艦長到着 (1)
助けて。
それは、とても小さな声でした。
聞こえなかったことにしてもいい、そんな小さな声でした。
でも、聞こえてしまったのです、はっきりと。
行かなければ、と思いました。
急がなければ、と焦りました。
その声に応えられるのは、きっと、私だけなのだから。
もう時間は、ほとんど残されていないのだから。
◇ ◇ ◇
ちゃぷん、と響く水音に目を覚ましました。
真っ暗な空が見えました。
月もない、星もない、ただただ真っ暗な空でした。
目の前には大きな湖がありました。
水面がうっすらと光っていて、かろうじて近くのものは見えます。だけど遠くは、闇に包まれて何も見えませんでした。
「ここは……どこ?」
ゆらゆらと揺れる水面をのぞくと、髪の長い、白い服に身を包んだ三十歳前後の女性が映っていました。
「私……?」
手を動かすと、水面に映った女性も手を動かします。確かに自分のはずなのに、なぜかそうだという自信が持てません。
しかも、です。
「これ……軍服?」
上は白い詰襟の長袖、肩に星マークの入った紺色の紋章。
下はピシッとした白いスラックス。
頑丈な靴も白色です。
頭には、黒く短いツバのついた、しっかりとした作りの帽子が乗っています。
いったいどうして、軍服なんて着ているのでしょうか。
「ピィ!」
不意に、足元から小さな声が聞こえました。
驚いて足元を見ると、くるぶしの高さほどの、ツナギ姿の小人──後に「妖精」と呼ばないと怒られるとわかります──がいました。
「ピピッ!」
目が合うと、妖精は直立不動の姿勢となり、びしっと敬礼をしました。思わず敬礼を返すと、妖精は敬礼をやめ、ピィピィと早口で何かをまくしたてました。
「え……いや、あの……」
早口すぎて、何を言っているのかよくわかりません。
どうしたものかと困りましたが、妖精はお構いなしに「ついてくるように」という仕草をして歩き始めました。
大丈夫だろうか、と思いましたが、他に行くあてもありません。歩き始めた妖精について行くことにしました。
しばらく歩いていくと、別の妖精に出会いました。やはりツナギ姿です。その妖精も直立不動の敬礼をし、最初の妖精に並んで歩き出しました。
一人、二人と妖精が増えていき、全部で七人になりました。並んで歩くその様子は、まさに軍隊の行進でした。
やがて、大きな洞窟にたどり着きました。
十階建てのビルが丸ごと入ってしまいそうな、大きな洞窟です。なんだか闇の底まで続いていそうで、ちょっとだけ不気味でした。
妖精たちは迷うことなく洞窟へ入っていきます。
引き返すわけにもいかず、不安を覚えながらついてきました。
洞窟は、金属でできた、とても頑丈で大きな扉で塞がれていました。
「ピィッ!」
妖精の一人が大声で叫ぶと、ガコォォォン、と大きな音を響かせて、扉が開きました。
「ここは……」
扉の中はランプがともされていました。
ただの洞窟ではないようです。秘密基地のような、そんな雰囲気があります。
そのまま進んでいくと、少しずつ明るく、騒がしくなってきました。奥で、何が行われているのでしょうか。
しばらく進むと、長い階段が見えて来ました。
「ピィ!」
妖精が振り返り、「こちらです!」というように指差しました。どうやらその階段の先が目的地のようです。
妖精たちにうなずき、階段を登り始めました。
カン、カン、カン、と金属音を響かせながら、一歩一歩長い階段を登っていきます。七人の妖精も、飛び跳ねるようにして一緒に階段を上りました。
「え……なに、これ?」
そして、長い階段を登り終えて見えたものに、思わず声を上げました。