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学校へ行きたい子は、はーい。  作者: アイスマン
7/9

しおりちゃんとの出会い

布団の中でゴロゴロしていると、七時半ピッタリに電話が鳴った。お姉さんからのモーニングコールだ。ちいちゃんが電話に出て、八時にお迎えに来てくれることになった。

シオンも、電話の音で目を覚ました。

昨日買った洋服にお着替えをして、顔を洗って、髪を整えているときにピンポンが鳴った。

一回、二回、三回。小窓をのぞいてからドアを開ける。

「おはようございます。みんな、起きたー」

「お姉さん、髪を結えますか。サーナとマナちゃんを見てくれますか」

「はいはい、良いわよ。いつもと同じ結い方で良いかなあ」

お姉さんが二人の後ろにたって、結い始めた。

未だに、シオンはパジャマのままだ。洗面所に行って顔を洗って、ベッドの上でゴロゴロしている。

「シオン、しっかりして、置いていくわよ。一人でお留守番してる」

いつも、おばあがうちで言っているのと同じように言ってみた。

「オー、モウスコシ」

シオンの、いつもの口癖だ。

「もー、・・・」

「昨日まで、一生懸命お仕事したもんね。せっかく今日からフリーになったのに、遅くなっちゃうなー、時間がもったいないなー、でも、もーちょっと、ゆっくりしましょうか」

お姉さんが、シオンにむかっていった

「えーーー」

ゴロゴロしていたシオンが、ムクッと起きた。

お姉さんが、ニコニコと笑っている。

「シオン、行く」

シオンがうなずいている。

なるほど、こういう起こし方があるんだ。さすが、お姉さん。


みんな揃って、おしゃれな朝食を食べる。ホテルでの朝食といえば、ごはんやパン、卵料理や肉、魚、サラダやヨーグルト、果物が並んでいる離れたテーブルから、自分が好きなものをお皿にとって食べるスタイルが普通だと思っていた。でも今日は違う。

晩御飯と同じように、一皿づつ運んできてくれる。スープにサラダ、お魚、お肉、ごはんとお味噌汁、最後のデザートまで運んできてくれた。

晩御飯とは違い、量も少なめ。朝ごはんらしいものばかりだった。

「あー、おいしかった」

「えーと、今日の予定ですが、」

お姉さんが今日の予定を説明してくれる。

「最終目的地は美ら海水族館で良いですね。途中に、きれいなビーチがあったり、果物パークがあったり、気に入ったところに寄り道しましょう。それから、道中おいしそうなお昼ご飯があったら寄りましょうね。何が良いですか、一応聞いておきますけど、ご期待に添えるかどうかは、わかりません」

「オー、ハンバーガー」

シオンが、最初にいった。

「あー、いいんじゃない。私もハンバーガー」

「他には、どう」

「オキナワらしい食べ物って、何かありますか」

「そーねー、ソーキそばとかゴーヤチャンプル、豚足があるけど、どれもちょっと癖があるかなあ。しいて言えば、ソーキそばかなあ。オキナワ風のラーメンね」

「そうですか。じゃー、私もハンバーガー」


食事を終えて、みんなでお部屋に戻ってから出発することになった。みんなでそろえたように白いティーシャツにジーパン、帽子にサンダルという格好だ。お姉さんたちだけ、沖縄らしくない長袖のブラウスに黒いズボン、仕事中の格好だと思うけど、ちょっとおかしい。

