シオンとサーナのお仕事に③
「運転手さん、どこか面白そうなところは、帰り道にありますか」
「えーと、きれいなビーチがありますし、果物パーク、パイナップルパークがありますし、あとは、お洋服とか好きだったらショッピングセンターも、ありますよ」
「シオンは、マナちゃんは、どこにする」
「ショッピングセンター」
シオンが、言った。
「ミー、テゥー」
サーナが、言った。
「私もショッピングセンターかな、海は青波にもあるし、きょうはショッピングセンターで、お買い物が楽しそうかな」
マナちゃんが言った。
「ちいちゃん、良い」
「うん、私もショッピングセンター」
「ハーイ、決まりました。運転手さん、ショッピングセンターでーす」
「はい、了解しました。でも、あまり期待しないでくださいね、都会のショッピングセンターほど、大きくないですから」
「良いでーす」
車は、海沿いの道から高速道路に入った。高速道路といっても、たくさんの車が走っているわけではない。前、後ろに数台の車、大型バスが見える程度だ。高い建物はたくさんないので、民家の屋根が見えたり、山が見えたり、スムーズに走っていく。
「ホテルよりも、少しだけ空港に近づいちゃいますけど、最近できたおしゃれなショッピングセンターですから、そこにしましょう。みんな、気に入ってくれるかな」
車はどんどん走る。
山が見えていた景色から、赤い屋根が多くなってきた。
「あそこに見えてきましたよ、最近できたばかりのショッピングセンターです。ほら、あそこ」
運転手さんが指さす方向に、キラキラまぶしい大きな屋根が見える。
「私も一度しか入ったことがありませんが、お洋服に、レストラン街、沖縄らしいお土産なんかも売っています」
高速道路を下りて信号に止まると、大きな看板が出ていた。
青になって車が動き出す。大きな駐車場が見えてきた。車がたくさん停まっている。
「何となく嫌な予感。シオン、サーナ、帽子をかぶって、静かにね。騒ぎになったらお店から出るわよ、良い」
「オーケー」
ふたりが深々と帽子をかぶり、顔を隠す。
運転手さんが、センターの入り口に車を止めてくれた。
「はい、行ってらっしゃいませ。私は車を駐車場に入れて、どこかでお茶でも飲んでいます。買い物が終わったら、お電話を入れてください。ここで待っています」
車を降りて、センターに入った。
天井が高い。何となくアメリカっぽい雰囲気。
「オー、グー」
シオンとサーナが先頭を歩く。私たちは後ろをついていく。
食料品もあるみたいだ。
レストラン街があって、ペットショップもある。家具があって、お花屋さん、スポーツ用品、なんでもありそうだ。
エスカレーターで2階に上がる。お洋服屋さんがたくさんならんでいる。
紳士服、婦人服、子供服、帽子専門店に、靴下専門店。どこに入ろうか迷ってしまう。
ピンクと水色が目立つ洋服屋さんに来た。シオンとサーナがお店に入る。
みんなが好きそうなお洋服がたくさん並んでいる。サーナが手に取る。鏡の前で自分にあててみる。
「オー、グー」
若い店員さんが、近くに寄ってきた。
「試着してみてくださいね」
声をかけながら、サーナの顔を覗き込む。
これは、やばい感じだ。間違いなくばれている。
お店の外にいるお姉さんが、私たちに手招きをしている。
「何ですか、どうかしましたか」
「運転手さんから電話があったの。シオンとサーナがこのショッピングセンターにいるって、掲示板にアップされているって」
「えー、早くないですか」
「海で撮影している時から、どこにいた、どこで見たって、ずっと続いているそうよ」
「あー、それで店員さんも気がついたのね」
「どうしますか、人が集まってくる前に出ますか」
「そうした方がよいと思うけど、もう遅いかな」
センターのあちらこちらから、若い女性がこの場所を目指している感じだ。
「お姉さん、運転手さんに連絡してください。さっき降りた場所に行くって」
「そうね」
「シオン、サーナ、行くよ」
「ノー、モウスコシ」
