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学校へ行きたい子は、はーい。  作者: アイスマン
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アメリカからの転校生

ねーねー、学校って好き?毎日、学校に行きたい?おもしろい?行きたい学校ってどんなところだろう?先生かな?お勉強?お友達かなあ?行きたくない学校って、どんなところだろう?』


私が青波小学校に転校して、あっという間に六か月が過ぎようとしている。今まで、何週間も続けて学校に通えたことがなかった私にとって、奇跡のような時間だった。毎日学校に通うことが楽しく、お友達とお話しするのが楽しみになった。お勉強が楽しくて、給食がうれしくて、本当にあっという間だった。


この学校に転校するきっかけを作ってくれたおかあさんに感謝しているし、受け入れてくれているおじいやおばあ、小学校にも感謝しなければならないと思っている。


青波の学校に通う生徒は、百人以上いる。多くの生徒が他県からの転校生で私もその一人。小学校の一年生から中学校の三年生までの九学年が、年齢ごとにクラスは分かれている。でも授業が始まると、年齢や学年、クラスはバラバラ、個人の学力に合わせた授業を受けることになる。この学校はそういうところなのだ。少しの地元のお友達を除いて、この青波の学校で、学校生活やお勉強を取り戻そうとしているからだ。


小学校の低学年は数名しかいないけれど、中学年から大きくなるほど学年の人数が増えて、中学三年生のクラスは二クラス約三十人のお兄さんお姉さんがいる。ほとんどが他県からの転校生で、小さい頃には学校に通えなかった子供が転校してきて、私たちと同じように生活をして何年かを過ごしていると思う。みんな、学校に行けなかったとは思えないほど明るくて元気で、テレビに出てくるお兄さんやお姉さんと変わらない。

『みいちゃん、おはよう』

あいさつもしてくれる。島全体が家族で、学校に通う全員が兄妹みたいだ。


この島が他県から子供を受け入れることができるのは、この島の特産品であるホシリカが世界中から欲しがられているからだ。健康維持の食品として、特に裕福な人が手に入れたがっているそうだ。私にはわからないが、ホシリカには他の食品にはないすばらしい成分でも入っているのだろうか。

ホシリカが売れることで、この島に住む人々がうるおい、島の税収が増加し、そのお金が子供受け入れのための費用として使われている。この島の道路や港が整備され、町が貸し出す住宅が用意され、島の要所にはカメラが設置されて防犯が充実し、各戸にはパソコンが支給され、島の中で暮らすだけなら、衣食住、防犯、情報、何ら困ることはない。


この島の住人の半数以上は、都会からの移住者と転校生が預けられている家になる。私の親友のちいちゃんは、家族でこの島に移住してきたうちだ。ちいちゃんが学校に行けなかったことがきっかけなのかは知らないけれど、ちいちゃんのおとうさんは、ホシリカの研究所の所長さんで、お母さんは加工所で働いている。同じクラスのあいちゃんも家族みんなでこの島に移住してきたうちで、お父さんもお母さんもホシリカの会社で働いている。島の住人の多くがホシリカの会社で働いている。


学校の先生は数年で入れ替わるけれど、他の普通の学校とは、環境や仕組みが特別なので、若い先生が希望を出してくる場合が多いと聞いた。私のクラスの笹木先生も都会のマンモス校にいたようだが、希望を出してこの学校に来たと言っていた。家族を残して、一人でこの島で暮らしながら先生をしてくれている。

みんなが大好きな先生だ。

島のおじいやおばあ、お父さんやお母さん、先生、子供たち、みんなが家族で兄弟みたいで、私はこの島が大好きだ。


『起立、おはようございます、着席』

『おはようございます、クラスみんながそろっているって、気持ちいいですね、今日も元気に楽しく過ごしましょうね。今日の連絡事項はひとつです。たびたびあることですが、東京のテレビ局がこの学校を取材に来るそうです。いつもと違うのは、タレントさんが学校生活を体感するみたいで、少しの間、だれかのお家で一緒に過ごしながら、学校に通うみたいです』

