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団長とウサギ  作者: 伊勢
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今回も思いつきで何となく書いてます。

楽しんでいただければ幸いです。



「ライナーさーん」


叢から突如ひょいと顔を出したのは小柄な子うさぎのようなやつだった。

翡翠の大きな瞳に顔の両サイドだけ長い薄茶色の髪はフワフワとしていて触り心地が良さそうだ。

愛嬌のあるその顔をずいっと近づけるも木陰で昼寝をしていたライナーはそれを無視して寝返りを打った。


「…うるせぇな」


「まだ名前しか呼んでませんよー」


ゆさゆさと方を揺すられた。

なんでこいつはこうも気安く触ってくんだと苛立ちが込上げる。


「チッ、なんだよ」


「お仕事、サボったんですよね?ナナリーさんがカンカンになって呼んでましたよ」


「ほっとけ」


「そんな事したら僕が怒られてしまいます、いいから早く起きてくださーい」


「…」


「…ナナリーさん直接連れてきましょうか?」


「…チッ」


王宮の数ある庭園、誰も来ない静かな場所で昼寝をしていたライナーは渋々起き上がると自分を探しに来た子うさぎのようなそれを置いて歩き出した。

直ぐにそれはトタタタと後ろをついてくる。

歩幅が違いすぎてか、小走りでついてくるその様子はとても可愛らしい。

しかし、ライナーは大きな欠伸をひとつ零すだけで後ろをついてくる子うさぎに目もくれない。


「ライナーさん、ライナーさん」


「あ?」


「ナナリーさんはこっちです」


「…なんで態々あいつのとこ行かなきゃなんねぇんだよ」


「ナナリーさんが呼んでるからですよ」


ライナーの前に回り込みピョンピョンと必死に飛び跳ねる様は傍から見ればまさに子うさぎの様で可愛らしいことだろう、しかしライナーにとってそれは煩わしい小バエ程度の認識だった。


「…つーか、お前誰だ」


そう問いかければ子うさぎのようなその子はライナーからパッと距離をとるとピシッと敬礼をした。

先程とは雰囲気を一変させ真剣な眼差しを向けるそれに何故か一瞬目を奪われた。


「あれ?名前言ってませんでしたっけ…これは失礼致しました。本日付で魔術師団に配属されましたサニー・レインズです」


「なんだ、お前新人か」


「はい。ナナリー副団長に頼まれライナー・レイ・レオニダス団長様をお探ししておりました」


こいつが?

こんなチビで弱っちそうなやつが魔術師?


ライナーは思わず、驚愕で目を見開いた。


というのも。この国の騎士団や魔術師団に文官等、国の役職につくには、身分や年齢は一切関係なく実力があれば誰でもなれる。

…とは言ったものの、それ相応の実力があればの話だが。


魔術師団や騎士団は特にそれが謙虚で、皆例外なく強者揃いだった。そのため、見た目に反し目の前の子うさぎのようなチビもそれ相応の実力を持っていることを意味する。

しかもこの見た目だ、年齢的にもまだ10代そこらの幼いこのガキが?と些か信じられない思いだった。


仮にも団長の己が相手の力量を見誤るはずがないと、思うも…やはり強者には見えなかった。


「…なんの冗談だ。おまえが?その見た目でか」


「見た目は関係なくないですか?舐めないでくださいよっ!僕、こう見えて結構強いんですから!」


フン!と鼻息荒く胸を張るその様子は…とてもじゃないが幼い子供がくだらない見栄を張っているようにしか見えなかった。


思わず胡乱な視線で見つめればそれはプリプリと怒り出した。先程見せた真剣な表情は既にない。


「あー!信じてないですね?」


「…お前みたいなガキに構ってる暇はねぇんだよ」


「さっき寝てたじゃないですかー」


「あれは休憩だ」


「朝から執務室にも行かないで休憩って何ですか?せめて働いてから言って下さいよー」


「うるせぇガキだな」


「ガキじゃないですぅ!」


「ガキだろう」


「僕は16です!立派な大人です!」


「…は?」


いや、ガキじゃねぇか。

てか16だと?その歳で国家魔術師?

…こいつ、何もんだ?


