04 艦名・クサナギ (3)
この船にふさわしい名前は何でしょうか。
月を超え、はるか遠くの星へと、勇者を乗せて旅立つ船です。適当な名前でいいはずがありません。
「そういえば……」
心配そうに見ている勇者たち。そのうちの一人と目が合い、艦長は尋ねました。
「ヒスイ。君が乗っていた飛行機の名は確か……」
「アゾット号、だよー」
「ふむ……ハクト、君たち勇者が乗っていた海賊船は?」
「デュランダル、だね」
なるほどと、艦長はうなずきました。
「アゾットにデュランダル、どちらも伝説の剣の名前……ですね?」
「うむ、そうなるね」
ならばこの船も、それにならうべきでしょう。
「剣、か……」
艦長は静かに目を閉じました。
伝説の剣、神の力を宿した剣、歴史上の名剣、人に仇なす魔剣。様々な剣の名前が、艦長の脳裏に浮かびます。
さてどの名前がふさわしいかと、指先で机をたたき続けました。
シュッ、と艦橋の扉が開く音が聞こえました。
やって来たのはカナリアでしょうか。どうしていいかわからないのでしょう、入口のところで立ち止まったままのようです。
(ん?)
じっとこちらを見ている視線を感じました。
この視線の感覚──なぜでしょう、何度も感じたことがあるような、そんな気がしました。
(カナリア……君はいったい……?)
疑問に思い、目を開けようとした時──艦長の脳裏に、とある光景が浮かび上がりました。
光となって宇宙を行く、白銀の大きな船が見えました。
その船の行く手には、いばらでできた巨大な壁が立ちふさがっていました。
上下左右どちらを見ても、果てがありません。壁の向こうにあるはずの星もまったく見えない、とても分厚い壁です。
しかし、白銀の船は止まりません。
立ちふさがる壁にまっすぐに飛び込むと、いばらを切り裂き、砲撃で焼き払い、力強く進んでいく──そんな光景が見えたのです。
「……ふむ」
コツン、とテーブルを指先で叩き、艦長は目を開きました。
艦長の答えを待つ妖精たちが、正面のパネルに映っています。
五人の勇者たちも、固唾を飲んで艦長を見守っています。
そして、艦橋の入口では、黄色いツナギに着替えたカナリアが、静かに艦長を見つめています。
「いばらの壁を、砲撃で焼き払って道を開く……それがこの船の行く道ならば」
艦長はマイクを手に取り、力強く宣言しました。
「総員に告ぐ! 本艦、艦名をクサナギ……宇宙戦艦クサナギとする!」
◇ ◇ ◇
艦長が艦名を宣言すると、キラリ、と船がまたたくように光りました。
どれだけ調べても開かなかったエネルギー回路が、静かに開いていきます。エネルギーが流れ込んだ光子エンジンがうなりを上げ始め、船の機能が次々と動き始めます。
『おお……!』
船外でそれを見ていた妖精たちは、一瞬静まりかえり──すぐに、爆発するような歓声をあげました。
『クサナギ……宇宙戦艦クサナギ! すばらしい名前です、艦長!』
「ピィーッ!!!」
ありがとう、という艦長の声が、船外マイクを通して響きました。
「星渡る船」はついに目覚めたのです。
名前を得た船は、勇者を乗せ、力強く羽ばたくことでしょう。
そしてきっと、万難を排し、シオリの元へ──宇宙の彼方にある、「星の宮殿」にたどり着くはずです。
『むっ!?』
ドォンッ、という大きな爆発音が、また響きました。
さきほどよりも近く、そして大きい爆発です。
『……第二隔壁も突破されたか』
司令官は厳しい顔になりました。
正門も含め、隔壁は全部で四つ。残りは二つです。
目覚めたばかりのクサナギが飛び立つには、もう少し時間がかかるはずです。そして、飛び立つためには、道が必要です。
『守備隊、整列っ!』
司令官の号令に、船外にいた妖精たちが素早く隊列を整えました。
『翼は目覚めた! これより、翼が飛び立つための、道を切り開く!』
『おぉーっ!』
司令官の声に、妖精たちは力強い声で答えました。
『クサナギ、聞こえるか! 基地の全コントロールをそちらに譲渡する!』
『了解……コントロール、譲渡を確認!』
通信回線越しに、ハクトの声が聞こえました。
『われら、これより発進路へ突入し、アンドロイドを排除する。進路確保後、発進されたし!』
『……了解した』
一瞬のためらいを見せた艦長ですが、静かな声で簡潔に答えました。
きっと、司令官以下、守備隊の覚悟を感じ取ったのでしょう。
『後は頼みます、艦長』
司令官は通信を切ると、武器を手に、第四隔壁の前に立ちました。
その背後に、守備隊の妖精たちが整然と並びます。
全員、完全武装です。
どの妖精も、決意と覚悟に満ちた顔をしています。そんな妖精たちに、力強くうなずいた司令官は、ゆっくりと剣を抜き、高々と掲げました。
『第四隔壁、開けぇっー!』
司令官の号令に、ガコン、と大きな音を立てて隔壁が開きました。
爆発音が響いてきます。アンドロイドが第三隔壁を破ろうとしているのでしょう。そこを突破されるわけにはいきません。
『われらが覚悟、ここで示せ! 皆の者、続けぇーっ!』
『おおーっ!』