『えー、だれだれ』

みんなが顔を見合わせた。

『何歳の方なのか、何人来るのか、どのくらいの期間なのか、いつからなのか、私も知りません』

この島で生活をしていると、テレビのこと、はやり事、アイドル的なタレントさん、興味はなくなるし、目に入ってくる機会も減る。

それよりも、島や学校の行事やお友達のことが会話の中心になる。

『詳しいことがわかれば、報告します』


一日の授業が終わり、ちいちゃんとの帰り道は東京からの取材の話になった。

『ちいちゃん、取材に来るタレントさんてだれだろう、私はかっこいい男の子がいいなあ、毎日の学校生活がもっと楽しくなっちゃう、私のうちに来てくれたらうれしいな』

『うーん、私もとっても楽しみ、私は同じ年くらいの女の子がいい、お友達になってほしいの、みいちゃんといっしょに三人で通学することができたらうれしいな』

『そうね、そっちもいいわね』

話をしているうちに、ちいちゃんの家が見えてきた。

『じゃーね、またあした』

ちいちゃんと別れてからは走って帰った。


『ただいまー』

『はーい、おかえりなさい、ご飯の支度してるから、宿題やっちゃいなさい、終わったら手伝って』

『ハーイ』

いつもの会話だ。部屋に入って宿題を始める。いつものようにおじいはいない。海に行っているのか、どこかで油を売っているのか、ご飯の時間には帰ってくる。


本読み、ドリル、書き取り、宿題を済ませ、明日の準備が終わった。


『おばあ、終わったよ、お手伝いは何』

『終わった、じゃあテーブルにお皿を並べて、サラダを盛ってくれる、ボールに入っているでしょ、盛った横に冷蔵庫のトマトを並べてドレッシングをかけて』

『はーい』

お手伝いは毎日のことだ。盛り付けをしたり、卵を焼いたり、おばあと一緒にお台所にいられることに幸せを感じられる。


『あっそうそう、お昼に教頭先生から電話があったわよ、しばらくの間子供を預かってくれないかって。別に良いですよって答えといたけど』

『えっ、何て、預かるっていつから、何年生だって、男子、女子』

『詳しいことはわからないわ、細かいことが決まり次第改めてご連絡しますって、何か聞いてるの』

『うん、今日学校でね、先生が言ったの。タレントさんがこの島に住みながら取材をするって』

『ふーん、そうだったの』

『それでね、ちいちゃんと帰りながら、タレントさんて誰だろうとか、誰のうちに泊まるんだろうとか、お話しながら帰ってきたの』

『そー、教頭先生の話だと、あまり日本語がしゃべれないって言っていたわよ、外人さんじゃないかな』

『えー、何々、外人の子供なの、どこの国』

『わからないなー、英語をしゃべるみたいよ

『えー、英語をしゃべる外人さんて、このうちに来てもどうするの、コミニケーションとれないじゃない』

『うん、おじいが何とかするでしょ』

『何々、おじいが何とかするってどういうこと、おじいが英語をしゃべるってこと』

『そうよ』

『ムリ、ムリ、英語よ』

『そうよ、日常会話なら何とかなるでしょ』

『えー』

何がどうなっているのか、まったくわからない。外人さんで、日本語がわからなくて、うちに泊まって、おじいが英語をしゃべるってどういうことなの。

『おじいって、うちのおじいなの』

『あー、それからもう一人は、ちいちゃんのうちが預かるっていってたな』

『えー、もう一人って何』

『島に来るのは二人みたいよ、兄弟なんだって』

『日本語は』

『うーん、どうなのかな、でも、ちいちゃんのお父さんもお母さんも言葉は心配いらないみたいよ』

『えー』

一度、話を整理しないと、頭の中がごちゃごちゃだ。えー、なに、どうなってるの。


ガタンガタン、玄関が開いた。

『おかえりなさい、さーごはんにするわよ、テーブルに運んで』

『・・・』

食事をしながらおばあから聞いた話を整理すると、こうだ。


東京で、この春から働き始めたお母さんに付いてきた子供、双子の兄弟がアメリカンスクールに通いながらモデルの仕事を始めたのだが、学校が面白くない、せっかく日本に来たんだから日本らしい学校に通わせたいというお母さんの希望で、この島が選ばれたようだ。そこにマスコミがくっついてくるということらしい。


