第4話 猫耳少女と服装の話だった。
和也は目の前の猫耳、尻尾付き、軍服姿のリンを見て思う。
コスプレだ。
「その服以外に持っていないのか?」
「ありますが・・・。 この世界では、その、馴染まないかと」
彼女がどこからともなく取り出す。
長袖、スカートの丈も長い黒いドレスに白いエプロン。
メイドだ。
ますますコスプレ感がある。
「私服がそれ?」
「私は最初、魔王城の侍女でした。これがいわば制服です」
「他には?」
とにかく肌をさらさない。それに特化した服ばかり。
似合うとは思うが、確かに不自然。
「驚きました。あの、この世界の女性は大胆ですね」
彼女は考えられない。
「それに関しては、まあ、説明できない」
「あんなに大胆な服装なんて。私がいた世界では・・・。この世界では、ええと、この世界でのサキュパスですか。彼女達の自治領だけです」
「それは、想像上のものだけど。彼女達って、女しかいない?」
いるとは。是非とも見てみたい。
「はい。彼女達は他種族の雄と交わる事で、血をつなぎます。そして女性しか生まれない」
行ってみたい。
ふと疑問に思う。
「そのサキュバスだけで自治領を維持できるのか?」
美しい容姿。魅了、相手を虜にして意のままにする。そして飛行能力もある。その上、素の身体能力も高い。素手で、人族の戦士を倒せるほど。
「魔王軍でも、その能力の高さから切り札の一つと言われるほどです。人族にすれば、最も恐ろしい種族です」
リンの世界のサキュバスは武闘派らしい。
「そうか。どうにもイメージが違うが」
男にとっては最悪の相手だとは思う。
「とにかく、服や、他にも必要なものがあるだろうし」
和也はパソコンを、いつも買い物をしているウェブサイトにつなげる。
「あの、知ってはいますが、使った事はないです」
不安げな表情。
「こういうのは、習うより慣れだから」
リンに簡単に説明する。
「良く分からないです」
「とにかく使ってみればいい」
「はい。ありがとうございます」
ええと,まずは下着と。
ここで彼女は気づく。
サイズが分からない。
リンは今まで自分で下着も服も作っていた。それが普通で既製服など無い。
「メジャーなら、あるから。いっそのこと布地から買ってもいい」
自分が困っている時、助けてくれる。彼女にとって魔王とは、そういう存在だった。
魔王様。どうして?
小刻みに震えだすリン。
「リン?」
「何でもありません」
彼女は必死に感情を殺す。
駄目、この人は魔王さまじゃない。
それでも、感情の高ぶりは抑えられない。
駄目。抑えきれない。
「逃げてください」
「ええと。何を言って」
リンは和也に襲いかかる。
リンの瞳が赤く染まる。
マズイ。
和也が理解できたのは、それだけ。
あっという間に馬乗りにされる。
「どうして?」
迫るリン。彼女の両手の爪が鋭く伸びる。
「待て。俺は魔王じゃない」
「いえ、魔王様です。答えてください」
淡々と言うリン。
限りなくマズイ状況。
「落ち着け。俺は人として、この世界で生きてきた。リンの世界なんて知らない」
「そうですか」
「わかって、ちょっと待て!」
右手を振り上げるリン。
駄目。
そう思いながらも止められない。
それは獣人、魔族としての本質。今まで抑えてきたものが暴れだす。
あなたが欲しい。殺してでも、魔王様。
死ぬ。
和也がそう思った瞬間だった。
リンの動きが止まる。
「リン?」
ただ彼女は涙を流していた。
「******、****」
何を言っているのか分からない。
待て。
彼が見たのは、リンが自分の首に両手の爪を向ける。 「やめろ!」 叫ぶ和也。
私は理解できなかった。魔王様の真意を。
猫の姿でさまよいながらリンは考えていた。
必ず意味があると。
分からない。
魔王様に捨てられた?
それならそれでいい。
魔王様に、哀れに思われ拾われた身。道具であるなら、それでいい。
苦しい
いっその事、その手で殺して欲しかった。それならいい。
苦しい。それだけ。
「やめろ」
それは確かに魔王様の声。
それは淡々とした声。
リンは眼を見開く。それは間違いなく魔王の声。
「私の許可なく死ぬなど許さない」
傲慢としか言いようがない発言。だが彼女は動きを止める。
ちょっと待て。
確かに自分の口からという自覚はある。
何を言った?