「もー、ほら!いいから行きますよ!」


そう言って子うさぎ…サニーはライナーの腕をとると見た目に似合わず強い力でズルズルと彼を引き摺っていくのだった。




※※



「ライナァー!!!アンタまたどこほっつき歩いてたのよ!仮にも団長なんだから仕事しなさいよね!!」


「あーあーうるせぇなぁ」


ギャンギャンとうるさく吠えるそれはこの国の魔術師団副団長であり幼なじみナナリーだった。

陽の光を反射してキラキラと輝く長い銀髪をゆるい三つ編みにして背中に流し、ラピスラズリのような美しい瞳をもっている。

花も霞むような美しさをもつそれはせっかくの美貌を怒りの形相に変え、怒鳴り散らしていた。


「うるせぇじゃないでしょ!!ほら!早くこの書類に目通して、サインして!」


「あー、わかったわかった…ところでナックル」


ライナーにナックルと呼ばれたナナリーは途端、スっと真顔になるとドスの効いた低い声で静かに声を零した。


実は彼、見た目だけはそこらの美女に劣らない…いやそれ以上の美貌を持つ美丈夫だ。仕草や話し方から一見女性のように見えるがその実性別は男性だ。

ナックルとは彼の本名でナナリーという名は彼が勝手につけた源氏名のようなものだった。


「ナックルじゃねぇ。ナナリーだ」


そのあまりにもどす黒いオーラを発する友人からそっと目を逸らしたライナーは素直に名前を言い直した。

それを満足気に見つめるナナリーはこの国最強の魔術師と名高い己でさえ恐ろしいと感じる唯一の存在だったりする。


「…ナナリー、あのガキが新人って本当か」


「あぁ、サニーちゃん?本当よ。この国の魔術学校で飛び級しまくって最年少で卒業を果たした稀に見る天才よ。

うちの採用試験にもあっさり合格。そこら辺の騎士や魔術師なんか目じゃないくらいには強いし、何より魔力量があんた並に多いってゆーある意味化け物よ」


「あの見た目でか」


「そう、あの見た目で。でも、それで舐めてかかって痛い目見た奴らが既にゴロゴロいるのよ…本当バカねぇ」


「…」


「主席で卒業するくらいだから頭も良くって事務仕事もバンバンこなすし、あの子自身すごく要領いいから仕事が回る回る…いい新人が入ったものだわぁ。誰かさんもあのくらい仕事熱心だと私が楽なんだけど…ちょっと聞いてるの?」