「お姉さん、その恰好っておかしくないですか。着替えはないんですか」

「一応、仕事中ですから・・・」

「サーナ、途中でお姉さん達の、沖縄らしい洋服を買いましょ。この恰好って変だから」

「オー、イエス。マイコーディネート、ファッション、オーケー」

「オーケー」

お姉さん達が返事をする前に、みんなで返事をした。


さあ、一日目のスタートだ。


回転扉を出ると、昨日と同じ車が待っていてくれた。運転手さんが出てきて大きなドアを開けてくれる。

「おはようございます。よろしくお願いします」

みんなが次々に乗り込んだ。車の中はエアコンが効いている。

「出発して良いですか、忘れ物はありませんか」

「はーい、お願いします」

車が、ゆっくりと動き出した。

「きょうは、最初に美ら海水族館に向かうことになりました。水族館からホテルに向かっていきながら、面白い場所があれば寄ることになりました」

さっき、ご飯を食べながら、水族館を先にするか、後にするかを相談した。みんな、水族館に行きたいといって、最初に行くことになった。

「どこか、おいしいハンバーガー屋さんはありますか。お昼ご飯は、ハンバーガーのリクエストが出ています」

「ありますよ。途中に、駄菓子屋さんがハンバーガーを売っているお店がありますから、お昼はそこにしましょう」

「えーと、お姉さん達のお洋服が沖縄らしくないので、どっかで買いたいんですけど」

「えー、どんなところですか、ショッピングセンター、それとも、おしゃれな感じの」

「途中、お店が並んでいそうな場所を通ってみてください。サーナがお店を選びますから」

「はい、わかりました。最初は、美ら海で良いですね」


おー、楽しみになってきた。水族館も、ハンバーガーも、お姉さん達のお洋服選びも、全部が楽しみになってきた。


キラキラした海沿いの道を進んでいく。途中、お店が点々としているが、サーナが寄りたいと思うお店は、みつからない。

海が見える通りから、名護というにぎやかな場所に来た。いろいろなチェーン店があって、携帯ショップがならび、自動車屋さん、レストランがある。

運転手さんが、ゆっくり目に走ってくれている気がする。信号が赤になった。交差点で止まった。

「アッ」

サーナが、角のお店を指さす。小さなお店だ。お店の前に、オートバイが止めてある。

「何、何屋さん」

オートバイの横に、手書きで書いた古着の看板が出ていた。

「サーナ、行ってみる」

サーナが、うなずく。

「運転手さん、すみません。あのお店に入りたいんですけど、行けますか」

「はい、はい、待ってました。この角のお店で良いですか」

「はい。オートバイが止まっている」

「ここね。じゃあ、ぐるっとしますから、少々お待ちください」

お姉さん達は、何も言わない。どんな服に着替えさせらるのか、心配しているのかもしれない。

信号を曲がって曲がって、さっきの交差点に戻ってきた。車をお店の前の駐車場に止める。お店になかには、若い女の人が座って、こちらを見ている。