「だめ、パニックになっちゃうわ」
お店の前に、何人かの女の人がこちらを見ながらしゃべっている。
「ほら、早くして」
お店の前にいたお姉さんが、中に入ってきた。
「もう、ムリ、遅かったわ」
お店の前に、たくさんの人が来ていた。こちらにスマホを向けて写真を撮っている。
「いいわ、あきらめましょ。ちょっと店員さんに交渉するから」
お姉さんが、店員さんのところに行った。
お店の前には、たくさんの人が集まっている。
「シオン」、「サーナ」の、声が聞こえる。
本人たちも気がついているみたいだが、洋服選びに熱中している。
シオンが外の人たちに向かって、手を振った。
「キャー」
歓声があがった。
こりゃ、だめだ。あきらめるしかない。
お姉さんが、店員さんとの交渉をして戻ってきた。
「二人がこのお店を気に入って、ゆっくり選びたいから、他のお客様を入場させないでくださいってお願いしたら、オーケーをもらえたわ。出るときは大変だけど、二人に気のすむまで選んでもらいましょう」
本人たちは、周りの様子が気にならないのか、真剣モードだ。
いくつかを手に持ち、お店の中を見て回る。
お店の外は大勢の人だ。このセンターの責任者なのか、トランシーバーみたいなものを持った人も何人かいる。
お店の人とお姉さんが、お話を始めた。
こうなってしまったら、私たち子どもにはどうすることもできない。
シオンとサーナが二人で試着室に入った。気に入ったお洋服を抱えたまま試着室に入った。試着室の前には、店員さんが立っている。
中から二人が何かを言っているみたいだが、お姉さんには伝わらない。
「マナちゃん、行ってあげて」
マナちゃんは、通訳の係になった。
少しだけカーテンを開けて、お話をしている。
カーテンの中からから、チラッとシオンやサーナが見えると、外にいるお客さんのスマホが写真を撮っている。
キャーキャーと、騒がしくなってしまった。
時間がたち、二人が元の服装で出てきた。終わったのか。
店員さんがたくさんの洋服を抱えてレジに向かった。
「どう、気に入ったお洋服、あった」
「イエス、グー、ベリーグー」
「良かったわ」
「さー、どうやって出ましょうか。運転手さんは」
「連絡したわ。このセンターのセキュリティーさんが道を作ってくれるわ。私が前を歩いて二人を先導するから、後ろからついてきて。車に乗り込むまで、しっかりついてきてね」
私とちいちゃん、マナちゃんの三人がうなづいた。
「それにしても、この二人ってこんなに有名人なの、すごいわね」
「それじゃー、お願いします」
お姉さん二人が、トランシーバーを持った大人の人に声をかけた。
お店の前にいる人をかき分けて通路をつくる。お姉さん達がシオンとサーナを誘導して通路の真ん中を歩かせる。
ワーワー、キャーキャー、大騒ぎだ。
シオンは手を振って、ご機嫌だ。さすがスターだと思った。
私たちは、二人から少し離れたところを、後ろからついていく。ただ歩くだけなのに、とっても大変だ。
エスカレーターを降りて、車を降りた出口に向かう。
出口まで、たくさんの人がならんでいた。
自動ドアまで来た。すぐ前に、私たちの車が待っている。運転手さんが横のドアを開けてくれた。
シオンとサーナが、車に乗る前に振り返って、手を振る。
シャッターの音、若い女の人の歓声、ものすごいことになってしまった。
シオンとサーナが車に乗った。後ろから私たちも乗る。
運転手さんがドアを閉めて運転席に乗り込んだ。でも、お姉さん二人はまだ外にいる。
一人は自動ドアを開けて、中に入っていく。一人は、トランシーバーを持った人とはなしをして、最後に頭を下げた。
中に入ったお姉さんは、まで出てこない。どうかしたのかなあ。
しばらく待っていた。
アッ、出てきた。二人が車に乗り込む。
「はーい、出発しますよ。良いですか」
「はい、お願いします」
お姉さんが言った。
「最後に、もう一度入って何をしてきたんですか」
「あのお店にご迷惑をかけてしまったでしょ。最後にご挨拶だけしてきたのよ」
