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過去と未来のSA食堂2

作者: じんゆー



───深夜3時 ───



15の冬、俺は今夜行バスに揺られている。

夜空に輝く星々を眺めようと窓に近づいたら、眠気防止用の道路の凸凹でリズミカルに頭をぶつけた。


(柄にもないことするもんじゃないな…、おかげで眠気が少し覚めちまった。)


乗客は俺1人、運転手と2人きりのドライブだ。



「坊主、1人?親は?お子ちゃまにこのバスは長旅だぜ。」

「1人だ、クソ親父はいねぇ。あと俺はお子ちゃまじゃねぇ、卒業したら自立して1人暮らしだ。」

そうぶっきらぼうに言いながら拳を突き出し、千円札2枚渡し、リュックを片手に半ば強引にバスに乗り込んだ。



「いや〜まさか家出坊主かと思ったら自立坊主だったとはねぇ〜。んで?何しに行くの?」

トンネルに入ると、ハンドルをゆるく持ち、猫背になりながら出発以来の話を切り出す。


「妹に会いに行く。後俺は坊主じゃねぇカズだ。」

「おぉそりゃまたどうしてこの日にこの時間なのカズ?妹さん絶賛爆睡中じゃない?」

「…わかんねぇ。」


俺には双子の妹がいる、名前はサネ。8年前に親が離婚して俺は人に無関心なクソ親父、サネはヒステリックになりがちなクソババァに引き取られた。だから正直、記憶はほぼ無いと言っていい。顔以外ほとんど覚えていない上に、もう8年も経ってしまっては会ってもわからないんじゃ無いか、そう思っていた。ただ、唯一。家族としてお互い接していたのがサネだった。


「わかんねぇけど…今日逃したら、もう2度と会えなくなっちまう気がして…。」

兄とわかるよう、当時作った赤色のミサンガを肌身離さず付けている。


「ほぉ〜っ!なるほどなるほどね!久々だわ!」

眠そうに話を聞いていた運転手の声は大きく響き、そのタイミングでやけに長かったトンネルを抜けた。

「久々?」

言葉に引っかかったカズが問いかける。するとバスは止まり気がつくとSAに着いていた。

「カズ降りろ!飯を食いに行くぞ!」

扉を開け、シートベルトを外しながら言う。

「いや待てよ!腹が減ったなんて一言も言ってねぇし、第一お金そんな持ってねぇよ!」

困惑するが、腕を引っ張られいいからいいからと連れて行かれる。


されるがままにSAの奥まで行くと、そこには「夢食堂」と大きく書かれた看板がある店の前まで来た。横開きのドアをガラガラと開け入ると、割烹着を着た少女が出迎えてくれた。

「いらっしゃい!あなたの席は…ってえぇ?!なんで山本もいんの?!」

「なんでいんのってひどいなぁモシュネちゃん〜。未成年がここくる時大体送迎は僕がやってるじゃないの〜。」

と言いながら山本はごゆっくり〜と言い残し、誘っておいて別々で食べるのかと言う間もなくカズが指定された席とは別の遠くの席へ座った。

「もうっ!せっかくのお出迎えが山本のせいでグダグダ!…さぁカズくん!こっちの席へどうぞ♪」

「あぁ〜いや、俺予約も何も…てかなんで名前知ってんの…。」

大きくツッコミたい気持ちを店内だからと抑え、腑に落ちないまま席に座る。


メニューを手に取り、開くとそこには一品しか書かれておらず、「ラーメン」とシンプルな四文字がでかでかと載っていた。


(あぁ、俺はは多分疲れているんだ。きっと食堂と書いてあったが本当はラーメン屋と書いてあったのだろう。)


(まぁ、ラーメン好きだしいいや!)