「こんにちは、中、見せてもらって良いですか」

「どうぞ」

子供五人が先に入った。

サーナがお店の中を見渡し、次々に手に取っていく。

ワンピースにティーシャツ、スカートにパンツ、いろいろなものを手にとっては戻し、次々に進んでいく。

しばらくすると、横にいるシオンと何か話をして、お姉さん達を呼んだ。

パンツを手にしてお姉さんにあてがってみる。スカートを手に取ってお姉さんにあてがってみる。右手にティーシャツを持ち、左手にジーンズを持ち、鏡の前に立たせる。

大きな花柄のワンピースを手に持ち、お姉さんを鏡の前に立たせる。

私たちはお店の入り口に立って、四人を見ているだけだった。


「あのー、スミマセン」

お店のお姉さんが、私たちに声をかけてきた。

「はい」

何だろう。

「この子達、モデルさん」

「アッ、そうです。詳しくは知りませんけど、雑誌のモデルをやっています。シオンとサーナです。ご存じですか」

「はい、知っていますよ。私の子供が大ファンなんです」

「そーですか。ちょっと、待ってくださいね。いつになく真剣になっていますので」

「子供が二階にいるんですけど、会ってもらうことはできませんか」

「良いと思いますよ、本人に聞いてみないとわかりませんが」

「ありがとうございます。ごめんなさいね、なかなかお部屋から出たがらない子で」

「もしかして、学校に行けないんですか。私たち五人も、学校へ行けない時期があったので、お部屋から出られない気持ち、とってもわかります」

「エッ、あの子たちも」

「そうです。お母さんについて日本に来ましたけど、学校に行けなくて、今はお母さんとは離れた場所で、私たちと一緒に生活しています。今は、学校に行けてますけど」

ここにもいた、学校に行けない子。おかあさんの悲しそうな、苦しそうな顔。

「すみませーん。試着しても良いですか」

「どーぞ、どーぞ、試着室は一つしかありませんけど、・・・」

サーナの目にかなったものが、あったみたいだ。

二人が試着する間に、マナちゃんがシオンとサーナに、お店の子供のことを説明した。

話を聞き終わると、シオンがこちらを見た。何か言いたそうな目だ。

私は、その目を見ながら、大きくうなずいた。

「お姉さん、その子のいるお部屋に行っても良いですか。何年生ですか」

「三年生。出てこられるかはわからないけど、・・・」

二人分の試着は、続いている。

「どうぞ、上がって」

私とちいちゃんが、奥の階段から二階に上がる。

テーブルがあって、お台所があって、テレビの前に女の子が座っていた。

「こんにちは」

子供は無反応。こちらを見ている。何もしゃべらない。

「私たち、あなたのお母さんがやってるお店の、お洋服を見せてもらいたくて、入ってきたの。今ね、お店にモデルのシオンとサーナがいるんだけど、会ってくれない。ぜひ会いたいって、下で待っているんだけど」

