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学校へ行きたい子は、はーい。  作者: アイスマン
4/9

課外活動(後編)

課外活動二日目

先生の部屋に行ってお弁当をもらい、バスターミナルに向かう。

ホテルからバス停まではすぐの場所だったみたいだ。

私の班とちいちゃんの班の全員が、九時発の高速バスに乗る。

出雲に着く時間はお昼を少し過ぎる頃の予定だ。

大社前への集合時間は午後三時。少し余裕がある。おじいとおばあにお土産を買いたいと思っている。


高速バスの中では、お話しする人、うとうとする人、景色を見ている人、三時間ちょっとの移動時間は、あっという間だった。

出雲駅でバスを降り、電車に乗り換えて約三十分、大社前に着いた。

大きな鳥居があって、お土産屋さんが並んでいて、とてもにぎやかな通りだ。

「シオン、おじいとおばあにお土産買うから何が良いか考えよう」

お土産屋さんに入って、二人で考える。

食べ物が良いか、置物が良いか、絵葉書が良いか、いろいろ考えて決めたものが、お守りをお揃いで買うことにした。しめ縄の形をしたちょっと変わったお守りで、ひもの色がピンクと水色、値段も手ごろでシオンが見つけたものだ。

私も出雲に来た思い出に何か買いたいと思っていた。私たちも、シオンと色違いのお守りにした。早速カバンに結ぶ。


駅からお土産屋さんを回りながら、大社の方向に歩いて約一時間、大社前の集合場所に青波の生徒が集まっていた。

みんな、一日目の行動を報告しあったり、ここまでの交通手段を話したり、百人以上の集団はワーワーとにぎやかだ。

ここ大社は集合場所であり、チェックポイントなので、先生に到着の報告を全員でしに行くことになっている。

岡山駅のチェックポイントには、教頭先生が待っていてくれた。きょうは誰だろう。

他の班の人に聞きながら、出雲大社の石柱まで行くと、あれ、教頭先生が立っていた。

「先生、きのう学校に帰るって言ってましたよね」

「はい、あれから学校に戻ってお泊り学習をして、朝一番で島を出てきましたよ。お昼過ぎには出雲に着きました」

「まー、たいへん。今日はどうするんですか」

「今日は出雲に宿泊します。私にも大社をお参りさせてください。ゆっくりと」

「アッ ハッ ハッ ハッ」

「みんなの体調はいかがですか、ちいちゃんはどんな様子でしょうか」

「体調万全です。いつも通りです」

「シオンとサーナは、どうですか」

「何の問題もありません。お姉さん方とおじさんが付いていますから」

「えっ、おじさんて」

あのおじさんのことは、教頭先生も知らないみたいだ。後ろに立っているお姉さんの顔を見ると、人差し指を鼻につけてシーの格好をしていた。

「ううん、なんでもありません」

「みいちゃん、なんか怪しいですね。青波に帰ってからゆっくり聞きます」

「はーい」

後ろで、お姉さんが笑っていた。


集合時間の午後三時を過ぎた。

集合時間前にお参りを済ませ、すぐに移動を始める班、これから大社をお参りする班、いろいろだ。

私たちの班は、これからお参りに行く予定なので、事前に調べておいたお参りの仕方を思い出し、境内に入った。鳥居の前で一礼をして無駄話をしないで、静かな気持ちでお参りをする。

出雲大社の紹介に出ていた大きなしめ縄の前で写真を撮った。


お参りを終えたら、電車に乗って空港近くのホテルに入る。二日目の計画はそこで終了だ。

来た道を、大鳥居の方向に歩く。

ちいちゃんの班といっしょに電車移動をして、ホテルまで歩いた。

佐原駅からホテルまで、近いと思っていたのだが、ちょっと遠かった。

今日は、朝早くホテルでいただいた朝ご飯と、ホテルが用意してくれたおしゃれなお弁当を高速バスの中でいただいた他に、食べ物も飲み物も口に入れていない。とってもおなかがすいている。

着いた。駅からずっと看板が出ていた。

昨日のホテルとは感じが違う。お部屋もテーブルといす、ベッドがあるだけの大人のホテルだ。これがビジネスホテルというものかと、初めて知った。きのうみたいに、みんなで一緒には寝られそうにない。シオンとサーナはどうするのだろう。


