05 妖精 vs アンドロイド軍団 (2)
「守備隊、第二隔壁確保。水門が開きました!」
「発進路への注水を確認。満水になるまで、約十分!」
ルリとハクトの報告に、艦長の目が鋭く光りました。
「シルバー、エンジン状況は?」
「魔導エンジン、フル稼働中。光子エンジン、エネルギー充填率、五十パーセント」
「魔導エンジンのエネルギーで、発進は可能か?」
「浮力ガ得ラレレバ、補助エンジンデ、発進可能」
「浮力が得られる深さまでは、何分か?」
「約五分デス」
よし、と艦長はうなずきます。
「ルリ、守備隊の状況は? アカネ、援護は可能か?」
「第一隔壁へ向かう途中で、多数のアンドロイドに阻まれています!」
「混戦で、機銃での援護は不可! 妖精にも当たるよ!」
「魚雷、使えるか!」
「魚雷……発射管が水中に沈めば!」
「では、発射可能になり次第、魚雷発射! 第一隔壁直下で爆破するよう設定せよ!」
「了解!」
「ハクト、魚雷発射後に船台固定具を解除! 発進体勢に入れ」
「了解した!」
艦長が次々と指示を出し、艦橋内の緊張が高まっていきました。
いよいよクサナギが発進するのです。そう思うと、カナリアの手にも汗がにじんできました。
(大丈夫……きっと、クサナギは飛び立つよ)
道を開こうと奮戦する妖精たちが、パネルに映っています。
傷つき、何度も倒れながらも、また立ち上がって戦い続ける妖精たち。どうか間に合ってほしいと、カナリアは祈ります。
(もうじきだよ。もうじきクサナギが、行くからね!)
クサナギの周囲に水が流れ込み、船体が徐々に水に包まれていきます。
一分が過ぎ、二分が過ぎ、三分、四分……そして、五分が過ぎました。
「魚雷発射口、水中ニ沈ミマシタ。魚雷、発射可能デス!」
「魚雷、三番から六番まで装填!」
シルバーの報告に、アカネが素早く指示を出します。
「魚雷、撃てっ!」
アカネの号令とともに、クサナギの船首から四本の魚雷が放たれました。
それを見て、ハクトが素早くキーを叩きます。
「船台固定具、解除するよ!」
ガコン、と音がして、縛めを解かれたクサナギが、大きく、ゆっくりと揺れました。
「魚雷爆発まで、あと五秒……四、三、二、一、爆発!」
ドォンッ、と大きな爆発音が響きました。
第一隔壁からです。パネルには、直前で回避した妖精たちと、魚雷で吹き飛んだアンドロイドが映っていました。
「魚雷、第一隔壁直下で爆発! アンドロイド、退きました!」
アンドロイドが吹き飛ばされたところに、妖精たちが最後の突撃を開始しました。
それを見て、艦長が決断します。
「魔導エンジン・アルファ、エネルギーを推進機構へ接続! ベータは光子エンジンへの充填を続行!」
「リョウカイ。魔導エンジン・アルファ、エレルギー回路切リ替エ。補助エンジン、始動シマス」
ゴォォッ、と低い音が響き、クサナギがゆっくりと動き始めました。
おおっ、と勇者のみんなが声をあげます。
(わ……すごい!)
デュランダルとは違う力強さに、カナリアも思わず笑みが浮かびました。
『こちらリンドウ! 光子エンジン、起動シーケンス継続! 点火まであと二十分だよ!』
「ルリ、基地外の状況を確認!」
「了解! 現在、基地外に多数のアンドロイドあり。総数……ふ、不明です!」
レーダーを埋め尽くす、ものすごい数のアンドロイドにルリが息を呑みました。
ですが、艦長はひるみません。
「総員、第一種戦闘配置!」
艦長の力強い指示が、艦橋に響きます。
「ハクト、操艦支援機能、防御モードに設定! アカネ、全機銃、安全装置解除!」
「了解。操艦支援機能、防御モードに設定、起動!」
「全機銃、安全装置解除!」
「艦、発進路へ進め! 守備隊とともにアンドロイドを撃破する!」
「はいっ!!!!!」
◇ ◇ ◇
猛スピードで進んできた魚雷が、洞窟の入口をふさぐアンドロイドの真下で爆発し、多数のアンドロイドが吹き飛ばされました。
劣勢だった妖精たちですが、ここが好機と、最後の力を振り絞ります。
『突撃ぃーっ! 勇者のために、道を開けぇーっ!』
『おぉーっ!』
司令官を先頭に、妖精たちが最後の突撃を始めました。
妖精はもう、百人も残っていません。それに対し、アンドロイドは圧倒的な数で押し寄せてきます。
それでも、誰一人あきらめようとしませんでした。
なぜなら、ここにいる妖精全員が、知っているからです。
あの泣き虫の魔女が、たった一人で戦い続けたことを。
何度も打ちのめされながら、決してあきらめなかったことを。
『それを……思えば!』
あきらめない。
決して、あきらめない。
灯り続ける希望の光に、勇気を届けるために。
『死力を尽くせぇーっ!』
倒しても倒してもやってくるアンドロイドに、一人、また一人と妖精たちが倒れていきます。しかし、後に続く者がそれを乗り越え、アンドロイドを押し返さんと武器を振るい続けます。
『来たぞぉーっ!』
妖精の一人が、大声をあげました。
その声に振り返り、司令官も思わず「おおっ!」と声をあげました。
闇の中から、白銀に輝くクサナギが姿を現したのです。
その雄姿に、妖精たちは奮い立ちます。
「ナンダ」
「アレハ、ナンダ」
姿を見せたクサナギに、アンドロイドたちが驚きました。
「ダメダ」
「アレハ、ダメダ」
「ココカラ、ダスナ」
「ココデ、シズメロ」
「ココデ、ケセ」
アンドロイドが、一斉に突撃してきます。そして妖精には目もくれず、基地を出ようとするクサナギに向かいます。
『いかん、クサナギを守れぇっ!』
妖精たちが必死で反撃しました。
クサナギも機銃で迎撃しました。
ですが、アンドロイドの数が多すぎました。
──シズメロ!
無数のアンドロイドが、一つの意思となってクサナギに殺到しました。
クサナギが洞窟を出た直後を狙って、まるでミサイルのように降り注ぐと。
数えきれないアンドロイドが、クサナギを巻き込んで、大爆発を起こしました。
「!!!!!」
声にならない悲鳴が、あちこちで上がりました。
爆炎に包まれるクサナギを見て、守備隊の妖精たちはぼう然としました。
そんなバカな、と思いました。
妖精たちの想いを乗せて飛び立つはずのクサナギが、目の前で沈んだなんて信じられませんでした。
「……ピィ」
一人、二人と、その場に崩れ落ち涙をこぼしました。
こんな結末があるでしょうか。
戦いはこれから始まるはずだったのに、これで終わってしまったのでしょうか。
『しっかり……せんかぁっ!』
泣き崩れる妖精たちを、司令官が大声で叱り飛ばしました。
『目を開いて、よく見るんだ! クサナギは、沈んでいない!』
司令官の言葉に、妖精たちがハッとして顔をあげました。
基地入口に立ち込めた爆炎が、風に吹かれて晴れていきます。
そこには、白銀に光る巨大な船──宇宙戦艦クサナギが、青い光に守られて無事な姿を見せていました。