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学校へ行きたい子は、はーい。  作者: アイスマン
3/9

課外活動(前編)

『おばあ、おはよう、雨は』

『残ったわね、しとしと降ってるわ』

『どうする、雨合羽、傘』

『明るいからすぐ上がるわ、合羽だけでいいかな、船に乗っている間にあがったら、脱いでおじいに渡したら良いでしょ』

『うーん』


今日から課外活動。この学校唯一のイベントになる。四年生から九年生の生徒が縦割りで班を組んで二泊三日で課外活動をする授業だ。一年生から三年生は、学校に残ってお泊り授業をする。

縦割り班は十名ぐらいで、先生やお父さんお母さんが付き添いとして一緒に行動する。

九年生はお受験を控え、みんなお勉強をしているので、班長は八年生、九年生は希望者のみの参加となってはいるが、参加しなかった人はいないと聞いている。


・目的地を決めて、

・班割をして、

・学校へ相談をして、

・協力してくださるお父さんやお母さんにお願いをして、

・交通手段を決めて、

・宿泊地を決めて、予約をしてなど、

やることは山ほどある。

今年の目的地は、出雲大社になった。前には、東京の遊園地や沖縄などにも行ったようだ。遠いと、移動時間が長くなり評判が良くなかったと聞いた。今年の出雲は、まっすぐ行ってしまえば、五時間ほどで到着する。まっすぐ行かずに、自分たちで行きたい場所を選び、交通手段を考えて、集合場所、集合時間に到着できるように班ごと考えている。

私たちの班には、シオンがいる。ちいちゃんの班にはサーナがいる。安全の確保が特別なのか、他の班とはチョット違うのかもしれない。

青波小学校には、遅れているお勉強を取り戻しに来ている子供がたくさんいる。夏休みもなくして、お勉強をしている。だからこそ、この課外活動をとっても楽しみにしている。


『おじいは』

『朝早く出かけたわよ、船に行っているんじゃない』 

『えー、ずるい、私も早くいく』

『学校に早く行ってもしょうがないでしょ、いつも通りの時間に行けば良いでしょ』

『はーい』


二泊三日のお泊りなので、荷物はたくさんある。でも、宿泊先を決めて事前に予約できているので、班の荷物をまとめて送り届けてある。一泊目の荷物、二泊目の荷物、ホテルに送ってあるので少しの荷物で出発できる。

帰りも同様に、ホテルから学校に送り届けることになっている。楽ちんだ。


いつも通りにシオンと家を出て、途中からちいちゃんとサーナと四人で学校に来た。学校の中がいつもより騒がしい気がする。もしかしたら、もう出発した班があるのかもしれない。


キーン コーン カーン コーン 朝のチャイムが鳴った。ざわざわしていた学校が静かになった。

笹木先生がいつもとは違う洋服で教室に入ってきた

『起立、気を付け、先生、おはようございます』

『おはようございます』

『着席』

『今日から、みんなが楽しみにしている課外活動ですね、お兄さんお姉さんの言うことを聞いて、楽しく活動しましょう』

『はーい』

『エンジョイ、レッツスタート』


みんな走って外へ出る。それぞれ集合場所に分かれて出発だ。私の班は、グランドの真ん中に集合するようにいわれている。シオンもいっしょだ。あとは、山田先生が来れば全員がそろうはずだが、もう一人、シオンのボディーガードが付添人として行動すると聞いている、どんな人かな。