『ねーねー、おじいは英語できるの』

『英語だけじゃないよ、少しづつだけど何か国語がしゃべれるかな』

『えー、何で』

『うーん、若いころ大きな船に乗っていてな、あちこちの港に停泊した時期があってな、酒場で学んだのよ』

『港近くの酒場で若い女の子をくどくのに、現地の言葉が必要だったのよねー』

『おーい、余分なことを言うな』

『へー、そうなの』

おじいの顔が赤くなった。

『で、おばあ、いつだって』

『詳しいことはわからないわ、でも遠い時期ではないわね、明日とか明後日とか』

『えー』


次の日の朝、ちいちゃんと外人さんの話をしていると、クラスのみんなが寄ってきた。

『外人さんなの、何歳、いつから』

みんな気になっていることは同じだ。

『はーい、席について』

『起立、先生おはようございます』

『はい、おはようございます。みんなに報告があります。昨日お話した東京からくるテレビ局の取材の件ですけど、日程がわかりました。次の日曜日に島に着くようです』

『先生、質問があります』

『はいどうぞ、でも詳しいことは聞いてないわよ』

『外人さんだってうわさがありますけど、本当ですか』

『まーみんな早いのね、そうですアメリカ人のようです。双子の兄弟で男の子と女の子だそうですよ、みいちゃんの家とちいちゃんの家にお世話になるのよね、ここはちゃんと説明しないといけないけど、双子の兄弟は片言の日本語しかしゃべれないそうです。そこで、言葉に困らないように、英語がお話しできるご家庭を探した結果、みいちゃんとちいちゃんの家にお願いしたそうです。学校では、ちいちゃんのお母さんと保健室の山田先生が通訳係としてついてくださるようです』

『東京のタレントさんなんですか』

『タレントさんというよりモデルさんね、ファッション誌なんかに載っているそうです』

『ワー、すごい』

朝礼が終わって今日のお勉強が始まった。

一時間目は、理科。続いて算数、生活、国語で午前の授業は終わった。クラスみんなで配膳をして給食だ。


『お昼の放送です。最初に教頭先生からお話があります』

『えっ、何々』

『皆さん、給食を食べながら聞いてください。担任の先生から聞いたことと思いますが、月曜日にテレビの取材が来ることになりました。今回の取材はカメラマンとアナウンサーという組み合わせではなく、外人のご兄弟とカメラマンという組み合わせになりました。期間は、数週間に及ぶと聞いています。いつもとは違う取材になりますが、転校生が二人来たと思って、普段と同じ生活を心がけてください。月曜日からよろしくお願いします』

『えー、月曜日からだって』

『数週間ですって、長いわね』

みんな様々な感想を持ったようだ

このあとも給食の時間はテレビの取材の話ばかりだった。


日曜日の朝八時、ちいちゃんの家族といっしょに、私とおじいおばあが学校に呼ばれた。学校に着くと、先生方も職員室にいるようだ。私たちはいつもの教室に来てくださいと言われていたので、上靴をはいて教室に入った。

『日曜日の朝からすみません』

笹木先生がご挨拶をした。教室には笹木先生のほかに教頭先生と山田先生が待っていた。

『明日からの転校生をむかえる前に、今までの経緯をお話しておいた方がよいと思って、来ていただきました。ありがとうございます』

教頭先生が言った。

『ちいちゃんのお父さんは承知をしていますので、みいちゃんのご家族への説明になります。今回の転校生二人は、いわゆるブイアイピーと呼ばれるような特別なご家庭の子供さんです。ご自宅はロサンゼルスにあるそうです。父親は投資家、母親は、東京で一流ブランドの社長さんに着任されていると聞きました。そのお母さんに付いてきた双子の子供たちですが、アメリカンスクールに通い始めたようですが、なかなかしっくりこないで学校を休みがちになっていたようです。そんな時にちいちゃんのお父さんが東京に出張中、そのお母さんとお会いになって、子供さんのご相談を受けて、この学校で引き受けるということになりました。子供たちは十一歳です。双子の兄弟で、男の子と女の子です。二人ともシャイな感じで、おとなしいお子さんだという印象です。二人とも、日本語はほぼほぼわかりません。時間がないので一方的にお話をしましたが、確認しておきたいことは何かありますか』

『ただただ、驚いているだけです』

『それから、そういう子供たちですから、この島のセキュリティーを強化することになっています。役場から民間のセキュリティー会社へ連絡をしてあります。特に海上での安全監視を二十四時間体制でお願いしてあります、高速艇を配置することになっています。島に入ってしまえば、カメラでの監視が可能ですから、単独行動を許さなければ安心だと思っています。最後に、今お話ししたことは秘密厳守でお願いします。みいちゃん、ちいちゃんもいいですね、二人でお話しているつもりでも誰が聞いているかわからないから、おしゃべりしないでください』

