03 魔女 vs 海賊 (3)
弾き飛ばされたマレは、猛スピードで、漂っていた小惑星に激突しました。
「あ……ぐ……」
「ピィッ!」
衝撃で気を失いかけたマレを、妖精が大声で起こしてくれました。同時に、襲ってきたアンドロイドを大砲で撃退してくれます。
「うっ……ぐっ……」
痛みをこらえ、ほうきにまたがると、マレは大急ぎで飛び上がりました。
直後、オレンジ色の光が小惑星を撃ち抜きます。デュランダルの砲撃です。直撃していたら、魔法の壁でも防ぎきれなかったでしょう。
「コハク……」
本気だと、マレは思い知りました。
コハクは本気で、マレを倒そうとしているのです。
「コハク。ねえコハク! シオリに、何があったの!?」
コハクは、本当にシオリのことが大好きでした。
海賊団はコハクとシオリの二人が始めたもの、マレが参加する前は、シオリと一番仲が良かったのはコハクなのです。
そのコハクがここまで必死になるということは……そう考えて、マレは怖くなってしまいます。
「……行かなきゃ」
だとしたら。
コハクが必死になるほどのことが、シオリに起こっているのなら。
コハクを倒してでもシオリのところへ急がなきゃと、マレは杖を握りしめました。
「土塊よ集え。巌となりて、人形となれ」
マレが呪文を唱え杖を向けると、漂っていた小惑星がぶるりと震えました。大きな小惑星を中心に、いくつかの小惑星が集まって人の形となっていきます。
「真理の光、大いなる命の息吹となれ。人形よ、我が意に従う者となれ!」
emeth。
それは「真理」を意味する古い言葉。
杖の先を軽やかに動かし、人形の額に魔法の力でその言葉を刻むと。
「Guoooooo!」
小惑星でできた巨大な人形が動き出し、咆哮を上げました。
「ゴーレムか! くそったれが!」
コハクが舌打ちします。岩石でできたゴーレムはとても頑丈で、やっかいなのです。
ゴーレムが、デュランダルに突進してきました。コハクはデュランダルを急旋回させ、ゴーレムの突進をかわします。
「アンドロイドッ、ゴーレムを何とかしろっ!」
「リョウカイ」
マレを追っていたアンドロイドが、ゴーレムに殺到しました。アンドロイドの追撃から逃れたマレは、包囲を抜け出し、先へ進もうとします。
「行かせるかっ!」
そうはさせないと、デュランダルの大砲が火を噴きます。
いくつものオレンジ色の光が、マレに向かって伸びていきます。
「魔法の……矢!」
マレは魔法を放ち、デュランダルが放ったエネルギー砲を迎え撃ちます。
「甘いんだよっ!」
「くっ……」
デュランダルは間髪入れずに次の砲撃を繰り出します。呪文が間に合わず、マレは慌てて小惑星の陰に隠れて砲撃を逃れました。
その小惑星を。
「ありったけ、ぶち込めぇっ!」
デュランダルが集中砲火を浴びせ、粉々にしてしまいました。
「うそっ!」
粉々になった小惑星が、弾丸となって飛んできました。
魔法の壁がはじけ飛びました。慌てて風を起こして岩石の軌道を変えましたが、大きな岩石は軌道が変わらず、まっすぐに飛んできます。
「ピィーッ!」
妖精が大砲を撃って、ギリギリで防いでくれました。
石つぶてを浴びながら、マレは急いで魔法の壁を作り直します。そして、全速力でデュランダルから離れようとしました。
ですが、デュランダルはあっという間に追いついてきます。
「コハ……クぅっ!」
「マレぇっ!」
逃げられない。
逃がさない。
二人は、覚悟を決めます。
誓いを果たす。
約束を守る。
そのためならばと、杖を手に取り、舵を回し。
お互いに、全力の一撃を放ちます。
「魔法の矢!!!」
「撃てぇっ!!!」
二人の強い意志が、正面から激突しました。
無数の光がぶつかり合い、弾けた衝撃で、その宙域一帯が大きく震えました。
「きゃっ!」
「うわっ!」
ぶつかり合う大きなエネルギーにあおられて、マレは吹き飛ばされてしまいました。デュランダルも大きく揺れ、コハクは舵輪から手を滑らせて転んでしまいました。
「ゴ……ゴーレムッ!」
ほうきにしがみついて、どうにか耐えたマレが、杖を振って叫びました。
アンドロイドと戦っていたゴーレムが、デュランダルへと突進します。そして、デュランダルの船首にがっしりとしがみつきました。
「そのまま押さえて!」
「このやろう! 逃すか!」
コハクは慌てて飛び起き、舵輪を握りました。
「エンジン、フルパワーッ!!」
「Guoooooo!」
マレを追おうとするデュランダルを、ゴーレムが振り回しました。デュランダルは進路を妨害され、あらぬ方向へと進んでしまいます。
「くそっ! アンドロイド、さっさとゴーレムを破壊しろ!」
今だ!
デュランダル、アンドロイドとも、ゴーレムに気を取られています。
チャンスです。
残った魔力で全速力を出せば、デュランダルから逃げきれるはずです。
「妖精さん、つかまって!」
ほうきにまたがったマレに、妖精が飛び乗ります。
マレは、遠くに見える赤い星を見すえ、ほうきに魔力を送り込みます。
そして、今まさに飛び出そうとした、その時。
ドォォォンッ、とすさまじい音がして、時空が大きく揺れました。