05 妖精 vs アンドロイド軍団 (1)
武器を手にした妖精たちが、勇ましい声をあげて発進路へ突入していきました。
誰一人ひるむことなく、決意と覚悟に満ちた顔をしています。
「カナリア」
パネルに映ったその様子を食い入るように見ていたカナリアに、艦長が声をかけました。
「いつまでも立っていないで、座りなさい」
「……うん」
カナリアは、シルバーの頭を抱えて機関士席に座るよう言われました。
体のないシルバーが椅子から落ちないよう、しっかりと抱えてシルバーをサポートする。それがカナリアに与えられた役割です。
「ヨロシク」
「うん」
椅子に座ると、カナリアはシルバーの頭を膝に乗せ、パネルに映った妖精たちの戦いを見守りました。
「守備隊、第三隔壁に到着しました!」
「隔壁、開くよ!」
ルリの報告にハクトが答え、忙しくキーを叩きました。
ガコン、という音がパネル越しに響き、第三隔壁が開いていきます。
その先にいたのは、金色のアンドロイドです。
通路を埋め尽くすようにひしめいていて、妖精たちの何倍もの数が待ち構えていました。
『ピィーッ!』
しかし、妖精たちはひるむことなく突撃しました。一体たりとも通さないという鬼気迫る勢いで、数に勝るアンドロイドを押し返していきます。
「アカネ」
それを見て、艦長がアカネに確認します。
「火器は使用できるか?」
「ええと……艦前方の機銃、約二十基が使えそう!」
「では、守備隊が第二隔壁へ進むときに、援護射撃せよ」
第三隔壁は、妖精たちが奪還する。
それを信じている艦長の指示に、アカネは力強くうなずきます。
「了解!」
「魔導エンジン、二基トモ、最大出力ニ到達。光子エンジン、エネルギー充填率、三十五パーセント」
アンドロイドを押し返そうと、必死で戦う妖精たち。
クサナギを発進させようと、忙しく働く勇者たち。
そんなみんなを見て、カナリアはぎゅっとシルバーの頭を抱き締めました。
「ドウシマシタ、カナリア」
「……私だけ、何もしてないな、て思って」
仕方ないのかもしれません。カナリアは戦いとは無縁のパティシエで、まだ十歳なのですから。
だけど、みんなが必死で戦っているときに何もしていないことが、心苦しくてたまりませんでした。
「君の仕事は、ちゃんとある」
カナリアのつぶやきが聞こえたのでしょう、艦長が静かな声で告げました。
「みんなの食事を作るという、大仕事がね」
「そうだよ、カナリア」
「大変ですよ、妖精さんも含めて、千人近くですからね」
「おいしいの、たのむねー!」
「うむ、腹が減っては戦はできぬ、と言うからね」
艦長に続いて、みんながカナリアを振り向き、笑顔を浮かべました。
「だから、今の君の仕事は、みんなを信じることだ」
妖精たちが、アンドロイドを押し返すと。
勇者を乗せたクサナギが、基地を脱出し、空へはばたくと。
そう信じることが、今のカナリアの仕事なのだと艦長は言います。
「うん……信じる」
カナリアは艦長の言葉にうなずくと、再びパネルに目を向けました。
◇ ◇ ◇
総数の四分の一を失うという犠牲を払いながらも、妖精たちは第三隔壁を確保しました。
『二十名、残れ! 残りはこのまま行くぞっ!』
『おうっ!』
休む間もなく、司令官たちは第二隔壁へと進みました。
倒しても倒しても、アンドロイドたちは押し寄せてきます。いったいどれほどの数が、基地にやってきているのでしょうか。
ですが、あきらめるわけにはいきません。
どれほどの数が来ようとも、すべてを倒し、クサナギが飛び立つ道を作らなければならないのです。
『クサナギより連絡! 援護射撃、来ます!』
『壁に貼り付けぇっ!』
司令官の号令に、妖精たちが素早く洞窟の壁に張り付きました。
間髪入れず、クサナギの機銃が放たれます。
「ナンダッ!?」
予想外の攻撃に、アンドロイドたちは次々と撃ち落とされました。
「ナニガ、イル?」
「コノ、オクニ、ナニガ、アル?」
『今だ、かかれぇーっ!』
浮足立ったアンドロイドたちに、妖精たちが一斉に攻撃しました。
アンドロイドたちが、次々と落とされていきます。しかし、妖精たちの反撃を知って、基地外にいたアンドロイドが続々と洞窟へ侵入してきます。
「オシ、ツブセ!」
『ひるむなぁっ! 押し返せぇーっ!』
『司令官に続けぇっ!』
先頭を切って飛び込んだ司令官に、妖精たちが続きました。すさまじい激戦となり、一進一退の攻防となります。
そこへ、クサナギの援護射撃が再び放たれました。
「ナンダ!?」
アンドロイドの壁が崩れ、妖精たちが攻勢に出ます。
「ナニカ、イル!」
「オクニ、ナニカ、イル!」
「イチド、ヒケ!」
不利を悟ったか、アンドロイドがいったん引きました。
そのすきに妖精たちは第二隔壁を確保し、態勢を整えます。
『残りは?』
『およそ半数!』
予想以上の損害でした。
しかも、残った妖精も無傷な者は一人もいません。
『あちらも、クサナギに気づいただろう』
もう不意打ちは効きません。おそらくアンドロイドたちは、万全の態勢で攻め寄せてくるでしょう。それに、洞窟を出て広い場所に出れば、数で勝るアンドロイドたちが圧倒的に有利となります。
それに対し妖精たちは、半減し、手負いの者たちばかり。
ですが、逃げようとする妖精は一人もいませんでした。
『水門、すべて開け! 発進路に水を入れろ!』
『了解!』
数名の妖精が素早く動き、水門を開きました。
洞窟の中に湖の水が流れ込み、満たしていきます。これでクサナギは浮力を得られるはずです。エンジンの出力が多少低くても、発進することができるでしょう。
あとは、出口を確保するのみです。
『行くぞ! なんとしても、アンドロイドを押し返す!』
『おぉーっ!』