「・・・・・」

「知ってるわよね、シオンとサーナ。二人が出ている雑誌ってどこかにありますか」

テレビの前に座っている子は、無反応のまま。

「お姉さん、二人が載っている雑誌って、ありますか。あの二人が載っている雑誌って見たことがないんです」

お店のお姉さんが、本棚から雑誌を取り出して、シオンとサーナが出ているページを開いてくれた。

「ちいちゃん、これ、シオンとサーナだ。雑誌に載っている二人、初めて見た」

「ほんとだ、シオンとサーナだ。モデルさんだ」

すると、テレビの前にいた子供が動いた。後ろの机を開けて、ピンク色のファイルを出してきた。

「何、何、見ても良いの、見せてくれるの」

無表情だった女の子が、ファイルをテーブルに置いて、開いてくれた。

「えー、これ、全部シオンとサーナじゃない。ファンなの」

「うん」

小さくうなずいた。

「へー、いつから。このファイルはいつから始めたの」

「三年生になってから」

ピンクのファイル、次のページ、次のページ、全部がシオンとサーナだ。

「今ね、このシオンとサーナがお母さんのお店にいるの、あなたを待っているの。会ってくれない」

女の子が、チラッとお母さんを見た。

「ちいちゃん、下に行って、今からあなたたちの大ファンが会いに行くから、ちょっと待っていてって、伝えてきてくれない」

「うん、いいわよ」

「・・・・・」

しばらく、誰もしゃべらない時間が続いた。

「このお部屋から出るの、怖いよね。でも、シオンとサーナに会いたいでしょ。下に降りないと会えないよ。お話しできるし、握手だってできるのよ」

女の子が、お母さんの顔を見た。

「シオン、サーナ、もう少し待っていて、今、降りていくから」

「ハーイ」

「お姉さん達のお洋服は、決まったの」

「ハーイ」

サーナが答えた。

「サッ、下に行きましょ。下に降りるだけだから。おかあさんといっしょに降りましょう」

「・・・・・ 行く。降りる。会いたい」

「イエーイ、そうこなくっちゃ。ピンクのファイルをシオンとサーナに見せてあげて」

三人で、階段を降りる。

女の子が下に降りて、お店の中を見た。

「ハーイ、オゲンキデスカ。ワタシのナマエワシオンです」

「ワタシのナマエワサーナです。ドウゾヨロシク」

シオンとサーナが、女の子に近寄って、手を出した。

「握手だって、してあげて」

女の子は、ファイルを抱えたまま、恐る恐る手を出して、握手をした。

「ナンネンセイデスカ」

「三年生」

「ワタシ、コノオミセダイスキデス」

「ねー、シオン、ファイルを見てあげて。あななたちばっかりよ」

女の子が、抱えていたファイルを小さなテーブルに置いた。

サーナが開く。

「オー、スゴイネー、ワタシタチオンリー」

時間をかけながら、次のページ、次のページを見ていく。

女の子が自慢げに、雑誌の名前を挙げながら指をさしていく。


「あのー、ゆっくりしすぎていると、午前中に水族館に着かないですけど・・・」

運転手さんが、いった。

「・・・・・」

「そうね、今からね、水族館に行くの。もっともっとお話ししたいけど、・・・」

「そうですか、足止めさせてしまってごめんなさい」

女の子のお母さんが言った。

「いいえ、良いんです。別に急いているわけではありませんから。アッ、そうだ、この辺においしいハンバーガー屋さんはないですか。チェーン店ではない、ここにしかないお店が良いんですけど。お昼は、どこかでハンバーガーを食べるって計画しているんです。水族館の帰りに寄りますから、一緒に行きませんか」

「・・・お気持ちはありがたいけど、もう何か月もお家から出たことがないから」

「ハンバーガー、嫌いなの、行きましょう」

「・・・・・」

「あのね、私たち全員、不登校の時期があったのよ。シオンもサーナも。だからね、あなたの気持ち、少しはわかるの。お家から出られない。外に行きたくない。お友達と会いたくない。とってもわかるわ。でもね、こういうチャンスがないと、ずっと行けないわよ。ずっと変わらないわよ。きょうは金曜日でしょ。みんなは学校に行ってるから、心配ないわ。シオンとサーナといっしょにいたら、楽しいわよ」

「・・・・・」

「私たち、水族館へ行って、帰りにここによるから、もし、行こうって気持ちなったら一緒に行きましょ。シオンもサーナも」

「オー、イエス」


「じゃあ、お金、いくらですか。二人分で。あれ、沖縄らしい服装に・・・」

お姉さん二人の服装が変わっている。結局、みんなと同じようにティーシャツにジーパンになったみたいだ。みんなお揃いになった。

「じゃあね、後でよるから」

車に乗って、水族館に向かう。


「みんな、ごめんね、勝手なことしちゃって。あのお母さんの顔を見たら、自分のお母さんの顔を思い出しちゃったの。青波の学校に行きなさいって、今のままじゃダメだって、涙を流しながら説得されたことを」

「ううん、とっても良いことしたなって。このまま別れていたら、まだ学校にいけない日が続いただろうなって。一歩でもすすめたら良いなって」

「うん」

「運転手さん、駄菓子屋さんのハンバーガー屋さんて、だいたいどこなんですか」

「うん、それがあのお店からとっても近いんだ。歩いて行ける所じゃないかなあ」

「そうだったんですか。じゃあ、そこにしましょうよ。お店から歩いて行きましょ」

また、この旅行で楽しみができた。お姉さんのお洋服選びはできなかったけど、沖縄にお友達が一人できるかもしれない。学校に行けなかった子が、一歩前にすすむお手伝いができるかもしれない。