二人は顔を見合わせ、ただうなずくだけだった。

『さー、今からこの学校の屋上にヘリコプターが来ます。いつもはドクターヘリですが、今日は子供が二人乗っています』

『もう来るんですか』

『そうですよ、大阪のホテルに宿泊していて朝早い時間にヘリで来ることになっています

予定時間は九時半過ぎです』

みいちゃんとちいちゃんは、ドキドキしてきた。教室を出て玄関に行くと、テレビ局の人たちだろうか、大きな荷物をもって待っていた。

『えーと、校長先生は、ご挨拶したいのですが、アールビービーテレビです』

『あー遠いところまでごくろうさまです』

『呼んできますので、ここでお待ちください』


九時半を過ぎた、いつヘリコプターが来てもおかしくない時間になった。

『ねーねー、ちいちゃんはお父さんから今日のことは聞いていたの』

ちいちゃんは、首を横に振った。

『なんにも』

『そー、子供二人だけでくるのかなあ、今日からうちに来るんでしょ、どこにねるのかなあ』

『わたしも、お布団を心配していたの』


そんなことを話ししていると、遠くにヘリコプターが見えてきた。誰もしゃべる人はいない。

バタバタという音が近づいてきて、だんだん大きくなってきた。おー、すごい風だ。一人で立っていられないほどの風だ。おじいの影に移動した。おー目の前に大きなヘリコプターが来て学校に着陸した。すごい風だ

中に小さい子供が見える。ヘリコプターを操縦している人以外には子供の姿しかない。

しばらくして、プロペラが止まった。

『あー、すごかった。飛んじゃいそうだったわね』

ちいちゃんのお父さんと教頭先生がヘリコプターに近づいて行った。中から操縦士さんが降りてきた。三人で何かお話をしている。

しばらくお話をしていたが、移動して後ろのドアを開けた。

誰も一言もしゃべらない。緊張の時間が続いた。

こどもが、二人降りてきた。そーと出てきた感じだ。教頭先生が二人と握手をしている。続いてちいちゃんのお父さんだ。

遠くで見ている私たちは、ドキドキ緊張の時間が続いている。

四人がこちらに近づいてきた。操縦士さんが席について再びプロペラが回り始めた。またまたすごい風だ。今はヘリコプターを見送る場合ではない。ヘリコプターがキーンという音を立てて校舎から離れた。あー、すごい風だ。


『お話していた転校生の、シヨンとサーナです』

『・・・・・』

『ハジメマシテ、ワタシノナマエハシヨンデス、ヨロシクオネガイシマス』

『ハジメマシテ、ワタシノナマエハサーナデス、ヨロシクオネガイシマス』

『とにかく、教室に入りましょう』

教頭先生が言った。ちいちゃんのお父さんが子供に話しかけている。何を言っているのかは理解できない。みんなが屋上から階段を下り歩いている間もちいちゃんのお父さんが子供たちにずっと話しかけている。


教室に着くと、先生方が教室に集合していた。

自然に拍手が起こった。

ちいちゃんのお父さんが、空いている席に二人を座らせた。

『はい、皆さんお揃いですね、この二人が明日からの転校生です。職員会議で話した通り、今までの転校生とは、目の色も、言葉も、育ってきた環境も違いますが、普通の転校生と同じように、普通のお勉強をしてもらい、学校生活を送ってもらいますので、ご指導をよろしくお願いします』

『いろいろな説明をしたいですが、とりあえずテレビの取材に行きます、その間に、今後の対応を説明します』

ここからは、ちいちゃんのお父さんとお母さん、おじいとおばあ、山田先生、ちいちゃんと私がお付き合いすることになった。教室がざわざわしている中、港に向かった。たぶん、取材を受けている間に教頭先生から説明をするのだろうと思った。

今日は日曜日なので、正門から出ると、静かないつもの島の風景だった。

島までは少し距離があるので、ちいちゃんのお父さん、お母さんが紹介をしながらお話をしている。おじいも少し話をしているようだ。

ちいちゃんと私は、一番後ろから付いていった。

港に着くと、取材の準備をしていたテレビ局の人が、待ってましたと言わんばかりにバタバタと動き出し、転校生に段取りを説明し撮影が始まった。

船でこの島に入ってきたという設定のようで、ちいちゃんと私が迎えるという撮影をした。

お互い言葉がわからないまま、荷物を預かったり、片言であいさつをしたり、やらされるがままに歓迎の撮影を終わった。

『ハイカット、今日の撮影はこれで終わります。また明日来ますので、よろしくおねがいします』

『はー、終わった』


これからは、ちいちゃんのお父さんとおじいは学校に戻る。転校生とちいちゃんのお母さん、おばあ、ちいちゃんと私はお家に帰る。転校生二人が疲れているだろうと、これからの住まいに早く行って休んでもらおうということになったようだ。