「へぇ…まぁ確かに。俺を一発で見つけてここまで引き摺ってくるくらいだ。ただもんじゃねぇわな」


「でしょ?しかも可愛い!最高ね!」


「へいへい」


適当に返事をしてライナーは書類に目を戻した。





「ライナーさーん!起きてくださーい」


「…あ?またお前かよ」


「ライナーさんがお仕事サボらなければ態々探しに来る手間は省けるんですけどねぇ…ほら、立ってください!」


「チッ」


「舌打ちしないでくださいよー」


あれからというもの、仕事をサボり昼寝をしているとどこからともなくサニーが現れるようになった。


人に見つからないような、それでも昼寝に適した場所で何重にも結界や幻術を施してもサニーはいとも簡単にそれをくぐりぬけてライナーを見つけ出すのだ。


それが、実はちょっと楽しかったりする。

今まで自分に張り会えるような者は片手で足りるほどでそれもやがては少しずつ数を減らしていった。


今では己とやりあえるのは騎士団の団長位かもしれない。

しかし、彼は結構な歳だ。

そろそろ引退も考えているらしい。

そんな相手に本気でやり合うほど彼も落ちぶれちゃいない。


そんな中、現れた期待の新人サニー。

己の力を決して奢らず、誰に対しても優しく対応する為その見た目も相まって人に愛されやすい。


しかし入団当初はやはり、その若すぎる年齢と小さすぎる見た目から馬鹿にされ絡まれることも多かったらしいが全て返り討ちにし己の力を証明して見せたらしい。

それからというもの、表立って彼に突っかかるような輩は消え失せ、それどころか皆に慕われている始末。

その適応力、実力、頭の回転の良さもあり魔術師筆頭も目じゃないとの噂だ。

実際、彼にはその力がある。

最年少で国家魔術師に名を連ねるだけの実力をその歳で身につけた天才。


そして、ある意味化け物が今己の目の前にいる。


唯一、己と張り合うことの出来るかもしれない人間。

それがライナーは嬉しかった。


「なぁ、チビ」


「チビじゃありません!」


「じゃガキ」


「ガキでもありません!!」


「どっちでもいいだろ」


「何処がですか!!僕にはちゃんとサニーと言う名前があるんですからそれで呼んでくださいよ!」


顔を真っ赤にしてプリプリと怒る様は全くと言っていいほど怖くない。

寧ろ愛らしくもある。

その様子に、ライナーはつい笑ってしまった。


普段無表情か、眉間に皺を寄せた不機嫌な顔の彼の突然の笑みにサニーは瞠目した。

元々、綺麗な顔のライナーが笑うと破壊力が強すぎる。

勝手に胸がドキドキと高鳴り頬は真っ赤に染ってしまった。

そんな顔を見られたくなくて咄嗟に俯き顔を隠すと、ライナーはククッと笑いながらサニーの頭をポンポンと優しく撫でた。

その優しい手つきにまたも顔に熱が篭もる。

何故だが無性に恥ずかしくて仕方がない。


その場から逃げ出したいような、しかし…もっと撫でられたい。

そんなよく分からない気持ちがぐるぐると頭の中を駆け巡りサニーは結果身動きすること後出来なくなってしまっていた。


そんな折、頭上から砂糖を溶かしたような甘い囁き声が聞こえてきた。しかし、その内容は全くと言っていい程甘くなかった。


「なぁ…俺と勝負しようぜ」


「は?」


スンっと高鳴っていた胸も顔に籠っていた熱も引き思わず真顔で尋ねた。この人は突然何を言ってるんだ…。


「ちょっと俺に付き合えや」


「いやいや!何言ってるんですか!そもそも僕はあなたを執務室に連れていかなくては行けないんですよ!勝負してる暇はありません!ライナーさんは仕事をしてください!!」


「お前が俺と勝負したら、大人しく仕事してやるよ」


「…本当ですか?」


「あぁ、お前の実力。俺にも見せてみろよ」


サニーは少し逡巡した後、渋々と言ったていで頷いた。

しかし内心、最強と名高い魔術師団長であるライナーと手合わせできることに嬉しくて舞い上がっていたりする。


副団長のナナリーには直ぐにライナーを連れてこいと厳命されていたがちょっと遅くてもまぁいいだろうと結論づけた。


「むー…一戦だけですよ?」


そう言いながらも、頬が緩みきって嬉しそうな顔をしていることにサニーは気付いていない。


「あぁ、いいぜ」


ライナーも態々指摘することも無く、2人は近くの訓練場へと足を向けた。






「勝負内容はどうしますか?」


「そうだなぁ…相手に一撃入れるまでやり合うのはどうだ?勿論寸止めな。途中、降参してもいい」


「はい、わかりました…魔法はなんでもいいんですか?」


「あぁ、魔法でも剣でも何でも使っていいぞ」


「了解です!」


「ん、じゃあ…このコインが地面に落ちたら開始だ」


そう言って、ライナーは懐から取り出したコインを高く高く上へと弾き飛ばした。


その瞬間、目の前のサニーは表情を一変させる。

常に笑顔で普段は無害そうなホワホワとした雰囲気は今はなく、その瞳を鋭く冷たい眼差しに変え真剣な表情へと変えている。