みんな、一度はお部屋に入ってみたが、とにかくお腹がすいている。届けられている荷物を確認して、一階のレストランに集合した。すぐに、晩御飯が始まった。


食事が始まってしばらくたつと、山田先生が立った。

「はーい、食べながら聞いてください。

今日はこのホテルに泊まらせてもらいますが、注意事項です。入った部屋に自分の荷物はありましたか、みんな一人部屋なので自分のものではなかったら言ってきてください。先生の部屋は、二階のエレベーターを降りた正面の部屋です。ドアを開けておきますから、いつでも来てください。

それから、見てわかる通り、今日このホテルに泊まっているのは私たちだけです。隠してもしょうがないので、シオンとサーナの安全を確保するために、他のお客様は断ってもらいまいた。私たちだけの貸し切りにしてもらっています。

そこで、外からの侵入を防ぐために建物の出入り口には、かぎをかけてもらいます。あしたの朝まで、このホテルから出ないでください」

みんな、はしを止めて聞いている。

「明日朝は、この場所で朝食です。何時にしますか、ここから空港までは、ホテルの送迎バスに乗っていきますから、三十分あれば空港に着きます」

「先生、私たちの班は、八時にホテルを出発する計画でした。一時間前の七時からの朝ごはんでどうですか」

私たちの班長さんが言った。

「もうひと班は、予定は何時でしたか」

「私たちの班も八時に出発する予定でした」

「はい、それでは七時にここに集合して朝ごはんにしましょう」

「はーい」

「もうひとつ、みんな部屋に入ると一人になりますね。ここを開放してもらいます。もちろんお部屋に戻って休んでくれても良いです。先生が、トランプをもってきていますから、一緒にやってくれる人がいたら、後で相談しましょう。ババ抜きとか、ネズミのしっぽとか、誰でもできるカードゲームをします。

なにか質問はありますか」

「はい、先生、まとめた荷物はどこに持ってこればよいですか」

「そうね、明日の朝、ここに運んでください。明日の朝までに場所を決めておきます」

「ほかにはー、・・・では一度解散します。食事がすんだ人から、自由時間にします」

「はーい」


続けてご飯を食べる人、お部屋に戻る人、先生とお話をする人、それぞれだ。

私は、もう少しご飯が残っていたので急いで食べる。周りを見ると、シオンとサーナはマナちゃんとお話をしていた。ちいちゃんは、私と同じで、ご飯をたべている。

この後、どうしようかな。


山田先生、ちいちゃんのママ、二人のお姉さんがおしゃべりをしながらご飯を食べていたが、トランプゲームをやりたい生徒が山田先生に、早く始めましょうと急かす。

「ちょっと待って、もう少しだから、十分待って」

私もそろそろご馳走様ができそうだ。

ちいちゃんは、終わったみたいだ。シオン、サーナ、マナちゃんとおしゃべりを始めた。

何をおしゃべりしているのかな、私も聞きたい。

「ごちそうさまでした」

マナちゃんが、私の食事が終わったのを見て近寄ってきた。

「みいちゃん、シオンとサーナがね、日本に来てトランプゲームをやったことがないから、みんなとしたいって、私もちいちゃんもお部屋に帰ってもすることないし、怖いし、トランプしようかなって」

「うん、そうしよう、私もやるわ」

山田先生も食事が終わって、全員がごちそうさまをした。

食事の食器をみんなでかたずけて、テーブルを少しだけ移動する。お部屋に戻った生徒たちも食堂にきて、結局、全員でトランプゲームをすることになった

「班分けはどうしますか」。

「考えたり覚えたりしながら遊ぶものは高学年が有利になるから、そうならないように考えてきました。四年生のマナちゃんには、ちいちゃんのママが付いてください。シオンとサーナはお姉さん二人がそれぞれ付いてあげてください。さっきも言った通り、ネズミのしっぽ、知っていますか」

みんな、頭に?マークがついているみたいだ。

「伏せたカードを赤、黒、交互に拾っていくだけのゲームです。同じ色のカードをひいてしまったら、テーブルに出ているカードを、全部受け取ります。最後に一番たくさん持っていた人が負けです」

