05 クサナギ vs デュランダル (1)
コハクは巧みな操艦で、デュランダルからゴーレムを引き離しました。
なおもデュランダルに襲いかかろうとするゴーレムに、アンドロイドが殺到します。ですが、巨大なゴーレムの腕に次々と叩き落とされてしまいました。
「ちっ……」
さすがは世界最強の魔女が作り出したゴーレム、とんでもない強さです。
「まともに相手、してられるか!」
コハクは舵を回し、大砲をゴーレムに向けました。
狙うは、ゴーレムの額の文字。
emeth。
ゴーレムの額に刻まれたその文字が、土の塊に命を与えています。
ですが、その最初の文字「e」を消しさえすれば。
meth。
「真理」が「死」となり、ゴーレムは土に返るのです。
「撃てーっ!」
狙い定めた砲撃で、コハクは正確にゴーレムの額の文字を撃ち抜きました。
それで、勝負ありです。
暴れていたゴーレムが動きを止め、バラバラになってただの岩石に戻りました。
「くそ、てこずらせやがって」
コハクはほっと息をつきました。
「星の宮殿」から一緒に来たアンドロイドは、ほとんど壊されてしまいました。デュランダルに大きな損傷はありませんが、ゴーレムを倒すのにずいぶん時間がかかってしまいました。
「まだ、あそこにいるか?」
突然現れ、マレを捕えた白銀の武装船。
あれが「星渡る船」ならば、きっとリンドウたちが乗っているでしょう。そしてシオリがいる「星の宮殿」を目指すはずです。
「行かせねぇぞ」
コハクは、白銀の船が着陸した小惑星へと急ぎました。
「いた」
白銀の船は、まだ小惑星に着陸したままでした。このまま急降下して先手を打とうかと考えましたが、白銀の船の巨大な砲塔が動き、デュランダルに狙いを定めました。
「ちっ」
このままではいい的だと、コハクは降下をやめました。
白銀の船のはるか上空で止まり、いつでも撃ち返せるよう大砲を向けます。
(撃ち合いになれば……分が悪いか)
武装はあちらが上。一対一の砲撃戦になれば、デュランダルが不利です。
(ん?)
さてどうするかと考えていたら、赤い星の方から金色の光が近づいてくるのが見えました。
天使の手下の、アンドロイドです。
すごい数です。いったい何体いるんだと、コハクは舌打ちしました。
「天使も、こいつを危険と考えているのか?」
天使はあの白銀の船を、有無を言わさず沈めるつもりなのかもしれません。
コハクは少し迷ってから、通信機のスイッチを入れました。
「……こちらデュランダル船長、コハク。聞こえているなら応答しろ」
呼びかけたのは、金色のアンドロイドではなく、白銀の船。
さて返事をして来るのかと、コハクが息をひそめて待っていると。
『聞こえてるよ、コハク』
返事がありました。
「その声……リンドウか?」
『ああ。一別以来だね』
コハクは双眼鏡で白銀の船を見ました。まだ、動く気配はありません。
「お前だけか?」
『いいや。カナリア、アカネ、ルリ、ヒスイ、ハクトの五人も一緒さ。おっと、新しい仲間、アンドロイド・シルバーもいるよ』
「……その船は何だ。マレをどうする気だ」
『この船は、星渡る船』
やっぱりかと、コハクはギリッと歯を鳴らします。
『艦名はクサナギ、宇宙戦艦クサナギさ。宇宙の果てまでだって飛んで行けるよ』
「それがお前の言っていた……とっておきか?」
『まあね。どうだい、すごいだろう?』
「たいしたもんだな。だけど、たった一隻じゃねえか」
金色のアンドロイドが、続々と到着し始めました。
デュランダルの周囲に集まり、攻撃準備を始めます。一対一では不利でも、アンドロイドと連携すればクサナギを圧倒できる、コハクはそう思いました。
「リンドウ。マレをこっちに引き渡せ」
『悪いが、マレは大切な仲間だ。副団長として、敵に仲間を渡すわけにはいかないね』
敵、というリンドウの言葉に、コハクの胸がズクリと痛みました。
「俺は、敵じゃねえっ!」
『ならコハクがこっちに来なよ。今なら、寛大な処置で許してあげるけど?』
「てめえ、状況が見えてねえのか!」
金色のアンドロイドの数は、およそ三千。
こんなにいるのなら最初からついてこさせろよと、腹が立つほどの数です。宇宙戦艦を名乗るクサナギであったとしても、この数を相手に勝てるとは思えません。
「お前らをどうこうするつもりはねえ! おとなしくついてこい! 俺がシオリのところへ案内する!」
『……コハク、シオリに会ったのかい?』
「会ったよ! お前らが消えたと思って、すげえ泣いてたんだよ! マレにもすげえ会いたがってるんだよ! だから一緒に来いよ!」
『それは天使も同意してるのかい?』
リンドウの問いかけに、コハクはすぐに返事できませんでした。
「……お前らが悪魔の味方でないとわかれば、天使は何もしねえよ」
だから、一緒に来てくれ。
みんなでシオリに会いに行こう。
『ふぅん……』
コハクの呼びかけに、リンドウはしばらく黙りました。
そして。
『ちょっと時間をちょうだい。みんなと話をするよ』
そう言って、リンドウはコハクとの通信を切りました。