05 クサナギ vs デュランダル (3)
「本気ですか!?」
「うっひゃー、かげきー!」
艦長のまさかの言葉に、ルリとヒスイは驚きの声を上げました。
そんな二人に──いいえ、この船に乗るすべての者に向かって、艦長は断固とした声で告げます。
「教えてやれ。我らはここへ遊びに来たのではない、戦いに来たのだと。邪魔するというのなら、容赦はしないとな!」
ぞくり、と。
勇者の、妖精たちの、背中が震えました。
怖いからではありません、武者震いです。
そうです、これは負けてはいけない戦いです。その覚悟を、断固として示すのは、今なのです。
「敵中央、強行突破する!」
正面パネルに映るデュランダルをにらみつけ、艦長は力強く命じます。
「クサナギ、上昇開始! 艦前方に防御壁集中展開! ルリ、守りの壁も上乗せしろ!」
「あいあいさー!」
「了解しました!」
ゴォォォッ、とうなりをあげてクサナギが上昇を始め、同時に、白銀の船体を青い光が包みました。
それを見て、コハクは驚きます。
「なっ……」
てっきりクサナギは、回避行動をとると思っていました。逃げたクサナギを包囲しつつ追い詰め、上から押さえつけて身動きできなくする、それがコハクの作戦でした。
しかしクサナギは、コハクの予想を超えて、正面から戦いを挑んできたのです。
「くそったれがぁっ!」
船の大きさ、出力、武装、すべてがクサナギの方が上、正面からぶつかればデュランダルはただではすまないでしょう。
それでも、コハクは引く気はありません。
「相打ち、上等だぁっ! 海賊、なめんなぁっ!」
デュランダルも防御壁を展開し、進路を変えることなく、クサナギにまっすぐ突っ込んでいきます。
それを見て、艦長は「なるほど」とうなずきました。
「その勇敢さ、敬意に値する。だが、負けぬよ」
「デュランダルとの衝突まで、あと二十秒!」
「総員、衝突ニ、ソナエテクダサイ!」
シルバーの警告に、クサナギの全乗組員が身構えました。
目の前に迫る、デュランダル。
その黒い船体をまっすぐに見て、艦長はヒスイに命じます。
「エンジン最大出力、このまま直進! 蹴散らせっ!」
「うけたま……わったー!」
バチィッ、と防御壁同士がぶつかり合い、火花が散りました。
ドォンッ、と大きな音ともに衝撃が生まれ、クサナギもデュランダルも大きく揺れます。
「操縦してるのは、ヒスイかぁ!」
「空飛ぶ乗り物なら、僕の方が上だからねー!」
ヒスイが素早く操縦桿を動かしました。
ぐらり、とクサナギが右に揺れ、衝突の衝撃を受け流したかと思うと。
「ほいさぁーっ!」
すぐにクサナギは左に傾き、デュランダルを下からすくい上げました。
「なっ!?」
すくい上げられ姿勢を崩したデュランダルが、クサナギに弾き飛ばされました。
急いで姿勢を立て直そうと、舵を右に切ろうとしたコハクですが。
(やべぇっ!)
ぐるり、とクサナギの主砲が向きを変えたのを見て、すぐさま逆に舵を切りました。
「主砲、撃てぇっ!」
アカネの号令とともに、クサナギの主砲が火を噴きました。
デュランダルの船体を、主砲のエネルギーがかすめていきます。かすめただけというのに、デュランダルの防御壁は消し飛び、電子機器が麻痺してしまいました。
「ちくしょうが! なんて威力なんだよ!」
あのまま右に舵を切っていたら、主砲が直撃し、デュランダルは轟沈していたでしょう。それを思い、コハクはゾッとしました。
「うっしゃー! 悪いね、コハクちゃん!」
ふらふらとデュランダルは小惑星へ落ちていきます。
でも、それで終わりではありません。上昇するクサナギを止めようと、金色のアンドロイドが突っ込んできたのです。
「アンドロイド、正面から来ます!」
ルリの報告に、艦長がすぐに指示を出します。
「防御壁、側面に展開! 火力前方に集中! なぎ払えっ!」
「了解! 防御壁、側面に展開!」
「了解! 全砲門、撃てぇっ!」
クサナギの船首を守っていた青い光が、船の横へと移動しました。
アカネの号令とともに、クサナギの全砲門が火を噴きました。
アンドロイドに向かって、猛烈な砲撃が始まりました。その圧倒的な火力に、アンドロイドは次々と撃ち落とされていきました。
「どけどけー! クサナギのお通りだー!」
金色のアンドロイドをなぎ払い、クサナギが上昇していきます。ついに包囲網を突破すると、はるか遠くに見える、赤い星を目指してスピードを上げました。
神様の力で改造した、海賊船デュランダルも。
三千体の金色のアンドロイドも。
宇宙戦艦クサナギを止めることは、できなかったのです。
「うそ……だろ……」
それを目の当たりにしたコハクは、ぼう然とクサナギを見送るしかありませんでした。
なんなんだ、あの火力は。
なんなんだ、あの強さは。
「戦う、船」
コハクは、シオリが書いたノートの一文を思い出し、つぶやきます。
「シオリ……あれがお前が夢見た、『星渡る船』なのか?」