「先生、私も似たゲームを知っていますけど、ねずみではなくて豚のしっぽという名前です」「そう、ねずみでもぶたでもどっちでも良いわ。わかりましたか、大人は後ろについて生徒が困ったときだけ助けてあげてください。トランプは三セットありますからじゃんけんでグループ分けしましょう」

「はーい」

「次にばばぬきもしますから、三十分くらいできりにしてくださいね。それから、負けた人は、罰ゲームでなにか物まねをすることにしましょう」

「えー、」

負けた人は物まねをすると聞いて、みんなの顔色が変わった。

じゃんけんをして、グループごとにテーブルを分ける。

私は、サーナと同じグループになった。サーナにはお姉さんが付いている。

八年生のお姉さんが、トランプをきって、テーブルの上に丸を書くようにぐるっと並べてくれた。

最初にひく人は、赤、黒、どちらでも良い。

「サーナから」

一枚目をひいて裏返す。ハートの三、赤だ。

隣の人が黒、次の人が赤、順調にテーブルの上に置かれていく。

私の順番がきた。ドキドキしながら一枚を選び、ひっくり返す。

アカ

「あー」同じ色だ。

テーブルの上のカードを拾い上げて自分の前に置く。

次の人、ハイ次の人、違う色を返すと、

「セーフ」

同じ色を返すと、

「アウト」

みんなで、大盛り上がりになった。

伏せられたカードは残りわずかになった。サーナの前には、一枚のカードもない。私の前には十枚ほどありそうだ。

セーフ、アウトを繰り返し、伏せられたカードが残り一枚になった。

「セーフ」

「それじゃあ、自分の前にあるカードが何枚あるか数えてください」

班長さんがみんなに聞いた。

シオンは、ゼロ。

隣は五枚。

その隣は十枚。

私が十五枚。

その隣、その隣、私の負けだ。

「みいちゃん、罰ゲーム、決定ね」

「あー、物まねなんてできなーい」

「こういう時は、恥ずかしがらない。なんでも良いの。大きな声で元気よくやっちゃえば。動物でもいい、おばあの口グセでもいい」

ちいちゃんのママが言ってくれた。

よーし、

「私が一緒に住んでいる、おばあの物まねをします」

大きな声で言った。

食堂のみんなに聞こえたので、ほかのグループのみんなも手を止めて、こちらを見る。

「みー、シオン、お帰り、手洗いうがいしなさい。宿題は、全部できたらおじいを迎えに行ってきて、いつものところ」

毎日おばあがいうのを覚えていて、大きな声で、声を変えて言った。

「オー、オバア」

シオンが隣のテーブルで言った。

「ワー、ハッ、ハッ」

食堂中が大笑いになり、拍手が起きた。

あー、恥ずかしい。

隣のテーブルでも負けた人が物まねをするといって、

「コケコッコー、コケコッコー」

ニワトリの物まねをした。みんなで大笑いをして拍手をする。

二回、三回、ねずみのしっぽを繰り返し、時間が過ぎたので、今度はババ抜きをすることになった。


私たちのグループにはサーナがいるので、一回目は練習。右隣の人から手持ちのカード一枚を取られ、左隣の人の手持ちカードから一枚をぬく。同じ数字がそろったら、二枚をテーブルに出すという流れをわかってもらうためだ。

アメリカにこのようなカードゲームはないらしい。

トレーニングは終わった。本番一回戦。

みんなの顔色を見て、ババがどこにあるのかを探る。

アッ、サーナの顔が変わる。ババがいった。


その時、サーナの後ろについているお姉さんの携帯電話が鳴った。キンコン、キンコン

「はい、はい」

お姉さんの顔が急に怖い顔になった。

「はい、わかりました。始めます」

何だろう。

お姉さんが電話を切った。

「みんな、静かに聞いてください。外にいる私たちと同じ会社の人から、怪しい人がホテルの周りにいると伝えてきました。静かに窓から離れて一か所に集まってください。それから照明を消します」