班のお兄さんお姉さんと、シオンとグランドの真ん中に立っていると、ティーシャツとジーパンのきれいなお姉さんが近くに寄ってきた。

『おはようございます、シオン、みいちゃん、私の名前は加藤です、加藤雅子、一緒に課外活動に参加します、よろしくお願いします』

そのまま、班長にもご挨拶をしている。山田先生も校舎から出てきて、全員がそろった。

ここからは、班長さんが考えてくれたスケジュールで行動する。

『さー、みんな集まりましたから出発しましょう。レッツゴー』

班長さんが言った。

シオンと一緒にいると、みんなが英語を混ぜてお話してくる。笹木先生もそうだ。

気が付かないうちに、雨は上がっていた。


私たちの班行動はこうだ。

一日目

学校から港へ移動。

私のおじいの船でガクリ島へ移動。

学校が予約した高速艇で本州小野の港まで。

港からはジェイアール小野駅まで歩く。

小野駅から九時半発の電車に乗って岡山駅に移動する。

小野駅から岡山駅までは約一時間、岡山駅にはチェックポイントがある。教頭先生が待っているらしい。

そのまま岡山駅から新幹線に乗って広島駅へ向かい、厳島神社と原爆ドームで課外活動を計画している。

一日目の宿泊は広島駅近くのホテルだが、私の班にはシオン、ちいちゃんの班にはサーナがいる。ぐうぜんなのか同じホテルらしい。


二日目

広島駅近くのバスターミナルから九時発の高速バスに乗って、いっきに出雲駅へ行く。

出雲駅の到着予定はお昼過ぎ。駅弁をバスで食べる予定だ。駅弁を買って乗り物の中で食べたことがないので、とっても楽しみにしている。

出雲駅から大社まで、電車とバスのどちらにするかみんなで話し合いをした。高速バスが長いので、次は電車移動に決まった。

午後三時が集合時間なので、少しだけ余裕をもって到着できる予定になっている。ここが第二のチェックポイント。

出雲大社は班行動だが、生徒みんなでお参りすることになっている。お参りを終えると班ごとの活動に戻る。

出雲駅から電車に乗って空港近くで降りる。この日の宿泊は、空港近くのホテルになる。ここでもちいちゃんの班と同じホテルみたいだ。


三日目

朝早く空港に出発、飛行機に乗って神戸まで移動する。

空港から電車に乗って神戸の駅に移動。

新幹線で岡山駅まで行き、ここが第三チェックポイントになる。

あとは、来た時と同じ電車に乗って小野駅まで行って、船に乗って帰る予定だ。


三日間で、電車、船、バス、飛行機に乗って、ホテルに泊まって、レストランでご飯を食べて、忙しそうだけれど、とってもとっても楽しみな三日間になりそうだ。


最初はおじいの船だ。みんなオレンジ色の救命衣を着て船に乗り込む。島で生活しているので船に乗ることは日常の生活でもよくあることだ。シオンもガクリ島にお買い物へ行ったときこの船に乗った。

雨があがって、とっても良い天気になった。風もなくとっても穏やかだ。うちから出るとき着てきた雨合羽をおじいに預けてガクリ島に移動した。

おじいの船が付いた港から少し離れた場所まで移動する。大きな船は港が違うみたいだ。といっても、歩いて十五分ほどだと思う。

山田先生とお姉さんがおしゃべりしながら後ろを歩く。私とシオン、四年生のマナちゃんが一緒に歩く。マナちゃんは小さいころからシンガポールという国で生活をしてきたと聞いた。お父さんの仕事の関係で生まれてすぐ引っ越ししたらしい。うちでは日本語だが、外へ出れば英語の生活だったらしく、日本語も英語もペラペラだ。いつもシオンと英語でおしゃべりをしている。私は、おしゃべりの内容がわかったりわからなかったりなので、二人のおしゃべりを聞いていることが多い。

あとは、七年生から九年生が六人で生徒が九人の班になる。

ガクリ島から乗る船は長さが五十メートルもありそうな大きな船だ。真ん中に人が入れるだけの小さな扉があって、なだらかな階段でみんなが乗り込んでいく。この船は青波の課外授業のために予約されている船なので、貸し切り船だ。船に入ると大きなエンジンの音、ちょっと油のようなにおい、みんなについて上がっていくと、たくさんの椅子が並んでいる部屋に着いた。順番に席に座りキョロキョロしていると、ボーという大きな音が鳴った。

出発の合図だろうか。

おしゃべりをしていたみんなが一瞬で静かになった。生徒はみんな座っている。大人は座っている人、立っている人、両方いる。


「カチャ、おはようございます。船長のクリスです。青波小学校中学校の皆さんおはようございます。内海通運にご乗船いただきありがとうございます。短い時間ではありますが、安全に航行してまいりますので楽しいお時間をお過ごしください。気分が悪くなったり、お困りごとがありましたら、気軽に前方カウンターの係にお申し付けください。出航いたします」

ボー、さっきと同じ音が長めに響いた。

しばらくすると、エンジンの音が大きくなり、周りの景色が動き出した。出航だ。


少し時間がたって、ちいちゃんを探した。横、後ろ、前、わからない。もう一度ぐるっと探すと、サーナは見つかった。近くにいるはずだ。ちょっと離れているのでお話はできない。サーナをじっと見る。気が付かないかな、サーナ、こっちを見て、サーナ。