ちいちゃんのお母さんが子供たちに話しかけている。

『おばあ、じゃあシオンをお願いします。ちい、帰るわよ、サーナのお荷物を持ってあげて』

『はーい』

えー、おばあと私でどうするの、振り向くと、えー、おばあがシオンと話をしている。どういうこと

『レッツゴー』だけわかった。

『おばあ、英語でしゃべってるの』

『そうよ、少しだけしゃべれるから』

『なんで、何で英語がわかるの』

『若いころ港で働いていたのよ、おじいみたいな船乗りとお話をする仕事で、片言だけどしゃべれるようになったの』

『ふーん』

『ちいちゃんのお父さんやお母さんは、しっかりお勉強をしておしゃべりできるの。私とおじいは、聞いて覚えた悪い言葉の英語ね』

『ふーん』

そんな話をしながら歩いてうちの前に来た。

おばあが、シオンに向かって何か言って、うちを指さした。

シオンが二度三度うなずく。

ガチャガチャとカギを開けて玄関に入る。

『オー、グレイト』

『サー、荷物を置いてゆっくりして。みいちゃん、空いてる部屋に荷物を運んであげて。それからシオンのお部屋だって伝えてみて』

『えー、ムリムリ、できないわよ』

『やってみなさい、これからずっと一緒に暮らすんだから、日本語と知っている英語と、身体で表現して何とか伝えてみなさい』

おばあからのムチャぶりだ。何とかやってみるしかない。

『はーい』

『シオン、外から帰ってきたら手洗いうがいをしましょうね』


私はシオンの背中をトントンと触って、振り向かせた。

『レッツゴー』

伝わるのかわからないが、いってみた。

シオンがうなずく。

空いている部屋は、私の部屋の隣、六畳ほどの畳部屋。机に椅子、たんす、布団があった。

『えーと、この部屋があなたの部屋です。好きなように使ってください』

シオンの表情は、❔そのものだ。どうやって伝えるのよ。

『エート』

シオンを指さす。手を広げて、荷物をたんすの前に持っていき移す動作をする。椅子に座って文字を書く真似をする。布団を敷いて寝る格好をする。最後にシオンを指さし、手を広げて見せる。

『わかったかな』

シオンの表情は❔から変わらない気がする。

シオンが動いた。持ってきたかばんを開けようとする。中から出てきたのは、スマホ。

画面を見ながら操作をして、私の口元に持ってきた。

『あー、翻訳アプリね、最初から使えばよかった』

私がしゃべるたびに、シオンが画面を見る。わかっているのか、よくわからない。

私が一通りの説明を終わると、シオンがスマホに向かってしゃべり始めた。

『この部屋が、これから私が生活する部屋ですね、説明をしてくれてありがとう。あなたの名前を教えてください。これから何て呼べばよいですか』

そーいえば、自己紹介をしていなかった。

『マイネーム、ミサキ、カンザキミサキ』

『オー、ミサキ、ミサキ、オーケー』


『みーちゃん、お昼ごはんにしましょう、シオンを連れてきて、ランチよって』

おばあだ。もうそんな時間だ。

『はーい、シオン、ランチタイム』

『オー、アイムハングリー』

おー通じたみたいだ。私もハングリーの意味はわかった。

片付けの途中だったが、二人で台所に入った。

『シオンわかった』

『うん、シオンが翻訳アプリをもっていてね、何とかなったみたい』

『便利な世の中になったわね、じゃあこれからも、何とかなるわね』


『さー、ご飯にしましょう。お好み焼きにしたけどお口に合うかしら、どれだけ食べるのかわからないし、とにかく食べましょ』

大皿に何枚かのお好み焼きが重ねられていた。


ガタンガタン、勝手口が開いた。おじいが学校から帰ってきた。

『どうだ、落ち着いたか』

『お昼にしましょう、お好み焼きを焼いたけど良かったかしら』

『うん、のどが渇いたから、水を一杯くれるか、久しぶりに緊張した』

『はーい』

私が台所へいくと、後ろからシオンが付いてきた。冷蔵庫を開けて、冷えたホシリカ茶をコップに入れて、おじいに出した。シオンが私の後ろで見ている。

『シオンも飲む』

指をさして、飲む格好をする。

シオンがうなずいた。

『コミニケーションは取れているな』

おじいがシオンに英語でしゃべりかけると、シオンが返事をした。おばあが話しかけると、シオンが首を横に振った。

『えー、何々』

『この飲み物が、シオンのお母さんも飲んでいるホシリカのお茶よって教えたのよ、のどが乾いたら冷蔵庫を開けて自由に飲みなさいって、アメリカで飲んでいたのって聞いたら、飲んだことはないんだって』

『へー、何だか、私が外国から来たみたい。早く英語がわかるようになって、私もおしゃべりしたいわ』

『そうだな』

四人でテーブルについてお好み焼きを食べる。『いただきます』

手を合わせ言うと、シオンも真似をした。

シオンが一口食べると、おいしそうに笑った。

『お口にあったみたいね、良かった』

シオンが普通に食べ始めたので、私たちも食べ始める。

シオンの顔をやっと見ることができた。とってもきれいな顔、お人形さんみたいだ。双子の兄弟、とっても似ていて、両方女の子って説明されても信じてしまう。真っ白な肌に金髪のサラサラヘアー。さすが、モデルさん。