「はーい、もうすぐ水族館に着きますよ。車は駐車場に入れますから、少し歩きます。公園をすこし行って、長いエスカレーターのある建物です」

今日は金曜日なのに、水族館に近くなったら車が混んできた。さすが人気の観光地だ。


小さな水槽、大きな水槽、とっても大きなマンタとジンベイザメ、思っていたより数倍も大きい。みんな、迫力に圧倒されて、水槽の前から離れられなくなった。

ちいちゃんは、先生から預かってきたカメラを出して、写真を撮った。

「サーナ、行くよ」

大きな魚にくぎ付けのサーナは、大きな水槽の前から離れようとしない。

「オー、ビッグ、ビューティフル、ファンタスティック」

「うん、わかったわかった。次、行こう」

アッ、遠くの若い女の人三人組が、シオンとサーナを指さして何か言っている。

これは、また始まってしまう。

「サーナ、行くよ」

手を引っ張って、無理に水槽の前から移動した。

外に出ると、イルカのショーが始まっていた。後ろの隅にみんなで座り、しばらく見た。

「マナちゃん、シオンとサーナに帽子をかぶって目立たないようにって伝えてくれる。さっき、若い女の人が気づいていたから、ヤバいかも」

マナちゃんが、英語で伝える。

シオンが、周りをキョロキョロした。

「コラッ、ダメ」

「お姉さん、気がつていますか」

「はい、わかっていますよ。イルカのショーが終わる前に出ましょう。気がついている女性は、ほら、あそこにいますから、こちらの扉から出ましょう」

お姉さんが、観客席の後ろ真ん中に立っている女の人を指さした。

「シオン、サーナ、行くよ」

私とちいちゃんが二人の手を取って、逃げるようにイルカの会場を離れた。

最後に、売店があった。ジンベイザメやマンタのぬいぐるみ。キーホルダーやティーシャツを売っている。サーナが、ぬいぐるみが欲しいと言っているが、手をひいて、急いで水族館を出た。

「あー楽しかった。大きいのね、サメって」

「もう少し見たかったなあ」

「うん、私も見たかったけど、広島駅のパニックみたいになったら、水族館にも迷惑がかかるし、また次の機会にしましょう」

「そーね、今回はしょうがないわね」


話をしながら公園を抜けていくと、さっき車を降りた場所に、私たちの車が待っていてくれた。

「おかえりなさい、どうでしたか」

運転手さんが、聞いた。

「さすが、沖縄のナンバーワンスポットですね。迫力がすごいですね」

「訳あって途中で出てきてしまいましたので、次の機会にもう一度来たいです」 

「そうですか。私がご案内するお客様みんな、ぜひもう一度っていいますね。あのド迫力に圧倒されるんでしょう」

「わかります。その気持ち」

「さー、移動しますよ。十二時を過ぎたところです、名護まで戻ります。良いですね」

「はーい、ハンバーグでーす」

「一時ころにはハンバーグ屋さんに入れると思います。お腹がすきましたけど、少し我慢してくださいね」


車が、動き出した。

「シオン、沖縄は何回目、初めてじゃないわよね」

「アー、スリー、フォー、ファイブ、・・・ワカラナイ。トキドキネ」

「アクアリウムは」

「オー、ハジメテ。ファーストタイムヨ」

「ふーん、今までは、沖縄まで来てお仕事だけで帰っていたの、お仕事オンリー」

「イエス」

「つまんなーい」

「サーナ、ジンベイザメ、どうでした、気に入った」

「オー、イエース、ベリービッグ、ダイスキデース」

「私は、マンタが良かったなー。空を飛んでいるみたいで、ずっと見ていたい」


話をしている間に、名護の町に入った。一時、少し前だ。

さっきの古着屋さんの前まで来ると、シャッターが半分しまっていた。どうかしたのかな。

「ただいまー、戻ってきましたよー」

ガラスの扉を開けて、声をかけてみた。

「お帰りなさーい。本当に来てくれたのね。ありがとう」

女の子のお母さんが出てきた。

「どうですか、行けそうですか、ハンバーガー屋さん」

「うーん、本人二階にいるから、聞いてみてくれる。悩んでいるみたい。考えているみたい。迷っているみたいだから」

「はーい、じゃあ上がらしてもらいまーす。二階にお迎えに行けば良いですね」

私は、二階に聞こえるように、わざと大きな声で返事をした。

「女の子の名前を聞いてなかったんですけど」

「シオリ、ワタベシオリ」

「はい、ありがとうございます。しおりちゃん、あがるよー」

階段の上がると、テーブルに座っていた。

「アレッ、お洋服を着替えて待っていてくれたの」

しおりちゃんは、私たちに併せるように、白いティーシャツにジーパン姿だ。

私の顔を、じっと見る。

「さっきもいったけど、私たちみんな学校に行けなかった時期があったの。だから、しおりちゃんの気持ちが、少しはわかる。毎日お家にいることが良いなんて思ってないでしょ。でも、朝になると行けない。そんな時間が続いちゃう」