アッ、気がついた。小さく手を振った。サーナも手を振ってくれた。それから、声には出さないが格好だけで、ちいちゃんは、と聞いてみた。首を横に振る。もう一度、大きく口を開いて、ちいちゃんは。声は出さない。

すると、サーナのポーズは、頭を指さす。手のひらを振ってキラキラのポーズ。続いてみんなが座る前を指さし、最後に手のひらを合わせてほほにあて目をつむった。

なんとなくだが、頭が痛くなって前の方で休んでいるという風に読み取った。

えー、さっきまで元気だったのに、いつか一緒にお買い物へ行ったとき、顔色が急に悪くなって休んだことを思い出した。

周りを見渡すと、ちいちゃんのママも山田先生もいないことに気がついた。大丈夫かな、あの時は、しばらく目をつむって休んでいたらよくなった。きょうは大丈夫かな。

しばらく心配していると、サーナが席を立って、前へ歩いて行った。おトイレかな。

しばらく時間がたっても、サーナは戻ってこない。どうかしたのかな。シオンも心配そうな顔だ。さっきサーナがとったポーズをシオンに伝え、サーナが様子を見に行ったのではないかと伝えた。

そんな話をしていると、山田先生がこちらへ近寄ってくるのが見えた。どこに行くのかな、ちいちゃんの具合はどうなのか聞いてみたい。と、考えていると、山田先生が私の方を指さして、あーいたいたと、口が動いた。

「みいちゃん、シオン、ちょっと来て」

なんだろう。私たちは席を立ち山田先生についていく。みんなの横を通って、カウンターを通り過ぎ、長い廊下に出た。

「ちいちゃんがね、調子悪くなっちゃったのみいちゃんとシオンとお話ししたいっていうから行ってあげてくれない」

シオンにも、英語で伝えた。

「うん、いくいく、ちいちゃんはどこ。さっきサーナが出て行ったけどどこにいるか知っていますか」

「ちいちゃんと一緒よ」

「そうなんだ、良かった」

長い廊下を歩く。ビーンというエンジンの音いがいに何も聞こえない。船の前に向かっているのか、後ろに向かっているのかはわからない。廊下の突き当りを曲がって、ピンクの扉の前で止まった。山田先生がノックをする。

「はーい」

中から聞こえてきた声は、ちいちゃんのママだ。先生がそーと扉を開ける。

部屋に入ると、大きなベッドにちいちゃんが寝ていた。その横に、ちいちゃんのママ、サーナが座っている。

「ちい、みいちゃんが来てくれたわよ、シオンもサーナもいるわよ」

「ちいちゃん、だいじょうぶ」

「うん」

小さく、頭が動いたように見えた。

「ごめんなさいね、緊張しちゃって調子が悪くなっちゃったの」

シオンとサーナはだまってちいちゃんを見つめている。

しばらくちいちゃんをみていると、ママと山田先生が部屋から出て行った。

「ちいちゃん、だいじょうぶ」

「ダイジョウブデスカ」

ちいちゃんが目を少しだけ開けてうなずく。

「みんな、ごめんね、また出ちゃった。自分ではコントロールできないの。また出ると嫌だなって考えると、出ちゃうの。いつも通りにって考えると、だんだん調子が悪くなってきちゃうの。どうしようもないわね」