シオンが視線を感じたのか、みいちゃんを見た。うん、何、という顔をしている。

おじいが何かを話しかけた。シオンが返事をする。話の内容はわからないが、さっきまでの緊張感はなくなったと思った。

『ご飯を食べ終わったらちょっとお休みして、ちいちゃんのうちに行きたいって、サーナの様子を見たいっていうから、みいちゃん、連れて行ってあげて』

『ハーイ』


ガラガラ、玄関が開いた。

『おーい、居るかい』

『はーい』

『サーナがシオンの住む家を見てみたいっていうんで』

『おーそーか、うちでも少し休んだらそっちに行こうと話していたところだ』

『みいちゃん、ちいちゃんとサーナをシオンの部屋に連れて行ってあげなさい』

『はーい』

シオンは私の後ろをついて歩いている。シオンとサーナに向かって手招きをして、シオンの部屋に入った。ここからは、翻訳機の出番だ。

『朝から疲れたでしょう、ここで休憩しましょう』

翻訳機にむかって話す。英語を聞いて二人がうなずく。

ここに横になってもいいよ。

私が畳に寝転がった。続いてちいちゃんも寝転がった。それを見て、シオンもサーナも寝ころんだ。

『あー、疲れた』

しばらくすると、寝息が聞こえてきた。

『あれ、寝ちゃったの』

『シオンもサーナも寝ちゃったみたいよ』

ちいちゃんが、二人を見ていった。

『朝からだから、疲れちゃったのね、さすが双子ね、同じ格好で寝ているわ』

私が起き上がると、ちいちゃんも畳に座った。

『このままにして、出ようか』

二人で口に人差し指をあて、シーの格好で立ち上がった。そのまま部屋を出る。

台所に行ったがおばあがいない。うちの中を一回りしたがおじいもいない。普通なら大きな声でおばあを呼ぶところだが、今日は静かに、そのまま靴を履いて外に出た。

あっ、裏で話し声が聞こえる。

『オー来たか、二人は』

『畳に寝ころんでしばらくしたら寝ちゃったわ、相当疲れていたのね』

『そうか、お母さんと別れて知らない人とばかりとあって、子供ながらに気を使ったんだろう、しばらく寝かしてやろう。おばあ、何か掛けてやらんと』

『はいはい』

おばあが立ち上がって、勝手口から入っていった。

『ねーねーおじさん、おじいとおばあが英語を喋れること知っていたの、シオンと四人でいると、三人が英語でおしゃべりするから、私だけチンプンカンプンなの、私が外国人になっちゃうのよ』

『そうそう、私も同じ』

ちいちゃんが言った。

『それじゃあ、早く英語を覚えんといかんねー、四人でおしゃべりができるように』

『うん』


『あっ、中から笑い声が聞こえる』

『テレビじゃないのか』

四人で耳を澄ました。

『テレビじゃないわ、おばあの声が聞こえるもん』

『二人、目が覚めたのか』

私とちいちゃんが家に入ると、三人が台所のテーブルに座ってお話をしていた。

『起きたのね』

『タオルをかけたついでにシオンの荷物をたんすにしまっていたら、目が開いたの』

『何の話をしていたの』

『好きな食べ物、嫌いな食べ物とか、お父さん、お母さんてどんな人とか』

『好きな食べ物は何だって』

『シオンはすき焼き、サーナは日本のイチゴだって、アメリカはお肉が多くて、あまり好きじゃないって』

『ふーん』

『わたし、ハンバーガーとか好きだけどなあ、シオンもサーナもダメなの』

『オー、ハンバーガー』

『そうそう、冷蔵庫になしが冷えているからみんなで食べましょう、おじいを呼んできて、ちいちゃん、お父さんも呼んできて』

『はーい』


今日は、シオンとサーナの登校日初日。学校に行こうと玄関を出ると、テレビカメラが待っていた。

『カメラを気にせず、普通に通学してください、いつも通りでお願いします』

『シオン、行こう、レッツゴー』

『ちいちゃんとサーナもいっしょに行くのよ』

通じているのかわからないが、シオンがうなずいている。

ちいちゃんの家の近くまで行くと、二人で玄関まで出ていた。

『おはよう、グッドモーニング』

通じているのかいないのか、きのうからずっとなので、どうでもよくなってしまった。

『ねーねーみーちゃん、昨日帰ってから、サーナといろいろなお話をしたの。そうしたらね、アメリカに住んでいたころから通学はね、運転手付きの車でね行ってたんだって。通学路を歩いたことがないんだって』

