよかった。あと一歩遅かったら、マレくんは消えていただろうね』
「わかった。そのまま、マレの治療に専念を」
『了解。マレくんが復活するまで……頼みます、艦長』
「了解した」
ハクトの言葉に、艦長は静かにうなずき、通信を切りました。
◇ ◇ ◇
医務室を出たカナリアは、展望室へ来ていました。
いつものカナリアではありません。
悲しげで、そして少し大人びた笑顔を浮かべて、窓の外をじっと見ています。
カナリアが見ているのは、クサナギの行く手、はるか向こうに見える赤い星です。そこに、シオリがいる「星の宮殿」があるのです。
「だめだよ。道をふさごうとしても」
勇者たちは気づいているでしょうか。
あの赤い星の光が、少しずつ弱まっていることに。この宇宙を照らす一番強い光が、何かにさえぎられ始めたことに。
「この船は、クサナギだよ」
船の名前の由来となったのは、神話に出てくる伝説の剣、草薙剣。
持ち主が火攻めにあいピンチになった時、草をなぎ払って脱出した、そんな伝説がある剣です。
「いばらなんて、刈り取っちゃうんだから。それに、自分で決めたでしょ?」
どんな困難も乗り越えて。
どんな邪魔者にも負けずに。
星の海をどこまでも飛んで行く。
「この船は、そんな強い船なんだから、ね」
◇ ◇ ◇
クサナギが宇宙を飛び続けること、数時間。
ピコーン、というレーダーの反応音が響きました。
「レーダー、反応あり! 十二時の方向、距離七万です!」
ルリの報告に、クサナギの艦橋に緊張が走りました。
「光学カメラ、最大望遠」
「リョウカイ」
艦長の指示で、シルバーがカメラを切り替えました。
赤い星の方から、金色の光が近づいてくるのが見えました。上下左右に大きく広がっていて、まるで光の壁のようです。
「天使の、金色のアンドロイドです。数……およそ十万!」
「十万!?」
「うっひゃー! なにその数!」
アカネとヒスイが、その数に驚きます。いったい天使は、どれだけのアンドロイドを作り出しているのでしょうか。
「第一種戦闘配置! 総力戦用意!」
艦長の号令とともに、クサナギの館内に警報が鳴り響きました。
「操艦支援機能、攻撃モードニ切リ替エマス!」
「全砲門、発射態勢! 艦載機、全機出撃態勢で待機!」
「防御壁、全方位に展開! 守りの壁、上乗せします!」
「速度微減、戦闘速度に切り替えるよー!」
勇者たちが指示を出し、妖精たちが持ち場へと向かい、クサナギも戦闘態勢をとります。
「シルバー、天使の姿は確認できるか?」
「オ待チクダサイ」
シルバーが金色の光を大急ぎでスキャンしました。
ですが、天使の姿は見当たりませんでした。