エー、怖い。すぐに席を立った。

山田先生、ちいちゃんのママが怖い顔をしながら、シオンとサーナに伝えている。

みんなが窓から離れた一か所に集まり、静かになったところで照明を消した。

シーンとしている。

みんな、緊張した顔をして窓を見ている。

このホテルの周りには普通の家が少ない。車の音もしない。

シーンとしている。

その時、外で足音が聞こえた。だんだんとこちらに近づいてきている。

緊張が一気に高まる。

ミシ、ミシ、ミシ、ミシ、近づいてくる。

窓の外に明かりがゆらゆらした。

携帯電話の明かりだろうか。

その明かりが窓に近づき中を照らす。

誰だろう、何だろう、怖さのあまり声を出してしまいそうだ。息を飲んだ。

部屋の中を明かりがぐるっと回っている。

その時、顔が見えた。男の人の顔が見えた。

「あれっ、教頭先生」

山田先生が言った。

「えー、教頭先生」

みんなの緊張が一気にゆるんだ。

みんなが窓に駆け寄り、

「なにー」

「どうしたの」

「良かった、教頭先生で」

窓越しに、教頭先生に話しかけた。

班長さんが、窓のカギを開ける。

「どうした、暗い中で何してるの」

教頭先生は、私たちの緊張した時間をわかってはいない。

「なにって、殺されるかもしれないって、不審者が来たって」

「私が、不審者、そうか、わっ、はっ、はっ、そうか」

「どうされました、教頭先生。来る前に電話をくださればよかったのに」

「サプライズだから」

「これは、本当にサプライズだ」

「入り口のカギを開けますから、ちょっと待ってください。セキュリティーのロックを解除しますから」

「イヤイヤ、次の電車でもう一軒サプライズに行くから」

「どこですか、近くなんですか」

「駅にして五つくらいかな、玉造温泉に行って、最後。私もそこに宿をとってあるので」

「そうですか、ご苦労様です」

「じゃ、エンジョイ」

教頭先生が窓から離れた。暗い道を歩いて行った。

「あー、驚いた。よかった、教頭先生で」

「さー、続きをやりましょう。グループを変えましょうか。もう一度じゃんけんして」

改めてじゃんけんをして、グループを変えてババ抜きを続けることになった。

こんどの私の班は、マナちゃんと一緒になった。ちいちゃんのママが付いている。

みんな、お互いの顔を見て探り合いがまた始まる。ババは誰が持っているのか、みんな真剣だ。ネズミのしっぽをやっている時とは目つきが違う。真剣勝負という感じだが、とっても楽しい。