「あー、そーか」
「でも、しっかりお買い物をしたから」
車の中には、シオンとサーナが買ったお洋服が、何袋に分かれて置いてある。
「そーよね、こんなにたくさん買ったから」
「あー、大変だった。広島駅よりすごいことになっちゃった」
「シオン、サーナ、満足した。しっかりお買い物ができた」
「オー、モウスコシ」
「エー、アッハッハッ」
みんなで、大笑いした。
「ほら、見て」
お姉さんが、スマホを見せてくれた。
「海人、ナウっていう掲示板、シオンとサーナがセンターでお買い物をしている画像がたくさんアップされているわ」
「うわー、ほんとだ。すごーい」
車は、ショッピングセンターを出て大きな通りを走る。
「さー、どうしましょうか。このままホテルに帰ると、五時を過ぎたころになると思います。どこか、寄りますか」
「この車、シオンとサーナが乗ってるって、沖縄の人みんな知っているんでしょ」
「そうですね、掲示板に、車のナンバーまでばっちり出ちゃってましたね」
「帰り道で、車がかくれるビーチがあれば、少しだけ海に入りたいな。足元だけ」
マナちゃんが言った。
「そうですね、うーん、アッ、良い場所がありました。とっておきの場所にお連れしましょう」
運転手さんが、高速道路を避けて海沿いの一般道をしばらく走る。
「気持ち良いー。砂を踏んでいる感じ、波が足を抜けていく感じ、気持ち良い」
ここは、運転手さんが連れてきてくれた海岸。海沿いの通りからガタガタの道を少し入った狭い海岸だ。
「人がいないって、静かね。車の音もしない。波の音だけって、何だか久しぶり」
「さっきまでの大騒ぎが嘘みたい」
「シオンとサーナって、すごいのね。しおりちゃんのファイルで初めて見たけど、モデルさんみたいじゃない。大人気の」
「そうよ、だからお姉さん達が付いていてくれるのね」
「みんなに、朝起きないシオンを見せてあげたいわ」
「オー、ノー」
「ワーハッハッハッハー」
みんなで、大笑いした。
「さー、帰りましょうか。いろんなことがあって、いっぱい遊んだから」
「はーい」
みんな、静かな海にきて、波の音を聞いて、安心した。
「あー、何だかお腹がすいちゃった。晩ごはんが楽しみだー」
沖縄、二日目
「きょうは、どんな予定にしましょうか」
朝ごはんの途中で、お姉さんが言った。
「マナちゃんは、ちいちゃんは、どうする」
聞いてみた。
「うーん、遊びには行きたいけど、人ごみはもういいかな」
「人がいない観光地。でも、あの車で出かけたら、寄ってきちゃうでしょ」
「そーね」
「・・・・・」
「こんなプランはどうかなあー」
「えー、何」
「明るい間は、このホテルのプライベートビーチで遊ぶの。シュノーケリングができるし、モーターボートにも乗れるし。それで、少し早めにご飯を食べて、夕方、暗くなり始めたら出発して、きれいな星空観察なんてどうかな。青波島もきれいだと思うけど、沖縄もきれいよ」
「えー、青波だってとってもきれいだから」
「どうする、今日の予定」
「うーん・・・・・」
「じゃー、しおりちゃんをご招待して、バーベキューなんて、どう。わたし、お迎えに行ってくるから」
「バーベキューパーティーね」
「夕方になったら、しおりちゃんを送りながら、また考えましょ。お星さまでも、ショッピングでも」
「オー、ショッピング、アゲイン、グー、ベリーグー」
「マナちゃん、ちいちゃんは」
「いいわ、そうしましょ」
「はーい、決まりました。お姉さん、運転手さんは」
「もうすぐ、駐車場に着く時間よ」
「それから、しおりちゃんの電話って知ってますか」
「オフコース、お店の前に大きな字で書いてありましたよ、覚えています」
朝食を終えて、いったん部屋に入った。
お姉さんが、しおりちゃんのママに連絡をして、是非、という返事だったみたいだ。
ホテルには、ビーチ近くでバーベキューをお願いしたところ、設備は整っているそうだ。食材を用意できればいつでも始められるという返事だった。
