04 世界を滅ぼす魔女 (1)
デュランダルが港を出て、丸二日になろうとしていました。
「世界を滅ぼす魔女」がいる島はもうすぐです。デュランダルに乗る六人は準備を整え、魔女との戦いに備えました。
「マモナク、センポウ、タイ、ガ、ホウイ、ヲ、カイシ、シマス」
先鋒隊の船二十隻が島を取り囲み、魔女を逃さないようにする。それから、空母から飛び立った戦闘機が空から攻撃し、島を飛び出してきた魔女を捕えて天使に引き渡す。
それが勇者の船団の作戦でした。
包囲網は一つだけでなく、二重、三重にしかれています。最初の包囲を突破されたら次の包囲が、それが突破されたら次の包囲がと、波状攻撃を仕掛けることになっています。
ちなみにデュランダルは、包囲網の一番外側です。海賊は「先鋒隊に入れろ!」と言ったのですが、「女子供をまっさきに戦わせるなんざ、戦士の恥」と言われて、渋々引き下がりました。
「……魔女、大丈夫なのかな?」
作戦を聞いて、パティシエは心配になりました。いくら強い魔女でも、大砲を次々と撃たれたらひとたまりもないかもしれません。
「やっつけるんじゃなくて、捕まえろ、て言われてるんだよね?」
「まあ、やりすぎって気はするな。けど、相手は『世界を滅ぼす魔女』だぜ?」
「うむ。ひょっとしたら、その程度の攻撃はなんでもないかもしれないね」
「えー、でもそうだとしたら、どうやって魔女を捕まえるのさー?」
飛行士の質問に、海賊が首をかしげて医者を見ました。
「……どうするんだ、おい?」
「いやいや海賊くん、私に聞かれても」
「お前、作戦担当だろうが。お前に聞かずに誰に聞くんだよ」
「はっはっは。海賊くん、年上をお前呼ばわりは、感心しないよ」
「そうですよ、海賊さん。ちゃんと『医者さん』とお呼びしましょう」
「おっと。できれば個性的に、マッド・ドクターと呼んでくれたまえ」
「話ごまかすんじゃねえよ!」
おどける医者にツッコミを入れる海賊を見て、パティシエはくすくす笑いました。
乱暴な口調ですぐ怒る海賊ですが、慣れてくるとナマイキな妹みたいで、ちょっとかわいいのです。たぶん他のみんなも同じように感じているのでしょう。
「おいこら、なに笑ってるんだパティシエ」
「な、なんでもない、なんでもない」
「……ったく、どいつもこいつも。もう戦いが始まるってのに、緊張感なさすぎだろ」
海賊がほおを膨らませました。その様子がやっぱりかわいくて、パティシエはまた笑いました。
その時です。
「……なんだ?」
剣士が声を上げました。
はるか前方で、巨大な光が空から海に向かって落ちました。数秒たって、ドォンッ、という大きな音が響いてきます。
「雷、でしょうか?」
「この晴天で? おかしいだろ」
巫女と剣士が首をかしげていると、光が落ちたあたりの海が、ゆっくりと盛り上がっていくのが見えました。
「やべえっ!」
それを見て、海賊が真剣な顔になり、慌てて舵輪にしがみつきました。
「でけえ波が来るぞ! 何かにつかまれ、揺れるぞ!」
「何事かね!?」
「知るかよ!」
数分後、海賊が言った通り大きな波が押し寄せてきました。デュランダルを丸ごと飲み込んでしまいそうな、そんな大きな波です。
「このぉっ!」
「光よ壁となれ、我らに守りを!」
海賊が必死になって舵輪を操り、巫女が光の壁を作って船を守りました。
ドン、ドン、と叩きつけられるような波に、デュランダルはひっくり返るのではないかというぐらい揺れました。もしも巫女が光の壁を作らなければ、デュランダルは間違いなく転覆していたでしょう。
「び……びっくりしたー」
なんとか波を乗り越え、みんなホッとした顔になりました。
「ケガをした者はいないかね?」
医者の呼びかけに、パティシエたちは首を振りました。全員波をかぶってずぶ濡れですが、ケガはしていません。
「おいアンドロイド!」
海賊の呼びかけに、アンドロイドは静かに振り向きました。
連絡係として乗り込んでいたアンドロイドも無事のようです。あれだけ揺れたのに尻餅をつくこともなく、甲板の上に静かに立っていました。
「何があった!」
「ワカリ、マセン。ジョウキョウ、カラ、ナニカ、オオキナ、バクハツ、ガ、アッタト、オモワレ、マス」
「そんなの俺でもわかるっての」
「バクハツ、ガ、オキタ、ノハ、マジョ、ガ、イル、シマ、ノ、アタリ」
「まあ、そうだろうね」
医者が立ち上がり、「他に情報は?」とアンドロイドに尋ねました。
「ソレ、イジョウ、ノ、ジョウホウ、ハ、アリマセン」
アンドロイドは医者に目を向け、淡々と答えました。
「センポウ、タイ、オヨビ、ホンタイ、トノ、ツウシン、トゼツ。ジョウホウ、ガ、ニュウシュ、デキマ、セン」