「ううん、でもいっしょに船に乗っているじゃない。ここまで来られたじゃない。みんなから遅れても進んでいきましょ、ね、シオン、サーナ」

会話が伝わっているのかいないのか、二人はうなずいている。


「シオン、大きな船って乗ったことあった」

いつものように、翻訳機を通して会話を始める。

「うん、もっと大きなエレベータがついてる船に乗ったことがあります。映画館やプールがあって、とっても楽しかったです」

「なーんだ、つまんない」

「でも、おじいの船のような小さいものには乗ったことがありませんでした。短い距離なら、小回りもきくし、よかったです」

「そうね」

なんだか馬鹿にされているみたいで、ちょっと悔しかった。

部屋には、五十センチぐらいの丸い小さい窓がある。あっという間に目的地までもう少しだ。陸が近くに見える。

「ちいちゃん、もうすぐ着いちゃうよ、具合どう」

「うーん」

そんな話をしていると、ママと山田先生が部屋に戻ってきた。

「この船、もうすぐ小野の港に着くみたいよ。あなたたちはもう少しこの部屋でちいちゃんの回復を待ちましょう、シオンもサーナも良い」

二人の返事はイエスだった。

「ぐうぜんにも、二つの班の行動がとっても似ているの。今日は、ちいちゃんの回復を待って、小野の駅から岡山まで移動して、新幹線で広島まで行ったら、そのままホテルに入りましょう。きょうの課外活動は班のみんなにお任せすることにしましょう。私は、みいちゃんの班のみんなと計画通り行動します。この四人には、ちいちゃんのママと加藤さん、佐藤さんが付きます」

加藤さんと佐藤さんは、シオンとサーナのボディーガードとして同行している女性だ。

「はーい、イエス」


お部屋の中で、いつものようにお話をしていると、部屋の外がざわざわしてきた。船が小野港についてみんなが降りていくのだろう。

予想外の行動になって、ドキドキしてきた。


コン、コン、扉をノックされた。

『はーい、どうぞ』

ちいちゃんのママが答えると、扉が開き、白衣を着た白人の女性が入ってきた。

『どう、気分は、だいぶ顔色が良くなったわ、お友達とお話をしてリラックスできたわね』

『この船のドクターよ』

『みんなは、小野の駅に向かったわ、残っているのはあなたたちだけよ。船に乗って緊張しすぎて気分が悪くなるお客様って珍しくないの。大人でも、子供でも、いつもと違うことをするって緊張するわよね、当たり前のことよ。こうやって、いつもお話しているお友達といっしょにいると、緊張が和らぐでしょ、いつも通りって考えれば緊張していたことを忘れちゃうでしょ、すぐには克服できないけど、時間をかけてよくなるといいわね』

『小野の駅をみんなが出発したころに、船を降りましょう。朝のラッシュ時間が過ぎてしまえば、お客さんの数も減るから、のんびりすすんでいきましょう』

ママがいった。


いつもと同じように片言の英語と日本語でお話をしていると、ちいちゃんの表情はすっかり明るくなり、顔色も普段と変わらないほどに回復した。


「そろそろ出ますよ、準備して。ドクターがお話ししてくれた通りいつもどおりよ、新しいことがたくさんあるかもしれないけど、なんでも楽しみましょう」

「レッツ、エンジョイ、レッツ、スタート」

サーナが言った。この言葉がいっきに四人をリラックスさせ、大笑いが始まった。


船を降りると、とっても良い天気。港で働く人が少し見えるけど静かな港だ。


小野の駅には数人の大人がいた。静かな駅だ。

小野線の端っこの駅なので、始発駅であり、最終駅でもある。電車に乗り込み、いつもの会話が普通に始まった。

ガタンゴトン、チンチンと電車は賑やかな町に入ってきた。もうすぐ岡山駅に着く。ここがチェックポイントだけど、私たちはどうするのだろう。

小野線の駅から数分歩いて新幹線駅に移動する。

「アッ、教頭先生」

遠くで手を振ってくれている先生が見えた。なんだかホットした。知らない大人がざわざわしている中に、教頭先生が私たちを待ってくれていた。四人で走って教頭先生が立っている場所まで行った。