「じゃー、お迎えに行ってくるね」
「私も行く、行きたい」
ちいちゃんが、言った
「えっ、行っても良いの。私も行きたい」
マナちゃんが、言った。
「えー、それじゃー、みんなで行きましょ。しおりちゃんサプライズ」
「オー、グー。シオリ サプライズネー」
お姉さんに連絡をして、みんなでお迎えに行くことを伝えた。ホテルを出ると車が待っていてくれた。
「おはようございまーす。今日も良い天気ですよ」
朝から元気な運転手さんだ。
みんなで車に乗り込んだ。
「今日の予定を少しだけ聞きました。最初は、しおりちゃんをお迎えですね。今日は土曜日ですから、少しだけ車が多いかもしれませんね。それでは、出発します」
車は、昨日と同じ海沿いの道を走る。今日は目的地が決まっているので、快調にすすむ。
一時間程度で名護の町に入った。
「あれ、シャッターが閉まっている」
「電話してみましょうか。お迎えに来ましたよって」
お姉さんが、電話をしてみる。
「あ、おかあさんですか、着きましたよ。お店の前にいます。はいはい、待ってます」
しばらく待っていると、シャッターが開いた。
「みんな、後ろで静かに隠れていて。私だけで迎えに出るから」
お姉さんが、言った。
車の中では、みんなが後ろの席で身を縮めて静かに待った。
ここで、みんなで迎えに来たってばれたら、サプライズは台無しだ。
シャッターの中からお母さんは出てきたが、しおりちゃんの姿は見えない。
どうかしたのかなあ。
しおりちゃんのお母さんとお姉さんが、中に入ってお話をしている。
お姉さんが店の中から出てきた。車のドアを開けて乗り込みドアを閉めた。
「・・・・・」
「しおりちゃんがね、おかあさんといっしょが良いって言っているそうだけど、お母さんは、一人でも行けるでしょって」
「ママもいっしょに行けないんですか。しおりちゃんが、家から出てもらうことが優先だから、ママもいっしょに行きませんかって、もう一度お話してきてもらえませんか」
「そうね、そう言ってみる。もし説得できなければ、ごめんなさい」
「お願いします。だめなら、サプライズをやめて、私たちがお願いに行きますから」
お姉さんが車を出て、お店に入っていった。
ママとお姉さんが、お話をしている姿がみえる。
しばらくお話をしていたが、お姉さんが出てきた。
「ママも一緒に行くって」
「あー、良かった」
「きのう、何か月ぶりに家から出られて、すぐに一人で行ってきなさいは、私でもムリだと思うな」
しばらく待っていると、しおりちゃんとママがお店から出てきた。二人ともティーシャツにジーパン姿だった。
車まで来たので、お姉さんがドアを開ける。
「ジャーン、お待ちしていました」
後ろの座席に隠れていたみんなが、大歓迎をした。
「えっ、みんなでお迎えに来てくれたの」
「ハーイ、お友達ですから。さあ、乗ってください」
しおりちゃん、ママ、お姉さんが車に乗った。
「さあ、行きますよ。ホテルでパーティーが待っています。出発進行」
いつも、元気な運転手さんだ。
「しおり、ちゃんと言いなさい。お約束したでしょ」
「・・・、きょうは、さそってくれてありがとう」
「はーい、少しの時間しかないけど、楽しんでいってね。お友達なんだから遠慮しないでね。なんでも言ってみて」
「みんな、本当にありがとうございます。きのう、みんなが帰ってから、二人でいろんな話をしたのよ。サーナさんが、このお店を見つけてくれなかったら、ずーっとうちから出られなかったんじゃないのかって。ハンバーガー屋さんに誘ってくれなかったら、少しの思い出だけで終わっちゃったなって。大ファンのシオンさんとサーナさんにお会いできて、夢のようだって」
「きのう、あれからショッピングに行ったんですけど、ここにいる二人の有名人がファンの人に囲まれて、大変でした。ほら、見てください、この掲示板」
お姉さんが、スマホをママに見せた。
「まー、こんなに有名なモデルさんがいっしょにいるなんて考えられないわ。お友達に入れてもらえるなんて、本当に夢のようだわ」