「・・・・・」

私の顔を、じっと見ている。

「休んでいる毎日の生活から抜け出すには、なにか機会がなければ難しいわよ」

「・・・・・」

「それが、今日だと思えない、チャンスだと思えない、このチャンスを逃したら、当分、また家から出られない日が続いちゃうよ」

しおりちゃんの目から、涙があふれ出た。

「とっても苦しいでしょ。悲しいでしょ。私もそうだったから」

「・・・・・」

「無理に、行こうなんて言わない。しおりちゃんの気持ち次第だから、考えて。答えが出るまで待ってるわ」

私は、下に降りてしおりちゃんを待つことにした。テーブルを離れて階段に向かった。

「ママは、ママも行く」

しおりちゃんが、小さな声でいった。

「行ってほしいって、言える。うーん、私から言ってあげる。ママもいっしょに行こうって」

「うん、ママといっしょに行く。いっしょに行く」

「うん、行こ。みんなで行こ」

私は、階段の下に向かって、元気に行った。

「しおりちゃんも行くって、みんなで手をつないで行くって」


二人で階段を降りて、みんなの顔を見た。

みんな、なにもしゃべらない。

「お姉さん、いっしょに行きましょ。お店、休みになっちゃいますけど良いですか」

「わたしもいっしょに行って良いの」

「はい、みんなでいきましょ」

お姉さんの目が赤かった。泣いていたのかもしれない。

「ちょっと待ってて、お支度してくるから」

お姉さんが、急いで二階に上がっていく。とってもうれしそうだ。

「サーナ、しおりちゃんと手をつないであげて。しおりちゃんのママと三人で手をつないであげて」

「オー、グー」


しおりちゃんのママが二階から降りてきた。口紅だけつけてきたみたいだ。笑顔だ。

みんなで店の外へ出た。シャッターを閉める。

「おじさん、ハンバーガー屋さんは、わかりますか」

「えーと、こっちだと思いますけど、駄菓子屋さんがハンバーガーを売ってるお店ってすぐ近くですよね」

しおりちゃんのママに聞いてみた。

「ああ、ポップですか、えー、その角を曲がった、すぐそこですよ」

「行きましょ。みんなで行きましょ」

みんなで手をつないだ。私も、シオンも、マナちゃんも、しおりちゃんのママも、お姉さん達も、みんなで手をつないだ、


角のお店から、次の交差点を曲がってすぐそこだった。お店の前にガチャガチャが並んでいた。すぐわかった。

「こんにちはー、お店、良いですか」

「はーい、いらっしゃい。どうぞ、どうぞ。観光の方ですか」

「はい、ありがとうございます」

お店のおばさんが、みんなの顔を見渡して、気が付いた。

「あら、しおりちゃんのママ、お元気、しおりちゃん」

ママが、微笑んだ。

「しおりちゃんもいますよ、ここに」

マナちゃんが、言った。

「エー、あら、しおりちゃん、元気だった。おしゃれな格好でわからなかったわ」

「どういうご関係なの、子供から、大人から」

「私たち、おともだちです。みんなでおいしいハンバーガーを食べに行こうって、よらせてもらいました」

「あら、ありがとう。どうぞ、食べて行って」

みんな、お店にあるテーブルに座った。

シオンとサーナは、店に並ぶ駄菓子を、珍しそうにずっと見ている。

「コレ、ナンデスカ」

小袋に包装されているお菓子を、次々に手に取る。

「イート、プリーズ」

シオンが袋を開けて、舌を出して舐める。

「オー、グー。デリシャス」

「マナちゃんも、食べたことない。しおりちゃんは」

「わたしも、食べてみて良いですか」

「良いわよ、好きなもの選んで食べて」

マナちゃんも、しおりちゃんも席を立って駄菓子を選ぶ。くじ引きもある。お祭りみたいだ。

