04 助けに来たよ (1)
何もなかった空間に、大きなゆがみが発生しました。
そのゆがみから、宇宙の暗闇を切り裂くように、白銀に光る船が姿を現しました。
宇宙戦艦クサナギ。
デュランダルの倍はある巨大な船が、マレの行く手をさえぎります。
「う……そ……どう、やって?」
マレはぼう然としました。
「星の扉」の向こう側に、置き去りにしてきたはずでした。
たとえ「星の扉」をくぐったととしても、この広い宇宙で、マレの正確な位置がわかるはずがありません。いったいどうやって、こんなに正確に追いかけてこれたのでしょうか。
「クサナギ、ワープ完了!」
クサナギの艦橋では、リンドウがほっとした顔になっていました。
「エンジン異常なし、このまま航行可能!」
時間と空間を飛び越える、ワープ。
クサナギの巨大なエンジンをもってしても難しく、しかも一度もテストをしていなかったのです。ワープでマレを追いかける、それは一か八かの賭けでした。
「マレ、発見しました! 七時の方向、小惑星の影です!」
「四時ノ方向ニ、海賊船デュランダルモ、発見。正体不明ノ巨大ナ人形ト、戦闘中」
「あれは……ゴーレムです」
ルリとシルバーの報告にうなずくと、艦長は鋭い声で指示を出します。
「クサナギ反転! 魔女マレを捕える!」
「あいあいさー!」
ヒスイが元気よく答え、舵を大きく切りました。
「あの二人、戦ったのか?」
「そのようだね」
アカネの言葉に、ハクトがうなずきます。
計器には、異常な数値のエネルギー反応がありました。それはマレの魔力であり、デュランダルの魔導エンジンのエネルギーです。数値から、かなりのエネルギーがぶつかりあったことがわかります。
「どうやら、割って入る形になったようだね」
世界一の天才魔女、マレ。
魔導エンジンでパワーアップした、海賊船デュランダルに乗るコハク。
そんな二人がとことんやり合えば、どちらも無事ではすまなかったでしょう。突如クサナギが現れたことで、二人の戦いは中断したようです。
「とにかく、マレくんを捕まえよう! シルバーくん、デュランダルの監視をおこたらないでくれたまえ!」
「了解シマシタ」
反転してきたクサナギを見て、マレは慌ててほうきで飛び始めました。
デュランダルの倍の大きさ、桁違いの武装。まるで要塞のような威容に、マレは震えが止まりません。
(逃げなきゃ!)
マレは持てる限りの力で飛びました。
まともに戦ったら、絶対にかないません。デュランダルとの戦いでかなり消耗もしています。どうにかして見えないところへもぐりこみ、すきを見て逃げるしかありません。
ですがそんなすきを見せるような、甘い相手ではなさそうです。
(これが、シオリの……本心なの?)
行く手をはばむ小惑星帯。
アンドロイドと協力して戦う、コハク。
そして、宇宙戦艦クサナギ。
どれもこれもが、マレを止めるために現れたように思えます。
(来ないでと言ってるの? 私がやろうとしていることは、シオリにとって迷惑なの?)
そうかもしれないと、マレは思います。
マレがやろうとしていること、それを成し遂げた時には、シオリが作ったこの世界は消えてなくなるのです。シオリが喜ぶとは思えません。
「くっ……」
あっというまに、クサナギに追いつかれました。
巨大な主砲が、無数の機関砲が、ピタリとマレに狙いを定めました。
「このっ!」
ダダダダッ、と機関砲が火を吹き、マレはぎりぎりでかわしました。
マレは、くるりくるりと回って狙いを定められないようにします。しかし、当たらなくてもかまわないという感じで、次々と機関砲が火を吹きました。
(だめ……逃げられない……)
マレは右へ右へと追い立てられていきました。
誘導されていると気づきましたが、どうしようもありません。違う方へ行こうとすれば、猛烈な砲撃が行く手をはばむのです。
(シオリ……シオリ……)
はるか遠くで輝く赤い星が、あふれた涙でにじみました。
あの星にいるはずのシオリの元へ。
絶対に行くんだと、命をかけて誓ったのに。
今度こそ天使を倒して、シオリを助けると誓ったのに。
ここまで、なのでしょうか。
「ピィーッ!」
クサナギの右舷後方。
そこへ追い込まれたマレに、妖精が大声で警告しました。
「しまった!」
慌てて方向を変えようとしましたが、時すでに遅く。
マレは、機関砲の陰から飛び出してきた艦載機に取り囲まれ、丈夫なワイヤーでできた網で捕らえられてしまいました。
◇ ◇ ◇
突如現れた、白銀に光る巨大な船に、コハクも驚きました。
「な……なんなんだ、あの……船?」
コハクとの戦いで消耗していたとはいえ、マレをあんなにあっさりと捕まえるなんて、信じられませんでした。
いったいどこから来て、誰が乗っているのでしょうか。
はっきりしているのは、大きさも武装も、デュランダルより上だということです。
船の上下に四基もある巨大な砲塔。直撃すればデュランダルも一撃で沈むでしょう。
船全体にすき間もないほど備え付けられた機関砲、まるで要塞です。
そう、あれは戦うための船、戦艦です。
「戦う……船?」
コハクはハッとなりました。
シオリの部屋の隅に捨て置かれていた、ボロボロのノートに書かれた言葉。それを思い出したのです。
──どんな邪魔者にも負けずに飛んでいく。
──「星渡る船」は、そんな強い船。
まさか、と。
動き出した白銀の船を見つめ、コハクはぼう然とつぶやきます。
「あれが……星渡る船……なの、か?」
──星渡る船に乗って、月へ行こう!
シオリが探し求めていた船。
それがあの巨大な宇宙戦艦でしょうか。
だとしたらあの船に乗っているのは、リンドウたち、海賊団の仲間なのでしょうか。
「うおっ……!」
デュランダルが大きく揺れました。
マレが作ったゴーレムがアンドロイドをすべて破壊し、デュランダルを壊そうと組みついてきたのです。
「くそっ……めんどくさいもん、置いていきやがって!」
コハクは歯ぎしりしながら舵輪を握ると、ゴーレムを破壊すべく思い切り舵を切りました。