「そーなんです。わたしたち、しおりちゃんのファイルを見るまで、この二人のモデル姿をみたことがなかったんです。それからすぐにこの騒ぎになってしまって、シオンとサーナが超有名人だって、初めて知ったんですよ」
「でも、このメンバーでいる時は、みんなお友達ですから。ねー、シオン。ねー、サーナ」
「イエース、オフコース。オトモダチデース」
車は、ホテルに向かって走った。
「お帰りなさいませ。バーベキューの準備ができていますから、ビーチに出てみてください。何かご希望があればお申しつけください」
「はーい、ありがとうございます」
「しおりちゃん、どうぞ、私たちこのホテルにいるのよ。ビーチでバーベキューをやるから、ママといっしょに、シオンとサーナといっしょに遊んでいって」
しおりちゃんが、ママの顔を見た。
ママは、微笑みながらしおりちゃんの顔を見ている。
「うん」
しおりちゃんが、小さな声で返事をした。
白い砂浜にビーチパラソルが並んでいる。いくつかのパラソルの下に大人の人が寝転んでいる。波打ち際に座っているカップルがいる。
青波の海岸とはちょっと違う。砂浜の色、海のにおい、海の色、おしゃれなパラソル、海の景色、モデルさんが撮影するなら、青波ではなくこっちだと思った。
「ねー、海に入らない」
「入りたいけど、この恰好じゃー、ねー」
みんなジーパンにティーシャツだ。波打ち際で遊ぶ程度ならこのままいけるけど、膝まで、腰まで入ったら、後の始末に困る。
「うーん、・・・そうだ、体操服は、ホテルに入る前まで来ていた体操服はどこいった」
「お洗濯をして、部屋にありますよ」
「お姉さん、良いですよね。体操服に着替えて少し入っても」
「とってきましょうか、五人分」
「それから、しおりちゃんのも何かありませんか」
「えーと、体の大きさからしてマナちゃんと同じくらいでしょ」
「そーね」
「いいわ、ホテルに聞いてみる。何かあるでしょ」
「お願いしまーす」
五人は、前と後ろに、大きな字で名前が入った体操服を着て、波打ち際に座っていた。しおりちゃんも並んでいる。
「アッ、そうだ。六人で並んでいる写真を、先生のカメラで撮ってもらおうっと」
「お姉さーん」
パラソルの下にいるお姉さんを呼んで、前から、後ろから、撮ってもらった。
「どんな写真が撮れているのか、とっても楽しみね。急に子供が五人から六人に増えて、説明しないと。沖縄で新しいお友達ができたって」
「そーね」
「どう、バーベキューの用意ができたみたいだけど、食べない、どれもこれもおいしそーよ」
お姉さんが、言った。
「じゃあ、乾杯しましょうか」
「そーね、何に乾杯する」
「うーん、しおりちゃんとママがここに来てくれたことに、乾杯」
「カンパーイ」
「それから、シオンとサーナが有名なモデルさんだったことに、乾杯」
「カンパーイ」
「もう一つ、みんなでバーベキューできたことに、乾杯」
「カンパーイ」
みんなでコップをぶつけて、乾杯をした。
しおりちゃんもママも、みんないっしょに乾杯をして、ジュースを飲んだ。
パラソルの下のテーブルには、お肉やお魚、お野菜に果物、いろんなものが並んでいる。
「さー、食べましょ。しおりちゃんは何にする、嫌いな食べ物は何」
「お野菜」
ママの顔を、ちらっと見た。
「そー、でも少しづつでも食べましょうね。シオンもサーナもしおりちゃんと同じ、お野菜を食べられなかったの。でも、お引越ししてきて、青波のお野菜は食べられるようになったのよ。ねー、サーナ、シオン」
「オー、イエース。デモ、オニクガスキデース」
そういいながら、ソーセージや唐揚げを頬張っている。
みんなで、お腹いっぱいご馳走を食べて、海に入ってシュノーケリングをして、波打ち際に山を作って、みんないっしょに遊んだ。
楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。太陽が傾き始め、自分たちの影が少し長くなってきた。