一人抜け、二人抜けて、自分の手持ちカードが減らないと、とってもドキドキする。


「はーい、そろそろ終わりましょうか」

「えー、もう一回だけ」

「そーね、じゃあ、あの時計が十時を指したら次には進まない。その時やっているので終わりにしましょう。いいですね」

「はーい」

あと十五分ちょっとで十時になる。もうすぐ二日目も終わりだ。

ダメダメ、集中、集中。


時計が十時になった。終わりだ。全部のグループが終わってから、トランプを片付けて、テーブルをもとの位置に戻す。みんな自分の部屋に帰っていく。

「おやすみなさい」

どうも、シオンとサーナのお部屋は最上階みたいだ。お姉さん達も最上階に上がっていく。

生徒の中で最年少のマナちゃんは一人でも大丈夫なのか、とても心配だ。ちいちゃんもだ。

「マナちゃん、一人で大丈夫、一緒に寝ようか。私も一人は怖いし」

「うん、行っても良い」

横で聞いていたちいちゃんも、

「私も行きたい」

「小さなベッドが一つしかないけど、三人で寝られるかな」

「ちいちゃん、ママといっしょでしょ、ベッドは二つあるの」

「そうよ、ベッドしかないお部屋だけど二つあるわ」

「じゃあ、ママに言ってみようか」

ママに相談すると、直ぐに決まった。

私たち三人が、ちいちゃんの部屋で寝て、ちいちゃんのママが私の部屋に来ることになった。荷物を持って移動する。

「私の部屋もベッドしかないけど、このお部屋も同じね」


時計は十一時まで、もう少しだ。

「さあ、寝よ寝よ」

「何時に目覚ましかける」

「えーと、八時に食堂だから、お荷物の片付けもあるから、六時半」

「六時じゃなくて良い」

「じゃあ、目覚ましは六時にして、起きるのは六時半と」

「おやすみなさーい」

電気を消して、活動二日目が終わった。


課外活動最終目

ピー、ピー、ピー、目覚ましが鳴った。

私のベッドにはちいちゃんも寝ている。もう一つのベッドにはマナちゃん。三人が布団の上でごそごそと動く。

目覚ましが鳴っても、少しボ~とする時間がある。

いつもなら、もう少しと思うけど、今日は違う。目が開いて意識がはっきりしてくる。

ベッドに座る。ちいちゃんとマナちゃんも目を開ける。

「おはよう、もう少し余裕があるわ」

「うん」

今日は青波に帰る。おじいとおばあに会える。なんて言うかな。ちょっと、緊張する。

ベッドを出て、荷物をまとめ始める。

ごそごそしていると、ちいちゃんとマナちゃんも起き上がる。

「今日で終わりね、まだまだ続けていたいような、帰りたいような」

「うーん、でも、青波が待っているから」


三人で、出発の準備を始めた。

「シオンとサーナは起きたかな」

「お姉さんが付いているから」

「そーね」

トントン、ドアがノックされた。

「はーい」

ドアを開ける。ちいちゃんのママだ。

「起きた、お支度はできた」

「うん、もう少し」


準備を終え、食堂に降りる。

シオンとサーナはまだ来ていない。

持ってきた荷物を入り口において、席に着く。

「みんなそろわなくても、食べられる人からどうぞ」

先生が言った。

「どうする、シオンとサーナを待つ」

「うん、すぐに来るでしょ。食べましょ」

「じゃあ、食べましょうか」

ちいちゃんのママが言った。

「いただきまーす」

ご飯とお味噌汁、目玉焼き、納豆、焼いた魚、バナナ、いちご、おいしそうだ。

「すぐに寝られた」

「うん、すぐ」

いつもどおり、おいしく食べていると、シオンとサーナが入ってきた。お姉さんもいる。

荷物を置いてテーブルに着いた。

「おはよう」

「オハヨウゴザイマス」

いつもと変わらない表情だ。

サーナの後ろ髪が少しはねていた。

ちいちゃんのママが立ち上がって、直しに行く。毎日やっているのか、慣れた手つきだ。

サーナも、頭をまっすぐにして動かない。

朝、みんなあまりしゃべらない。

静かな朝ご飯になった。


「班長さん、みんなそろっていますか」

「はい、全員そろっています」

「じゃあ、予定通り八時に出発しましょう。入り口を出るとマイクロバスが待っていますから乗ってください。空港まで送ってもらいます」

「はーい」

八時前まで食堂で過ごした。

「じゃあ、出発しましょうか、みんなおトイレは良いですか」

「お世話になりました」

ホテルのみなさんにお礼を言って、みんなでマイクロバスに乗り込んだ。

お話をする間もなく、アッという間に空港の入り口に着いた。


私は始めての空港、飛行機だ。

空港の中は天井が高くてとっても広い。真ん中にカウンターがあって、たくさんの人が大きなカバンをもって並んでいる。天井から下りている案内板には日本語と英語、壁にある掲示板には、日本各地の地名と外国の地名も書いてある。

これが、空港か。

エスカレーターで二階に上がるとお土産売り場やレストランが並んでいる。

これが、空港か。

指定された待合所のベンチに座って、みんなで並んで待つ。館内放送が英語だ。

これが空港か。

緊張してきた。

ゲートに看板がかかった。神戸と書いてある。

館内放送が鳴った。もうすぐ入場できるみたいだ。ますます緊張してきた。

先生からチケットをもらい、ゲートを通過する。窓際の通路を通って四角い廊下を通り、お姉さんが並んでいるところまできた。飛行機だ。たくさんの椅子が並んでいる。

これが飛行機か。

自分の席を探す。みんな並んで座っている。横も前もバスよりせまそうだ。自分の場所に座る。あたりを見渡す。窓がとっても小さい。座席の上には、見たことのないボタンやランプがあった。シートベルト、たばこのけむり、緊張している。ワクワクしている。見るもの見るもの始めてのものばかり。言葉が出ない。

