04 助けに来たよ (2)
マレを捕らえた勇者たちは、クサナギを小惑星に着陸させました。
「行こうか」
副団長リンドウに、ハクトたち勇者が続きます。
行き先は、クサナギの格納庫。
捕らえられたマレは、そこに連れて行かれたのです。
「行かなくてよかったの?」
一緒に行かず、艦橋に残ったカナリアは、艦長に問われ弱々しく笑いました。
「私……マレのこと、知らないから」
「そう」
艦長とシルバーも艦橋に残っていました。この二人もカナリアと同じで、マレのことは知らないのです。
(同じ……なのかな?)
カナリアはハクトの席に座ると、スイッチを押しました。
正面のパネルの映像が切り替わり、格納庫が映し出されます。
格納庫の中央に、ほうきと杖を取り上げられた魔女──マレが座らされていました。
その周囲を数百人の妖精が取り囲み、魔法銃を構えて監視しています。
本気を出せば、妖精なんてひとたまりもないはず。でも、マレは大人しくしています。
(あんなに怖かったのにな……)
かつてデュランダルに乗って戦った時、間近で見つめられ、とても怖いと思いました。
でも、今パネル越しに見えているマレは、全然怖くありません。あの灰色の仮面をかぶっていないからでしょうか。
(みんな……)
世界を滅ぼす、悪い魔女。
そんな魔女は、勇者としてやっつけなくちゃと思っていました。でも、疲れ切った、今にも泣きそうな顔のマレを見ていると、カナリアの心は痛みました。
そして、自然とこう思ったのです。
(魔女を、助けてあげて)
包囲していた妖精が割れ、リンドウたちが近づいていきます。うつむいていたマレが顔を上げ、泣きそうだった顔をギュッと引き締めました。
別れてから、長い時間が過ぎてしまいましたが。
勇者と魔女は、ようやく再会することができました。
◇ ◇ ◇
ほうきも杖も取り上げられてしまいました。
それでも戦うことはできたでしょうが、魔法銃を構えて、たくさんの妖精が取り囲んでいます。勝てたとしても、ここで力を使い果たしてしまっては、意味がないのです。
「ピィ……」
黒いツナギ姿の妖精五人が、申し訳なさそうな顔でマレの前に立ちました。
そっか、と。
あなたたちが、クサナギに私の居場所を知らせたんだねと、マレは力なく笑います。
(私は……『世界を滅ぼす魔女』だものね……)
妖精たちを責める気にはなれませんでした。勇者の仲間であれば、それは当然のことです。
「そんな顔しないで……怒ってない、から」
ざわめきが起こりました。
顔を上げると、妖精が道を開き、リンドウを先頭に勇者たちがやってくるのが見えました。
エンジニア・リンドウ。
医者・ハクト。
剣士・アカネ。
巫女・ルリ。
飛行士・ヒスイ。
頼もしい、そして懐かしい仲間たち。リンドウとはアジト近くの海で会いましたが、他の四人は本当に久しぶりでした。
でも、その中にカナリアの姿がありません。
(カナリア……どうしたんだろう?)
先ほど戦ったときにデュランダルの艦橋を見ましたが、そこにはコハクしかいませんでした。だとしたら、カナリアはこの船のどこかにいるのでしょうか。
(そういえば……あの子、どうやって戻ってきたんだろう?)
助けに行ったものの間に合わず、マレの腕の中で白い粉となって消えてしまったカナリア。消えてしまったら二度と戻ってこれない、そのはずなのに、どうやって戻ってきたのでしょうか。
(シオリ……あなたが何か、したの?)
五人の勇者が、マレの前で立ち止まりました。
リンドウが、一歩前に出ます。マレは黙ったまま、リンドウを見上げました。
「そんな怖い顔しなさんな。別に取って食いやしないって」
険しい顔のマレを見て、リンドウが肩をすくめました。
「ま、とりあえず。『星渡る船』へようこそ、マレ」
「え……」
リンドウの言葉に、マレは目を丸くしました。
星渡る船。
あの夜、降るような星空の下でシオリと語り合った、みんなで月へ行くための船。この「宇宙戦艦クサナギ」が、そうだというのでしょうか。
「ホント、手こずらせてくれたね。やっと話ができるよ」
「リンドウ……お願い」
マレは勇気を奮い立たせ、リンドウにお願いしました。
「私を、解放して。シオリが危ないの。もう時間がないの。お願い、行かせて」
「そうはいかない。あんたには色々聞きたいことがある」
ハクト、と、リンドウは振り向いて、白衣を着たツインテールの女の子に声をかけます。
「はいはい、ご指名かね?」
「手っ取り早く頼むよ」
「うむ、任せたまえ」
リンドウと入れ替わったハクトが、マレの前にしゃがみ込みました。
「久しぶりだね、マレくん。マッド・ドクター、ハクト様だよ。ちゃんと名前を覚えていてくれたかな?」
「……うん」
「いやいや、嘘はいけないよ、マレくん」
ハクトはおどけた仕草で肩をすくめます。
「君は私のことを、薬師ナギサの相棒である、ちょっと変わったお医者さん、としか知らなかったはず。そう、かつて君が言ったとおり、私は『名もなき勇者』だったからね」