03 魔女 vs 海賊 (2)
デュランダルが、マレを発見したようです。
マレの行く手をさえぎるように動き出します。やむなくマレがスピードを落とすと、マレに向けて、デュランダルの甲板で光が点滅しました。
ハ・ナ・シ・ガ・ア・ル。
ト・マ・レ。
サ・モ・ナ・ク・バ。
コ・ウ・ゲ・キ・ス・ル。
信号を読み取り、マレは迷いました。
天使とともに、「星の宮殿」へ行ってしまったコハク。コハクは、シオリに何が起こったのか知っているのでしょうか。だとしたら、おとなしく止まって、何が起こったのかコハクに聞いた方が早いのでしょうか。
でも、どうして金色のアンドロイドと一緒で、しかも臨戦態勢なのでしょうか。
「コハクなの? それとも……」
ゾクッとマレの背筋が震えました。
デュランダルに乗っているのが、コハクではなく天使だったら、止まった瞬間に包囲され、攻撃されるでしょう。
(そうなったら……おしまいだ)
マレは杖を握る手に力を込めました。
もう時間がありません。
本当の終わりが始まっているのです。ここで足止めされてしまっては、間に合わなくなります。
(ここは、行くしかない!)
マレは杖を掲げ、全力で魔力を込めました。
「光、集いて敵を穿て……」
無数の光がマレの周囲に生まれ、広がって行きます。この一撃で相手をひるませ、そのすきにデュランダルをかわして、進むしかありません。
それを見た、コハクは。
「……そうかよ、止まらねえのかよ」
ギリッ、と歯を食いしばりました。
マレが呼びかけに応じ止まってくれるなら、もう一度話をしようと思っていました。そして、大人しくついてきてくれるのなら、シオリのところへ連れて行こうと思っていました。
しばらくシオリと過ごして、コハクはよくわかったのです。
もういいと言いながら、シオリが、誰よりもマレに会いたがっていることを。
シオリにとって、マレは本当に特別な友達なのだと。
だからこその警告でした。
でも、マレは止まらず、それどころか攻撃態勢になりました。
「決まりだな」
マレは、復讐のために世界を滅ぼし、シオリを傷つけようとしている。
天使のその言葉を、信じるしかないようです。
「だったら……ここで俺が、返り討ちにしてやらぁっ!」
コハクは勢いよく舵輪を回しました。
船の側面、すべての大砲に火が入り、マレを狙います。
「全砲門、撃てぇー!」
「魔法の矢!」
どちらも望んでいない、そんな戦いが始まりました。
大砲から放たれたオレンジ色の光と、マレが放った魔法の光が激突します。無数の爆発が起こり、巻き込まれた小惑星が粉々になってしまいました。
「今だ!」
「行かせねぇ!」
爆煙にまぎれて先へ進もうとしたマレですが、コハクは巧みな操艦で行く手をふさぎ、先へ行かせません。
「くっ……」
マレは急停止に急上昇を繰り返し、なんとかデュランダルをかわそうとしました。
しかし二百体のアンドロイドがデュランダルと連携して攻撃してくるので、かわすことができません。
「ピィッ!」
二人の妖精が大砲で援護してくれますが、数が多すぎます。アンドロイドに行く手をさえぎられ、そうしているうちにデュランダルが向きを変え、またマレを攻撃してきました。
「このっ!」
くるくると飛び回って砲撃をかいくぐり、マレはデュランダルの艦橋に近づきました。
分厚いガラスの向こう側、艦橋の中央でデュランダルの舵を握っているのは──三角帽子にマントを羽織った女の子、コハクでした。
「コハク!」
海賊団で一番勇敢で、誰よりも仲間を大切にする名船長。
そのコハクが攻撃してきたという事実に、マレはとても悲しくなりました。
「お願い、行かせて、コハク! 私は、シオリを助けたいの!」
声を限りに叫んでも、分厚いガラスの向こうにいるコハクには届きません。コハクはマレをにらみつけるように、じっと見ているだけです。
「ピィーッ!」
妖精が声をあげました。追ってきたアンドロイドが取り囲み、一斉に攻撃をしてきたのです。
「このぉっ!」
マレはすかさず杖を振り、強力な魔法の壁を作り出してアンドロイドの攻撃を防ぎます。
「ど……いてぇっ!」
マレがもう一度杖を振ると、魔法の壁が一瞬で矢に変わり、取り囲むアンドロイドをなぎ払いました。素早くほうきを操って包囲を抜け、追いすがるアンドロイドを魔法で蹴散らします。
そこへ、急旋回したデュランダルが突っ込んでしました。
「あぅっ!」
アンドロイドに気を取られていて、反応が遅れました。間一髪で魔法の壁を作りましたが、デュランダルに体当たりされ、マレは魔法の壁ごと弾き飛ばされてしまいました。