しおりちゃんのママが、ティッシュで目をぬぐっている。笑いながら、目から涙があふれている。

「オイシイデスネ、コレ、ダイスキデス」

シオンが手に持っていたのは、小さなカップに入ったヨーグルトだ。私も大好きなやつだ。

「お姉さん達は、これ、知っているものばかりですか。子供のころ食べましたか」

「うん、小さいころ、お金を握って駄菓子屋に行ったわ。毎日、紐の先についている飴玉を口に入れてお家に帰って、お行儀が悪いって、母親によく叱られた」

「あー、長い紐を引っ張って、飴玉が大きかったり小さかったりするやつですね」

「そうそう、懐かしいわ」

座るテーブルの上が、袋やくじ引きの紙でいっぱいだ。

「はーい、ハンバーガーできましたよ。全部同じものだから」

あー、とってもおいしそう。パンの間から、レタスやトマト、お肉が見える。目玉焼きもはさんであるかもしれない。

テーブルに座って、みんなでかぶりついた。みんな、お腹がすいている。口の周りにソースがついてもおかまいなし。大きな口を開けてかぶりついた。

「シオン、サーナ、おいしいですか」

うん、うん、うなずくのが精いっぱい。お口いっぱい頬張っている。

「しおりちゃんは、何か月ぶりですか」

ママに聞いたが、微笑みながらしおりちゃんをずっと見ている。

「春休みから」

しおりちゃんが、小さな声でいった。

「そー、良かったね。すぐに学校行かなくて良いから、私たちが帰っても、元気にしてね。そーだ、毎日ここに通えばよいかも。最初はママといっしょ、次にひとりで、次にお散歩して、次に先生とお話をして、先生と学校に行く。ママと学校に行くって、どう」

「・・・・・」

「そんなにうまく、いかないか」

しおりちゃんのママは微笑みながら、しおりちゃんをずっと見ている。

「そーだ、しおりちゃんの家にパソコンはありますか、私たちが帰っても、顔を見ながらお話できますから、あとで連絡先とか渡しますね。次に沖縄に来た時も、絶対よりますから」

シオンとサーナは、ハンバーガーを食べ終えて、今度はおもちゃのくじ引きをしている。ビックリボールにシール、プラモデルが当たるもの、たくさん、いろいろやった。


「さー、行きましょうか。お腹もいっぱいになったし。一人一本づづペットボトルを買っていきましょうか」

お姉さんが、言った。

「はーい」

「じゃあ、おうちまで一緒に帰ろう」

すぐそこまでだけど、帰りもみんなで手をつないで、帰った。


「しおりちゃん、シオン、サーナ、私たちもお友達だから。すぐには無理だけど、沖縄に来たときは絶対によるからね。頑張ってね」

しおりちゃんが、寂しそうにうなずいた。

「じゃー、またね」

「ママ、さようなら」

「ありがとう、また来てください。今度来てくれるまでに、しおりは学校に通っていますから。本当にありがとう」

みんな、車に乗って手を振った。

「バイバーイ、元気でねー」

車が出発した。

見えなくなるまで、手を振った。


「あのね、しおりちゃんのママの顔を見たときね、私が学校に行きたくなかったころ、毎日学校から帰ってきて、泣いていたころの私のおかあさんの顔を思い出したの。悲しそうで、辛そうで、あの顔を思い出しちゃったの。でね、このまま何もしないで帰ったら、ずっと気になっただろうし、あとから、何で、あの時助けてあげようとしなかったのか、自分にできることがあるんじゃないかって、思ったの。いっしょにハンバーガー屋さんに行けて、良かった。本当に良かった」

お話をしながら、涙が出てきた。

「うん、今日をきっかけに、学校に行けるようになると良いんだけど」

「・・・・・」


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