「すいません、ラーメン1つ」

「ラーメン一丁入りやした♪パパ!」

「…あいよ。」

モシュネがキッチンに向かって注文を言うと奥から白縁サングラス、ねじり鉢巻、○にラと書かれた紺色エプロンの3点セットを揃えた強面の男がでてきた。

「お客さん…好きなのはしょうゆでしたよね。」

「え?!あ、はい。そうですけどなんで…」

屈強な体からでた繊細な声に驚き、さらに好みまで知られてることにさらに驚いた。だが一番驚いたのは、店主がスープの鍋を開けた時、漂ってきた香りが懐かしさを感じさせるとともに、何か大切なことを忘れてるんじゃ無いかと思わせた。


そこからは早かった。すでに仕込んであった細麺を茹で華麗な手捌きで湯切りスープと合わせる。同じく仕込み済みの豚チャーシュー、ネギ、海苔2枚に煮卵。ラーメンは速さが命と言わんばかりの出際の良さだった。


「…おまち、しょうゆラーメンです。どうぞ、覚めないうちに。」


受け取り、白い湯気が顔にあたる。瞬間、腹が鳴った。


(こんな時間に食べるラーメンなんて最高じゃないか!)

「…いただきます。」

はやる心を抑え、一口スープをすする。

口の中に広がるしょうゆの香りと鰹出汁の風味。シンプルイズベストとはこのことだろう。

(上手い…!)

と、よくトレーを見ると、ラーメンの横に子供用の取り皿とフォークが添えられていた。何かの間違いだろうか?


「店主、子供用の皿が…」

キッチンを見るが誰もいない、周りを見渡すと遠くに座っていた山本も、そばに立ってたモシュネもおらず、かわりに横に立っていたのは、おそらく小学生にも満たない少女1人だった。


「おにーちゃん、わたしのおにーちゃんしらない?」

「ん?知らないな。…お前、親は?」

少女は横にフルフルと頭を振り扉の外を指さした。

「おそとでおはなししてくるから、あなたたちはここでまってろって。」

(どこの親もつくづくこうなのか、こんな夜中に子供を連れ回し店に放置かよ。)

そんな話をしているとお腹の鳴る音がした。

「…腹、減ってんのか。」

恥ずかしそうに頷く少女を隣の席に座らせ、店主に返しそびれた子供用の器に麺とスープ、それにチャーシューを乗せて渡した。

「食べな、にーちゃんの奢りだ。お前のにーちゃんも店の入り口に親がいるならまぁ大丈夫だろ。」

「ありがとう!いただきます。」

フォークをくるくると回し麺をすする。

美味しそうに食べる少女を見て少し安心したカズ。

「お前のにーちゃんはどんなやつなんだ?」

「おにーちゃんはね、すごくやさしいの。」

「おぉ、そいつは良いにーちゃんだな。」

「でも、おくちがわるいの。」

「お、おぉ、まぁ多少悪りぃのも男っぽくていいじゃねぇーか。」

「おにーちゃん」という単語から続くセリフが自分に向いているように思えて知らない兄を擁護してしまった。

「パパとママもね、ほんとうはすごくやさしいの。でも、おしごととかですごくつかれちゃってるみたい。」

少しうつむきながら喋る。手は少し震えていた。

「…もしかしたら、これからみんなバラバラになっちゃうかもしれないっておにーちゃんがいってたの。おかしいよね、かぞくなのに。」

無理に作る笑顔からは、涙が溢れていた。

そんな少女の手を握らずにはいられなかった。

「大丈夫!」

「え?」

「お前のことは必ず優しいおにーちゃんが迎えに行く。どんなに離れていても、寂しい思いをしても必ず。だから、泣くな。」

まぶたについた涙をぬぐい、優しく、強く語りかけた。

「…あはは!」

「どうしたんだ?」

突然笑い始めた少女はカズの手を握り返した。

「だっておにーちゃん、わたしのおにーちゃんがまえにいってくれたことと、おんなじこといってくれたんだもの。」

「え?」


入り口から女の人の声がした、少女を呼んでいるのだろう。

「あ、おかーさんがよんでる!ばいばいおにーちゃん!またおはなししようね!」

走りながらこちらを向き、手を振る少女の腕には、赤色のミサンガがついていた。

「…サネ?」

席を立ち上がり、少女が出ていった扉を思いきり開けた。


「サネ!!」

自分の声で目が覚め、気がつくとカウンターに頭を突っ伏していた。ラーメンは空になっており、子供用の取り皿は無くなっていた。

(あれは…夢?だったのか…?)


