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おかしな日記'20  作者: 明智 颯茄
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爆発的に急上昇

 何が爆発的に急上昇しているかというと、子供の数である。最初は、童子――男の子が三人、姫――女の子が一人だった。


 配偶者は、妻と夫。そして、説明が長くなるので省くが、《《おまけ》》の私が一人の三人で夫婦だった。そんな家族構成で、七、八年やってきたが、ある日夫――れんが、知らない男の人を連れてきたのである。


 その男は、私に挨拶もなしに、こう言ったのだ。


 明日、あなたと結婚します――。


 そうそうなことで驚く私ではないが、一瞬、化石みたいに固まった。だがすぐに、ショートした思考回路は復活して、ピンとひらいてしまった。


 うちの夫ときたら、男の人と結婚するなんて――バイセクシャルだったのか。


 ついでため息が出たが、私は知らない男の人をまじまじと見つめた。というか、霊視した。

 紺の肩よりも長い髪はしなやかに緩いカーブを描いて背中へと落ちている。神経質な顔立ちとが中性的な雰囲気をかもし出す。そして、もう一度さっきの声をリピートした。


 明日、あなたと結婚します――。


 こんな言葉はないが、遊線ゆうせん螺旋らせんを描く――どこかもてあそぶような優雅で芯のある声色。今まで教えてもらっていた神様名簿の中から、すぐさま該当者が浮かんだ。なぜなら、私が十五年も前から想い続けていた人――いや、神――光命ひかりのみことだからだ。

 もちろん、私は惰性で蓮と結婚したわけでなく、光命のことはもう忘れかけていた。


 神世では結婚の規制がない。陛下には妻が何人もいる――いわゆる、ハーレム。一般人がしてはいけないという縛りはない。


 だがしかし、光命は十四年ほど前に、最愛のパートナーができたと、風の噂で聞いた。その時、私は玉砕したのだ。死後の世界は――永遠の楽園だ。愛に出会えば、それは未来永劫で――別れは決してこない。


 光命が彼女と結婚するのも間近だろう。運命でも何でもなかったのだ――人間がよく起こしがちな、いっときの気の迷いだ。偽物の愛。


 蓮と光命のことは、それなりに知っている。最初に恋に落ちたのは、蓮だな。蓮は人を見るときに、性別関係なく、尊敬に値するかを重視する。女のご機嫌うかがいなど絶対にしない、俺様である。


 光命が人間の私に振り向く可能性は微塵もなかった。一体、いつどこで私のことを知ったのやら? いや――そんなことよりも、自分の夫が、私の想い人を愛するとは、まさしく事実は小説よりも奇なりだ。


 ということで、細かいことを書くと、何週間もかかるからすっ飛ばして、私は光命に問いかけた。


「それじゃ、光命さんの奥さんとも結婚するんですね?」

「いいえ、私は彼女とは結婚していませんよ」


 確認しなかったばかりに、十五年間も勘違いしたままだった。光命は大人の世界を満喫するのが楽しいのかもしれないな。だから、恋人同士のままだったのかもしれない。


 結婚式も無事、翌日に終わった。我が子の百叡びゃくえいは、光命のところへ以前からピアノを習いに行っていたそうだ。彼は小さいながらも、強く願った。


 先生が、パパだったらいいなあ――。


 その夢がかない、百叡は毎日大はしゃぎだった。夫婦四人と、《《おまけ》》の私一人。新しい結婚生活がスタートした。だがしかし、二週間もたたないうちに、また知らない男の人が私のそばにやって来て、


 お前と結婚する――


 どなた様ですかっ!? 私は決して気が多い女ではない! 他に好きな人はもういないぞ。


 パチパチとパソコンのキーボードを打つ手を止めて、画面から視線をそらし、男の顔をじっと見つめた。またまた神様名簿を開く。これは少し難しい。もう一度今の声をリピートする。


 お前と結婚する――


 地鳴りのような低い声と落ち着き。そこで、頭の中で電球がピカンとついたように閃いた。


 夕霧命ゆうぎりのみことだ。光命の従兄弟いとこで、光命といえば夕霧命。夕霧命といえば光命。性質はまるで違うのに、錠前と鍵みたいにピタリとくる相手。そこで、また閃いた。


 光命が結婚しなかったのは、彼女の――知礼しるれを愛しながらも、夕霧命も愛してしまったからだ。光命はルールはルールの几帳面で律儀な人で、誠実でありたいがために、結婚しなかった。


 同性を愛する。

 複数の人を愛する。


 神にゆるされないことだと、光命は悩みながらも、真実の愛という渦に飲み込まれて、必死でもがき、海面へ出てまた落ちてゆくを繰り返した、十四年間だったのかもしれない。私にもいろいろあった月日だったが、神である彼もまた順風満帆ではなかったようだ。


 そうやって、誰かが結婚すると、実は他に好きな人がいて――というように、どんどん増えていき、《《おまけ》》の私を入れた、夫婦二十一人となっていた。

 配偶者を軽く紹介をしておこう。


 倫礼りんれい、ファンタジー作家

 れん、R&Bの人気アーティスト

 知礼しるれ、ノンフィクション作家

 光命ひかりのみこと、作曲家であり、有名なピアニスト

 覚師かくし、小学校の歴史教師

 夕霧命ゆうぎりのみこと、武道家(合気あいき無住心剣流むじゅうしんけんりゅう

 莎理ざんり、小学校の国語教師

 焉貴これたか、高校の数学教師

 楽主らくす、小学校の算数教師

 月命るなすのみこと、小学校の歴史教師

 紅朱凛あしゅりゃん、塾講師の補佐

 孔明こうめい、私塾の講師

 皇閃すめひら、小学校の算数教師

 明引呼あきひこ、酪農企業の社長

 花梨輪かりわん、小学校の理科教師

 貴増参たかふみ、国家公務員

 陽和師ひおし、小学校の算数教師

 独健どっけん、国家公務員

 りあん、小学校の家庭科(裁縫)教師

 張飛ちょうひ、小学校の体育教師

 

 そして、私――颯茄りょうか、ヴォーカリスト、ギャグファンタジー作家。以上、二十一名だ。


 明智家に来る前に、八組は結婚していたので、子供がそれぞれいた。それに加えて、このバイセクシャルの複数婚という、新たな境地で子供たちは次々と生まれ、今では百五十二人――三桁になっている。


 覚えられないのだ。肉体である脳には、《《忘れる》》という機能がある。他の配偶者は肉体がないから誰も忘れないのだが、しっかりしていないと、どの子供と話しているのかわからなくなるのだ。


 だが、賑やかな毎日でとても幸せだ。これはきっと、神様の神様が与えてくださった慈悲だろう。感謝である。


 ただ最後に、これだけは言いたい。プロポーズされたとかではなく、事後報告を受けて結婚するばかりで、人間の私の人権は、神である彼らの間では効力はなく、勝手に結婚して配偶者は増えていったのである。これは絶対服従――壮大なパワハラと言わずして何と言おうか。


 2020年6月18日、木曜日



 追伸――

 今さらながら、及川 光博さんの『懺悔』を聞きながら、椅子に座ったまま、器用に踊っている。

 

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