「おー、来た来た。あなたたちを待っていましたよ。ほかの生徒は予定通り計画行動に移りました。あなたたちはこのまま広島駅に移動でしたね。気を付けて行ってらっしゃい」

「はーい、教頭先生は」

「私は学校に戻ります。低学年がおとまりをしますからそちらのお手伝いです」

シオンサーナを見て、英語で何かを言った。

二人はうなずき、顔を見合わせ、周りをぐるっと見渡した。

何だろう。

ちいちゃんのママ、お姉さん二人も周りを見渡す。

何だろう。

「それじゃあ、新幹線の時間を見ましょうか」

改札口近くに大きな掲示板がある。次の新幹線の時刻を表示している。

「えーと、十二時四十八分発ね、いま十二時過ぎたところだから、あと四十分くらいあるわ。広島まで三十分ちょっとだから、乗ってしまえばあっという間」

「お昼はどうしましょうか、コンビニでお結び買って、新幹線で食べるか、今から立ち食いでもササっといくか、広島についてからレストランに入るか、さあー、どれ」

朝から何も食べていないのでおなかはすいている。でも、短い間でササっと食べるのはなんとなくいや。広島まで何も食べないのは、何となく心配だ。

うーん、どうしよう。

「おばさん、コンビニで一人ひとつずつサンドイッチを買って新幹線で食べて、広島駅に着いてからレストランに入るのはダメかな」

「オー、グッドアイデアね。そうしましょうか、シオンもサーナも良い」

「グッドアイデア」

親指を立てながら言った。

「じゃあ決まったわね、あそこのコンビニに行きましょう」

ホームに上がって新幹線を待つ。床にある番号と矢印を見て立っていると、新幹線が見えてきた。


お昼の新幹線はガラガラだった。席に着くと急いでサンドイッチを開けて口に入れた。といっても、直ぐにレストランが待っている。少しだけにして、お茶を飲んで、残りをカバンにしまった。

ほかのみんなも私の真似をして、少しだけにしている。

あっという間に、広島に着きますという放送が流れた。


とりあえず今日の目的地である広島には到着した。駅地下にあるレストランで食事をし終え一階に上がると、構内は修学旅行なのか制服を着たおにいさんやおねえさんがたくさんいた。

私たちが通り過ぎようと歩いていると、団体の中からシオンやサーナという声が聞こえてきた。後ろを歩くシオンとサーナを見ると、恥ずかしそうに笑いながら手を振っている。

何で知っているの、そーだった。二人とも雑誌のモデルさんなのだ。顔を知られていてもおかしな話ではない。

ワーワー、キャーキャー大騒ぎだ。金髪のかわいい子供がモデルらしい服装をして歩いていれば、気がついても不思議ではない。

あっという間に取り囲まれて、写真を撮られたり、握手を求められたり、大変なことになってしまった。私もみいちゃんもただ見ているだけだった。二人は大丈夫なのか。

佐藤さん、加藤さん二人のお姉さんは、少し離れたところから見ている。

少しの間大騒ぎをすると、外で見ていた男の人が学校の先生なのか、人ごみに入って元の場所に戻るように声をかけている。

少し時間がたつと落ち着いた。シオンとサーナは何もなかったかのように、手を振りながら私たちに近づいてきた。

「アーユーオーケー、大丈夫だった」

聞いてみると、二人ともうんうんとうなずくだけだった。


駅を抜けて外へ出ると、バスやタクシーがたくさん停まっている駅前広場に出た。

「さて、ホテルは」

ママが言うと、

「私の体調が戻ったから、原爆記念館だけでも行きたい。このままホテルに入ってもつまんなーい」

ちいちゃんが言った。

「うーん、どうしましょ。ホテルには体調不良で早くチェックインするって伝えてあるのよ、大丈夫」

「うんうん、全然大丈夫よ。いつも通りだから、全然、大丈夫」

「うーん、それじゃあホテルに連絡してみるから、ちょっと待って」


「シオン、班行動の時間で原爆記念館て何時だった、少し遅らせれば合流できちゃうかもしれない」

普通に日本語でしゃべっても、わかる単語を探して聞き取ってくれる。

シオンがカバンの中から計画表をとりだして、時間を確認する。

「アー、ゲンバクミュージアム、サンジハン、オー、グッド」

「ちいちゃんの班は」

「私たちの班は三時だから、オーグッド」

「行きましょ行きましょ、記念館。班行動になっても、コースは同じでしょ、記念館から同じホテルに向かうんでしょ。ママ、良いでしょ」

ママは電話中だった。ごめんなさいを言いながら、頭を下げている。

駅から記念館行きのバスが出ているはずだ。スケジュールを相談するときに調べている。

「確か、南口のバス乗り場四番から乗車して二十分って書いてあった」

「まーすごい、記憶を信じて四番に行ってみましょう。すぐに来ると良いんだけど」


バスに乗って十五分、建物のむこうに写真で見た建物があった。

シオンとサーナが指さしながら私たちに伝えてくれた。

バスを降りて公園内に入ると、子供の団体がたくさんいる。写真でよく見る、屋根のない建物を見上げ、折り鶴がたくさんかかった建物に人が集まり、それをバックに写真撮影をしたり、悲しくもあり、にぎやかな場所だ。