『へー、お友達とおしゃべりしながら帰ったことがないってこと、つまんない』

『それからね、朝ご飯からナイフとフォークなんだって、きのうおばあがむいてくれたなし、手に持ってたべたでしょ、初体験だったみたいよ』

『へー、私お金持ちに生まれなくてよかったわ、何か疲れちゃいそう』

『そうね、この島が良かったわ』

シオンとサーナは、二人の話を聞いている。やっぱり通訳さんがいないとダメね。早く四人で話ができたらいいな。


そろそろ学校が見えてくる。

ワー、正門の前は人だかりだ。みんな、シオンとサーナをお迎えしてくれているのか、野次馬なのか、とにかくすごい人だ。学校に近づくと、自然に拍手が沸き起こった。

『かわいい』

『顔、ちっさい』

『二人とも女の子じゃない』

拍手と、いろいろな声が聞こえてくる。

シオンとサーナは、たくさんの人を見ても普通だ。手を振ってみんなに挨拶している。さすがモデルさん、見せるところを知っているというか、普通に学校へ入っていく。連れているこちらがドキドキしてしまう。

私たちが普通に下駄箱から上靴を出し履き替えると、二人もかばんから上靴を出し履き替える。そのまま廊下と階段を通って教室に入る。

クラスのみんなは、先生から言われている通り、二人を特別扱いしないようにしてくれている。

『みいちゃん、おはよう』

『ちいちゃん、おはよう』

『転校生、お名前何だっけ』

『こっちがシオン、こっちがサーナ』

『シオン、おはよう、グッドモーニング』

『サーナ、おはよう、グッドモーニング』

『オハヨウゴザイマス』

『わー、日本語しゃべったわ』

私たちの席はいつもの場所だけど、ふたりはどこだろう。

席を探していると、笹木先生が入ってきた。

『はーい、おはようございます。少し早いけどみんな席について、シオンとサーナはここにどうぞ』

山田先生が入ってきて、二人と話を始めた。

廊下には、他のクラスから二人を見に大勢の生徒が立っている。

『はーい、みんなクラスに戻って、始まるわよ』

さっと、廊下からみんなが離れていく。

『まだ、来てない子がいるわね、ちょっと落ち着きましょう。目をつむって心を落ち着かせましょう』

山田先生が二人に説明をしている。

クラスの中は静かになった。廊下やほかのクラスはまだざわざわしている。しばらくして、

『はい、ゆっくり目を開けて、今日は朝からお祭り騒ぎね、でも今日だけだから、このクラスの人たちは、いつも通り生活してください』

『はーい』

『じゃあ二人、前に出てきましょうか、自己紹介をしてください。英語でも日本語でもどちらでも良いですよ』

山田先生の話をきいてから二人が立ち上がり、前に出てきた。

『ハジメマシテ、ワタシノナマエハシオンデス。ドウゾヨロシクオネガイシマス』

拍手が起こった。

『ハジメマシテ、ワタシノナマエハサーナデス。ヨロシクオネガイシマス』

続いて、拍手が起こった。

『アメリカのロサンジェルスから来て、アメリカンスクールに通っていたそうです。ほぼほぼ日本語はわかりませんので、山田先生とちいちゃんのお母さんが通訳として二人についてもらいます。シオンとサーナは早く日本語を覚えて、みんなは英語を覚えて、おしゃべりができるようになるといいですね、二人にはカメラの取材が数日ついていると聞いていますが、普通通りの学校生活を送ってください』


学校一日目は、シオンとサーナは学力診断のテストを受ける。私もそうだったが、各教科のレベルにあったクラスでお勉強をすることになる。

これで、シオンもサーナも青波小学校の生徒になるのだ。


アメリカからの転校生が来て一週間が過ぎた。テレビ局の人たちも取材を終えて帰っていった。一週間の間に、シオンもサーナも少しづつ日本語を覚え、私たちも簡単な英語がしゃべれるようになった。身振り手振りも交え、会話が成り立つ。最初はどうなるか不安だったが、今はとっても楽しい。

一週間の間に、テレビカメラを使ってシオンとサーナのママと何度か話をしていた。英語だから何を言っているのかはさっぱりだが、とっても楽しそうにお話をしていた。

お話をしている中で、ママに何かをリクエストしたのか、明日土曜日にお荷物が届くことになった。お洋服やカバン、おしゃれなものが届くに違いない。私のものではないが、何となくワクワクしていた。