そろって、波打ち際に座っていると、
「さー、出ましょうか。そろそろ」
お姉さんが、いった。
「はーい」
「シャワーをして、着替えましょ」
「はーい」
みんな並んで、体操服を着たままシャワーをする。
「オー、コールド、ツメタイデース」
シャワーから降ってくる水が、とっても冷たかった。
「あー、もうすぐ終わり」
しおりちゃんの、小さな声が聞こえた。
「しおりちゃん、ゆっくりでも良いから、学校に通えるように頑張ってね。今までと違うことをするって、誰でも緊張するのよ。一週間の中の一日でも、給食時間だけでも、やってみましょ。始めないと進まないから」
「・・・うん」
「さー、お着替えをして、しおりちゃんを送りましょう」
「はーい」
車に乗ったころには、少しだけ暗くなっていた。名護までの少しの時間、みんなでしりとりをした。海沿いの道から町に入り、きのうのハンバーガー屋さんの前を通って、ポップに到着した。
「じゃーね、元気でね。いつでも連絡してね。待ってる」
「・・・・・」
「きょうは、本当にありがとうございました。今度会うときは、ちゃんと学校に通っていますから。いつでも来てくださいね」
「はい、来られる機会があったら、連絡しますから」
「じゃー、しおりちゃん、バイバーイ」
しおりちゃんとママが、お店の前で手を振っている。
車は出発した。みんな、見えなくなるまで手を振った。
「なんだか、とってもさみしいけど、ずっと一緒にいられるわけではないから。いつかバイバイしないといけないから。頑張って学校に行けると良いんだけどなあ」
「うん、・・・行けるわよ。約束したから」
「そーね」
「さー、どうする。星空観察に行ってみる、今からショッピングは、ないわね」
「運転手さん」
「はい、何ですか」
「星を見に行くとしたら、遠いですか」
「そーですねー、観察所まで行こうと思ったら、島のはずれですから遠いです。でも、明かりが届かないところまで行けば、天の川は見えますよ。都会では見られない、キレイな星空がみられると思います。帰る方向とは反対の方向に行けば、海岸に出て、十分にみられると思います」
「うーん、どーする」
「・・・・・」
「すー、すー」
車の中が静かになったら、寝息が聞こえた。シオンだ。
「シオン、眠ってるわ。疲れたのね」
「帰りましょうか、ホテルに」
お姉さんが、言った。
「そうね、帰りましょうか」
「晩ごはんは、お腹、すいてる」
「はーい、でも少しだけ」
「じゃあ、お部屋にサンドイッチとフルーツを、運んでもらいましょうか」
「はーい、賛成」
「運転手さん、ホテルに帰ります」
「はい、承知しました」
しおりちゃんを送ってから、まっすぐホテルに帰ってきた。
シオンをおこして、部屋に入る。
順番にシャワーをしていると、サンドイッチとフルーツが運ばれてきた。
「わー、おいしそう」
「シャワーが終わった人から、どうぞ」
お昼のバーベキューからお腹がいっぱいだったのに、お部屋に運ばれてきたサンドイッチを見たら、食べたくなった。
「いただきまーす」
ハムやフライ、ジャムやチーズが挟んである、サンドイッチだ。
フルーツもお皿いっぱいに盛られていた。
「あーあ、あしたは帰るんでしょ。もう少しいたかったなー」
「うん、でも、おじいおばあ、パパとママが待っているわよ。元気に帰りましょ」
「そーね。元気に帰りましょ」
最終日 日曜日の朝が来た。
沖縄に来てから買った洋服は、着ているもの以外は送ってもらう。荷物は、島から着てきた体操服だけだ。
「忘れ物は、ない。先生のカメラ、持った」
「じゃあ、帰りましょうか。帰りも来た時と同じ、私たちだけの飛行機とヘリコプターだから、あっという間に島に着くわよ」
お姉さん達が、お部屋の最後のチェックをして部屋を出た。エレベーターに乗って1階の受付を通って、玄関に出た。
いつものおじさんが、立ってくれている。
「おはようございます」
「おはようございます。お帰りですか、また来てくださいね。お待ちしています」