青波の生徒はいないかな、計画通りに行動していればそろそろ着いていてもおかしくない時間だ。

うーん、いないなあ。

「シオン、サーナ、さっきみたいに大騒ぎになっちゃうわよ、離れて歩かないの」

道路を超えたとこりにある記念館に入った。

おばあさんが、当時の出来事をお話ししていた。立ち止まって聞いていたが、あまりにも悲惨すぎて言葉にならない。本当にこんなことがこの場所で起きたのか、信じられない話だった。

「あなたたち、気持ちがよいものではないけど、しっかりみていきなさい。同じことを絶対に繰り返さないように」

記念館の中では、シオンもサーナも静かに見ていた。外国の子供にはどんな風に映っているのだろう。

順路を一回りして出口に来た。

「なんだか気分が悪くなりそう、出ましょう」

「もう一回見に行こうとは思えないわね、出ましょうか」

建物から外へ出た。なんとなく、心は曇っている。

「オー、ハンチョウサーン」

サーナが指さしながら叫んだ。

えー、班長さん、サーナが指さす方向を見ると、青波の生徒が遠くに見えた。ちいちゃんとサーナの班が記念館に向かってきている。

あー、会えた会えた。合流できたわ。合流できたわ。よかった。

「じゃあ、班行動で記念館ね」

「えー、イヤよ。きょうはもういいわ、また寝込むことになっちゃうわ」

「アッ、ハッ、ハッ、」

みんなで大笑いした。


ちいちゃんのママと班行動してきた先生がお話をしている。私たちは記念館を見終わっているので、出てくるまで公園で待つことになった。そのうちに、私たちの班も公園に来るだろうから待ちます。ということで話がまとまったようだ。


アレッ、何となく視線が気になった。

公園のベンチでみんなが出てくるのを待っていると、木陰に立っている人の視線を感じた。何だろう、イヤな感じだ。

シオンとサーナがベンチの周りで追っかけっこをしている。

ちいちゃんが私に近づいてきて小さな声で言った。

「あそこに立っている人、ずっとこっちをみている気がする、怖いんだけど」

「私も気がついているわ。ずっと見ているから」

「あの人、どっかで見た人だと思って思い出していたの。そうしたら広島駅のレストランで見た人だった」

「えー、そうなの、レストランにいたの」

「じゃなくて、レストランから出るときにお店の前にいた人と同じだって」

「えー、本当、コワーい、お姉さんたちに言ってみる」

「うん、そうしよ」

二人のお姉さんの近くに行って、小声で話し始めた。

「あの、向こうの木の陰に立っているおじさん、ずっとこちらを見ているんですけど、ちいちゃんが広島のレストランでも見た人だって」

「えー、どの人だろう、男の人」

二人は笑いながらいった。

「ほら、あそこに立っている人」

と指をさすと、男の人はいなくなっていた。

「あれ、いなくなった」

「多分大丈夫よ、あそこに立っていた人、私と同じ会社の人だから」

「なーんだ、良かった」

「子供に見つかっちゃって、尾行失敗ね、心配させちゃってごめんなさい、しっかり守っているから安心して」

「はーい」

そんなやりとりをしていると、記念館からちいちゃんの班の生徒が出てきた。

私の班のみんな、来ないなー、予定していた時間は過ぎている。山田先生に電話してみようか。

もう少しだけ待ってみることになり、バス停の方を見ていたが、バスから降りてくる中に青波の生徒はいなかった。


「行きましょうか、遅れているのね」

「はーい、どこにいるのかなあ」

私たち四人とちいちゃんの班の生徒は立ち上がり、広島駅に向かうことにした。


バスに乗って町の景色を見ていると、

「オー、ヤマダセンセイ」

シオンが通り過ぎるバスを見て叫んだ。このバスには二十人ほどのお客さんが乗っている。

ちいちゃんのママがシオンの口を手でふさぎながら、他のお客さんに頭を下げた。

「ホントだ、山田先生がいたわ」

ちいちゃんは山田先生を見つけたようだ。

予定表より遅れているみたいだ。でも、確認できただけで安心した。


広島駅まで戻り、こんどこそホテルにむかう。「えーと、ホテルは駅北だから反対側ね」

「駅前にあるって、歩いて一分って」

みんな、ホテルに向いて歩きだす。

このホテルに泊まるのは、私たちの班とちいちゃんの班併せて二十人ほど。生徒と先生、ちいちゃんのママ、お姉さんたちが同じフロアで宿泊する。ホテルに入ると、キラキラな明かりがまぶしかった。晩御飯は、エレベーターで下に降りた大きな部屋で食べるみたいだ。給食と同じようにみんなそろって、今日の出来事をお話しながらおいしいご飯を食べられる。チョットだけハプニングもあったが、計画表に戻ってこられて良かった。