「…お兄ちゃん?」

横から声がした。振り向くと、そこには紛れもなく、妹のサネがいた。腕には赤いミサンガをつけていた。

「お兄ちゃん!!」

駆け寄ってきたサネを優しく抱きしめた。

「約束、守ってくれたんだね。ちゃんと迎えに来てくれたんだね。」

泣きながらうずめてくるサネの頭を撫でながらカズも涙を流していた。

「バカやろう…迎えに行くって言っただろ。入れ違いになったらどうすんだ。」

「いいえ、絶対会えると思ってたもの!なぜだか私も行かなきゃって思ったの!」


「ほん”どうに”よがっだぁぁあ♪」

兄妹が泣いている横で頭についていた三角巾をハンカチがわりに大号泣するモシュネ。その横には同じく泣いている運転手の山本と、もう1人、山本と同じ制服を着た女性が立っていた。

「サネちゃん本当に良かったわね!なんかあったらいつでも呼んでちょうだい!どこでも連れてってあげる!」

「おいおいおいおい谷本さん独り占めは良くないぜ〜!カズ!頼れる大人には全力で頼れよ!帰りは俺のバスだ!」

そう言うと、2人とも涙を拭きながら店を出てバスの準備をし始めた。


カズはキッチンの方を向きお辞儀をした。

「本当に、ありがとうございました。この恩は必ずどこかで返します。」

続けてサネも深くお辞儀をした。

「…いえ、私達はなにも。あなた方が同じ日に予約をした。それだけです。」

サングラスを外し微笑みながらそう呟いた。

「そうだ、ラーメンのお金!サネの分も一緒でお願いします!」

「いえ、代金は既にお二人分いただいております。」

「え?」

「あなた達の、新たな未来です。」


三角巾を付け替えたモシュネがサネとカズの背中を押す。

「ほらほら♪山本さん達の所に早く行きなさいな♪」

そのままとんと、店の外に押し出されてしまった。

「ありがとうございました♪」


2人が振り返ると、そこに扉はなく、大きな「夢食堂」の看板もかかってなかった。ただ、あの素朴なラーメンの香りが漂っているばかりだった。



「サネ、俺中学卒業したら一人暮らしを始めるんだ。」

「え?!お兄ちゃんが?!」

「なんだよ不安か?もう就職先だって決まってる。親戚の叔父さんが色々面倒を見てくれることになったんだ。あまり迷惑はかけたくないんだが、山本さんみたいに頼れって言ってくれてたし。」

「…じゃあ料理ができないお兄ちゃんに変わって私がしてあげよっか?」

「お前料理できるようになったのか!すげぇな!…でもいいのか?急な話で、色々大変だし…。」

「せっかく会えたのに、また離れ離れなんて嫌なんだもの。叔父さんに今度会って私からお願いしてみる!」

「サネ…。」

「あ!谷本さんたちが呼んでる!ほら行こおにーちゃん!」

「あぁ!」


---2話 終わり---


読んでいただきありがとうございます!じんゆーです!

スマホのメモに溜まりに溜まっていた文をどうせならと載せているのですがやはり人に見てもらうとなると伝わりやすさだったり状況説明、登場人物の心情の書き方などなかなか難しいところがありますね…。

まぁたんたんと黒歴史になってもいいから書きたいだけ書いていこうと思います!

それではまた、良い夢を!

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