「みいちゃんもシートベルトしなさい」

おしりに敷いているベルトを上げて右と左を差し込んだ。カチャ。ゆるゆるだ。


アッ、窓の外に見える景色が動き出した。出発だ。小さな窓から見える景色を見る。たくさんの飛行機、滑走路が見えた。なんかすごい。ぐらぐら動く。緊張する。

エンジンの音が大きくなった。ゴー

急に飛行機が早く走り出す。ゴー

少したつと、ガタガタしていた音がなくなって、上に上がった。

「アッ、浮いた」

外の景色が変わっていく。海が見える。屋根が見える。飛んだ、飛んだ。

ゴー、エンジンの音はとっても大きい。

雲の中を過ぎて、ぐんぐん上がっていく。

とっても不思議な感じがする。いつも空に飛んでいた飛行機。今日は私が飛行機の中にいる。

緊張した時間が過ぎていく。


「まもなく、目的地の神戸空港に到着します。シートベルトの着用をお願いします」


もー到着する。あっという間だった。

雲を抜けると屋根が見える。線路が見える。小さく車が見える。

エンジンの音が静かになった。右に曲がる。飛行機がかたむく。何か不思議。

いよいよ低くなってきた。空港はどこだろう。

屋根が近づいてくる。

急に滑走路が見えた。ガタガタ、着陸した。

浮いていたところから、いつものタイヤの感覚だ。エンジンが大きな音を出す。急ブレーキ。足をこらえる。とっても緊張する。

ゆっくりになった。ホッとした。

飛行機が建物の近くに来て止まった。エンジンも止まった。頭の上にあるシートベルトのランプも消えた。

「あー、着いた」

飛行機初体験。とっても疲れた。


出雲から一気に神戸に移動してきた。飛行機ってすごいな。


電車移動をして、新幹線の駅に移動する。すごい人だ。

「ここでお昼にしましょうか、レストラン街までみんなで行って、別れて好きなものを食べましょう」

山田先生が言った。

「はーい」

「シオン、サーナ、何にする」

「ウーン、ラーメン、ハンバーグ、オサシミ、カレー」

「えー、何、ひとつにして」

「ウーン」

「ラーメン」

マナちゃんが言った。

「オーケー、ラーメン」

決まった。ラーメン屋さんを探す。

「あー、あった」

「席は、空いている」

「うん、六人でしょ、座れそうよ」

みんなでショーウィンドーを見る。どれもおいしそうだ。

「席に着いてから、考えましょう」

ママが言った。


席について、お水を一口飲む。

「はー、もう終わりか。あっという間の三日間だったわね」

「なんだか、いろいろなことがありすぎて、頭の中が整理できない」


お話をしていると、隣の席に座っている四人のお姉さんが、こちらの席をちらちら見ながら、ヒソヒソ話を始めた。

まただ。シオンとサーナだ。金髪でお人形さんみたいにきれいな顔、とっても目立つ。帽子をとってしまったら、知っている人だったらすぐに気が付く。

「ハーイ」

愛想を振りまくから、しょうがない。

お姉さんたちは、キャーキャーと声を出しながらこちらを見ている。

「ごめんなさいね、周りにご迷惑をかけたくないから、静かにね」

ちいちゃんのママが鼻に人差し指を当てながら、申し訳なさそうに言うと、お姉さんたちは静かになった。

「握手だけ、良いですか」

ママが、シオンとサーナに伝えると

「オフコース」

「静かにね」

シオン、サーナと握手をした。

なぜか、私たちにも握手を求めてきて、みんなが握手をすることになった。

変な感じだ。


注文したラーメンが来た。おいしそうだ。

「いただきまーす」

出雲から飛行機で移動してきて、緊張しすぎていた。おなかがすいていたことに気が付かなかった。

みんなでラーメンを食べた。シオン、サーナも上手に箸を使って、めんをすすりながら食べた。汗をかきながら、途中でお水を飲みながら食べた。

「あー、おいしかった。お腹いっぱい」

「さー、青波でみんなが待っているわよ、帰りましょう」

私は、急におじいとおばあの顔が浮かんだ。

「うん、帰ろう」

お店を出て集合場所に行く。まだほかの人は来ていない。

「サーナ、シオン、静かにしてね。また、パニックになっちゃうから」

二人はうなずく。私たちで、回りから見えないように、シオンとサーナを囲う。

「どうだった、課外授業、楽しかった」

ちいちゃんのママが、みんなに聞いた。

「マナちゃんは」

「とっても楽しかった。英語でお話できたこと、久しぶりだった。なんだか解放されたって感じ。