土曜日は午前中だけ学校だ。いつものように通学、一週間が過ぎたので、シオンとサーナを見に来る人はいなくなった。

午前の授業を終えて、ちいちゃんとシオン、サーナとおしゃべりをしながら帰る。

『二時に船が着くから少し前に台車をもって行くから』

『私もそうするわ、じゃあ、またあとで』

ちいちゃんと別れて、シオンといっしょに走って帰る。

『おばあ、ただいまー、ご飯食べてから台車を曳いて先に行くから』

『あらそうなの、忙しいわね、手洗いうがいしてお昼ご飯どうぞ』

『はーい、お昼はなに』

『冷やし中華よ』

シオンは先に手洗いうがいをしに行っている。毎日の習慣なので、何も言われなくても洗面所に行って私よりも先に手洗いうがいをするようになった。

『いただきまーす』


シオンといっしょにお昼ご飯を食べて、台車を曳いて外へ出る。

『おばあ、先に行ってるから』

シオンといっしょに台車を曳いて港まで行く。船が来るまでまだまだ時間がある。

『シオン、ここにあなたの荷物が届くのよ』

翻訳機を片手にシオンと話をする。

『何が届くのか楽しみです』

翻訳機が話す

『アッ、ちいちゃん、サーナ』

四人そろって台車に座って船を待つ。

『シオン、サーナ、何か欲しいものをお母さんにお願いしたの』

『わかりません、何が送られてくるのでしょうか』

翻訳機が機械的に話をする。

英語、日本語、身振り手振り、翻訳機で話をしていると、あっという間に二時近くになっていた。

ちいちゃんのお父さんお母さん、おじいにおばあ、みんな揃っていた。

『オー、大きい船が寄ってきたぞ』

いつもの船の何倍もある大きな船が港に入ってきた。

『ねーねー、かわいい自動車が積まれてるわ、バイクや自転車もある、シオンとサーナの荷物じゃないじゃない』

『これは、シオンとサーナのお父さんが、青波に寄付してくださったものよ、電気自動車に電動バイク、アシスト自転車にピアノや電子ピアノ、もー、いろいろなものを寄付してくれたのよ』

『へー、お金持ちね』

港には、役場の職員さんなのか、たくさんの人が次々に運んでいく。

『ねーねー、シオンとサーナの荷物はどれなの』

『さー、どれかしらね、荷物がいっぱいすぎてわからないわ』

やっと、大きな箱小さな箱が運び出されてシオンとサーナの名前が入った荷物を見つけた。

ひとつやふたつではない。次々に出てくる箱に二人の名前が書いてある。

『こんなたくさん、台車では運べないわよ』

『オーオー、こりゃまたたくさんの荷物だな、うちに納まるか』

おじいが笑いながら言った。

大方の荷物が船から運び出された。最後に、大きな赤い花束が運び出され、みいちゃんのお母さんが受け取った。

『まー、オシャレなことするわね』


たくさんの荷物を運びこんで、ひと休みだ。

台車で三往復することになった。どの箱も重くてぎっしり詰まっていそうだ。

玄関から、お洋服はシオンの部屋へ、食べ物は台所へ運んだ。

『みいちゃんとシオンでお洋服をたんすに移して、台所はやるから』

『はーい、シオン行こ』

『こんなにたくさん、今日中に終わるかな』

ヒモを切ってテープをはがして、空ける。

ティーシャツに上着、ズボンに靴下、たくさんの下着類に帽子にカバンにベルトに、お財布に、これ全部シオンが使うの、五十人分の衣類が入っていそうだ。もちろんたんすに入らない。

『モー、こんなにたくさんどうするの、おばあ、タンスに入らないのはどうする』

『後で見るからたんすに入る分だけ整理しておいて、こっちも大変なんだから』

二人で台所を見に行く。

『シオンが何て言ったかわからないけど、こんなにたくさん冷蔵庫に入らないし、おいておけないわね、入るだけいただいて商店に出しましょうか』

『お洋服もそうしたら』

『そーね、まずは生ものが痛まないうちに運びましょう』

おばあがちいちゃんのうちと話をして、一緒に台車で運ぶことにした。

シオンとサーナがこの島で初めて食べたなし、よほどおいしかったのか、お母さんに送ってと頼んだのだろう。サーナにもたくさん送られてきている。そのほかにぶどうやりんごやその量は果物屋さんができるほどだ。

それからお肉も牛一頭分あるほどの量だし、スパゲティーにラーメンに大盛り状態だ。


シオンとサーナが転校してきて1週間、これからどうなるのだろう。


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