サニーはライナーを威圧するように殺気を放った。

その小さな体からは到底想像もできない程の強者のオーラに思わずゾクゾクと背中が震えた。

しかし、それは恐怖からではなく漸く己とわたりあえる者が現れたという歓喜。

己の全力をぶつけても壊れないという絶対的安心感の元、ライナーは魔力を解き放つ。


興奮で瞳孔が縦に裂け、口元には残忍な笑みが浮かぶ。


サニーはどこから出したのか、いつの間にかその手には細身の刀を持っていた。この国では珍しい型のその刀は遠く、東の国で使われているものに似ていた。

サニーの周りには細く長い鎖がしなやかな鞭のようにシャラシャラと美しい音を奏でて取り巻いていた。


コインがゆっくりと両者の目の前で地面に落ちていく。

やけにゆっくりと見えたそれは漸く地面に落ちきり、キーンと高い音を発した。


その瞬間、2人は姿を消した。

いや、消えたように見えた。


訓練場には突如爆風が巻き起こり、さながら天変地異が起こったかのような有様。

あまりの爆音と衝撃波により訓練場は荒れに荒れた。

しかし、被害は不思議なことに訓練場だけで他の場所には音すら届かない。

それはサニーが気を利かせて訓練場一体に防音・魔力、物理が一切聞かない結界を張っていたからだ。

その為、訓練場の惨劇に気付くものはいなかった。

それが災いし、2人の勝負が着く頃には訓練場は見るも無惨な姿に変わり果てることになる。


だが、きっと誰かに見つかったとしてこの2人を止めることが出来る人物はこの国にはいないだろう。


サニーは身体強化をかけ瞬発力を上げると、手に持っていた刀と己を守るようにしてまとわりつく鎖に紫電を纏わせ一直線にライナーに切りかかっていった。

ライナーはそれを見て隠し持っていた複数の小刀に魔法で炎を纏わせ宙に浮かせるとサニーに向かって解き放つ。

その間に己は大きな槍を取り出すとそれにも炎を纏わせ片手には黒炎を作り出した。


飛んできた小刀を最小限の動きでかわし、片手に紫電の塊を作るとそれを頭上に放つ。それは大きな龍の姿を象ると一気にライナーに襲いかかった。

しかしライナーはそれを黒炎で相殺すると、近づいていたサニーの刀を槍で受止め薙ぎ払う。

払われる瞬間、後ろに飛び衝撃を逃したサニーはそのままクルクルと回転したかと思うと空中で立ち止まり、すぐ様突撃していく。


その顔には楽しくて仕方がないというような狂気に歪んだ笑顔が浮かんでいた。ライナーもサニーと同じ顔が浮かんでいた。


戦闘狂な2人の戦いは3時間程続いた。

決着は…結局、つくことはなく両者引き分けで幕を閉じた。

訓練場の悲惨な有様とは似合わず2人にはかすり傷ひとつない。

それどころか2人は心底楽しそうに笑っていた。


「やっぱりライナーさんは強いですね!」


「お前もな。まさかこの俺と張り合うなんざ流石だな、サニー」


「え、僕の名前…」


「あ?」


「っー!!いえ!なんでもないです!」


「ククッ、こんな動いたのいつぶりだ?久しぶりにすげぇ楽しかった…ありがとな」


「いえ!僕も凄く楽しかったです!!」


「そうかよ…またやろうぜ」


「ライナーさんがちゃんと仕事してくれたらいいですよ!」


「あー…ソウダナ…」


「あ、そうですよ!すっかり忘れてましたがナナリーさんが待ってるんでした!早く行きま…あー…これどうしましょう?」


「あ?…あー……はしゃぎすぎたな」


「…デスネ、これナナリーさんに怒られますよね…?」


「…逃げるか」


「いやいやいや!待ってくださいよ!だめですよ!どうせバレますしここは素直に謝りに…」


「ちょっと…何よ、これ」


「「あ」」


その時、言い争う2人の前にドス黒いオーラを纏ったナナリーの姿が現れた。


「ライナー、あんたはまた仕事サボってどこほっつき歩いてるのかと思ったら…何よこれ?この惨状は一体何なの?

サニーも、ライナーを探して連れて来いって言ったわよね?

なんで2人して訓練場…いえ、訓練場らしい場にいるのかしら…?

これ、どういう事なのかきっっっちり納得が行くように説明、してくれるんでしょうねぇぇ??」


「…逃げるぞ」


「…ハイ」


その瞬間、2人はあらゆる魔法を駆使してその場から脱兎のごとく逃げだした。


「ライナァァァァ!!!!サニィィィィ!!!!」


2人の背後からナナリーの怒りの咆哮が聞こえるも2人は後ろを振り返ることなく逃げ出した。

あまりの恐ろしさに2人して目を見合わせる。


「…あはは!ナナリーさんこわぁ!!」


「…ククク!」





後日、延々とナナリーに説教をくらった2人は仲良く訓練場を破壊したことによる始末書の作業に追われることとなった。

あまりの多さに2人して辟易とするも、何故だが2人はとても楽しそうに笑っていた。






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