「ふーん、私たちにはわからない感覚ね」

「サーナは」

「フーン、〇▽■&?●・・・・」

「マナちゃん、何だって」

「昨日のトランプゲームが楽しかったって。今までにやったことのないゲームで、みんなの物まねが最高だったって言ってるわ」

「そーね」


話をしている間に、みんながそろったみたいだ。

「さー、行きましょう。岡山駅で教頭先生が待ってるわ」

「はーい」

新幹線に乗った。そんなに混雑はしていない。

私たちは指定席なので、周りの席にお客さんは少しだけだ。

「マナちゃん、青波に帰ってもうちに来て、シオンとお話してあげてね」

「エッ、行っても良いの」

「お休みの日だけになっちゃうかもしれない

けど」

「うん、行く行く」

「サーナもいっしょにお話しして。私とちいちゃんのお勉強にもなるから」

「そーね」

ママが、横で聞いていて言った。

「マナちゃんも言っていたけど、自分が伝えたいことが伝わらない、おしゃべりできないって、ストレスだと思う。サーナもシオンも同じだと思うわ。結果、おしゃべりする人が限られて、お友達が増えなくて、せっかく日本に来て、青波に来て生活していても行動範囲が狭くなっちゃうと思うの」

ママのお話を聞きながら、シオンとサーナが遠くに離れていくようで、あまり良い気持ではなかった。


神戸から岡山の時間は三〇分ほどなので、すぐだった。

ホームから改札口を出て、教頭先生を探す。

小野線の駅に向かうと入り口に教頭先生が立って待っていてくれた。

「先生、もうみんなは来ましたか」

「ちょうど半分くらいかな、みんな元気ですか、体調を壊してはいませんか、小野駅に五時、次の電車に乗ってくださいね」

「はーい」

ここから小野駅まで約一時間、始発駅から最終駅までの移動になる。岡山市内を抜けると

のどかな景色が続く。眠たくなっちゃうかもしれないな。と、考えながら電車に乗った。

ガタンゴトン、あー眠くなる。とっても良い感じに揺れる。あー、眠く・・・・。


「みいちゃん、着くわよ」

ママが起こしてくれた。眠っていたのは私だけではないみたいだった。みんな疲れているんだ。

「あー、気持ちよかった」

小野駅まで来ると、海のにおい、波の音、帰ってきた気がした。

大きな船に乗って、ガクリ島を目指す。ガクリ島まで行くと、おじいが待っているはずだ。あっという間の三日間だった。

久しぶりに電車、バスに乗った。

初めて空港に行った。

初めて飛行機に乗った。

青波に来て、始めておじい、おばあと離れた生活をした。

来た時と同じ、大きな船に乗り込んだ。みんな並んで席に座る。帰りは、みんなを探さなくても隣に座っている。

「船長のクリスです。三日間の課外授業はいかがでしたか。良い思い出になりましたか、これからガクリ島に向かいます。短い時間ですが、おくつろぎください。それでは出航いたします」

ボー、大きな音が鳴った。

船がゆっくり動き出す。

「あーあ、また学校ね」

今日は金曜日だから、土日とお休みして月曜日から普通に戻る。いつもの土曜日は半日学校があるが、明日はお疲れ休みになっている。

「でも、とっても楽しかったな、来年はどこになるのかな」

「えー、来年て早すぎない、今年の課外授業も、まだ終わっていないし。

「そーね、アッ、ハッ、ハッ」


ガクリ島に着いた。船を降りおじいの船まで歩く。

「あー、おじい、ただいま」

おじいが遠くに見えた。

「おかえり、疲れたか」

「うん、少しだけ」

「そーか、おばあが待ってるぞ、首を長くして待ってるぞ」

「うん」

「じゃあ、私たちはここで」

二人のお姉さんが言った。

「どうもありがとうございました。緊張した場面もありましたけど、何事もなく帰ってこられてよかったです」

ちいちゃんのママが言った。

「じゃあね、シオン、サーナ」

「オー、サヨナラ」

みんなと握手をした。

私たちは、おじいの船に乗り、お姉さんはガクリ島からお見送りになった。

「じゃあね、バイバイ」

船がガクリ島を離れていく。


青波の港が見えてきた。帰ってきた。

港には、たくさんの親たちが出迎えに来ていた。オバアはどこだろう。

アッ、いたいた。見つけた。


「おばあー、ただいまー」



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