「はい、また来ます。さようなら」
いつもの車に乗って、空港へ出発した。時間は九時半だ。
「あー、終わっちゃった。明日から学校。お勉強ね」
「でも、いろんな初体験をして楽しかったわ。有名なモデルさんと沖縄旅行できたこと、一生忘れないと思う。シオン、サーナ、ありがとう」
「オー、アイムハッピートゥー」
「ミートゥー」
「サーナは、何が良かった。ベストアニバーサリーは、何」
「ウーン、ジンベイ、アクアリウムジンベイ」
「そーね、でも、あの辺からが、パニックの始まりだったでしょ」
「二人は、あまり感じていないわね、あのパニック」
「そうよ、小さい時から人に囲まれて、大事に育てられてきたのよね」
「パニック、イツ、パニック」
「ほら、いつパニックが起きたのかって」
「なんだか、尊敬しちゃうのか、あきれちゃうのか」
「アッ、ハッ、ハッ、ハッ」
外は、青空。とっても天気が良い。海はキラキラと光っている。
沖縄の空港から飛行機に乗って、岡山までひとっ飛び。
岡山空港でヘリコプターに乗り換えて、青波まであっという間だ。
午後一時前、校舎の屋上に着いた。教頭先生が待っていてくれた。
「はい、お疲れさまでした」
お姉さんがドアを開けて先に降りる。
続けて、私たちも降りた。
「教頭先生、ただいまー」
「おかえりなさい。どうでしたか、沖縄は」
「はい、いろんな初体験をして、とっても楽しかったです」
「そうですか。それは良かった」
「みんな、おうちの人が、首をながーくして待っていますよ。今日は帰りましょう」
「お姉さん達、ありがとうございました」
「こちらこそ、いろんな体験をさせてもらったわ。ありがとうございました」
シオンとサーナと、ハグをした。お別れだ。
二人はヘリコプターに乗り込み、ドアを閉める。
「さようなら、元気で」
ヘリコプターは、大きな音を立てて飛び立った。
「さー、帰りましょう。明日からしっかりお勉強しましょうね」
「はーい」
わたしとちいちゃん、シオンとサーナは同じ方向。マナちゃんは反対の方向だ。
「じゃーね、あした。バイバーイ」
学校からおうちまで、両手にお洋服の入った袋を持って、走って帰った。
「ちいちゃん、サーナ、バイバーイ。また明日」
ちいちゃんと別れてからも、走って帰る。
着いた。うちに着いた。
「ただいまー。おばあ、ただいまー」
「おかえりなさい。最初に手洗いうがいをして」
荷物を玄関に置いて、洗面所でいつもの手洗いうがいをする。
「どうしたの、こんなにたくさんお洋服」
「うーん、お買い物したのよ。沖縄のショッピングセンターで買ったの」
「そー。」
「おじいはー」
「いつものところじゃなーい」
「行ってくる。おじいのとこ」
「ご飯は、お昼ご飯は、どうしたの」
「食べてない。でも、おじいのところに行ってくる。ただいま帰りましたって」
「そー、それじゃー、直ぐ帰ってきなさい。おそうめんをゆでて待ってるわ」
「はーい。シオン、行こ」
そのまま玄関を出て、おじいがいつも釣りをしている堤防に向かった。走ったらすぐだ。
今回の沖縄、おじいが行ってこいって言ってくれた。おばあにも感謝しないといけないけど、おじいが言ってくれたから、沖縄に行けたとおもっている。
帰ってきた報告だけでも、おじいに伝えたい。
いたいた。いつものところに。
「おじい、ただいまー。今、帰ってきたー」
「おー、帰ってきたか。おかえり。どうだった、楽しかったか」
「うん、とっても」
「そうか、そりゃあ良かった」
「沖縄の海と青波の海、ぜーんぜん違った。沖縄の海はねー、とってもおしゃれだった」
「そうか、おしゃれだったか」
「私たちがいない間、なにかあった、かわったこと」
「ない、いつも通りだ」
「そー、じゃあ、おばあがおそうめんをゆでて待っていてくれるから、帰るね」
「そうか、わしゃ、もう少しここにいるから」
「はーい。じゃー」
青波のうちに帰って、おじいとおばあに会って、安心した。
いつも通りに戻って、安心した。