青波から送った荷物は一部屋にまとめられているらしい。自分の部屋番号を聞いて、自分たちの部屋を見てから、荷物が置いてある山田先生の部屋に集合した。

「これからの予定を確認します。晩御飯は六時ですから、もう少し時間がありますね、お部屋に荷物を運んで休憩にしましょう。六時五分前にこの部屋に集合して、みんなそろってからお食事の部屋に降りましょう。明日の朝は、駅前のバスターミナル出発時間が九時ですから、この部屋に八時に集合して、いっしょに出ましょうか。」

「先生、お昼ご飯を駅で買う予定でしたけど間に合いますか」

「はい、バスに乗って駅弁を食べる予定でしたが、ホテルでお弁当を用意してくださるそうです。朝、この部屋に届けられている予定ですから、買う時間は必要なくなりました。明日の朝、迷うことのないように、お食事を終えてから確認に行ってきます。もし、一時間で間に合わないようだったら改めて連絡をしますね」

「先生、朝ご飯はどうなりますか」

「はい、朝はエレベーターで最上階に上がります。みんなそろって上がりますから、七時、七時半、この部屋に集合して下さい。七時にしますか、半にしますか」

「七時が良いです」

みんなの意見がそろった。

「はい、明日の朝は七時にこの部屋に集合してください。ほかに質問はありますか」

「晩御飯の後、先生と一緒にバスターミナルを確認しに行っても良いですか」

「行きたい人は、一緒に行きましょう」

「はーい、行きまーす」

「じゃあ、一度解散します。六時にこの部屋に集合してください」

「はーい」

みんな、自分たちの荷物を持ち部屋に入った。


私の部屋は、ちいちゃんとマナちゃんの三人。シオンとサーナが安全上で同じ部屋になったので、ちいちゃんとは違う班でも同じになれた。

私たちの部屋とシオン、サーナの部屋は隣通し。シオンとサーナは二人で仲良く部屋に入ったが、すぐに用事を済ませて私たちに部屋に来た。

私たちも明日の着替えやパジャマやタオルを出して、準備を済ませた。

「シオン、サーナ、あなたたちの部屋もここと同じなの」

「ハイ、オナジ」

「ねえ、ここにドアがあるけど、隣の部屋とつながっているんじゃない」

「本当だ、でもカギがかかっているから開かないわ、開いたらシオンとサーナのお部屋とくっつくんじゃないかな」

「ねーねー、ホテルに泊まる時っていつもこんな立派なお部屋なの、うらやましい」

明日の準備をしながら、おしゃべりをしながら、五人で過ごした。

「ちょっと早いけど行かない、フワフワのバッドにいたら眠たくなっちゃう」

「そうね、行きましょうか」

準備を終えて、部屋を出た。

晩御飯は、私の班とちいちゃんの班、先生とママ、加藤さんと佐藤さん、みんなそろって楽しく食事することができた。


「ごちそうさまでした、先生は明日朝に向かうバスターミナルを確認にいきます。一緒に行きたい人はこのまま出発します」

「はーい」

わたしとちいちゃんは、行かないと決めていた。部屋に戻って、シャワーをしてお話をしようと決めていた。マナちゃんも、シオンもサーナもいっしょだ。

「行ってらっしゃーい」

みんなを送り出して、部屋に戻った。


「マナちゃん、シャワー入って、みんな次々に入るから。シオン、サーナもここで入る、自分たちのお部屋でもどちらでもいいわよ」

二人は首をかしげる。この表情は伝わってない時だ。翻訳機の出番だ。

「ウィズミー、シャワー」

「ノー」

五人が次々に入るといっても、みんながシャンプーして、ドライヤーすると時間がかかりそうだ。

「シオン、あなたたちの部屋でシャワーしてきて良い、みんなで待っていたら遅くなっちゃうわ。眠たくなっちゃう。サーナ、自分たちのお部屋で先にシャワーしても良いわよ」シオンとサーナは、私たちのベッドの上で完全にくつろいでいる。よほど疲れたのだろう、今にも寝てしまいそうだ。

