05 クサナギ vs デュランダル (2)
コハクとの通信を切ると、リンドウはすぐに艦橋と医務室に回線をつなぎました。
「こちら機関室、リンドウ。みんな、今の会話、聞いてたね?」
『ハイ、ヨク聞コエテイマシタ』
『うむ、ばっちりだね』
「では参謀さん、今の会話からわかったことは?」
『まずひとつ。シオリくんはちゃんと『星の宮殿』にいる。そして、少なくともコハクくんがいるときは、会話ができる状態だった』
たどり着いた「星の宮殿」にシオリがいない、というのが最悪のケースでしたが、どうやらそれはなさそうです。
それに、コハクと会話したということは、意識があったということ。急げばきっと、間に合うはずです。
『ふたつめ。天使は、クサナギのことを知らない』
その船は何だと、コハクは尋ねてきました。
もしも天使が知っていたら、コハクに警戒するよう教えていたはずです。
「コハクに教えていなかっただけ、という可能性は?」
『ゼロではないが、仮にそうだとしたら、デュランダルと一緒に来ていたアンドロイドの数が少なすぎる。知らなかったと考えてよいだろうね』
「なるほど」
続々とやってくる金色のアンドロイド。
確かに、待ち構えていたというよりは、慌てて送り込んできたという感じです。
『そして最後。コハクくんは、どうやら天使に丸め込まれているようだね」
──悪魔の味方でないとわかれば、天使は何もしねえ。
コハクはそう言っていました。ですが以前、悪魔はハクトにこう言ったのです。
──天使は、お前たち勇者を何としても消し去りたい。
マレを操り「世界を滅ぼす魔女」とし、勇者を一網打尽にしようとした天使です。そんな天使のところへのこのこ全員で出向いたら、今度こそ一網打尽にされてしまうでしょう。
『コハクくんには悪いが、一緒に行くというのは論外だね』
「なら、戦うしかないね」
『待って!』
ハクトと一緒に医務室にいたマレが、声を上げました。
『お願い、コハクをやっつけないで! コハクは、シオリに会っているんでしょ? 私たちが行ったときにコハクがいなかったら、シオリがどう言うかわからない』
海賊団は、シオリとコハクの二人で始めたものです。シオリとマレの関係は特別なように、シオリとコハクの関係も特別なのです。
そのコハクをやっつけてしまったとしたら、シオリは、悲しむ以上に怒るかもしれません。
「確かに。神様の逆鱗に触れるのは、得策じゃないね」
『ということは、だ』
ハクトがまとめました。
『我々のミッションは、コハクくんを傷つけないよう上空の包囲を突破し、今ごろ大慌てでやってきているであろう天使を迎え撃ち、しかる後にシオリくんのいる『星の宮殿』を目指す、ということになるね』
おいおい、とリンドウはハクトに突っ込みたくなりました。
いくらクサナギが強くても、何倍もの敵を相手に戦い抜く必要があります。果たして、やってのけられるのでしょうか。
「いや……やるしかないね」
『うむ。そのためには、一糸乱れぬチームワークと、強力な指揮官が必要だ』
ハクトの言葉に、勇者の全員がうなずきました。
「艦長」
リンドウが艦長に呼びかけました。
「ここから先は、全指揮権を委ねるよ。私たちは、何があってもあなたに従う」
『引き受けましょう』
リンドウの言葉に、艦長がうなずきます。
『では……行くぞ、勇者の諸君!』
◇ ◇ ◇
じりじりとした時間が過ぎていきました。
(くそ。早く返事をよこせ!)
金色のアンドロイドは、まだ増え続けています。天使は、本気でクサナギをここで沈める気です。
(俺が沈ませねえ、シオリに言って、天使を押さえさせる。だから、俺と一緒に来てくれ!)
ピッ!
鋭い警告音が鳴り、コハクは慌てて顔を上げました。
「ち……くしょぉ……」
リンドウからの通信はありません。
ですが、小惑星に着陸していたクサナギが、動き出すのが見えました。
「てめぇら……てめぇら、シオリのことがわかっちゃいねぇんだよ!」
コハクは目の当たりにしたのです。傷つき、弱っていたシオリを。
もう静かにしていてほしい、ゆっくり眠らせてほしいと、コハクにしがみついて泣いたシオリに、もう一度冒険に行こうなんて言えないのです。
「行かせねえ……お前たちは、ここで止める!」
コハクは舵輪を握りました。
「デュランダル、発進!」
フォォォーン、とエンジンの音が響き、デュランダルが動き始めます。それを見た金色のアンドロイドたちも、一斉に攻撃態勢を取り、クサナギに向かって降下を始めました。
「デュランダル、動き出しました。アンドロイド軍団、急降下してきます!」
クサナギの艦橋に、ルリの声が響きました。
艦長がうなずき、力強く指示を出します。
「クサナギ、緊急発進!」
「あいあいさー!」
ドォンッ、というすさまじい音を立てて、クサナギが猛スピードで動き始めました。
ミサイルのように降り注いできた金色のアンドロイドを、間一髪でよけます。ですが、アンドロイドはまだまだ上空にたくさんいて、次々と降下して来ました。
「操艦支援機能、攻撃モードに変更! 全砲門、開け!」
「リョウカイ。操艦支援機能、攻撃モードニ、切リ替エ」
「全砲門、撃てぇっ!」
アカネの号令とともに、クサナギの全砲門が火を噴き、降下してくる金色のアンドロイドを次々と撃ち落としていきました。
「デュランダル、来ます!」
「主砲、一番、二番、撃てぇっ!」
ルリの声に、間髪入れずにアカネが号令しました。
ドギュゥーン、とすさまじい威力の白い光がデュランダルに伸びていきます。
コハクは思い切り舵輪を回し、その光をギリギリでかわしました。
「この光、あの時の!?」
世界を滅ぼす魔女として、デュランダルの前に立ちふさがったマレ。
そのマレを撃ち抜いた白い光を思い出し、コハクは舵輪をぎゅっと握ります。
「くそっ!」
撃ち合いになったら勝てない。
そう判断したコハクは、舵輪を回し、クサナギに向かって急降下を始めました。
「デュランダル、降下開始! こちらに向かって来ます!」
「海賊お得意の戦法だねー! 回避するよー!」
船を相手の船にぶつけて、乗り移って制圧する。
それが海賊の最も得意とする戦い方です。それをよけるべく、舵を切ろうとしたヒスイですが。
「進路、そのまま!」
艦長の鋭い声が、ヒスイを止めました。
「えっ!?」
「か、艦長! このままでは二分後に衝突します!」
驚いたヒスイとルリが慌てて問い返すと。
「かまわん! 邪魔するというのなら、ぶつけてやれ!」
艦長は、迷うことなく即答しました。