04 助けに来たよ (6)
泣きながら仲間の手を取った魔女を、五人の勇者が笑顔で立たせました。
『ああもう、あんたは相変わらず泣き虫だね!』
『だって……だってぇ……』
『はい、泣き止む! 戦いはこれからだよ!』
泣きじゃくるマレを、リンドウがなぐさめています。でもリンドウの目にも、ちょっぴり涙が浮かんでいるようです。
(よかった)
カナリアがほっと息をついていると、シルバーがやってきて背後に立ちました。
「覚エテイル人ガイレバ、消エハシナイ、ノデスネ」
「……シルバー?」
振り向くと、シルバーが物言いたげな目でカナリアを見ていました。
「ミンナガ、覚エテイテクレレバ、ソレダケデイイ。カツテ、ソウ言ワレマシタ」
「……」
「デスガ、私ハ、決メマシタ」
「……何を?」
「コノ冒険ヲ、最後ノ思イ出ニナド、サセナイ。ソノタメニ、戦ウト」
シルバーは席に戻っていきました。
なんだったんだろうと、カナリアは首をかしげます。わざわざカナリアの席に来たということは、かつて言われたことというのは、カナリアが言ったことなのでしょうか?
──みんなに教えてもらいに行こう。
ふと、そんな言葉が思い浮かびました。
誰かの手を取ってそう言ったような、そんな気がしました。
いったいいつ、誰に向かって、そんなことを言ったのでしょうか。
『艦長!』
リンドウが呼びかける声が聞こえ、カナリアは我に返りました。
『お待たせ、話はついたよ!』
リンドウの言葉に、艦長が静かにうなずきます。
「カナリア。通信回線を開いてください」
「あ、はい」
不思議に思いながらも、今はやることがあるのだからと気持ちを切り替え。
カナリアはスイッチを押し、格納庫との通信回路を開きました。
◇ ◇ ◇
リンドウが呼びかける声に応え、壁にかけられていた大きなモニターにスイッチが入りました。
(艦長?)
誰だろうと首をかしげながら、マレは涙をぬぐい、顔を上げてモニターを見ました。
「え……?」
モニターに映った人を見て、マレは目を見張りました。
女の人でした。
白い軍服に身を包み、長い黒髪は一つに束ねています。
口元に笑みを浮かべ、優しいまなざしをしていますが、瞳の奥にはゆるぎない強い光がありました。
ですが、「世界の書」のどのお話にも、軍服姿の女性なんて登場しません。
いったいどこから現れたのでしょうか。
いえ、そんなことよりも、もっと驚いたことがあります。
艦長が、大人の女性だったことです。
「どうして……大人が……」
信じられませんでした。
シオリが作った世界に大人はいない、そのはずなのです。
「マレくん?」
ぼう然としているマレに、ハクトが声をかけました。しかしマレは驚きすぎて、ハクトの声に気づきません。
「あなた……だれ?」
マレは険しい顔になり、モニターの向こうにいる艦長に尋ねました。
「どこから来たの? どうしているの? 何をしに来たの?」
立て続けに発せられたマレの問い。まるで詰問するような口調に、勇者たちは驚きました。
ですが艦長は、優しいまなざしのまま、じっとマレの言葉を聞いていました。
「……助けを求める声が、聞こえました」
艦長は帽子を脱ぎ、静かに頭を下げました。
まるで、マレに謝っているようでした。
「だから、私はここにいます」
「……本当に?」
「はい」
「本当の、本当の、本当の、本当に? 本当に、助けに来てくれたの!?」
険しい声で何度も問いかけるマレ。艦長はただ静かに受け止め、うなずきます。
「信じてほしい。私は──あなたたちを助けるために来ました」
「そんなの……」
信じられない。
マレが、そう言い返そうとしたときでした。
「ピィッ!!!!!」
マレたちを取り囲んでいた妖精が、一斉に敬礼をしました。
妖精たちの突然の行動に、マレは驚きます。
「妖精さん……」
ぐるりと囲む妖精たちの顔には、決意と覚悟、そして、艦長への信頼がありました。
「ねえ……あなたたちは……いったい、どこから来たの?」
妖精たちに、マレは問いかけました。
その問いに答える声はありません。
でも、妖精たちは視線をそらすことなく、まっすぐにマレを見つめています。その力強い視線が、マレにこう語りかけているのです。
大丈夫。
この人は、大丈夫。
だから、どうか信じてほしい。
敬礼したまま、微動だにしない妖精たち。
マレの険しい視線を真正面から受け止め、まっすぐに見返してくる艦長。
そこに嘘や偽りは、見えませんでした。
「……本当に?」
マレは、絞り出すような声で、もう一度だけ艦長に問いました。
「本当に……助けてくれるの?」
「もちろん」
艦長は力強くうなずき返します。
「私は、そのために来たのです」
「約束……してくれる? 絶対に、助けてくれるって、約束してくれる?」
「お約束します」
艦長はきっぱりと言いました。
「私は、必ずあなたたちを──シオリを助けます」
一切の迷いのない、力強い言葉と瞳。
そんな艦長を見て、マレの顔から険しさが消えました。
そして、誰にも聞こえない声でつぶやきます。
やっと……やっと、来てくれたんだ、と。
「お願い……」
涙を必死でこらえ、マレは艦長に言いました。
「どうかシオリを……助けてあげて」
「必ず」
マレの言葉にうなずくと、艦長は脱いでいた帽子をかぶりました。
艦長の顔が引き締まり、目に鋭い光が宿ります。それを見た勇者と妖精は姿勢を正し、艦長の言葉を待ちます。
「総員に告げる!」
艦長の力強い声が、宇宙戦艦クサナギの中に響きました。
「本艦はこれより、魔女・マレとともに行動する。
途中、天使による妨害が予想される。本艦は全能力をもってこれを排除、シオリがいる『星の宮殿』を目指す」
「よしきた」と、勇者が気合を入れます。
「ピィーッ!」と、妖精たちが雄叫びを上げます。
勇者と。
魔女と。
星渡る船は。
今、一つとなったのです。
「総員、第一種戦闘配置。ただちに発進準備に取りかかれ!」
「おーっ!!!!!」