「シオン、カードはどこ」

早く明日の支度をして、送り返す荷物をまとめて、シャワーを浴びてしまいたい。寝るばっかりにして、ベッドやソファーに寝ころんでみんなとお話をしたい。


マナちゃんの次にちいちゃんが入った。髪を洗っても、ササっとタオルを頭に巻いてドライヤーはかけない。

私は、隣の部屋でシャワーをしてきた。シオンとサーナも続けてシャワーをして、やっと落ち着いた

「何か飲み物ないかな」

冷蔵庫を開けると、オレンジジュースが入っていた。

「これ、飲んでも良いのかな」

「うーん、いいんじゃない、飲もう飲もう」

コップを用意して、オレンジジュースを注ぐ。

「カンパーイ」

はー、落ち着いた。

シオンとサーナは同じベッドで横になり、マナちゃんは、もう一つのベッドに座り、私とちいちゃんはソファーに座った。

「はー、疲れた。良かった、調子が悪くなっちゃったときは帰らなきゃならないかなって心配しちゃったわ。でもみんなが来てくれて緊張がなくなったの。いつもの声といつもの時間が戻って」

「うん、明日も楽しみましょ、同じバスで出雲に行って、同じ電車で移動してホテルに入って、ずっといっしょに移動できそうだから、緊張するところはないでしょ」

「そうね、この班て、ずっと同じ行動なんだけど偶然なのかしら。移動手段もホテルも同じって、偶然が重なりすぎよね。班長さんと先生が上手に組んでくれたのかしらね」

「シオンとサーナのセキュリティーを考えたら、一緒に行動してくれた方が守りやすいんじゃない。お姉さん二人とおじさんが付いてくれているみたいだし。」

「あのおじさん、ちょっと怖かったけど」

「サーナ、東京で暮らしていたときは、いつもセキュリティーが付いていたの」

「ノー、フリータイムナッシング。ホームアンドスクール、オンリーエブリデイ」

「そうか、そりゃあ大変だわ。いやになった気持ちがわかるわね」

シオンとサーナがうなずく。

「マナちゃんのパパ、ママはどんな人」

「パパはあまりうちにいないから」

「そーなんだ。ママは」

「シンガポールにいたころは、私が小さかったから、おうちにいたこともあったけど、途中からお手伝いさんが来るようになって、ママもお出かけすることが多くなったの。日本に帰ってきてパパもママもお家にいないからずっと一人だった。何かとってもつまらなくて、青波に来ることにしたの」

「そー、で、青波に来て良かった」

「うん、お友達も少しできたし、じっちゃんもばっちゃんも優しくしてくれるし、お勉強も楽しいし、来て良かったと思っている。来てなかったら、どうなっていたかわからない」

「ふーん」

「今回ね、シオンとサーナと、普通に英語でおしゃべりできるでしょ。久しぶりでとっても楽しいの。先生方とお話しするのとはやっぱり違うから。気が付かなかったけど、英語がしゃべりたかったのかなって」

「そー、シオンもサーナも感じているのかな」

二人を見ると、同じ格好で眠ってしまっていた。よほど疲れたのだろう。

さー、私たちはどこで寝ようかしら。

「二人を起こすのはかわいそうだから、私とちいちゃん、同じベッドで寝ましょ、マナちゃん、ここで良い」

「私は良いけど、いいの」

「こんな大きなベッドだから、ノープロブレムよ」

時計は、十一時を過ぎていた。

「歯を磨いてくるね」

「わたしも」

三人で並んで歯磨きをして、ベッドに入った。

「わたしね、ずっと考えているの」

マナちゃんがベッドに入って言った。

「なんで学校がつまんなかったのかなって、なんで日本では子供に自殺が多いのかなって、青波の学校に来てから、学校がつまんないって考えたことない。前いた学校と何が違うんだろうって」

「ふーん、何でか分かった」

「ううん、まだわからない」

「そう、活動が終わったらゆっくり考えましょ、私も考えるわ。さー、寝ましょ。明日は出雲よ」

「そうね、おやすみなさい」


後半に続く


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